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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第5話 おまえはここで命を斬り落としていけ

前回までのあらすじ


東京湾港にあがった女性の顔なし死体と、その近郊で新たに見つかった同じく顔のない男の死体。

その二つには偶然とは考えられない共通点があった。ベテラン刑事の三嶋源治は、これは事故ではなく連続殺人事件であると直感し、捜査を始めるのであった。

そんな事件が巷で騒がれている中、健登は坂達の要望に応えるべく、週末に海に行こうと弥命を誘い、その為の水着を買いに行こうとデートに誘うのだが、次の日駅前に現れたのは弥命に芳乃、そして悠紗にクローディアであった。

女子達は健登と二人きりでデートだと思っていたのに、集団でのお出かけとなりご立腹だったのだが、クローディアの奇襲により健登の右サイドを取られた他の三人は、怒りも忘れ逆サイドの争奪戦を始めるのであった。

 人の集まる繁華街、そこで不和はじっと待ち続けていた。

 それこそ陽の昇る前から沈むまで、そしてまた夜が明けるまでじっと待ち続ける、その相手は必ず現れると知っていたからだ。


 不和の目的は単純明快、活きのいい獲物を斬ることただその一点のみである。

 斬っても斬っても息絶えぬ者、死に抗い生に執着する者の命を絶ち斬ることこそが、不和の欲望を満たすのである。

 しかし現代ではそれを人知れず実行するのもなかなかに難しくなった。

 特に人を殺すとすぐにそれが露見してしまう、昔よりも人口が増えたのにそれが減ることに異常に敏感になった現代、命と言うものが異常に尊重されるようになった。

 斬る為にはそれ相応に斬られても社会が気にも留めない者を探さなくてはならない、その為に暗殺の依頼を受けるようになった。

 どこから自分の噂を聞きつけてきたのか、あの男を通してこの東京でも何人かの人間と妖怪を斬ってきたがそれが表沙汰になることはなかった。

 しばらくは奴の依頼を受け続けるのもいいだろう、斬った分だけの報酬も貨幣という形で受け取っている、金さえあれば“人 ”としてのカモフラージュも容易にできると言うものだ。


 さて、不和の待ち続けている相手であるが、それは最近この街に現れた顔なし(フェイスレス)と呼ばれる“モノ ”、性別は不明いくつもの顔を持っているらしいのだがそれは他人の顔を奪うからだと言う、今も自分に合う顔をなかなか見つけられず街を彷徨っているらしい。

 顔を変えられるのであれば特定される可能性も減るので、必然獲物を見つけ易い人の多い場所に現れる、特にこういった繁華街の裏ではそういった行為を行いやすい、ここから半径10キロ圏内で既に3件もの犯行に及んでいるのがなによりの証拠である。


 ここで張っていれば間違いなく奴は獲物を求めてやってくる……


 不和は神経を研ぎ澄ませ人ならざる者の気配を探す。

 特にここ数日内に人を殺したであろう者の気配を…


 見つけた。


 見た目は二十歳前後のちょっとチャラい感じの大学生っぽい男、フラフラとすれ違う女の子に声をかけているのだが、どうやらナンパのようだ。

 そのナンパには失敗したらしく女の子達は不快な顔をして去って行く。

 男はつまらなそうに地面に唾を吐くとまた女の子を物色し始める、不和は男の後を気配を殺してつけて行った。


 何度かナンパを繰り返す男であるのだがどうにも女の子は靡かない。

 当然である、今時「ヘイかのじょ~」なんて声をかけて立ち止まってくれる女の子がいるわけがない、男は苛立ちを隠しきれずに路地裏へと入って行くのだが、そこで道の真ん中に立ち塞がる大男の姿、身の丈六尺以上はありそうなその男は薄汚れた黒い外套のような衣類を身に纏い、髪は癖毛を伸ばして放置した状態、無精ひげを蓄えた顔は頬がこけている様にも見えるが、その眼光は鋭い殺気を放っていた。


「あぁん?なんだよてめぇ、邪魔だなどけよっ!」


 男はチンピラの様な態度で言うのだが、大男は眉一つ動かさずに言う。


「フェイスレスだな?問答は無用だ、おまえはここで命を斬り落としていけ」


 大男は外套の中に持っていた太刀を引き抜くと構えた。

 その瞬間、フェイスレスと呼ばれた男は1メートルほど後方へ飛び退り、臨戦態勢を取ると言い放つ。


「きさまぁ、外道かぁ?その血生臭い瘴気とそれを纏った太刀、間違いねぇ人斬り外道だぁ」


 どうやらこの大男の正体が不和であると知っている様子。


「ふははははっ!いいねぇいいねぇ、人斬り外道様が俺の命を斬りに来たかぁ」


 笑いながら言うのだがその表情はまるで泣き顔であった。

 それに気が付き表情を直そうとするも、今度は眉を吊り上げ鋭い目つきで不和を睨みつけて歯を食いしばる、言動と表情がまるで一致していない


「あれあれ?おかしいなぁ?難しいなぁ、ダメだぁ、やっぱりこの顔じゃあダメだぁ、代わりにおめの顔をくれよぉぉぉおおおおっ!!」


 叫び飛び掛かってくるフェイスレス、不和はそれを難なく躱すと太刀を振り下ろし顔を斬りつけた。

 フェイスレスは悲鳴を上げ顔を押さえながら地面を転がる。


「ぎゃああああああああっ!いてぇ、いてぇよぉ、顔がぁ顔がいてぇよぉぉぉぉおおっ!!」


 叫びながら突然ガバっと起き上がり顔を覆っていた手を離すと、顔面から血と肉の塊が噴水の様に噴き出し飛び散った。

 不和はそれを咄嗟に躱すのだが、地面に撒き散らされるとジュウジュウと音を立ててアスファルトを溶かして行く、もう一度フェイスレスを見やるのだが既にその姿はなかった。


 腐った煙を上げるアスファルトを見ながら太刀を鞘に納めると、不和は無言のままその場を立ち去るのであった。




 佐ノ介は外道の足取りを追う為に聞き込みを開始していた。

 蛇の道は蛇、外道のことなら外道に聞けばいい、所謂裏世界の住人達にここ最近何か変わったことはなかったかと聞いて回っていたのだが、半日経っても有力な情報は得られなかった。

 しかしその過程で妙な噂を耳にする、ここ数日の間にこの界隈で顔のない人間の死体が数体見つかっていると言うのだ。

 しかしそのどれもが顔を焼かれて死んでいると言うので、これは外道の仕業ではないと佐ノ介は気にも留めなかったのだが、ふと昨日東京に着いた時に港にあがったという死体を確認しに行った時のことを思い出す。

 あの時はこれは単なる殺人事件だと言ってその場にいた刑事に、まだそうと決まったわけではないと言われたのだが、まさか連続殺人に発展するとは思いもしなかった。

 微かに(あやかし)の気配は感じてはいたものの自分の成すべきことは外道の討伐である、それにこの街にはこの街のルールもある、下手に首を突っ込んで神社の縄張りを荒らしたなどと言われでもしたら面倒なので放置していたのだが……


「もう一回、見に行ってみるか……」


 外道がこの街に居る、そして時を同じくして顔を焼く殺人鬼、或いは物の怪が現れた。

 両者に直接的な関係はないのかもしれないのだが、それにしてもなにかしらの因縁を感じてしまうのも無理はない。

 佐ノ介は昨日の港へと足を向かわせるのであった。



 港に着くとトラテープが貼られており、捜査員はいないものの警察官が二名立っていた。

 担当の刑事の依頼で焼香をあげに来たと適当な嘘を吐き、警察官も坊主を邪険に扱うのはなんだか気が引けるので、早めに済ませてくれと中に入れた。

 現場に着くのだがやはりさしあたって変わったところはない、死体は海面に浮かんでいたので海中になにかしらの痕跡があるかもしれないが流石にそれを探すのは無理だ。

 考え込みながら港を一回りするとある倉庫の前で佐ノ介は立ち止まる、そこから感じる妙な気配…これは……

 中に入ろうにもシャッターは閉まっている、裏手に回ると出入りのできる勝手口があるのだが当然鍵が掛かっていた。

 佐ノ介は袖口から呪符を取り出すとドアノブに張り付けて念を唱える、小さな音を立てて爆発すると鍵ごとドアノブを吹き飛ばして扉が開いた。

 人の気配がないのを確認してすかさず中に入ると佐ノ介は顔を顰める……


 ここに居た。


 間違いない、ここ数日の間に間違いなく外道がここに来ている、なにも痕跡は残っていないが、ここでおぞましい出来事が起こっていたのだろうと佐ノ介は直感した。

 人が殺された痕はなに一つない、遺体どころか血痕すら残っていないが、それ以上に外道がここに居たと証明するこの血生臭い瘴気の臭い……


 なるほど、これに引き寄せられて現れたのかもしれない……いや、それは自分も同じか?外道を追う内に自らも同じ穴の貉となっているのではないか?そしてこの瘴気に呼ばれてここに辿り着いたのではないか…佐ノ介は恐ろしくなるも考えを改める

 その様な弱気になっていてはこの瘴気に取り込まれてしまう、とにもかくにもこれをこのままにして置くのは危険である。

 なんの耐性も持たない人がこれに過って触れてしまった場合命を落とす危険性もあるのだ、佐ノ介は瘴気の浄化を執り行うと倉庫の外に出てまた考え込む。

 おそらくはもうここに外道が現れることはないだろう、奴は恐ろしく慎重である、犯行に及ぶ時には大胆な行動にでることもあるのだが、基本は目立たぬよう、そして尻尾を掴ませぬように闇に紛れて、決して見つからぬように息を潜めるのだ。

 だが近い、必ずこの近辺に居ることは間違いない、佐ノ介は顔なし殺人を追うことが外道への近道になると考えた。


 帰り際に警察官になにか破裂音がしなかったか?と尋ねられたがそ知らぬふりをする、そして二人の身を清め祓ってやると言いその場で念仏をあげてやると、お礼を言われてその場を去るのであった。


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