10話 妖精
この夏の連休シーズン、ありがたい事にこんな田舎の店にもお客様がわんさかやって来る。
この時期は、メニューを煮込み料理などの大勢に振る舞える様モノに絞っている。
前日に大鍋を仕込みあとは、地産野菜等を当日にいれ調整するのだ。
今日は、夏野菜スープカレーをおすすめにしようと思っている。
しっかり仕込めているかと大鍋の蓋を開けて見る。
が、中身が入っていない。
大鍋を持ち上げて底を確認してみるが穴が開いた様子もなかった。
いや、混乱の末、反射的に見てしまっただけなのだが。
仕込み忘れた?と考え込んでいると何処からともなく声が聞こえて来た。
「…う~ん、良く寝た~。」
俺は、声が聞こえた方、大鍋の中を覗き込むと謎の生物があくびしながら背伸びをしていた。
体長は、20cmあるだろうか?
あどけなさのある顔立ちに耳が少し大きく、鼻も高い。
体と変わらない程に伸ばした緑髪を三つ編みは、スープカレーを良く吸収した後がうかがえる。
木の皮や葉っぱを器用につなぎ合わせた様な物を身に纏い、背中からトンボの様な羽が生えている。
これは、どう見てもアマタが持っているフィギアだな。
プルルル プルルル
「もしもし、アマタお前、鍋の中身食って、フィギア置いていっただろ? ん?お前じゃない? じゃ、誰が…?」
「……。」
「……。」
アマタとの電話中、フィギアと目が合い、見詰め合う事数分。
次第にフィギアの色が透明になって行き、消えて行った。
「もしもし、アマタお前のフィギアが食い逃げしたんだが? お前のじゃない? じゃ、一体何なんだ…」
その日は、ポトフとかに切り替えて、何とか乗り切った。
だが、次の日もその次の日もアマタのフィギアは、食い逃げを働いた。
「アマタお前、自分のフィギアにどういう教育しているんだ!!」
「だから僕のフィギアじゃないって言っているだろう! 毎朝毎晩、僕は、嫁達とおはようとおやすみの挨拶をしているんだ! いなくなってたら気づく!!」
「まぁまぁ、2人とも落ち着て。」
「でもな、せっかく前日に仕込んだ料理がだな。」
「僕も嫁達に疑いをかけられて、黙ったいられるか!」
「犯人を捕まえれば良いんだよ。」
「「どうやって?」」
そして、フラニーのとんでもない作戦が実行される事となった。
結果から言うと作戦は、成功した。
そして、状況で言うとアマタのフィギアと思われるモノは、悲惨な状態で捕まっていた。
大鍋の中で固めるテンプルで固められ、顔だけだして息も絶え絶えに助けを求めていた。
とりあえず、このままでは、話も聞けないので暖めて救出した後にタコ糸で縛って逃げられない様にする。
「アタシが何をしたって言うのよ!?」
「食い逃げしただろうが!!」
「僕の嫁に罪をなすり付けただろうが!!」
「はぁ? アタシそんなことしてないし~、ただ、美味しいご飯と寝床見つけただけだし~!」
「それで食い逃げしてないと言い張るか? じゃ、なんで最初に会った時に逃げたんだ?」
「そうだ、何で僕の嫁のフリをしたんだ!?」
「に、逃げて無いし~! た、ただ、怒られそうかなと思って隠れただけだし!!」
「自覚してるじゃないか!!」
「その程度の事で僕の嫁になり替わろうなど片腹痛いわ!」
「アマタ、ちょっ黙ってろ。」
抵抗するアマタをロープで縛り上げ、口に布で縛り、柱に括り付けておく。
身内の方にてこづるとは、思わなかった。
「大体、何でテレポートがレジストされるのよ! この紐なんなわけ!?」
「本来、調理する時に使うタコ糸は、肉の形を整え、火の通りを均一する為の技法。 肉を逃がさない為に編み出された技なのだ。」
「くっ、語り継がれし、捕縛の極意というわけね?」
こいつアホかもしれない。
適当に言った事を信じた様だ。
この世界の調理法にテレポートレジストとか出来るわけないだろう。
つまり原因は、まったく不明だ。
「で、アタシを捕まえてどうするつもりなの?」
「決まっているだろう? 弁償してもらうのさ。」
「分かったわよ。 煮るなり焼くなり好きにすれば良いじゃない!!」
「……煮るなり焼くなり? それは、案外良いかもしれないな、良し、それで行こう!」
「ちょっと、何で鍋を火にかけているわけ? さっきのは、言葉のあやよ? ねぇ、そんな事しないわよね…?」
妖精は、大地に力を与えるとか聞くからな、良い出汁が取れるかもしれない。
タコ糸で縛ってある妖精を水洗いし、塩もみ等の処理をした後に鍋に放り込んでみた。
「ちょっと、止めなさい! アタシを殺す気!? ねぇ、やめてってば、いやぁぁあぁ!!」
ドボ~ン。
「死ぬ! 死ぬ! ころさ…… 案外、良い湯加減かも?」
数分後、お玉で妖精を救い上げ、味見をしてみたが思った以上に良い出汁が出ていた。
そして、この妖精出汁の凄い所は、一番出汁も二番出汁も味が変わらないと言う所だ。
「あら、ユウくん、今日のスープは、また一段と美味しいはね。」
「はい、良い出汁が手に入りまして。」
常連さんにも評価をいただいた事だし、この夏は、この出汁で構成を考えよう。
「姫、迎えに来ましたぞ!」
「アタシは、ここよ~。」
「そんな所で何をしておるのですか?」
「人助けよ、人助け。」
「姫が人助け!! ご立派になられましたな~。」
ゾロゾロと現れる妖精達に対して胸を張るアホな妖精。
「そこの人よ、姫のご厚意に感謝するのだぞ!」
「……。」
「そんな事良いから アタシを見習って、あなた達も手伝いなさい。」
夏の間、妖精達は、自らタコ糸に縛られて、ローテイションを組んで出汁を取っていた。
ちなみに夏休みで遊びにきて、はしゃいだ子供達が転んで擦り傷を負っていたがこの出汁を使った料理を食べるとたちまちに治っていた様だ。
俺は、原液を密封容器に詰めて、そっと倉庫に封印した。




