第三十一話 クライム・ザ・スパイア2
前回のあらすじ:
四十八階まで一気に登塔成功!
翌日は早朝から、皆で張り切って塔に挑戦した。
四十九階の試練は、運がよいとも悪いともいえる内容だった。
『時間も人数も問わぬ、〈オールドメデューサ〉を討伐せよ』
〈ジニアスアバター〉の布告を聞いて、俺たちは思わず顔を見合わせた。
〈オールドメデューサ〉は極めて強力な魔物で、本来ならばかなり難度の高い試練と言えよう。
しかし俺たちはアリアのおかげで、既に一度斃している。
いわば予行演習を済ませたようなものだ。
グラディウスに前線を任せ、モモがⅡ系防御魔法、リンゴがⅡ系強化魔法でサポート。
俺が〈ファイアⅡ〉をヘヴィカスタマイズして牽制に放ち、ヒイロが虎視眈々と〈ペトリフィケーションⅡ〉をかける隙を窺い、さほど苦労なく〈オールドメデューサ〉の討伐に成功した。
ただし全員、消耗した〈MP〉が少なくなかったため、連続挑戦は断念せざるを得なかった。
運が良かったとは言いきれない理由だ。
「それでも二日で四つの試練をクリアできた。ペースとしては上々だろう」
俺の所感に、皆もうなずいてくれる。
◇◆◇◆◇
さらに翌日、節目ともいえる五十階の試練は、はっきり不運な内容だった。
『〈グレイゴースト〉を討伐せよ。ただし七人まで挑戦可能とする』
ジニアスアバターの布告を聞いて、俺は顔を引きつらせてしまった。
〈グレイゴースト〉というのは、非業の死を遂げた〈騎士〉が怨霊化した魔物のこと。
ただでさえ〈ゴースト〉という連中は実体を持たないため、ほとんどの魔法が効かない、俺たちの天敵なのに。
〈グレイゴースト〉が持つ邪剣は魔力を帯び、霊体にもかかわらず俺たちの肉体を一方的に斬り刻むことができるのである。しかもこちらも魔力を帯びた〈防具〉を装備していないと、通常の鎧では一切、防ぐことができない。
昨日の〈オールドメデューサ〉に続いて、強敵単体を討伐せよというパターンの試練が続いた格好だが、よりたちが悪くなっていた。
ではどうやってゴースト種に対抗するかというと、一つは〈シェイド〉を使って〈精神力〉を削りきる戦法。
もう一つは、回復魔法はアンデッド全般に対して逆に〈ダメージ〉を与えることができ、その戦法がゴースト種にも通用する。
だがここで厄介なのは、騎士というのは〈精神力〉が高い〈職業〉だというのが通説で、翻って〈グレイゴースト〉は膨大な〈MP〉を持っているだろうと予想されること。
ならば回復魔法で攻めた方が効率的なのだが――もうお察しだろう、俺は〈僧侶〉の魔法は一切使えない。ヒイロも僧侶の〈レベル〉はあまり高くない。
従って、実質的な戦力はモモとリンゴの二人だけというマズい状況なのだ。
せめてもの救いは、〈ミスリル銀〉と〈アダマンタイト〉は天然の魔力を帯びた金属であるため、グラディウスが体を張って邪剣から俺たちを守ってくれるという一点。
「ここはお姉ちゃんに任せて!」
「ねえねえねえヒイロくーん? いつもの威勢のヨサはどこ行っちゃったんですかー???」
リンゴは一昨日の魔力コントロール試練で、不甲斐ないところを見せてしまったとまだ気にしていたようで、今こそわたしの出番だと張り切った。
モモがヒイロを煽るのも――まあその時の意趣返しだろう。
「すまん……俺は完全に戦力外だ」
「グゾオオオオオ何も言い返せねええええっ」
俺は本当に何も役に立てることがなく――俺一人が〈シェイド〉を頑張ったところで〈MP〉を削りきれなければ意味がない――小さくなった。
ヒイロも地団駄を踏んで悔しがった。
それでもヒイロは一応、回復魔法を使うことができるので、攻撃に参加できるわけだが。
〈グレイゴースト〉の振るう邪剣を、グラディウスが大斧で受け、弾き、いなし、その後方からリンゴたちが回復魔法を連発する。
そのまま怨霊騎士の〈HP〉を削りきれれば討伐成功だが――先にリンゴたちの〈MP〉が尽きてしまった。
〈グレイゴースト〉もかなり苦しんでいたし、もうちょっとで斃せたかもしれないが、〈ダメージ〉を与えられるのが実質二人では、やはり厳しかったのだ。
当然、試練はギブアップし、塔の一階広間に俺たちは転送される。
「どこまでも不甲斐ないお姉ちゃんでごめんねー……」
「モモさーん??? さっきイキり散らしてたのなんだったんですかー?」
「うっさいヒイロなんかもっと役立たずのくせにっ」
リンゴがやさぐれ顔で遠い方を見つめ、ヒイロとモモが責任転嫁で罵り合う。
〈MP〉が尽きた以上、今日はもう再挑戦できない。
貴重な一日を無為にしてしまった。
俺たちだとて成長したが、やはり叡智の塔は甘くない。
挑戦初日こそ三つも試練を突破できたが、これで三日で四つしかクリアできていない勘定になり、十日で登頂という目的に暗雲が立ち込める。
だが――いや、だからこそ俺たちが今やるべきことは、「どうやってこの試練を突破するか」を考えることだ。
「王都に戻って、助っ人を呼ぼう」
俺は迷わず提案した。
でも役立たずすぎたのが不甲斐なくて(リンゴの気持ちがよくわかる!)ちょっと小声になってしまった。
「確かにそれしかねえって感じだけど、誰かアテはあんのか、ナナシ?」
「オリーヴィアに頼るのは絶対イヤよ!?」
「うふ。ナナシ君がエリスさんを口説いてくれるとかー?」
「大丈夫だ、ちゃんと考えている」
俺が白羽の矢を立てたのは、キャネリー教室のリーダー、ワイエだ。
誠実で信仰心も厚く、庶民派の学生全員から慕われる青年で、特に僧侶としての〈レベル〉は教師を超え、学内最高と言われている。
俺たちも急激に〈レベル〉が上がっているため、今ではリンゴの方が(僧侶としては)上かもしれないが、とにかくリンゴ並みの回復魔法の使い手がもう一人増えれば、今度こそ倒しきれるはずだ。
早速、俺たちは宿に戻った。
「生還者の笑顔」亭の看板には申し訳ないが、どうしても意気揚々とはなれない。
男性陣の部屋でヒイロが〈タウンゲート〉を使い、俺が一人で学苑へ帰る。
ヒイロたちには宿に待機してもらい、明朝八時の鐘合わせでもう一度、転移門を開いてもらえば、トウシタまでの移動の手間をカットできるからだ。
ワイエは有名人なので、目撃情報を追っていけばすぐに見つかった。
時刻はちょうど昼食時。
奇しくも以前、彼に声をかけられた食堂で、今度は俺の方から声をかける。
ワイエのような篤実な青年に、駆け引きなど必要ない。事情を話してストレートに助っ人を頼むと、快く引き受けてくれた。
「ただ、僕からもお願いを聞いてもらっていいかい?」
「もちろんだ」
「その試練を突破できたら、僕まで次は五十一階から挑戦できるようになる」
それが叡智の塔のルールで、だからキャネリー教室にとっても大いにメリットのある話。
俺はそう思ったのだが、
「そのこと、誰にも内緒にしておいて欲しいんだ」
「構わないが……理由を聞いていいか?」
「僕たちキャネリー教室に、いきなり五十一階に挑戦できる実力はないからだよ。地力をつけながら、ちゃんと一階一階登塔していくべきだと考えている。でも僕が五十階までスキップできると知れ渡れば、誘惑に駆られる者がきっと出てくる」
「……確かに、それが人情というものだろうな」
「せっかく一丸となっている教室を、二つに割るような要素は避けたいんだよ」
ただ誠実なだけでなく、この思慮深さがワイエに人望の秘訣かもしれないな。
そして自分たちの実力を見誤らず、楽することよりも地力を蓄えることを重視するワイエの考えは、非常に共感できるものだった。
「ではお互い、今回のことは一切口外しないということで」
「頼んだよ、ナナシ君。僕もトウシタに行く口実を、何か考えておかないといけないな」
「それならば多分、問題ない」
「というと?」
「移動にはヒイロの〈タウンゲート〉を使う。行きも帰りも一瞬で、試練も含めてそう時間はとらせない。そのくらいの間いなくなっていても、誰も気づかないだろう」
「まさか〈タウンゲート〉とは! いやはやカーマイナー教室には脱帽だな。五十階まで登塔できているのもうなずける」
ワイエは感服したようにうなずいた後、
「なるほど、お互いに口外無用だね」
生真面目な苦学生が、珍しくイタズラ坊主のような顔でニヤリとした。
ともあれ助っ人依頼は上手くいき、明朝、俺の寮室で待ち合わせした。
ヒイロがトウシタ側から〈タウンゲート〉を開くのを待ち、二人で現地へ。
五人で軽く打ち合わせをして、五十階の試練に再挑戦。
見事、試練の突破に成功した。
ワイエの助力で、今度こそ〈グレイゴースト〉を斃しきることができた。
ただ――何もかも俺の計算通りかといえば、そうではなかった。
ワイエの〈ヒーリングⅡ〉の回復量は、リンゴはおろかモモのそれにも遠く及ばなかったのだ。
どころかヒイロのⅠ系回復魔法にも負けていたのだ。
これはいったいどういうことか?
推測するに、アリアから報酬にもらった魔法の果実の効果だろう。
大量摂取によりヒイロたちの全〈ステータス〉――無論、僧侶の魔法に関わる〈神聖力〉も含む――が激増し、〈レベル〉以上の実力が発揮できるようになっていた。
(加えてヒイロには〈大賢者の杖〉があるから、魔法効果がかなり高められているだろうしな)
ただ、ここまで差が出るものかと、比較対象がいなかったのでわからなかった。
確認できて俺たち自身がびっくりした。
ましてやワイエのショックたるや筆舌に尽くしがたいだろう。
「キャネリー教室とカーマイナー教室の実力差を、まざまざと思い知ったよ……」
ワイエはがっくりと肩を落とし、ヒイロの〈タウンゲート〉の向こうへトボトボと消えていった。
もっとちゃんとお礼をしたかったのに。
俺はひどく気の毒な仕打ちをしてしまったのかもしれない……。
◇◆◇◆◇
一晩ぐっすり寝て、〈MP〉を完全回復させた俺たち(正確には戦力外だった俺を除く!)は、五十一階の試練に挑戦した、
転移した先は、盤上遊戯試練の時を彷彿する小部屋。
小さなテーブルが中央にあるのも同じ。
ただ椅子はなく、卓の上に広げられているのは数えきれないほどのカードだった。
カードは全て鬼札で、無数の道化たちが虚空を見上げいる。
そして乱雑に広げられたカードの中で十枚だけが、裏返しになっていた。
『まだカードに触れてはならぬ。そして十秒後に試練を始める』
出現したジニアスアバターが布告する。
俺は咄嗟にカードの配置を記憶しようとする。
しかし十秒はあまりに短く、カードの数は多すぎた。
とにかくせめて、裏向きの十枚の位置だけは記憶した。
この努力が果たして報われるか否か――緊張する俺を嘲笑うように、いきなり部屋の中が真っ暗になる。
モモとリンゴの可愛い悲鳴が聞こえる。
目が慣れてもどうにもならない、一センチ先も見通せない完全な闇だ。
俺はまた咄嗟に〈ライト〉の呪文を唱えたが、発動しなかった。ジニアスアバターに『この試練では一切、魔法は使えぬ』と布告された。
つまり俺たちの知力を試す試練というわけだ。
『卓の上のカードを左右、二つのグループに分けよ。ただしそれぞれのグループに含まれる裏向きのカードが、左右同数でなければならない』
その試練の内容が、ジニアスアバターによって布告された。
「こんな真っ暗の中、どうやって分けろってんだよ!? 無理ゲーだろ!」
「何回でもチャレンジできるんだし、成功するまで当てずっぽうで分けるとか?」
「カードの枚数が多すぎて、上手く行くのは奇跡みたいな確率になると思うの」
パニックになるヒイロたち。
俺もまた唸らされた。
裏返しになった十枚の位置を憶えたのも、無意味に終わった。この暗闇の中では、完全に見失った。テーブルの位置さえ手探り状態なのだ。
リンゴの言う通りで、運否天賦でどうにかなる課題とは思えない。
でも逆に言えば、運否天賦に頼らずとも何か解法があるはず。
「考えさせてくれ」
時間をくれと皆に頼むと、「わかった!」とすぐに返事をくれた。
腰を据えて黙考する。
頭を使うという点では、俺が塔の挑戦を始めて、一番の難問だった。
これももしエリスが一緒にいたら、喜んだかもしれないな。
かくいう俺も少し楽しくなってきている。
さて。解法に至る糸口は何か……。
これまでのパターンからして、何かしらヒントがあるはずなのだ。
そう……例えば……そう、どうして裏向きのカードなんだ?
別に盤上遊戯で使う駒でもいいだろう? 無数の黒駒の中に、十個の白駒があって、それを二つのグループに分ける、でもよかったはずだ。
なのにカード。
それも二種類のカードではなく、表向きと裏向きのカード。
「……そうか!」
「わかったのかナナシ!?」
「いや待て。検算させてくれ」
俺の考えが正しいかどうか、脳内でしっかり検証する。
まあ、試しにやってみてダメなら再挑戦でもいいんだが、そこはこだわらせてくれ。
そして検算してみて、やはり行けると確信が得られた。
だから――
まずは手探りで、十枚のカードを適当に選んで、右に離す。
この十枚が「右グループ」で、残りのカードが全部「左グループ」だ。
そして、右グループに何枚の裏向きのカードが入っているかは、ぶっちゃけわからん。適当だからな。
普通に考えて〇枚。運がよければ一、二枚。奇跡が起きたら十枚全部が裏向きかもな。
まあ、そこはなんでもいいのだ。
俺はまた手探りで――右グループの十枚、全部を裏返しにした。
これがこの試練の解法だ。
もし右グループにランダムで選んだカードが全部、表向きだった時。
裏向きのカードは十枚、左グループに残っているという計算になる。
そして右グループのカードを全部、ひっくり返せば――十枚の「表向き」のカードが十枚の「裏向き」のカードに反転する。
これにて左右、どちらのグループも裏向きのカードが十枚ずつで、同数になる。
次に、もし右グループにランダムで選んだカードのうち、一枚だけが裏向きだった時。
残る九枚の裏向きのカードが、左グループに残っているという計算になる。
そして右グループのカードを全部、ひっくり返せば――その一枚の「裏向き」のカードは「表向き」になるが、残りの「表向き」のカードが九枚の「裏向き」のカード九枚に反転する。
これにて左右、どちらのグループも裏向きのカードが九枚ずつで、同数になる。
後は同様だ。
右グループにランダムに選んだ十枚のカードのうち、裏向きのカードが仮に二枚だろうが三枚だろうが十枚全部だろうが――丸ごとひっくり返してやれば――左グループに残った裏向きのカードと同数になる。
『左右のグループそれぞれに、裏向きのカード十枚を確認。試練突破と認める』
ジニアスアバターが宣言し、同時に部屋に灯りが点いた。
俺たちはこの目でテーブルの上の状況を確認した。
裏向きになったカードが十枚、端に固めて選り分けられているのを。
「え、なんだこりゃ……?」
「もしかして手品でも使ったのっ?」
「ナナシ君てばこんなこともできるんですねー」
暗闇の中で俺が何をしていたかわからないヒイロたちが、一瞬そう勘違いしても仕方ない。
驚愕冷めやらない三人の前で、同じ手順をくり返しながら説明すると、
「「「なるほど!」」」
まさに膝を叩かんばかりに、三人が納得した。
答えがわかると気持ちいいよな?
俺もちょっと気持ちよかった。
◇◆◇◆◇
〈MP〉を消費しなかった俺たちは、続く五十二階の試練に連続挑戦した。
今度も知力を試される、ただしイジワル問題の部類だった。
『この試練には二人以上で挑まねばならぬ』
俺たちが転移した先は、殺風景な広間。
ジニアスアバターももったいぶったわけではないだろうが、先に挑戦者の確定を求めた。
もちろん俺たちは四人全員、参加を宣言。
途端――
「「「「「「「「「「ななななな、なんですかこれぇ~~~~???」」」」」」」」」」
――リンゴが十人になっていた。
『この中の誰が本物か当てよ。ただし確たる根拠を提示せねばならない』
しかつめらしい顔で布告するジニアスアバターと、状況のコミカルさのギャップがすごくて、俺は苦笑いを禁じえなかった。
「リンゴ姉がいっぱいいて笑うんだけど!」
「オモロー」
「「「わたしはちっとも笑えないんだけどー」」」
ヒイロとモモは遠慮なく爆笑し、十人のリンゴたちは逆に涙目になる。
……どうもこのところ、リンゴが不憫な目に遭ってばかりの気がするな。
「リンゴに質問してもいいのか?」
『許可する』
「じゃあまずはオレからだな! 今、何歳だ?」
ヒイロの質問に十人のリンゴたちが一斉に、「十八歳よ」「十八歳~」「十八だわ」と答えた。
使った言葉のニュアンスこそ十人十色だが、どれもリンゴらしい口調そのもので、十八歳という正答も全員同じ。
「じゃあ次はアタシね! リンゴ姉の初恋の相手はイズール教室のネイヴか、キャネリー教室のワイエか、どっちでしょうか!」
「「「どっちも違うんだけど……」」」
モモは上手い引っかけ問題を思いついたとばかりにドヤ顔で質問したが、十人のリンゴは過たず即答した。
その後もヒイロとモモが交互に、「誕生日はいつ?」とか「得意料理は?」とか質問していくが、十人のリンゴは尽く同じ答えを口にする。
それでヒイロとモモがムキになって、「ダイエットが続いたのは最長何日?」とか「オレのちんちんイジッて遊んでたのは何歳まで?」とか、恐らくリンゴが墓まで持っていきたかっただろう秘密にまで、質問内容を踏み込んでいく。
十人のリンゴはそのたびに顔を真っ赤にしたり真っ青にしつつも、完璧な解答を続けていたが、
「「「これじゃわたしの秘密の暴露大会じゃない~~~っ」」」
とうとう十人全員が、その場で膝を抱えて座り込み、真っ赤になった顔をその膝に埋めるようにして泣き出した。
不憫すぎる……。
ともあれだ。
どうやら偽者たち九人は、リンゴのことならなんでも知っているか、あるいは記憶を共有しているらしい。
さすが知恵の神霊が創り出した奇跡の塔だ。どんな試練内容でもあっさりと用意してくれる。
「本物のリンゴ姉なら、お尻にホクロがあるはずよ!」
などと終いにはモモが言い出して、一人一人、下着をめくって確認していく。
「「「ヒイロ君とナナシ君は見ちゃダメだよ!?」」」
「「「絶対こっち向いちゃダメだよ!?」」」
泣きながらモモのされるがままになるリンゴたちから、俺とヒイロは背を向ける。
今度はこっちが赤面させられる。
そして、恐らく全員にちゃんとホクロがあるはずだという、俺の予想は当たってしまった。
「これでもダメかーっっっ」
「「「ひどいよ、モモちゃん~」」」
「「「わたしがお尻、見られ損じゃない~」」」
俺とヒイロは決して見てないわけだが、まあリンゴが半泣きで抗議したくなる気持ちもわかる。
さて、本格的に困ったな。
ヒイロとモモも頭を抱えて、
「ヤベエ……どうやって見分けるんだ、コレ……」
「もうお手上げなんですケドー」
「「「ひどいよーっ。みんなのわたしに対する愛ってその程度なのー?」」」
リンゴが半泣きで抗議するが、これは塔の試練が意地悪すぎて、愛だの気持ちだので本物を見分けるのは不可能な気がする。
……………………待てよ。愛?
そうか、愛か。
これは俺たちの閃きを試すと同時に、魔法の能力も問う試練だったんだ。
「ナナシはなんかイイ方法ないのか!?」
「いつもみたいにズバッと解決してよ!」
「俺も今、思いついた。試してみよう」
懇願するヒイロとモモの前で、俺は軽く手刀を振るった。
恐らく〈武道家〉のような肉弾戦専門の前衛職だったらしい俺は、ただの手刀でもその気になれば鋭利な刃物のように扱える。
それで自分の左手の甲に、切り傷を作った。
俺も痛いが、皆の方まで痛そうな顔つきになる中、その傷口をリンゴたちに差し向ける。
「一人ずつ〈ヒーリング〉を使って、治してくれないか?」
そんなことでいいの? という顔を、十人のリンゴたちが見合わせる。
一人目が俺の傍まで来て、神に祈りを捧げる。
「神は仰せになった。『汝に大いなる癒しを授けん』と……」
手を組み合わせ、真摯に聖句を唱えるリンゴ。
だが何も起きなかった。
俺の手の甲の傷は塞がらなかった。
「君は偽者のようだな」
俺が苦笑いを浮かべると、偽リンゴは「あっ」と本物そっくりの表情で驚いた後、煙のように消えてしまう。
「なるほど、その手があったか!」
「ホントにナナシはズル賢いわねっ」
事ここに至り、ヒイロとモモも快哉を叫ぶ(狡賢いはよけいだ!)。
そう――
僧侶が使う魔法には、神に対する本物の信仰心が必要だ。
神なんぞに頼ろうとは微塵も思えない俺が、どんなに努力しようが会得できない理由だ。
試練が用意したリンゴの偽者たちは、極めて精巧に創られているが、信仰心まではコピーできない。
神の目や耳を誤魔化すことは、誰にもできないということだ。
残りのリンゴたちがまごまごとしている中、一人だけが俺の前に進み出て、聖句を唱えた。
「痛かったでしょう? わたしのためにごめんね、ナナシ君」
そう言って俺の傷を癒してくれた。
「彼女が本物のリンゴだ」
その彼女の肩に触れ、ジニアスアバターに宣言する。
『根拠に基づく正答である。試練突破と認める』
ジニアスアバターが告げるとともに、偽リンゴたちは一瞬で消え去った。
意地が悪いと同時に、滑稽味も覚えるユニークな試練だったな。
どうにもドタバタさせられたが、これにて一件落着だ。
いつもの皆なら「やった!」と大喜びしていただろう。
しかし今回は、お調子者のヒイロでさえ騒がない。
どころか緊張を隠せない面持ちでいる。
皆、わかっているからだ。
これで突破した試練が七つ目になることを。
もし俺の予想が正しければ――
『汝らは過去、第二の〈特別〉試練を突破した。さらに現在、短期間において七つの試練を突破した。ゆえにこれより第三の〈特別〉試練を行う』
――そう、やはりこうなる。
次回もお楽しみに!




