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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第三幕「許されざる者たち」
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蟲毒③

 実際、洋上から眺めると海に浮かんだ島にしか見えない。

「あそこだよ。変な形の塔を見たのは――」とテルが指さした。

 船が半島に近づく。

 柴崎の話通り、断崖絶壁が海から屏風のように立ち上がり頭上を圧するかのようだ。海辺にわずかだが平地が見える。

「港がありますね」阿佐部が言う。

「おい。あそこ、あの港に寄ってくれ」と近藤が言うと、「親父に言って来ます」とテルが船長のもとに走って行った。

 漁船はスピードを落としながら港に近づいて行った。

 テルが戻って来て言う。「船長の話だと、あの辺りに、昔、人が住んでいて漁村があったそうでうす。だから、港があるみたい。でも、過疎化で、みんな、いなくなっちゃったって」

 柴崎の証言通りだ。

 阿佐部に近藤、テルの三人で舳先に立って前方に目を凝らした。もう島、いや半島の先端しか見えない。漁船を圧するかのように崖のように岩肌がそそり立っている。

 船が港に近づいて行く。

「あっ!」とテルは何かに気がついた。「船長! 船長! 埠頭が崩れています。うかつに近づくと、エライことになります!」と叫びながら船室へと駆け込んで行った。

 崩れた港、それも柴崎の証言にあった。海中に崩れ落ちた埠頭に乗り上げると、船は座礁してしまう。

「テル! 指示をくれ」船長が船室から怒鳴る。

 テルが転がり出て来て海中を覗き込みながら「船長、チョイ面舵、もうチョイ、もうチョイ」と叫び続けた。船長は巧みに船を操る。小回りの利く漁船だ。クルーズ船だとこうは行かなかっただろう。沖に船を泊めて、ボートで接岸したと柴崎は証言していた。

 流石はベテラン船長だ。漁船は埠頭に接岸した。

 一仕事終えた船長が船室から出て来た。

「岩だらけの港に船をつけるなんて、見事なものですね」と阿佐部が褒めると、「いや、なに」と白い歯を見せて笑うと「案内にテルをつけるよ。テル! 皆様を陸にご案内して差し上げろ。ああ、そうだ。この辺は昔、海賊によって村人が皆殺しになったという話があるから、お化けには気をつけな」と言った。

「皆殺し⁉」

 柴崎は黒髭の船長から、島で昔、海賊とその家族が皆殺しになったという話を聞かされたと言っていた。殺されたのは海賊ではなく村人だが、似たような話がここにあった。

 テルを先頭に、圭亮一行はぞろぞろと埠頭に降り立った。

 まるですり鉢の底にいるような気分だ。前面には崖が屏風のように立ちはだかり、背後は一面海だ。孤島だと思い込まされていたとしたら何処にも逃げ場のない、籠の中に入れられた心境だったことだろう。

「さて、どっちに行きます」とテルが聞く。

 港から道は左右に分かれている。柴崎の証言通りだ。

「塔のあった方に行きましょう」阿佐部が答える。

 三人は坂道を登り始めた。阿佐部がテルに尋ねる。「ここが半島の先っぽだとすると陸から来ることは出来ないのですか?」

「さあ。出来るんじゃないかな。でも、船で来た方が早いと思うよ。今日は、うちの船を借り切ってくれて毎度あり~です」テルが陽気に答える。なかなか商売上手だ。

 港の周りには廃屋がいくつか残っており、朽ち果てようとしていた。ここで村人が皆殺しにあったと聞かされると、一層、不気味な雰囲気だ。

「柴崎の供述通りですね」と阿佐部が呟くと「ああ・・・」と近藤が頷いた。

 もともと口数の多いタイプではないが、益々、無口になっている。

「廃屋の村を抜けると、段々畑が広がっているはずですね」

 廃屋の村を抜けると勾配がやや急になった。

「段々畑だ」雑草で覆われているが段々畑の跡が広がっていた。

 柴崎の証言通りだとすると、この道は黄鶴楼で行き止まりになっているはずだ。

 坂を登って行く。門が見えた。コンクリート塀が破壊されずに残っている。黄鶴楼だ。本当にここにあったのだ。阿佐部の顔に緊張が走る。黄鶴楼は本当にあった。

 柴崎の話が本当だったとすると、ここに五人の遺体があることになる。愛媛県警を揺るがす大事件になるはずだ。

「あったぞ」

「急ぎましょう」

 早足になる。

 何とか坂を登り切った。

 高い壁がそびえ立っている。まるで外敵に備えるかのようだ。門がある。門を潜る。屋敷に入って直ぐの場所に庭や築山が綺麗に残っていた。

 だが、その向こうには瓦礫の山が広がっていた。

 ここに屋敷と塔があったとは思えないほど粉々になった瓦礫が、文字通り山になっていた。そして、その背後には土跡も新しい、人工的に削られた崖肌が垂直に立ち上がっていた。

「こ、これは、大変なことになりましたね・・・」

 全てが柴崎の供述通りだ。

 瓦礫の山を前に、阿佐部と近藤は茫然と立ち尽くしていた。一人、テルだけが瓦礫の山へ登って、「ありゃ~こりゃすごい」と呟きながら辺りを見回していた。

 突然、「柴崎の供述だと玄関前に丸池があったはずだ。そして、そこに水谷の遺体があったと言っていた。丸池だ。丸池を探せ」と近藤が喚いた。

「分かりました」

 阿佐部には近藤の意図が理解できた。

 柴崎の証言によれば長谷川、日野、村田の遺体は建物の中だ。亜由美の遺体は裏庭にあって、瓦礫で完全に埋まっていた。いずれも重機が無ければ瓦礫を取り除くことなど出来そうもない。それに、うかつに近づくと瓦礫が崩れて危険だった。

 僅かに玄関前にあったという丸池の辺りは何とか手で瓦礫を取り除けそうだった。

 夢中になって瓦礫を取り除く。二人の様子を見て、「どうしたんですか?」とテルも不審顔で手伝ってくれた。

 最初は「こりゃあ、重機がいるな」と弱音が出たが、やがて「丸池だ!丸池の跡だ!」と近藤が声を上げた。

 瓦礫の下から円形を描いた縁石が出て来た。丸池の端に見えた。

「丸池ですね。水谷の遺体があるかもしれません」

 阿佐部の言葉にテルがぎょっとして手を止めた。詳しいことは説明していない。死体を探しているとは思っていなかったようだ。

 恐々、瓦礫を放り投げていたテルが「おわっ!」と悲鳴を上げた。「どうした!」近藤が駆け寄る。テルの足元、瓦礫の間から白いものがのぞいていた。

 阿佐部も近づいて、近藤と二人でしゃがみこんだ。慎重に瓦礫を取り除いた。

「遺体の一部ですね」

「間違いない」

「応援を、鑑識を呼ばないとなりませんね」

「うむ・・・」

 白骨化した遺体の一部だった。

 阿佐部は懐から携帯電話を取り出したが電波が届いていなかった。これも柴崎の供述通りだ。塔の上に無線装置があって、それが故障してから、電話は使えなくなった。そう証言していた。

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