第4話 おまえ…今日のパンツ、随分と気合いが入っているな?
前回までのあらすじ
顔なし遺体の事件を追うベテラン刑事三嶋源治は、港で見つかった遺体の検視結果を聞くために外科医の元を訪れていた。
そこで聞いた驚くべき事実、顔のない遺体の頭蓋、それはとても人間の持つ骨格とは似ても似つかないものであった。
その夜、事件は更に最悪の方向へと動くこととなる、ラブホテルで見つかった第二の顔なし遺体
源治はこの卑劣な連続殺人事件に対し、必ず犯人を見つけ出すと静かに怒りを燃やすのであった。
あれ?これ神器の巫女だよね?
弥命は勉強机の前で座りながら広げていた夏休みの宿題も手に着かない様子だった。
顔を真っ赤にして、しかしにやけながら先程かかってきた電話の内容を頭の中で反芻する
「もしもし」
『姫宮か?こんな時間にいきなり電話してごめんな』
「大丈夫ですよ守羽くん、どうしたんですか?」
宿題をしようと机に着いたのだがスマホが鳴り、画面には「守羽くん」と表示されていたので、弥命はちょっとドキドキして電話に出たのであるが、健登の言ってきた内容に驚いてしまう
『今週の土曜なんだけどなんか用事ある?』
「いえ特には、なにかあるんですか?」
『そっか…暇だったらさぁ皆で海にでも遊びに行かないか?』
「え?海水浴ですか?」
『そうそうそれ、せっかく夏なんだしさ、悠紗も遊びに行きたがってるしクローディアも誘ってさ』
弥命は悩んでしまう、海水浴なんて小学生の時に水谷と紅葉に連れられて行ったきりだ
それに水着も持っていないし、なにより健登と一緒にそんな場所に行くだなんて、まあ当然他の人も誘うのであろうが弥命は少し渋って見せる
「で…でも、わたし水着なんて持ってないし」
『だったら明日一緒に買いに行こうぜっ!俺も買わないといけなかったしちょうどよかった!よし決まりっ!!』
え?今なんて?
弥命が混乱していると健登は続ける
『じゃあ集合場所と時間はあとで知らせるから、おやすみ』
「は、はい…おやすみなさい…」
返事も聞かずに健登は一方的に電話を切ってしまった。
弥命は暫く呆けていたのだが、ぼんっ!と頭から煙を吹き出すと真っ赤になりながら震える
これってデートだよね?か、かかかかか…守羽くんとデート?しかも水着を買いにっ!?え?なんで?どうしてこうなった?もしかしてこれって…守羽くんに選んで貰うの?水着を?
弥命の妄想が爆発する
― こっから弥命の妄想 ―
「ど…どうかな守羽くん?」
試着室のカーテンを開けると恥ずかしそうに健登に聞く弥命、選んだ水着は赤を基調とした2ピースビキニ、弥命の豊満な胸の谷間がより強調されるタイプであるが、下には同じく赤を基調としたロングパレオを着けていて大人の雰囲気を漂わす品のある物だ
「うーん、そういうのも似合うけどやっぱ姫宮にはもう少し清楚な感じの色がいいかも」
そう言うと健登は白のこちらも2ピースであるが、ブラトップと下はフリルのついたスカートタイプの水着を選んでみせた。
弥命は顔を赤らめながらそれを受け取ると試着し直す。
「こ、こんな感じ?」
「これはまいったな…姫宮はなにを着ても似合うしかわいいから、俺も悩んじゃうよ」
健登は白い歯を見せてニカっと爽やかに笑う
「も…もうっ…バカなんだから」
頬を染めてそう言いながらも弥命の口元には笑みが浮かんでいた。
― こっから現実 ―
「うへへ…はっ!」
弥命は我に返ると涎を袖口で拭う
なんというはしたない妄想をしてしまったのか、姫宮の姫巫女でありながら人前で肌を晒すことなど…ことなど……駄目だ、今日はとても宿題なんて手に着きそうもない、明日に備えて今日は早めに寝ることにしよう
弥命は布団を敷くと電気を消して床に就くのだが…
「きゃぁぁぁ、眠れないよーーーっ!!」
目を瞑るとまた変な妄想を始めてしまい、なかなか眠りにつけないのであった。
― 翌日 ―
「で…なんでこんなことになってんの?」
駅前のロータリー、直立不動で立つ健登を四人の少女達が囲んでいる
芳乃は例の人を殺しかねない鋭い目つきで健登を睨みつけながら問い詰める
その後ろで皆一様に不満げな表情をしている、弥命、悠紗、クローディアであるのだが、なにがどうしてこうなっているのかと言うと
昨日玄関先で芳乃は健登に声をかけられて次の土曜に海に行かないかと誘われたのだ
まさか健登の方からそんな大胆なお誘いをしてくるなんて予想もしていなかったので一瞬動揺したものの、こんなことは二度とないかもしれないと思い承諾、だったら新しい水着が欲しいので明日買い物に付き合ってと誘ったのだが…
そりゃあ二人きりでなんて言わなかったかもしれないけど、ここまで空気の読めない奴だとは思わなかったわ…
芳乃が落胆していると悠紗が怒りの声をあげる
「健登っ!妾の水着をおまえが選んでくれると言うから来てみればなんだこれはっ!!正妻の前で堂々と浮気をしようとはっ!男の器量と言うにはいささか配慮がなさすぎるぞっ!!」
いや、正妻でも浮気でもないのだが…まあとにかく悠紗も怒り心頭のようである、この娘はこう見えて健登に一途なところがあるので、それはそれで見習わなくてはと思うところもあることはあるのだがと思う芳乃…そしてこの弥命である
弥命はぷくーっと頬を膨らませて涙目になりながら健登に抗議する
「なんなんですかっ!昨夜のわたしの恥ずかしい妄想は一体なんだったんですかっ!!守羽くんの所為ですからねっ!もう恥ずかしくて穴があったら入りたい気分ですっ!!」
もう何を怒っているのかさっぱりわからない、昨日この娘になにがあったのだろうか?
「い、いや待ておまえら…み、皆で行こうって言ったじゃん?なんで怒ってんの?」
問い詰められてしどろもどろになる健登であったが、そんな言い訳が通用するわけがない
はっきり言って二人きりでデートだと思っていた女子達はめっちゃ気合いを入れて準備をしてきたのだ、それをこんな集団お出かけにされてはたまったものではないのだが、それを最後まで黙って見ていたクローディアが次は自分の番だと言わんばかりに前に進み出る
「ヤー、タケト、ワタシは皆とお出かけができてとても嬉しい、さっそく行こうっ!」
そう言うと笑顔で健登の右腕に絡みつくクローディア
しまったあああああ!他の女子達はしてやられたと焦る
皆と同じように不満を抱き怒っているように見せかけて、この金髪娘は虎視眈々と健登のサイドを狙っていたのだ
集団に於いて肝要なのは目立たぬこと、そして一瞬の隙を突き勝利を掠め取ること、それこそが集団戦闘に於ける生存戦術の基本であることを心得ている、そんな現役軍人のクローディアだからこそとれた戦法である
そしてここからが最も肝心だ、自らの持つ武器を最大限に活かし畳み掛ける、クローディアのたわわに実った柔らかい感触を二の腕に感じ健登は鼻の下を伸ばした。
さすが外人だ日本人のものとはまた違った破壊力が……いや、それでも姫宮のほうが、いやいやいや俺は一体なにを考えているんだっ!
健登がそんなことを考えているのも露知らず、先程までの怒りはどこへやら、残された女子達はこんなことをしている場合ではないと思考を切り替える
まだ残っている…クローディアの逆サイド、聖域の争奪戦が始まる
「そ、そうね、今さら文句を言っていてもしょうがないし、今日は久しぶりに皆で楽しくお買い物しましょう」
そう言いながらさりげなく踏み出す芳乃のスカートをグイっと引っ張る悠紗
「そうはさせぬぞ芳乃」
「ちょ、ちょっとやめてよ悠紗、伸びるでしょ」
「ほほぉ、おまえ…今日のパンツ、随分と気合いが入っているな?」
「ちょっ!やめろごるぁぁああああっ!スカートを捲るんじゃねええええっ!!」
その隙を突いて弥命は健登に忍び寄る
「本当にあの二人は仲良しですね、それじゃあ行きましょうか」
ニコニコしてそう言いながら健登の腕を組もうとするのだが後ろ髪を引かれる
「待ちなさい弥命、油断も隙もないわねあんた」
「いたた、芳乃さん、それはちょっと酷いです。」
笑顔だが明らかに好戦的なオーラを放つ二人、そこに悠紗も加わり三人の女達の戦いが火蓋を切ろうとした時
「おーいおまえらなにやってんだー?おいてくぞー」
遠くから三人を呼ぶ健登、クローディアと腕を組み二人まるで恋人のように歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見ていた悠紗が物憂げな表情を浮かべ
「妾達はなんて不毛なことをしていたのだ、争いは何も生み出さないのだな…」
なんて言うもんだから弥命と芳乃も反省するのであったが…
「隙ありいいっ!!」
悠紗が猛ダッシュ、健登のもう片方の腕に飛びついた。
なんて汚ねえ奴なんだ…神様の癖にマジありえねえ…
唖然としながら女神のその所業を見つめる二人、結局芳乃と弥命は敗北、とぼとぼとその後ろをついていくのであった。
女の買い物ってのはなんでこうも長いのだろうか、たかが水着一着選ぶのにあれでもないこれでもないと何着も品定めをしているのだが、「あっ、これかわいいー」なんて言いながら手に取り、ここがいいそこがいいと話していたのに結局放りだして別の物を試着するわ、これが似合いそうなんて人のを選んでいる暇があるならちゃっちゃと自分のを選べっての、だいたいこんな女子の水着コーナーにいる男のことも考えろって言うんだ、めちゃくちゃ恥ずかしいぞこれ
自分で誘っておきながら健登は辟易してしまう、そもそも水着買うのに原宿なんかに来る意味がわからない、近所のイトーヨーカドーでいいじゃないかって言ったら、頭沸いてんじゃねーの?みたいな目で見られて芳乃に拒否されたのだ
イトーヨーカドー舐めんなよちきしょう
午前10時前に着いたのに気が付いたら正午を回っている
「芳乃ぉまだかよー?もう昼だぞー腹減ったぞー」
不満たらたらの健登を尻目に「もうちょっとー」なんて言いながらも、クローディアと二人また別の水着を物色しだすしまったく決まりそうにない
だいたいこの店で何軒目だよ、付き合いきれんと思いながらふと気が付くと他の二人の姿が見えない、どこに行ったのかと思っっていると試着室から自分を呼ぶ声がする
「健登、そこにおるか?」
「なんだよ悠紗」
「そこの籠に入っているピンクの水着を取ってくれぬか?」
「は、はあっ!?馬鹿かおまえ、自分で取れよっ!!」
なにを言っているのかあのお馬鹿ちゃんは、そんなことしたら中が見えちゃうかもしれないだろ
「よいから早く取れっ!妾は今手が空いていないのだ、残念だが服は着ているから安心しろ」
なにが残念だ、そう言われ仕方なく言うことを聞く健登であるが、試着室のカーテンを開けた瞬間に硬直する、そして中にいた人物も服を脱いでいる途中で下着姿のまま固まっていた。
「か、かか…かかかかかか………」
「ひ、ひめ…みや…あれ?」
驚いた表情を見せるとわなわなと震え涙目になり顔を真っ赤にしている弥命、水色の可愛らしい下着を身に着けているのだが健登も軽くパニックなのか、やっぱり姫宮にはこういう清潔感のある色が似合うね、なんて思ってしまう
どうやら間違えて反対側の試着室を開けてしまったようだ、それにしても弥命でよかった、これが全然知らない人であったら警察の御用になっていたかもしれなかった。
てゆーか、いいわけないよね
「きゃああああああああああああああああっ!」
弥命は悲鳴をあげると健登に張り手をぶちかまして勢いよくカーテンを綴じてしまう、思いっきりぶっ叩かれた健登はその場で頬を押さえながらしゃがみ込んでしまうのだが、悲鳴を聞きつけた店員と警備員が駆け付けてきて大騒ぎとなってしまった。
皆で事情を説明してなんとか解放された健登であるが、大人達に「夏休みだからと言ってあまり羽目を外さないように」とこっぴどく叱られてしまった。




