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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第3話 刑事さん、うちは禁煙なんで

前回までのあらすじ


東京港湾内で見つかった顔の焼かれた死体、事故か或いは殺人か、それを調べるべく捜査を始めるベテラン刑事の三嶋源治と、一方その頃姫宮神社には珍客が来訪していた。

それは遠路遥々和歌山からやって来たと言う顔馴染の僧侶、佐ノ介であった。

佐ノ介は白や水谷らに手厳しい歓迎を受ける中、京都にて取り逃がした人斬り外道を追ってきたと告げる

それを聞いた白は激怒し、佐ノ介に3日以内に必ず見つけ出し殺せと言うのであった。

 司法解剖を終えると源治は医師の元へと行き色々と聞き取りを行った。


 その説明を聞くと、やはり源治の睨んだ通りこの遺体には異常な個所が幾つも見られたと言うのだ

 それは主に焼け爛れた顔面の部分なのだが、焼けて溶けた皮膚と肉の下からは人間であれば必ずあるはずの眼窩(がんか)、鼻腔、そして口腔の部分が見当たらないと言うのである

 源治もこれまでの刑事人生の中で多くの被害者の遺体を見てきた。

 その中には今回の事件のように顔を焼かれたものをはじめ、刃物でズタズタに切り裂かれたもの、果てはハンマーなどで滅多打ちにされて原型を留めないものなど様々である

 当然それだけ損壊していれば眼窩や鼻腔などの周りの骨が折れへこみ、原型を留めていないものもあるし、鼻や耳、唇などは切り落とされたり焼かれて溶け落ちれば当然無くなっていることもあるが、それらがあった部分に孔が見当たらないと言うのはとても考えられない

 先天的な病気でそう言った事例があるのかもしれないが、いくらなんでも今回の被害者がそうであったなんてのはありえないだろう


「せんせぇ…どういうことですかねぇこりゃぁ?」

「刑事さん、私も長年外科医をやっていますが、こんなのは初めてで非常に戸惑っています。直接的な死因は窒息死と思われるのですが、肺の中から海水は微量しかでなかったので海に落ちる前には既に死亡していたと思われます。殺人だったとしても索条痕が見られないのと、腕に防御創や皮下出血の痕も見られないので無抵抗の状態で殺された可能性が高いですね」

「クスリでも盛られてたんかねえ、ツッコミの痕跡は?」

「強姦された痕も見られないので、金銭目的の強盗か、或いはそのどちらかをしようとしたところで誤って殺してしまい怖くなって逃げたと言う可能性もありますね、顔を焼いたのは被害者の身元の判明を遅らせる為でしょうか」


 なるほどなぁ、と腕を組み渋い顔をする源治であったが、やはり納得のいかない点の方が多い

 そもそも今のは犯人の犯行動機の推理であって、本来あるべき頭蓋の姿の説明にはなっていない


「まあまだ殺人と決まったわけではないので事件事故両方から捜査中ですわ、ところで身元はわかりそうですかね?」

「難しいかもしれません、歯がないものですから治療痕からは辿れませんし、身体の方にも大きな手術痕とかはなかったのでなんともし難いですね」

「そうですか…」


 結局解剖によってわかったのは被害者の死亡原因とおおよその年齢と性別、そしてこの事件が例にみない異常な事件であると言うことだけであった。


 こいつはひょっとすると、とんでもねえヤマにぶち当たっちまったかもしれねえなぁ


 それはベテラン刑事(デカ)である源治の直感が告げるものであるかもしれなかった…



 源治は外科医にお礼を言うと釈然としない気持ちのまま病院を後にした。



            *



 その日、男は他大学サークルとの交流コンパを終えると、二次会もそこそこに切り上げて帰宅の途についていた。


「ちっ、つまんねーコンパだったな、女共はどいつもこいつもブス揃いの癖にやたらと身持ちは堅えわ、野郎どもはなんだありゃ?高校生の飲み会かっつーの、男同士で寄り集まって漫画やゲームやアニメの話ばっかしやがって、ボカロ?なんだそりゃ?あんなオタク臭え歌で盛り上がるわけねーだろアホがあっ!」


 どうやら女子をお持ち帰りできなかったので怒り心頭のようであった。

 道端に転がっている空き缶を蹴り飛ばすと民家の外壁に当たり、カンカンっと音を立てて転がる

 その行方を目で追っていると道路の片隅、電信柱の下にうずくまる人影に気が付いた。

 姿形や恰好から見るに若い女のようであるがなにをしているのだろうか?

 男は下心見え見え口元に下卑た笑みを浮かべると、その女に近づき声をかける


「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」


 なるべく警戒されないように、声は張らずに優しく話かけた。


「すいません…ちょっと飲みすぎちゃったみたいで…」


 恥ずかしそうに俯きながら振り返らずに答える女

 足元を見るとどうやらもどしてしまったらしい、汚ねえなぁと思いつつもちらっと見えた女性の横顔に男は胸を躍らせる

 こいつはなかなかの上玉じゃないか、かなり酔っているみたいだし酔い覚ましにとでも言って風呂にぶちこめば全然問題ない

 男は言葉巧みに女性を誘うと、少しだけ休憩だからと言いラブホテルへと入って行った。


 部屋に入るなり女の方から男に抱き付いてくる


 なんだなんだ随分と積極的じゃないか?ひょっとして美人局か?と思いながらも性欲には勝てない男

 ちょっとゲロ臭いなと思いながらも、ここまで来て気でも変わられたらもったいない

 少し我慢し女と接吻しそのまま絡み合い服を脱ぎながらベッドへと倒れ込む、真正面から見る女はサークルの飲み会にいた女共と比べたら雲泥の差、月とすっぽん、自分よりも少し年上であろうか?なんにしてもこんな美人と行きずりの情事にもつれ込めるなんて、早めに退散してよかったぜ、なんて男は思った。

 女の身体を貪ろうと息を荒げる男であるが、女は男の頬に手を添えると潤んだ瞳で甘い吐息を漏らし呟く


「ねぇ…身体が熱いの、すごく熱くて顔も火照ってきちゃった…」


 その言葉に男は興奮し、女の首筋に唇を当てると舌を出しそのまま下に這わせる

 鎖骨を舐め乳房に顔を埋める、女は熱い吐息を漏らしながら言う


「あぁん…ダメ…火照ってるのはこっち、ねえ顔を見ながら…して」


 そう言いながら男の手を秘部へと誘う、そして自分の顔を見ながら愛撫してくれと言うのだが、男は一瞬わけがわからず呆けたような顔をすると悲鳴をあげた。


「う、うわあああああああああああっ!!!」


 見つめた女の顔は見るも無残な状態、ドロドロに溶けたゼリーの様に流れ崩れ落ちて行く皮膚と肉、ボタボタと剥がれ落ちて行く顔面を前にせり出しながら女は声をあげる


「ぁぁぁぁぁあああああ、あづいのぉぉぉぉ、この顔じゃダメなのぉぉぉぉぉおお、ちょーだぁぁぃぃぃ、あなたのかおをぉぉぉ、ちょぅぅぅうううだぁぁぁあああああいっ」


 男は恐怖のあまり声も出せずにその場で硬直し失禁する、女は肩を掴むとドロドロの顔を男の顔へと押し当てて行くのだがその瞬間男は悲鳴をあげた。


「ぎゃあああああああああっ!!熱いっ!!熱いっ!!痛いっ!!!やめっ…もごぼごごぐぅぅぅ…」


 ドロドロに溶けた女の顔に男の顔がめり込むと男はじたばたと暴れるのだが、すぐに手足がだらんと垂れ下がり、しばらくするとビクンビクンと痙攣しやがて動かなくなる、それを確認すると女は男の身体を前に押して顔を引き抜いた。

 顔面が焼け爛れて原型を留めない男の死体を前に女は…いや、男は不満げな顔をする



「あぁぁぁ、この顔もダメだぁ、しっくりこねぇぇぇ」



            *


 バタバタと捜査員が出入りする部屋の中で、源治は顔のなくなった被害者の遺体を見ながら眉を顰めた。


「まいったなぁ、シリアルキラーの可能性もでてきちまったってぇわけかい」


 シリアルキラーとは要するに殺人鬼の事である、それはただ殺すことを目的に連続殺人を犯す者、強盗殺人や強姦殺人と呼ばれるものは殺人の前につく犯罪を目的に行われ、その過程で人を殺めてしまったと言えるであろうが、それらとは一線を画す犯罪者であるとも言えるだろう

 先の事件と死体の特徴が酷似している、同じ所轄内で短期間の内に見つかった死体でこれだけ類似点が多いと、これは他殺、それも同一犯による犯行と考えて捜査をするのも選択肢の一つとなった。


「それにしても…お楽しみの最中だったのかねぇ、天国から地獄たぁこのことだなぁ」


 そんなことを独り言ちていると部屋に入ってきた若い刑事が源治に言う


「ゲンさん、防犯カメラの映像見れるみたいなんで事務所まで来れますか?」

「わかったぁ、すぐ行くよ」


 そう言うと源治は横たわる男の遺体を見つめて思う


 服はどこにいったんだぁ?



 数人の刑事達と一緒に防犯カメラの映像を見るのだが、皆一様に怪訝顔をする

 映像ではこの部屋の客は男女で入って来たのだが、出て行ったのは男一人であるのだ

 これでは辻褄が合わない、出て行ったのは男であるのに部屋に残っていた死体も男なのだ、それでは女はどこに消えてしまったのだ?まさかあの部屋にある遺体の被害者がこの映像に映っている女だと言うのか?

 もちろんそれもありえなくはない、ニューハーフ、あるいは男色趣味の者同士が入店を拒否されないためのカモフラージュをしていた可能性も考えられる

 しかしそれにしても、あの部屋にあった死体の男がここに映っている女だとは到底思えなかった。

 源治は顎に手を当て、「う~ん」と悩むと隣に居た若い刑事に言う


「おぉい、この男の身元をすぐに洗ってくれ、それから女の方、1か月内に出ている捜索願の中に特徴の似た者がいないか調べてくれねえか?」

「捜索願ですか?とても失踪中の人間の行動とは思えないんですけど」

「いいからやれよぉ、俺はまたジドリにでるからよ」


 そう言うと煙草を咥えて火を点けようとするのだが店長に怒られる


「刑事さん、うちは禁煙なんで」


 外に出ると源治は苛立ちながら愚痴った。


「ラブホテルが禁煙だとぉ?気取りやがってぇ」


 二人の人間を殺した犯人が今ものうのうと街を闊歩し、何食わぬ顔で次の犠牲者を探しているのではと考えるだけで許せなかった。


「ぜってぇに、アゲてやるからな…」


 源治は蒸し暑い夏の夜空を見上げながら呟いた。

 今夜は熱帯夜になるだろう・・・


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