第三十三話 VSジニアスアバター(ヒイロ視点)
前回のあらすじ:
魂を融合する魔法により第三〈特別〉試練をクリア!
『最終試練に挑戦できるのは、〈大賢者の杖〉を装備した一人のみ。〈ジニアスアバター〉を魔法を以って打倒せよ』
ジニアスアバターの宣告を聞いて、オレは衝撃を受けた。
ガイド役として塔の一階からずっとつき合ってたこいつと、まさか最後は戦うことになるなんて、想像もしてなかった。
へっ、いいじゃんか。
ナナシじゃねえけど、オレもいい加減、コイツの澄ましヅラがムカついてしょうがなかったからな。
スカッとブッ飛ばしてやるよ。
おあつらえ向きに、〈大賢者の杖〉だってあるしな!
「いいぜ、ジニアスアバター! このオレが相手だ」
『汝を一人とは認められない。挑戦する資格がない』
「!?」
せっかくの闘志に冷や水をぶっかけられ、オレは狼狽する。
(アタシとリンゴ姉もカウントされるんだってばっ)
(だから第三〈特別〉試練はヒイロ君の体一つで挑戦できたんじゃないー)
オレと魂が融合? してる状態のモモたちから、心の声でツッコまれる。
なんか普通に肉声でダメ出しされるのより、数倍効く……。
一方、ナナシは苦笑いするだけにとどめ、むしろ温かい声で、
「一旦、塔を降りようか。戦う準備をしよう」
「え、アリなんそれ? 〈特別〉試練みたいに強制連戦じゃねえの?」
「ヒイロはたまたま〈大賢者の杖〉を――いや、恐らくケンキドゥは最終試練の内容を知ってたんだろうな。とにかく既に杖を持っているが、もしなかったら取りに帰る必要があるだろう? だから準備が認められるルールのはずだ」
「あ、そうか!」
ナナシの言う通りで実際、ジニアスアバターに申告すると、あっさり一階の広間に転送してくれた。
「よっしゃ、宿に帰るか! あ、それとも王都まで?」
「必要ない。準備はすぐ済む」
「え、どゆこと?」
オレが訊ねると、ナナシはニヤリと笑った。
また悪知恵を思いついた顔だ。頼もしい奴!
そして、ナナシはオレに耳打ちする。
「試してみたいことがあるんだ――」
◇◆◇◆◇
ナナシの言う通りにして、準備はすぐに終わった。
『最終試練に挑戦できるのは、〈大賢者の杖〉を装備した一人のみ。〈ジニアスアバター〉を魔法を以って打倒せよ』
「今度こそこのオレが挑戦するぜ!」
『よかろう、汝の資格を確認した』
オレが〈大賢者の杖〉を掲げて宣言すると、ジニアスアバターが認め、最終試練の場に転送される。
隣にいたナナシも――観戦モードを示す淡い光に包まれて――一緒に転移。
場所は果ての見えない荒野で、天には星空が広がっていた。
その綺麗な空には不似合いっていうかキモいっていうか、巨大な心臓が浮かんでいた。
マジでデケエ。オレたちが泊っている「生還者の笑顔」亭よりデッカい心臓だ。
『私には実体が存在しないゆえ、代わりに用意した。この心臓を魔法で破壊すれば、試練突破と認める』
その心臓の上に降り立ったジニアスアバターが、試練のルールを説明する。
いよいよ最後の挑戦だ。
さすがに感慨深いもんがあるぜ。
ここまで来て負けられねえよな! ――って気持ちを噛みしめながら、オレは一つの弱体魔法を解除する。
(行こうぜ、モモ! リンゴ姉!)
(アンタの体だからってアンタが仕切らないでくれるぅ?)
(モモちゃんてばこんな時まで憎まれ口、叩かないの)
オレの心の掛け声に、目覚めたモモとリンゴ姉が心の声で応える。
そう、オレたちは別に〈ソウルリンク〉を解除していない。
準備には一階広間で魔法を一つ使っただけだし、ましてや「生還者の笑顔」亭に帰ってもいないし、モモとリンゴ姉の肉体もそこに安置したまま。
じゃあなんで「肉体」じゃなくて「魂」をカウントしてるジニアスアバターが、今度はオレを「三人」じゃなくて「一人」だと認めたのか?
それがナナシの悪知恵の成果。
第二〈特別〉試練で肝を冷やしたオレたちは、もっと強くなるためいろいろやった。
ナナシが図書館のどこかから、忘れ去られた魔法の書をいろいろ探してきてくれたのもその一環。
弱体魔法の天才だったオレに、習得しとこうぜって勧めてくれた。
例えば〈オールドメデューサ〉のトドメに使った、〈生物を石に変える魔法・改〉がそれ。
そして例えば今、オレがジニアスアバターを誤認させるために使った魔法が――
〈精神を仮死状態にする魔法〉だ。
この遺失弱体魔法によって、オレの中にいるモモとリンゴ姉の精神には〈仮死〉状態になってもらった。
それでジニアスアバターの試練資格チェックを通ったから、魔法を解いて二人の目を覚ました。
これで三人の力を合わせて最終試練に挑むことができる。
タネを明かせばそういうことさ!
(神は仰せになった。『汝は我が庇護の下にある』と……)
(神は仰せになった。『汝に祝福あれ』と……)
防御魔法の天才だったモモが〈被ダメージ〉を減少させる〈ディバインアーマーⅡ〉を、強化魔法の天才だったリンゴ姉が〈状態異常耐性〉を高める〈ブレスⅡ〉を、オレにかけてくれる。
おかげでオレは攻撃に専念できる。
というかジニアスアバターが攻撃魔法の詠唱に入っているから、こっちも撃たないとヤベエ。
「慌てるな、ヒイロ! あれはヘヴィカスタマイズ〈ファイアⅢ〉だ。おまえも落ち着いて応じるんだ」
ナナシのアドバイスが後方から飛んできた。
なるほど、ジニアスアバターが唱えてるのはヘヴィカスタマイズ〈ファイアⅢ〉か。
――ってヘヴィカスタマイズ!?
それってオレらカーマイナー教室の十八番じゃねえの!?
ジニアスアバターの奴も使えるの!?
と、とにかくじゃあこっちも〈フリーズⅢ〉をヘヴィカスタマイズしなきゃ、撃ち負けるよな。
ナナシの言う通りだ。魔法をヘヴィカスタマイズさせるには呪文の詠唱がメチャクチャ長くなるから、ジニアスアバターの〈ファイアⅢ〉がすぐ飛んでくるってことはない。
そしてオレもトチらないよう、落ち着いて魔力を練らなきゃな。
『――フラン・イ・レン・エル』
「――フラン・レン・エス・ズィー・エル!」
オレとジニアスアバターがほとんど同時に魔法を完成させて、互いに撃ち合う。
強烈な火炎と吹雪が空中で激突し、ド派手にせめぎ合う。
その余波だけでオレの体は焼かれ、敵心臓の表層に霜が張る。
(神は仰せになった。『汝に大いなる癒しを授けん』と……)
(神は仰せになった。『汝に大いなる癒しを授けん』と……)
火傷の痛みにオレが歯を食いしばって堪えていると、モモとリンゴ姉がすぐさま回復魔法をかけてくれて、事なきを得る。
でもその間にもジニアスアバターが、次の攻撃魔法の用意をしている。
またもヘヴィカスタマイズさせるため、長大な呪文の詠唱を始める。
「今度はあちらが〈フリーズⅢ〉だ!」
「おっけ! さんきゅ!」
オレだって〈魔法使い〉だし、相手がなんの呪文を唱えているか、聞いて察知できることはある。
でも完璧じゃないし、戦闘中みたいに聞き取りに集中できない時は特に難しい。
その点、ナナシは得意なんだよな。これで魔法を習い始めてまだ三か月も経ってねえってんだから信じられん。
来年には魔法の天才の看板は、ナナシのものになってそう……。
クッソ、負けてられっかよ!
ナナシにも! ジニアスアバターにもな!
『――フラン・レン・エス・ズィー・エル』
「――フラン・イ・レン・エル!」
ジニアスアバターがヘヴィカスタマイズ〈フリーズⅢ〉を放ち、オレがヘヴィカスタマイズ〈ファイアⅢ〉をお返しする。
さっきとはお互い使う魔法が逆。
猛火と吹雪がせめぎ合うのは同じ。
でも余波で表層を炙られたのは、敵心臓だけだった。
ヘヴィカスタマイズ魔法は呪文の詠唱が長くなるからこそ、モモとリンゴ姉の魔法が先に完成していたんだ。
(神は仰せになった。『我が愛で汝を温めん』と……)
(――ア・ヌルト・イ・イ・カレ)
モモの〈コールドプロテクションⅡ〉とリンゴ姉の〈コールドプルーフ〉の二重防御が、余波から完璧にオレを守ってくれたわけさ。
やっぱり三人で戦えるのはデケエ。
〈ソウルリンク〉様々だぜ。
この調子ならジニアスアバターも倒せるはずだ!
「次、〈サンダーⅢ〉が来るぞ、皆!」
「りょーかい!」
オレもジニアスアバターに合せて、同じヘヴィカスタマイズ〈サンダーⅢ〉を詠唱する。
同時にモモとリンゴ姉が、〈耐雷属性〉の防御魔法を二重掛けしてくれる。
「――ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!」
(神は仰せになった。『天の怒りが汝に向けられることはない』と……)
(――ア・ヌルチ・ベオン・レイ・ティルト)
オレとジニアスアバターが互いに強雷を撃ち放ち、空中で激突する。
その余波でオレと敵心臓が感電する。
「あばばばばばばばばばばばばばば!?」
モモの〈サンダープロテクションⅡ〉とリンゴ姉の〈サンダープルーフ〉を掛けてもらっていたにもかかわらず、今度は〈ダメージ〉を防ぎきれなかったんだ。
モモとリンゴ姉がすぐさま〈ヒーリング〉で癒してくれたけれど……。
ああ、チクショウ!
魔法の座学、それも初歩を思い出すぜっ。
二人の術者がお互いに同じ攻撃魔法を、(ほぼ)同時に撃ち合った場合――二つの攻撃魔法が中間地点でせめぎ合って、お互い威力が減少するんだ。
二人の実力差が大きかった場合は、弱い方の攻撃魔法はそれこそダメージ0になったりする。
ただその場合でも相手の攻撃魔法の威力を、それなりに削ぐことができる。
攻撃魔法にはそういう性質がある。
じゃあ〈属性〉の違う攻撃魔法をお互いに撃ち合ったらどうなるかっていうと、せめぎ合いが発生せずにお互い素通りして、本来の威力を発揮できる。
ただし一部の〈属性〉は、対応する別〈属性〉の攻撃魔法でも、せめぎ合いが発生する。
例えばさっきオレがやったみたいに、〈炎属性〉と〈冷気属性〉みたいにな。
しかもこの場合、せめぎ合いによってお互いに削がれる威力が、同じ〈属性〉の攻撃魔法をぶつけた時よりずっと大きくなる。
ジニアスアバターの〈フリーズⅢ〉とオレの〈ファイアⅢ〉をぶつけ合わせて、余波が大したダメージじゃなかったのは、この攻撃魔法の性質を利用したからってこと。
一方、〈雷属性〉にはその手の対応する〈属性〉が存在しなくて、同じ〈雷属性〉をぶつけることでしか、威力の減衰は望めない。
だから同じ〈サンダーⅢ〉をぶつけ合わせたんだけど……どうやらジニアスアバターの方がオレのより威力が少し上だと、今の結果でわかっちまった。
オレだって最近〈レベル〉がメキメキ上がって、〈魔力の果実〉もしこたま食って、さらに〈大賢者の杖〉の強力なサポートがあって、なおコレ。
マジでバケモンだわ、ジニアスアバター。
そりゃそっか。
初代〈賢者〉の似姿なんだもんな。
(ビビッてるワケ、ヒイロっ?)
(武者震いってやつだよ!)
オレの体の震えに気づいたモモに、オレは強がりを返す。
その間にもジニアスアバターが次の魔法の詠唱を始めている。
「〈ストーンⅢ〉が来るぞ、皆!」
マッズ……それ、オレまだ習得できてねえ……。
しかも〈地属性〉に対応しているのは〈風属性〉で、〈ウインドⅢ〉はさらに習得難度が高いって座学で習った。
『――シ・ティルト・オン・ヌー・エル』
「――デル・レン・ア・フラン・ティルト!!』
やむを得ずオレは、〈ウインドⅡ〉でダメージの減衰を狙った。
でもお茶を濁すとはこのこと。
モモとリンゴ姉が掛けてくれた〈アースプロテクションⅡ〉と〈アースプルーフ〉の上から、オレは魔法で生まれた石礫の嵐に滅多打ちにされた。
モモとリンゴ姉がすぐさま回復魔法を使ってくれても、すぐには立ち上がれないほどのダメージを負った。
さらに追い打ちをかけるように、ジニアスアバターが次の魔法の詠唱を始める。
「今度は〈ウインドⅢ〉だ! モモ、リンゴ! ヒイロを護ってやってくれ!」
げえ……。
ジニアスアバターの野郎、だんだん魔法の難度を上げていってないか?
一対一の魔法戦とかカッコイイこと言ってたけど、まるで「このワシについてこられるかな?」なんて指導試合みたいな真似してくれるじゃねえか。
舐めやがって! ――ってキレていいほどオレの〈レベル〉も足りてねえんだけどなっっっ。
「――シ・レイ・エス・プレ!」
「――プレ・レン・レイ・ヨーク・シー!」
「――ベイン・レイ・イ・ヌー・デル!」
オレは〈ストーンⅢ〉も〈ウインドⅢ〉も使えないし、Ⅱ系攻撃魔法じゃ大して威力を減衰できなかった。
だから苦し紛れに〈スリープⅡ〉や〈パラライズⅡ〉、〈ブラインドⅡ〉――弱体魔法を連発する。
ジニアスアバターは呪文の長いヘヴィカスタマイズ攻撃魔法しか使ってこないから、オレの通常魔法がいくつも先に完成する。
でもダメ!
全部、効かなかった。
「落ち着け、ヒイロ! そいつに弱体魔法は効果的ではないようだ!」
ナナシに言われるまでもない、オレ自身よっくわかってる。
弱体魔法は超格上にはほとんど効かない――そういうところがある。
〈メデューサ〉種には〈石化〉が効いたみたいに、特定の〈状態異常〉には全く〈耐性〉がない魔物とかもいるんだけど、逆に〈ゴーレム〉種みたいにあらゆる〈状態異常〉に高い〈耐性〉を持ってる奴もいる。
あのジニアスアバターが用意した心臓、多分デッカいゴーレムなんだよ。
そんで〈全状態異常耐性〉とか持ってんだよ。
だから弱体魔法は嫌いなんだよ! 信用ならねえんだよ!
オレは攻撃魔法の天才になりたかったよ!!!
――なんて嘆いている間にジニアスアバターのヘヴィカスタマイズ〈ウインドⅢ〉が完成して、オレは荒れ狂う暴風をモロに食らってしまった。
モモの〈エアプロテクションⅡ〉とリンゴ姉の〈エアプルーフ〉が咄嗟に掛かってなかったら、死んでたかもしれねえ。
あと〈大賢者の杖〉にオレの知らねえ隠し効果があったみたいで、自動で防御結界を張ってくれて、このおかげも大きいと思う。
てかなんで今までは隠し効果で、守ってくれなかったの?
もしかしてオレが攻撃魔法を強化する〈媒体〉として使ってたから、二つ同時にはできないってこと? ありそう。
(神は仰せになった。『汝に大いなる癒しを授けん』と……)
(神は仰せになった。『汝に大いなる癒しを授けん』と……)
モモとリンゴ姉の回復魔法を受けて、オレは杖を支えになんとか立ち上がる。
聖句を唱える二人の心の声が、温ったけえ。
口調からも、全力で励ましてくれてるのが伝わってくる。
「さっきのはよかった、ヒイロ! 戦法を切り替えるぞ、皆」
さらにはナナシのアドバイス。
でも、よかったってなんでだよ?
弱体魔法は無駄だってダメ出ししたじゃん?
「連発するのを攻撃魔法にするんだ!」
……なるほど?
「ジニアスアバターは魔法をヘヴィカスタマイズしてるんじゃない。原初の魔法を使ってるんだ! あれが初代〈賢者〉ジニアスの時代の、通常の魔法なんだ」
「つまり威力はスゲエけど、アイツは必ず長い長い呪文を唱えることしかできねえってことか?」
「そうだ。〈賢者〉ジニアスの時代から千年か、二千年か、その間に多くの先人たちが洗練させてきた、現代の魔法をお見舞いしてやれ。魔法の歴史そのものをぶつけてやれ」
確かにな!
ナナシが編み出したヘヴィカスタマイズ魔法が強すぎて、オレたちは長い呪文を詠唱する余裕がある時は、必ず使ってきた。
逆に言えば、余裕がなくて使えない時も多かったんだ。
じゃあジニアスアバターだって、その余裕がなくなればしんどいよな?
なくしてやればいいんだよな?
「フラン・イ・レン・エル!!」
オレはもうヘヴィカスタマイズせず、通常の〈ファイアⅢ〉を敵心臓に向かって撃ち放つ。
ナナシの言う通り、先人たちが長い歴史をかけて洗練させてきた――ジニアスアバターが使うそれに比べれば――極限まで呪文を短縮させた攻撃魔法だ。
ジニアスアバターが長い長い呪文を完成させるまでの間に、何発だってぶち込んでやるぜ。
(――フラン・レン・エス・ズィー・エル!)
(――ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!)
さらにモモとリンゴ姉も攻撃に加わり、〈フリーズⅡ〉と〈サンダーⅡ〉を撃ち放つ。
それらも〈大賢者の杖〉が威力を増幅して、Ⅱ系魔法といえど敵心臓に甚大なダメージを与える。
少なくともジニアスアバターと威力を相殺し合った、オレのヘヴィカスタマイズⅢ系攻撃魔法の余波よりは、二人が直撃させる通常Ⅱ系攻撃魔法の方が効果覿面だった。
オレたちの攻撃魔法の連発で心臓を蹂躙されて、ジニアスアバター自身の形相も苦悶に歪んだ。
あのバカみたいにデカい心臓が、肉体のないこいつの肉体の代わりだって話は、本当だったんだろう。
塔のルールはやっぱりちゃんと公平だったんだろう。
そう。
今までずっと、ずーーーっと、澄ましヅラをしていたこの野郎が、初めて顔色を変えたんだ。
効いてる! 効いてる!
『――ムウラ・ア・ヌー・ア・ベイン・オン・レン・ティルト』
ようやくあちらの呪文が完成し、ジニアスアバターがヘヴィカスタマイズ〈マナボルトⅢ〉を放ってくる。
「ぐうううううううううう……っ」
(――プレ・ウレネ・リョーク・デル・エフラン)
(神は仰せになった。『汝に大いなる癒しを授けん』と……)
オレは一旦、攻撃の手を止め、〈大賢者の杖〉を両手でにぎり締め、隠し効果の防御結界を使って耐え凌ぐ。
さらにモモも――魔法に集中し続ける必要があるけど、防御効果大の――〈オールアウトディフェンス〉でオレを護ってくれて、それでも防ぎきれないダメージをリンゴ姉が癒してくれる。
それで再び長い呪文の詠唱に入ったジニアスアバターへ、反撃の攻撃魔法を三人で連発する。
喰らったダメージを何倍、何十倍にもして返してやる。
オレがいくら負けたくねえって気を吐いても、結局一人じゃジニアスアバターには勝てなかった。
でも、いいんだ。
三人なら勝てる。モモとリンゴ姉が一緒だったら勝てる。
それなら一切、文句ねえよ。
ずっと一緒に育った、血を分けた家族より大切な二人なんだ。
オレたちが三人そろえば、こんなにも強い――最高じゃねえかよ、なあ?
もちろん、ナナシのおかげってのも忘れてねえぜ。
オレたちが三人そろった強さに、ナナシの知恵が掛け合わされれば、もう無敵だ。
無敵なんだよ。
もう二十年近く誰も登頂できなかった叡智の塔を、二か月足らずで駆け上がってきたのは伊達じゃねえ。
今日がその集大成だ。
「――ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!!」
(――デル・レン・ア・フラン・ティルト!)
(――シ・ティルト・オン・ヌー・エル!)
これでもう何十発目か? オレの〈サンダーⅢ〉が、モモの〈ウインドⅡ〉が、リンゴ姉の〈ストーンⅡ〉が敵心臓に直撃する。
それがトドメとなった。
心臓型の巨大なゴーレムがついに崩落し、ボロボロと地面に墜ちていった。
『私の負けだ。最終試練の突破を認める』
ジニアスアバターは夜空に浮いて残ったまま、そう告げた。
もういつもの澄ましヅラに戻っていたけど……どこか晴れやかに見えるのは、オレの気のせいだろうか?
よくよく観察することはできなかった。なんでかってと、
(やったあああああああああああああああああああああああああああああああっ)
(わたしたち、がんばった! ヒイロ君もモモちゃんもナナシ君もみんな偉いっ)
「心の声がウルセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
オレたちは勝利に喜び、噛みしめるのでそれどころじゃなかったからだ。
ナナシも隣に来て――観戦モードも解除されて――オレの肩を叩いて、「一言、見事だった」と奮闘を讃えてくれた。
◇◆◇◆◇
四人でひとしきり勝利の余韻に浸っていると、
『汝が〈賢者〉たる資格を認め、〈悟りの書〉と六つの〈究極魔法〉を授けよう』
ジニアスアバターがそう告げて、オレたちをまた別の場所に転送した。
意味不明なほど巨大な書棚が立ち並ぶ、圧迫感が尋常じゃない図書館みたいな場所だった。
ここが多分、叡智の塔の最上階なんだろうな。
さらにジニアスアバターが手振りをすると、書架に納められた無数の古書の中から、七冊の書物が独りでに飛び出し、浮遊して、オレの前に綺麗に並んだ。
『好きに持ち帰るがよい』
ジニアスアバターがオレに向かってうなずきかける。
まあ、普通に考えたら全部もらって帰るのがお得なんだろうけど……。
「なんかよう、先にジニアスアバターに勝ったーやったーって喜びすぎて、うれしい気持ちがとりあえず満たされちまったっていうか、〈賢者〉になれるって実感がわかねえ」
「ハハ! 〈悟りの書〉が目標で、ようやく手に入るというのにな」
オレがぼやくと、ナナシがおかしそうにした。
ちなみにナナシはまた淡い光に包まれている(忙しいな!)。
えーっと、つまりナナシは観ていただけで最終試練を突破したわけではないから、今も傍で見てるのは許されるけど、この七冊に触れる資格をジニアスアバターが認めない――って感じか?
「なんかオレばっかでワリィな」
「構わないさ。どの道、俺は〈僧侶〉になれる気がしないから、〈賢者〉になる前提条件も満たしていない」
「なる」
学苑の教えによれば、魔法使いと僧侶の両方の〈職業〉に就いてないと、〈賢者〉には〈クラスチェンジ〉できねえって話だからな。
(ちなみにアタシらは〈賢者〉になれるワケ? なれないワケ?)
(わからないし、とりあえず〈悟りの書〉をもらってみましょうよ、ヒイロ君)
「だな。多分、オレらが前代未聞だしな」
オレは宙に浮いたままの七冊の、真ん中にあった〈悟りの書〉を手にとる。
すると触れた手から、ものスゲエ魔力みたいな何かが流れ込んできて、オレの全身に漲るのが感じられた。
(キタキタキタ……っ)
(熱い……)
モモとリンゴ姉も反応してるから、三人とも〈クラスチェンジ〉できるってことか?
こういうトコ、ほんとルールがガバいよな。叡智の塔。
いやまあ、その方がありがたいんだけどよ……。
それよりもこの〈悟りの書〉なんだけどよ……。
いつまで力が流れ込んでるんですかねえ……?
これもう〈賢者〉になれる実感がわくとかわかないとか、そんな次元の話じゃねえわ。
力が全身に漲るどころかもうあふれ出しそうで、しかもまだまだ留まるところを知らなくて、だんだん畏ろしくなってきたわ。
これが〈勇者〉や〈光の戦士〉に並び称される、超優遇職に〈クラスチェンジ〉したってことかよ。
〈魔法の果実〉をドカ食いして、〈ステータス〉がメチャクチャ伸びた時だって、無邪気に喜びはすれ恐怖なんて覚えなかったのに……。
この上、〈究極魔法〉まで持ち帰って大丈夫なのか?
言い伝えじゃ「天を裂き、地を割る」ほどの威力って話だけど、伝承ってやつ特有のフカシだと正直、オレは思ってた。
でも〈賢者〉になっただけでコレなら、マジでヤベエ魔法なんじゃないかって思う。
「ケンキドゥは全部、持って帰ってこいっつってたけど……本当にアイツの言いなりになっていい代物なのか……?」
初代〈賢者〉ジニアスは、先代魔王を討つために知識の神霊から授かって、斃した後は「人類には過ぎたるものだ」っつって、この塔に封印したわけで。
うーん……。
『〈究極魔法〉を持ち帰るか否かは、汝に任せる。この塔の頂まで登り詰めた汝には、正しく判断できると信じている』
ジニアスアバターはそう言うけど、オレの判断力って主にナナシに委託して頂上まで来ちまったんだよな。
〈悟りの書〉は最後は光の粒になって、すーっとオレの右手の中に溶け込んだ。
それでようやく力の流入は止まってくれた。
でもオレは〈究極魔法〉をどうするか決断できないまま、まごまごしていた。
するとナナシが、
「その決断は今すぐしなければいけないのか、ジニアスアバター?」
『〈賢者〉であれば必要な時に、いつでも取りにくるがよい。無論、いつまでも眠らせたままでも構わぬ』
「だそうだ、ヒイロ。これだけもらって帰ってはどうか?」
そう言ってナナシは六冊の中の一冊を指した。
なんぞこれ?
「破邪の究極魔法――〈ホーリー〉だ」
ナナシが詳しく説明してくれる。
「これも〈魔力〉じゃなくて〈神聖力〉を使って放つ特殊魔法で、魔物に対して絶大な威力を発揮すると伝えられている。逆に魔物相手でなければ、大した威力は出ないそうだ」
「おー! それなら別に危険なシロモンじゃねえな」
「まあ、〈賢者〉に頼りきりになって、人類が成長を止める危険性が――などと言い出せばきりがないがな。“魔霊将軍”が攻めてきている有事だ、少しは目をつむってもいいんじゃないか?」
うん、ナナシの言う通りだと思う。
それにケンキドゥの命令だろうとそうじゃなかろうと、オレはみんなのために“魔霊将軍”を討ちたい。
だったらこの〈ホーリー〉は絶対に必要になるものだ。
「こいつだけもらっていくぜ、ジニアスアバター!」
オレは〈ホーリーの書〉に手を伸ばす。
〈悟りの書〉とは違って、いきなり力が流れ込んできたり、消えたりはしなかった。
他の魔法書同様、ちゃんと自分で熟読して習得しろってもんらしい。
でも今のオレには、その確かな感触がありがたい。懐にしまいながら、ホッとさせられる。
「じゃあ王都に凱旋とシャレこもうぜ、みんな!」
(オリーヴィアにさんざん自慢してやろうよっ)
(その前にカーマイナー先生とお祝いでしょー?)
いろいろ苦労はあったし、腹が立つ想いもしたけれど――結局は誰一人欠けることなく、最後は笑顔で塔を降りることができた。
やっぱ最高じゃねえか、なあ?
次回もお楽しみに!




