第三十話 クライム・ザ・スパイア
前回のあらすじ:
〈賢者〉になりケンキドゥを掣肘するという決意をヒイロとナナシは表明し、不退転の覚悟でいよいよ塔の最上階を目指すのであった。
俺たちはその日のうちに、駅馬車でトウシタへ向かった。
「俺の予想では第三〈特別〉試練の発生条件は、七つの試練を短期間で突破すること。ただしあくまで予想で、確定ではない。十日で残り十五階を駆け上るためにも、時短できるものはどんどんしていかなくてはならない」
例えば塔の試練は大別して、「魔法の力や技術を試すもの」と「知識や知恵を試すもの」の二種類が存在することが、経験則でわかっている。
このうち後者は、〈精神力〉を一切使わずクリアできる試練が大半。
中には俺がかつて「これでは叡智の塔ではなく頓智の塔だ」と苦笑したような、解法を閃けばあっという間にクリアできる試練も少なくない。
そういった試練に当たった場合には、疲労も少ないし〈MP〉も温存できるので、「登塔はは一日に一階」の定石を無視し、連続挑戦するべきだろう。
逆に前者の試練では、まず確実に〈MP〉を消費させられる。
その場合は、よほど消費量が少なかった場合を除いて、連続挑戦するのはリスクを伴う。
まあ、塔の試練はギブアップ可能なので、挑戦するだけして、ダメなら諦めるという手も悪くない。
問題はギブアップを認められない、〈特別〉試練が始まってしまった時だ。心許ない〈MP〉では、突破できるものもできなくなりかねない。
だから最初の四つくらいまで――四十六階から五十階の試練では、連続挑戦をしてみるのはアリ。
しかしそれ以降は、残り〈MP〉量に少しでも不安がある時は、絶対に登塔を続けるべきではない。
――という俺の考えに、ヒイロたちは賛同してくれた。
◇◆◇◆◇
基本方針の意識共有もできて、俺たちは早速四十六階の試練に挑んだ。
一階の広間から転移した俺たちは、果てのない平原の只中にいた。
しかも奇妙な乗り物に乗せられていた。
例えれば、牽引する馬がいないのにひとりでに走る馬車……といったところか。
幌はなくて荷台が剥き出し。その荷台に俺たち四人は立っていた。
けっこうなスピードが出ているにもかかわらず、馬車(?)が一切揺れないので、立っていられた。
四つの車輪が轍に沿って走っており、この轍が完璧な直線を描いている上に、一切凹凸がないから、車体が安定しているのだろう。
荷台の先頭には、大きな円形の取っ手が備えられている。
そして荷台も車輪もそのハンドルも、全てが〈ミスリル銀〉でできていた。
『その乗り物で、レースに勝て』
青空に現れた〈ジニアスアバター〉の巨大バストアップ幻像が、厳かに布告した。
それと同時に、俺たちの横を走る、もう一台の馬車(?)が出現した。
俺たちが乗っているのと全く同じで、車体も車輪も総〈ミスリル銀〉製。
俺たちと寸分のズレもなく並走するように刻まれた、轍の上を走っている。
違うのは荷台に乗っているのが、木でできた〈ウッドゴーレム〉一体ということ。
「レースはいいけど、コイツどうやって操縦するんだよ!?」
『前方にあるハンドルを回せ。右に回せば車体が加速し、左に回せば減速する』
ヒイロが大声で訊ねると、ジニアスアバターは案外素直に教えてくれた。
「なるほど、こうか!」
ヒイロが喜び勇んでハンドルを右に回しまくると、馬車(?)はグングン加速していく。
「ウヒョー!」
「気持ちいいジャーンっ」
「待って待って! 恐い恐い恐い……」
馬車(?)でカッ飛ばすのが気持ちいいようで、ヒイロが調子に乗ってハンドルを回しまくり、モモがはしゃぐ。
対照的にリンゴはスピードを出すのが恐いようで、その場にへたり込んでしまう。
では俺は? というとそれどころではなかった。
〈ウッドゴーレム〉の乗る馬車(?)がまるでスピードを上げようとせず、彼我の距離がどんどん開いていたからだ。
強烈な違和感を覚え、脳裏に警鐘が鳴りまくっていたからだ。
そして、ハッとなってジニアスアバターに訊いた。
「レースの勝利条件はなんだ!?」
俺たちはレースと聞いて、反射的に「先にゴールに到達すること」と思い込んでしまったが、ジニアスアバターはそんなことは一切言っていない。
その俺の気づきは間違っていなかった。
『行く手のゴールへ、後から到達した方を勝ちとする』
ジニアスアバターはとんでもない勝利条件を、厳かに布告した。
「ちょっっっ、そんなの聞いてねえし!?」
「早くスピード落としなさいよバカヒイロっ」
「だからお姉ちゃんのお願いを聞いてくれてれば~」
ヒイロは慌ててハンドルを左に回すが、時既に遅し。
〈ウッドゴーレム〉もハンドルを左へ回し、両者の馬車(?)は最低速度でのろのろと走った。
俺たちの方がかなり先行してしまった分、このままではゴールへ到達するのも俺たちが先になってしまうだろう。
「どうすんだよ、これじゃ負け確じゃん!?」
「そうだ! 一旦ギブアップして最初からやり直したら」
「名案ね、モモちゃん!」
リンゴは手を打って賛成したが、俺はそれに待ったをかける。
後方をのろのろと走る敵馬車(?)を観察して、彼我の距離がこれ以上、縮まりも離れもしないことがわかった。
恐らくは両者の馬車(?)に性能差はなくて、だから最低速度も同じなのではないか?
「だとしたら仕切り直したところで、お互い最初から最低速度で走り、ずっと並走が続くだけ。ゴールが同時になるだけだ」
「その場合、勝負はどうなるんだよ、ジニアスアバター!」
『引き分けとなり、試練は最初からやり直した』
「永遠に決着がつかねえじゃねえか!」
ヒイロが悲鳴を上げ、モモとリンゴも頭を抱えた。
一方で俺は、試したいことを思いついていた。
ヒントは敵の馬車(?)が堅牢無比なミスリル銀でできているのに対し、乗り手は雑魚の〈ウッドゴーレム〉だというアンバランスさだ。
「操縦は任せたぞ、ヒイロ!」
俺は頼むと同時に荷台を蹴り、ひらりと宙を舞った。
そして敵の馬車(?)に乗り移ると同時に、〈ウッドゴーレム〉を荷台の外へ蹴り出した。
「ナニやってんだよ、ナナシイイイイイイ!?」
「こうする」
敵の馬車(?)を乗っ取った俺は、ハンドルを右に回し続け、グングンと加速させた。
あっという間にヒイロたちを追い越し、一気にゴールを決めた。
そしてヒイロたちの馬車(?)が遅れてやってきて、ゴールする。
『その乗り物で、レースに勝利――後からゴールしたのを確認。試練突破と認める』
思った通り。このやり方なら、ジニアスアバターが提示した条件を全て満たすことができる。
乱暴なのは認めるが、『相手を攻撃するな』とは言われなかったからな。
解法を見れば、ヒイロたちも納得したようで、
「頓智の塔的試練ってことかよ!」
「あっさり突破できちゃったし、幸先いいわねっ」
「ナナシ君がいなかったら、永遠に勝てそうになかったけどね~」
荷台の上でハイタッチして喜んでいた。
◇◆◇◆◇
俺たちは当然、四十七階の試練へ連続挑戦した。
しかも、これまた幸先の良い内容といえた。
『私が百を数える間に、〈ドラゴントゥースウォリアー 〉を百体斃せ。ただし四人まで挑戦可能とする』
塔の試練の中にはパターン化されたものが一部存在するが、この「制限人数、制限時間内で、指定の魔物を指定の数だけ斃せ」というのも頻出する一種だ。
では何が幸いなのかというと、制限人数が四人ということ。
いよいよ人数を絞ってきたなという印象だが、おかげで試しかったことを実験できる。
「出番だ、グラディウス!」
俺は〈魔神の壺〉をこすり、中から〈ミスリルゴーレム〉を召喚した。
グラディウスは〈アダマンタイト〉製の大斧を振り回し、迫り来る〈ドラゴントゥースウォリアー〉どもを当たるに幸い、薙ぎ払う。
竜の牙から産み出される骸骨兵どもは、魔力を帯びた剣、盾、鎧で武装する強敵だが、グラディウスは歯牙にもかけない。
しかも〈ミスリルゴーレム〉というのは、全身が金属でできているとは思えないくらい俊敏で、グラディウスは単騎にもかかわらず、俺たちが包囲されないように右に左に大立ち回りを演じてくれる。
おかげで俺たちは魔法に集中できる。
通常より長い呪文を詠唱し、〈範囲五倍化〉した攻撃魔法を、四人が四方へ撃ち放つ。
特にヒイロのカスタマイズ〈サンダーⅢ〉は、一撃で十八体の骸骨兵を粉砕した。
「ヤベエよ、この〈大賢者の杖〉! オレの〈魔力〉がさらに増幅されるこの感じ、病みつきになりそう!」
とヒイロは言うが、前回の登塔から装備が更新されているだけでなく、〈レベル〉も〈ステータス〉も上がっているのだ。
強い手応えがあるのは当然。
『制限時間、制限人数内での討伐を確認。試練突破と認める』
ジニアスアバターが八十数える前に、余裕でクリア。
さらに実験成功だ。
人数に制限を課された時、果たして〈ゴーレム〉は一人に数えるのか否か、試してみたかったのだ。
そしてこの試練で、ゴーレムは勘定に入らないことがわかった。恐らくは〈道具〉扱いなのだろうな。
グラディウスを得た今の俺たちにとって、このルールは大いに助かる。
「皆、残りの〈MP〉はどうだ?」
「オレはまだまだイケるぜぇ!」
「アタシだってっ」
「予定通り、連続挑戦しましょ?」
やはり二連続で、幸先の良い試練だったな。
◇◆◇◆◇
四十八階の試練は、今までにない変わった形で、俺たちの「魔法の技術」を試すものだった。
『台座の機能を使い、魔力を用いて指定の模様を描け。ただし三人以上、六人以内で挑戦せねばならぬ』
ジニアスアバターが厳かに布告した。
なるほど、カーマイナー先生が言っていた「一人では突破不可能な試練」が、いよいよご登場ということだな。
俺たちが転移した先は、清澄な雰囲気の小部屋で、中央に大きな銀の台座が設置されていた。
台座は六枚の花弁を持つ花のような形をしており、うち四枚が赤、黄、青、白にほんのりと色づいた。
この四色の花弁にそれぞれが座り、試練に挑むよう言われた。なので俺が赤、ヒイロが青、モモが黄でリンゴが白色の花弁の上に腰を下ろした。
すると天井付近に、立体的な幻像が浮かび上がる。
赤、黄、青、白の光で描かれた、複雑な幾何学模様だ。
これらの状況と、先のジニアスアバターの言葉を踏まえて、俺は一つの実験をする。
赤い花弁の上で結跏趺坐の姿勢となり、己が魔力を練り上げる――
学苑の正門前でひろわれた俺が、〈魔法使い〉の修行を始めた時、カーマイナー先生とヒイロに「自分の魔力を自在にコントロールできるようになれ」と口を酸っぱくして言われた。
結跏趺坐の姿勢で瞑想し、己の裡に眠る魔力を感じとれるようになるまでが第一段階。
その魔力の色を意識的に操作し、形を変えるようにできるまでが第二段階。
さらに色を変更できるようになるまでが第三段階。
あとはその精度と速度を上げる修行を一生、続ける。ゴールなどない。
――俺はその要領で、試しに己の魔力を花弁と同じ赤に染め、さらに天井に示された幾何学模様を手本に、コントロールして模写してみた。
するとやはり、これが正解。
本来、俺の裡に眠る魔力は俺にしか感じとれないのだが、それが今は台座の中央に投影されて、俺が魔力で赤い幾何学模様を描いていく様が、誰の目にも見えるようになっていた。
つまりこれが、この台座が持つ機能ということなのだろう。
さらに試しに魔力を青色に変更すると、台座に投影されていた幾何学模様が完全に消失する。
なるほどやはり、魔力の色は座っている花弁の色に対応させなければいけない、と。
だから四人で協力・分担して、四色の光で構成された立体幾何学模様の手本の通りに、台座の中心に完成させなさい、と。
「へええええオンモシレー」
「アタシもやってみよっと!」
「面白がれるほどお姉ちゃんは余裕ないんだけど~」
俺が軽く説明をすると、要領を得たヒイロたちも早速、チャレンジする。
台座の中心に、四色で描かれた立体幾何学模様が、徐々に形作られていく。
皆、なかなか上手いものだ。
通常、学苑生たちは一日のうちの何十分か何時間かを、瞑想に当てることで魔力コントロールの修行をする。
忙しい日にはサボることもあるだろう。
しかし俺は、瞑想なんて魔力をコントロールしやすいシチュエーションで修行するよりも、日常生活を送りながら同時に魔力をコントロールできるようになった方がよいことに気づいた。 いざ魔法を使う時もその方がより自然に、より実践的に使うことができるからだ。
しかもこの方法なら、起きている時間の大半を修行に当てることができるしな。
ヒイロたちも俺の考えに賛同して、今ではこちらの修行法を続けている。
だからこそ俺たちは、この複雑怪奇な立体幾何学模様を、いきなり魔力で描き出せと言われても、対応できているんだ。
他の学苑生たちであれば、お手上げだったかもしれない。
とはいえ俺たち四人の間でも、コントロールの巧拙はどうしてもあるわけで――
ヒイロはさすが魔法に関するセンスが抜群で、あっという間に担当部分を完成させていた。
次いで俺が、わずかに遅れて完成。
「やるじゃん、ナナシ! 魔法の修行を始めて三か月足らずでこのレベルとか、マジビビるぜ」
魔法の天才にそう持ち上げられると、面映ゆいものがある。
対してモモとリンゴはだいぶん遅れてた。特にリンゴが、
これは致し方ない。くり返しになるが、他の学苑生ならほとんどが歯が立たないだろう難度のことを、やらされているのだ。
むしろこれを鼻歌混じりに完成させた、ヒイロが特別なだけといえる。
ただし叡智の塔が〈賢者〉に求めるのは、その特別さなのだろうがな……。
その特別な天才が、イタズラを思いついたワルガキみたいな顔で煽り始めた。
「おいおいモモさーん? いつもの威勢のヨサはどこ行っちゃったんですかー???」
……なあ。モモをイジるのは、時と場合を考えてくれないか……?
これではモモの頭に血が上って、ますます完成が遠のいてしまう――と俺は懸念した。
ところが結果は真逆だった。
「ハァァァァァァァァ!? ヒイロ如きにできてアタシにできないことなんてないんですけどケドォォォォォ?」
煽られたモモは怒りで凄まじい集中力を発揮し、見事に担当分を完成させてみせたのである。
やはり俺は、まだまだ皆のことを理解しきれていないということだな。
物心つく前から一緒に育ったヒイロたちの、絆の深さにはやっぱり敵わん。
「後はリンゴ姉だけだ、頑張れ! 頑張れ!」
「ハイそこ右っ。そこで左斜め上っ。違う、もっと斜めだってばーっ」
ヒイロはリンゴに対しては煽ることなく、全力で応援する。
モモはやいのやいのと指示を出す。
前者はともかく、後者はかえって気が散ると思うのだがな……。
いや、きっとリンゴには必要なことなのだろう。これも三人の長年の絆というものだろう。
俺はもう黙って見守ることにした。
すると、
「やめてよ、二人とも~。わたしプレッシャーに弱いんだから~、静かに集中させて~」
リンゴがマジ泣き気味に訴えた。
……絆の力なんだよな?
◇◆◇◆◇
時間はかかったがリンゴも担当部分を完成させて、俺たちは試練を突破した。
「ごめん……わたし、疲れちゃった……」
リンゴが精神的な疲労を訴え、今日はここまでということにする。
いくら急ぐからといって、無理をするのはよくないからな。
たとえギブアップ可能な試練でも、四十七階のような戦闘を伴う試練で、一瞬のミスで命を落とすことだってあり得るのだから。
俺たちはジニアスアバターに宣告して塔を降り、宿に戻った。
もちろん、三つ子の夫婦が経営する「生還者の笑顔」亭だ。
「いよいよ登塔も大詰めですね」
「ウチでゆっくり休んで、英気を養ってってくれよな!」
「あっしら三人で近くの森まで出かけて、鹿を仕留めてきたんです。こいつぁ美味いですぜ」
テッド、ラッド、マッドが大きなテーブルいっぱいのご馳走を勧めてくれて、俺たちは舌鼓を打った。
本当にありがたい話で、英気が養われたのは言うまでもない。
あとはゆっくり休むべきなのだが――二人部屋で同室になったヒイロが、いつまでも興奮して寝付けない様子だった。
晩餐で振る舞われた鹿肉のロースステーキのあまりの美味さに、テンションがアガったままなのもあるだろう。
しかしそれ以上に、今日の挑戦の結果がうれしくてならないらしい。
「初日で三つも試練をクリアできたのは上出来だよな、ナナシ!?」
「ああ。後はいつまでも興奮してないで、グッスリ眠ることができれば完璧だ」
「ちぇ。ナナシは厳しいなあ」
隣のベッドで口を尖らせるヒイロ。
そのまま大人しくまぶたを落としてくれればよかったのだが、すぐまた盛んに話しかけてくる。
おかげで俺まで眠れない。
しばし閉口していたが――気持ちを切り替え、いっそ話につき合う。
ふと訊ねてみたいことがあって、
「ヒイロには将来の夢とかあるのか?」
いよいよ最上階まで登頂するのも現実味を帯びてきた。
この国では〈賢者〉になれれば、およそ希望する職や地位のほとんどに就くことができるだろう。
それこそ国王になることだって決して不可能ではないだろう。
記憶を失った俺には将来の話などピンと来ないが、ヒイロやモモ、リンゴには子供のころからの憧れや、長じてから興味が出た仕事などあるのではないか。
「夢っつーか〈賢者〉になったらまずは、〈究極魔法〉使って“魔霊将軍”をぶっ殺すぜ! そしたらガクレキアンキも平和になるし、オレたちゃ英雄よ! きっとキレーなネーチャンたちにチヤホヤされること間違いねえ! その中の一番美人と結婚するぜオレは!」
ははは! モモとリンゴには聞かせられないな。
でもヒイロらしいと思う。
「英雄になって、結婚した後はどうするんだ? 王様でも目指すのか?」
「いんや、そんなのには興味ねえよ」
ヒイロはごろんと寝返りを打って、俺に背中を向ける格好になった。
そうして恥ずかしそうに、ボソボソと言った。
「カーマイナー先生みたいな先生になりたいんだ。ガキのころからの夢だったんだ」
……なるほどな。
ヒイロにとっては〈賢者〉よりも、英雄よりも、国王よりも、よほど憧れの存在だと言うわけか。
平気で大言壮語するこいつが、口にするのに気恥ずかしさを覚えるほどの。
「くく。ヒイロの性格じゃあ道は遠そうだな」
「だよな? 〈賢者〉になるより難しいよな?」
俺は冗談で言ったのに、ヒイロはこちらへ向き直ると、本気で困った顔で言ってくる。
「まあ、先生も昔はヤンチャだったみたいだし、ヒイロも五十歳になるころには少しは近づけるんじゃないか?」
「ハァ~想像つかねえよ。ヤンチャ時代の先生も、五十歳のオレも」
「くく、確かに」
「ナナシは五十歳になってもナナシのまんまって想像つくけどな!」
「……俺は成長のない男ということか?」
ヒイロの冗談とも本気ともつかない言葉に、俺は憮然とさせられた。
つまりはこの俺自身が「そうかも……」と思ってしまったのだ。
次回もお楽しみに!




