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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第2話 もう一度おばちゃんって言ってみろ次は殺すからな

前回までのあらすじ


「人斬り外道 不和十郎太(ふわじゅうろうた)」は謎の男の依頼で派手に人身売買を行っている犯罪者の暗殺を行っていた。

不和は外道の二つ名の通り、まるで楽しむかのように人を斬りそして罪のない人買いの被害者までをも口封じの為に殺すような男であった。

そして東京港湾内で見つかった顔を焼かれた死体、他殺或いは自殺、事故、それを調べるべく現場に現れたベテラン刑事「三嶋源治(みしまげんじ)」は、そこで謎の僧侶と出会う

源治は顔のない異様な死体を前にこの事件が普通の事件ではないと予感するのであった・・・


 一方その頃、姫宮神社では珍しい来客に東條唱と水谷がそれを出迎えているところであった。


「いやぁ、わざわざお出迎えすみません大巫女様、朱音おばちゃん」


 ぼさぼさの頭をボリボリと掻きながら無精髭を生やした30半ばの僧侶がにこにこしながら言うのだが、唱と水谷は冷たい目でその僧侶を見ると言い放つ


「大巫女様、このこ汚い生臭坊主とお知り合いで?」

「いいえ朱音、こんな乞食のような恰好をした者と知り合いだなんて、姫宮の品位が下がります。とっとと追い出しなさい」


 またまたご冗談を、なんて言いながら手の平をヒラヒラさせる僧侶であったが、水谷はサイレンサーの付いたハンドガンを手にすると躊躇なく引き鉄を引く


「俺ですよ俺えええええええっ!!佐ノ介(さのすけ)ですよおおおおおおおっ!!!」

「黙れっ!そんな汚い佐ノ介など知らんっ!!さてはきさま、佐ノ介を憑り殺しその姿に化けている妖怪であるなっ!!」

「んなわけねえだろぉぉぉおおおっ!!」


 逃げ惑い自分の名を言う僧侶であるが水谷は聞く耳を持たない様子、たぶん最初におばちゃんと言われたことを根に持っているのだろう、目がマジだった。

 「とまあ冗談はこれくらいにして」、と唱が言うので水谷はハンドガンをしまうのだが、「チっ、殺りそこねたか…」と物凄く不満そうな顔をしていた。


 マジで殺す気だったのかな?


「それにしても神社の敷地内で拳銃をぶっ放すなよっ!警察に通報するぞっ!!」

「いいからとっとと入れ馬鹿者、おまえのようなぼろ雑巾が人目に付く方が問題だ」


 言いながら佐ノ介の耳を引っ張り中へと引きずり込む水谷、こんな酷い出迎えは初めてだと佐ノ介は涙を流しながら引きずられていくのであった。


 建物の中に入ると奥の間へと連れて行かれる前に洗面所に放り込まれた、白様が来る前にその無精髭だけでもなんとかしてこいとサバイバルナイフを渡される、せめて剃刀をくださいよ…と思うのだがそんな不平不満を言おうもんなら刀で斬りつけられかねないので仕方なくそれで髭を剃る


「あ痛てっ…」


 ちきしょう…血がでたじゃないか


 なんとか髭を剃り顔と頭も洗面台で洗ってさっぱり、とまではいかないが先程よりは幾分かマシになったのでようやく奥の間に行くのを許された。


「それにしても臭いなおまえ」

「しょうがないだろ朱音おばちゃん、和歌山からここまで碌に宿にも止まらないで来たんだからなっ!」

「もう一度おばちゃんって言ってみろ次は殺すからな、それにしてもおまえは馬鹿だな、とうとう新幹線の乗り方すらわからなくなったのか?」

「ころ…んなわけねーだろ、ある奴の足取りを追ってきたんだよぉ」

「ある奴?」


 口を尖らせながら言う佐ノ介

 その言葉に水谷は怪訝顔をするのだが、それは白様が来てから話すと言うので二人奥の間で白を待つ

 しばらくすると奥から色鮮やかな浴衣を着た白がやってきた。

 白地に青いアサガオの柄が綺麗に染め上げられており、帯は濃い藍色、今さっき合わせていたのだろうか?くるくると回りながらご機嫌な様子で現れたのだが、佐ノ介を見るとあからさまに不快な表情をして言う


「うわっ…なんじゃそのズタボロの汚い野良犬は?朱音、また捨て犬を拾ってきたのか?おまえは子供の頃からちっとも変わらんな」

「ちっげーよっ!どう見ても人間だろうがっ!佐ノ介だよっ!さ・の・す・けっ!!」


 もういい加減このやり取りも疲れたと、佐ノ介は辟易としてしまう

 白はそんな佐ノ介を見て悪びれもせずに笑いながら言った。


「ああなんじゃ佐ノ介か、なんじゃ?遂に浮浪者にまで身を落としたのか?」

「違いますよ、ああもうっ、いい加減このやり取りやめましょうよぉ」

「悪かった悪かった。して、どうしたのじゃ?おまえがこっちまでやってくるなんて珍しいではないか」


 げんなりしていた佐ノ介であったが白に聞かれると神妙な面持ちとなり、前に出ると手を突き頭を下げる


「申し訳ございません白様、不肖佐ノ介の不手際により、京都にて外道を取り逃がしこの地に入ることを許してしまいました。」


 その言葉に唱と水谷はゴクリと喉を鳴らす。

 二人は冷や汗を流し恐る恐る白の方を見るのだが、その瞬間冷や汗は滝のように変わる

 白はわなわなと震え怒りの表情を見せると、手にしていた鉄扇を振り上げて佐ノ介に向かって投げつけた。

 間一髪それを躱す佐ノ介であったが、自分のいた場所、畳に突き刺さる鉄扇を見て青褪める


 避けなかったら死んでたな…


「このうつけがああああああっ!あんな不浄のモノがこの土地に入ってきたじゃとっ!?きさまっ!一体なにをしていたのじゃたわけええっ!!」

「すいませえええん、なんとかしようと思ったんですけど、けもの道に入られたんで足取りがなかなか掴めなかったんですよぉぉぉっ!!」


 白がなぜここまで怒るのか、外道と言う存在を知っている物であれば誰でもそう反応せざるを得ない


 外道とは元々は仏教用語である、簡単に言うと一派の教えを外れた者のことをそう呼んだのだが、転じて人の道を外れた者、人の世の道徳から逸脱した者達、つまりは卑劣な悪党達のこともそう呼べるであろう

 その外道が京都からこの東京にやってきたと言うのであるが、この外道、白達は特定の人物を指して言っている


 記録に残っているだけでも戦国よりも前の時代から、人斬りとして恐れられた悪辣非道な男

 人を斬り刻みその肉を喰らう、特に女子供の肉を好んで喰ったと言う

 戦国の時代には合戦場に度々姿を現し敵味方関係なく人を斬って行くので、外道が現れると戦にならぬと、一時的に休戦になる為重宝された時期もあったのだが、徳川幕府の時代となり太平の世ともなるとそれは辻斬りへと姿を変える

 外道が出たと噂が立てばたちまち江戸の民は外出を控え、夜ともなると戸に釘を打ち付けて晩を明かすこともあった。

 幕末になり維新戦争の頃には様々な戦場でその姿が目撃される、鳥羽伏見から始まり戊辰戦争などの凄惨なる戦場を駆け抜け、時には幕府側として、時には維新志士側として現れた、戦前に於いて最悪の人斬りであった。

 尤もこの外道の名はその余りの異質さ故に記録には残されておらず、岡田以蔵をはじめとする幕末四大人斬りと呼ばれる者達が後世に語り継がれている

 その後、日清戦争を皮切りに日本帝国軍が大陸へと進出していくとパッタリと消息を絶つのだが、日本帝国軍の敗戦による終戦を迎えると怪談話として各地で語られる様になった。


 月の晩に夜道を歩くと雲で明かりが消えた時、闇夜に紛れてはぐれ外道が現れる、人斬り外道に斬られるぞ


 そんな謳い文句で昭和の子供たちを怖がらせたのであったが…



「あんな汚らわしいものがこの土地に入り込むなど絶対に許さん・・・今もあの血生臭い腐った瘴気を撒き散らしながら、堂々とこの地を闊歩しておると思うと腸が煮えくり返る思いじゃっ!!わしが出ていって亡き者にしてやるわぁああああああっ!!」


 怒り心頭、これまでに見たこともないほどに激昂し、自分が始末すると出て行こうとする白であるが、唱が慌ててそれを止める


「お、おやめください白様、白様をその様な穢れとあいまみえさせることなど、そんなことがあってはなりません、どうかここは」

「知るかあっ!その為に佐ノ介の様な坊主どもがおるのに、ちっとも役に立たんではないかっ!」


 言われて佐ノ介は罰の悪い顔をする、現代に於いても外道が現れたとなれば神社や仏閣から専門の僧兵を派遣して事に当たるのだが、討伐に出るたびに多くの死傷者が出る為に、今では基本的に街そのものが結界として作用している京都内に閉じ込めることになっている

 しかし今回どういうわけか、結界の隙間を上手く抜け出してけもの道に入り消息を絶ってしまったのだ


「あのぉ、白様…」

「なんじゃっ!」

「とりあえず外道はなんとかしますんで、飯食わせてくれません?もう、三日も水以外なにも口にしていないんですよぉ」


 白は足元にあった座布団を掴むと佐ノ介に飛び掛かり口にそれをねじ込んで言った。


「そんなに腹が減っているのならこれでも食っておれえええええっ!!!」

「ひょっ!!ひっ、ひぬううううううううっ!!(ちょっ!!し、死ぬううううううううっ!!)」


 一頻り騒いだ後、なんとか白を落ち着かせると話を戻す。


「とにかくじゃ、一刻も早くなんとかせい、それと、このことは絶対に弥命には言うなよ」

「ああ弥命ちゃん、元気にしてます?久しぶりに顔みたいなぁ、さぞかし美人になって」

「言・う・な・よっ!!」


 念を押されて頷く佐ノ介、それに唱と水谷であったが、水谷が白に質問する


「なぜ姫様にはこのことを伏せておくのですか?」

「あやつに言ったらまた首を突っ込もうとするであろう」


 あー、まあ確かに


「それだけは絶対にあってはならん、もしも神器と外道が斬り交わすことになんてなろうものならっ!わしはっ!わしはっ!!きぃぃぃいいいいいいいいっ!!」


 涙目になり黙り込んでしまう白、神器とは姫巫女の魂である、その魂が外道のような穢れと斬り結ぶことなど我慢ならないのであろう

 唱がそれを宥めながらとりあえずこの場はお開きになるのであるが、去り際に白が佐ノ介に再度念を押す。


「よいか佐ノ介っ!まずは一両日中に奴の居場所を突き止めろっ!!そして三日以内に必ず殺せっ!!よいなっ!!!」

「ええええ、ちょっとは休ませてくださいよぉぉぉ」

「よいなあああっ!!!」


 白の迫力に押され、渋々承諾する佐ノ介であった。


 水谷と二人奥の間に残されたのだが、とりあえずは腹ごしらえだっ!腹が減っては戦が出来ぬって言うし


「よしっ!朱音おばちゃんっ!まずは飯っ!!」


 あっ…


「…まずは死ぬか、おまえ」


 佐ノ介の悲鳴が境内に木霊するのであった。


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