9話 うさくん
何処から入ったのだろうか?
今日も開店準備をしようかと店内に入ると一匹の兎がカウンターに座っていた。
兎は、俺に気づくとキラキラと目を輝かせて一鳴きした。
キュ~?
「何処から入って来たんだ?」
キュ、キューキュ、キュー!
「すまない、俺には、さっぱりわからない。」
兎は、身振り手振りをしながら鳴いて、何かを伝えようとしているがさっぱりわからない。
オシャレな首輪をしているからペットだろうがこの辺に兎のペットを飼っている人は、居ない。
困っているとフラニーの声がした。
「ヤバイ! 隠れるんだ兎!」
キュ~?
「ユウくん、どうしたの?」
時すでに遅し、フラニーに兎が見つかってしまった。
今日は、兎のジビエ料理になるのだろうか?
「ユウくん、失礼だよ? いくら私だって人様のペットの兎を狩ったりしないよ?」
「だ、だよな!」
「それにこの兎、普通の兎とは、違う様だから。」
「そうなのか?」
キュー!
「これは、ご丁寧に私は、フラニーだよ♪」
キュ~?
「ん? 違うよ? ここは、ユウくんと営んでいる普通の喫茶店だよ?」
「……フラニーは、兎が言っている事が解るのか?」
「うん、この子は、うさくんって名前でここが異世界食堂?って聞かれたよ。」
「異世界食堂?」
「うん、異世界食堂はね、扉の入口が色々な世界と繋がっている飲食店の事を言うんだよ。」
「すまん、うちにそんなオプションは、付いてないな。」
きゅ~。
いや、2人でそんなすがる様な目で見つめられてもどうにも出来ないから!!
「元気出して、異世界食堂では、無いけど美味しいモノならあるから♪」
キュ~!
その後、兎の接客?は、フラニーに任せる事にした。
この兎は、俺が作った朝採れ小松菜をいたく気に入った様だ。
常連のお客さん達からも可愛がられ、すっかり打ち解けた様だ。
「ところでどうやって来たんだ?」
キュー!
「朱璃さんって人が飼い主なの?」
キュー!
「空さんって人が飼い主でそのお友達が朱璃さん?」
キュー!
「その朱璃さんが作ったドアでここに来たんだね?」
キュー!
「らしいよ?」
「いや、まったく解らないから。」
「えっと、朱璃さんって人が作った『何処でもドア』的な物で遊んでいたらここに着いたらしいよ?」
ああ~、何か知らなければ良かった情報がさらっと流れ込んできてしまった。
つまり、あの青い狸並みの人が関わっているのか。
「で、どうやって帰るんだ?」
キュ~。
「えっ? ドアが消えちゃったの?」
何てこったい!
しかし、胸を張って首輪のタグを見せて来る兎。
その後ろには、住所が書いてあった。
「この住所は、2つ隣の県だな。 今からだとちょっと遠いな。」
もう、夕日も沈みかけていて、今から送っていては、夜中になってしまう。
2人と1匹で悩んでいると店の扉が開いた。
「あ、いらっしゃいませ。」
「ここに居たのか。」
キュー!
「何が会いたかっただ! 試作品の道具勝手に使いやがって!!」
現れた人に感動の再開風に飛びついていたががっしりと顔をキャッチされ、引っ張られたり押されたりしていた。
この人が飼い主だろうか?
「あなたが飼い主ですか?」
「いや、私は、飼い主の友達で目を離した隙にこいつ等がいなくなっていたんだ。」
「そうですか。」
彼女の後ろでは、再会を喜ぶ、動物達が何匹もいた。
動物園でも経営しているのだろうか?
「迷惑をかけてすまない。」
「いえいえ、とりあえずコーヒーでもいかがですか?」
そして、コーヒーを飲みながら事の成り行きを説明してもらい、この事は、機密事項なので他言無用ということになった。
まぁ、話した所で誰も信じては、くれないだろう。
一様、兎達が帰った後、店の扉を確かめて見たがちゃんと元通りにいつもの外が見える様になっていた。
これで一件落着である。
「ユウくん、うちもペット欲しいね。」
「そうだな、今度ペットショップでも見に行ってみるか。」
「うん♪」
そして、次の日の朝、いつもの様に開店準備を始める。
キュー。
「何でまた来ているんだ……。」
「また、来たんだね♪」
2回目の来店ですでに常連さんオーラを出してカウンターに座っている兎がいる。
一様、飼い主に連絡を入れて、迎えに来てもらうまでの間、朝採れ小松菜を出しておいく。
飼い主達に怒られても懲りずにまた、来る様な気がした。




