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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第1話 そんなに女子と海に行きたいなら自分で誘えばいいだろう?

 第四章 道に外れし世迷人


 その日は朝早くから騒がしかった。

 東京湾港に位置するとある倉庫街の一角、港湾警備会社の社員二人が早朝のパトロールの時に、港に浮かぶ死体を発見してから2時間が経過していた。

 ざわざわと騒ぎたてるマスコミを掻き分けてやってきたのは、捜査一筋25年ベテラン刑事の三嶋源治(みしまげんじ)、「強行犯係」所謂、殺人や強盗誘拐などの凶悪犯罪を担当する刑事(デカ)


「それにしても今日は朝からあっちぃなぁ、こんな日に殺人(コロシ)なんてのは勘弁してくれよぉ」


 言いながら咥えていた煙草に火を点けようとするのだが、近くにいた鑑識の眼鏡のぼうずに叱られる


「ダメですよゲンさんっ!現場(ゲンジョウ)では禁煙だっていつも言ってるでしょう!ここで採取された物は科捜研にも回されるんですから、科学捜査はデリケートなんですから気を付けてくださいよぉ」


 すまないすまない、と頭を掻きながら咥えていた煙草を箱に戻す。

 事件(ヤマ)に科学捜査なんてもんが入り込んでから犯罪検挙率は飛躍的に向上したとはいえ、やはり昔気質(かたぎ)のデカにとってはなんとなく受け入れがたいものもある

 別に毛嫌いしているわけではないが、捜査の基本は足、現場百回、シキカン、ジドリと呼ばれる聞き込みに次ぐ聞き込み、それをなくして犯人(ホシ)をアゲることなんかできやしないというのが源治のポリシーでもあった。


「ホトケさんは?」

「あっちのブルーシートの裏にいますよ」


 「あんがとさん」と手を上げながら言われた場所へと向かう、ブルーシートに囲まれた場所へと入って行くと顏馴染みのデカ達に迎えられた。

 源治は挨拶もそこそこに被害者の元へ行くと手を合わせるのだが、そこで妙な男が目の前にいることに気が付く

 それは僧侶であるのだが、ぼさぼさの頭に無精髭、お世辞にも綺麗な身形とは言えない風体であるが、袈裟を纏い合わせた手には数珠を持ち短いお経を終えると源治の方を見て軽く会釈した。


「おぉ…お疲れさん、もう坊さんを呼んだのか?まだ検視にも回っていないのに気の早いこったね」

「いやねゲンさん、俺らが来た時にはもうこのお坊さんは居てさ、出て行ってもらおうと思ったんだけど…例のアレ…マル特だよ」


 付き合いの長いベテラン刑事の一人が源治に言う


 マル特


 勘の良い読者様ならお気付きだろう、これはつまりベテラン刑事等の間で使われている隠語、“神社 ”関連の超法規的捜査の一つと言う意味である


 そんな輩が出張ってきていると言うことはこれは普通の事件ではないのか、源治は眉を顰めて不満そうな声で言う


「なんだよ、単なるヤマじゃねえってのかい?」


 その疑問に答えたのは僧侶であった。


「いやいや、たまたま別件で東京に来ていたのですがちょっと早とちりでした。これは単なる殺人事件ですよ、我々が首を突っ込むようなものじゃなかったです。捜査のお邪魔をしてしまい失礼しました。」

「まだコロシって決まったわけじゃねえだろぉ?」

「そうでした」


 そう言うと僧侶は深々と頭を下げてその場を後にする

 その後ろ姿を見送って源治は被害者に目を落とすと口を歪めて言った。


「単なるねぇ…」


 被害者の女?服装から察するに女の顔はまるで強酸でも浴びせかけたように焼け爛れているのだが、それはなんとも形容し難い、焼けているとはいえその顔はまるで眼も鼻も口もないような…それは喩えるならのっぺらぼう、子供じみていると思うかもしれないがそんな妖怪の名前が頭に浮かんだ



 その時の源治はまだ知らなかった。


 この事件がこの後この街で起こる惨劇の始まりであることを、そしてそれは健登や弥命達をも巻き込む恐ろしい事件の幕開けであることを…






 『申し訳ございませんでしたっ!!』


 公園の噴水前で一列に並び声を揃えて頭を下げる男達、その前で健登は呆れた顔をしながら言う


「おまえら、恥もへったくれもないのな…」


 健登のその言葉に頭を下げていた坂は顔を上げると握り拳を作り涙を流しながら叫ぶ


「恥だと?……そんなもんとうに捨て去ったわぁあああああああ!!夏休みなんだぜ?妖精たちが夏を刺激する生脚魅惑のマーメイドな夏なんだぜっ!?頼むよぉぉぉ、守羽えええ、無視したことはこの通り謝るからぁぁぁ、おまえの力でなんとか、なんとか守羽ガールズ達と一緒に皆で海に行こうよぉぉぉおお」


 そう言うことかと健登はゲンナリする

 女子とイチャイチャしやがってとか言って人のことを無視しておきながら、その女の子達と一緒に海に行きたいから健登にそれを企画しやがれと言って来ているのだ

 だいたい守羽ガールズってなんだ?そんなのいねえよ


「そんなに女子と海に行きたいなら自分で誘えばいいだろう?」

「はぁ?自分で誘えだぁ?」


 坂は耳に手を当てながら、なに言ってんですかぁ?と人を馬鹿にしたような態度で言う

 マジでムカつくツラしてやがんなこいつ、一発ぶん殴ってやろうか?


「俺らはお前みたいなスケコマシじゃあねえんだよぉぉおっ!いいか?女子と話をすることはおろか、日直の日に放課後二人きりになるだけで、緊張で手が震えて居た堪れない気持ちになり、その場から逃げ出す童貞丸出しの俺らがそんな大それたことできるわけないだろがあああああっ!!」


 やめてえええええええ!ここ公園だから!そんな恥ずかしいことをこんな所で大声で叫ばないでえええええええ!!


 頼むよぉ、頼むよぉと健登に縋り付いてくる五人の男達

 健登はなんだか納得がいかなかったが、この状況が物凄く鬱陶しいので渋々承諾する


「わかった、わかったから離れろっ!暑苦しいんだよっ!!」


 そう言うと皆パッと離れ万歳三唱


 やったあ!やったあ!姫宮さんの水着姿が見られる、いや、葭埜さんの美しいボディラインがっ!いやいや芽堂さんの水着姿なんてマニアックだよねきっと、やっぱりブロンド美女のクローディアでしょっ!!ばんざーいばんざーい


 なんて騒いでいるもんだからもう付き合いきれないと、健登はその場を後にするのであったが、後ろから坂達が叫ぶ


「あっ!守羽てめえっ!約束だからなっ!!破ったら許さねえからなこの野郎っ!!」

「うるせえ馬鹿野郎っ!!それが人にものを頼む態度かクズどもがああああああ!!」



 悪態を吐き合いながら解散する馬鹿共であった。


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