第37話 エピローグ ワタシはこの旭ヶ丘学園高校が、旭ヶ丘学園高校の2年A組のみんなが大好きですっ!!
七月の三週目、学期末テストも終わりいよいよ夏休み、学生達にとっては一か月ちょっとの期間自由を謳歌できる一年の内で一番濃い、そして熱い時間を送れる期間だ
日々の学校生活、勉強から解放され、遊ぶも良し部活動に励むも良し、受験勉強に備えるのも、はたまた甘酸っぱい恋に落ちるのも自由
そうっ!なにもかも自由っ!!そんなドキドキワクワクが待っているなんとも羨ましい黄金期間であるのだっ!
そんな夏休みを目前に控え、ここ旭ヶ丘学園高校2年A組の生徒達も皆浮き足立ち、それはもう落ち着きのない様子であった。
終業式を終え教室に戻ってくると先生が教室に来るまでの間、生徒達は各々自由な行動を取り始める、仲の良い友達同士でお喋りをする者達が大半なのだが、ザワザワザワザワと喧しいことこの上ない
そんな中ご多分に漏れず騒いでいるのは悠紗、教室に戻ってくるなり健登に話かけてきた。
「健登っ!夏休みとはなんなのだっ!!なぜだかわからんが、こう・・・なんと言うか・・・浮き浮きがとまらんなっ!!」
それはもうテンションMAXの悠紗が、健登の背中に飛びつきぶら下がりながら大声で言う
「おうよ悠紗っ!夏休みってのはな、誰もをそういう幸せな気分にさせる、学生にとっては黄金時代っ!!最高の瞬間を楽しむ為のパラダイス期間なんだよっ!!」
「なんとっ!?よくわからんがおまえも楽しそうだなっ!!」
なんとか試験の赤点を回避し追試を免れた(と言っても全部スレスレである)健登もここぞとばかりにテンションあがりまくり、いつにも増して子供みたいにはしゃぎまくり悠紗と一緒に喧しいので、隣の席の田中さんは机に肘を突き手に顎を乗せながら「チっ」と舌打ちするのであった。
すると健登は神妙な面持ちになり低い声で悠紗に告げる
「しかしな悠紗、こっから重要な話だからよく聞けよ・・・」
「う、うむ・・・なんだ?どうした?」
急に真面目な顔をして健登が話し始めるので「ゴクリ・・・」と固唾を飲む悠紗
緊張した空気を醸し出し健登はゆっくりと語りだした。
「夏休みってのは・・・気が付くとあっと言う間に終わっちまう、まるで時間がすっ飛ばされたんじゃねえかって錯覚するほどに短い時間しかないんだ」
「な、なんだと?一か月以上もあるのだぞ?どういうことだ?」
「それだっ!その慢心が命取りになるぞっ!!」
突然大声を上げ悠紗を指差しながら熱弁し出す健登
「まだ一か月以上もあると余裕をかまし、毎日夜更かしをしては昼過ぎに起きてダラダラダラダラ時間を浪費していると、いつのまにか八月も半ば、気が付けばお盆も終わり甲子園も終わっているんだ、夏の思い出と言えば大半がタモリとサイコロと午後ローの思い出と、八月の最後に行った祭りの適当な思いでだけで終わっちまう奴がほとんどっ!!特におまえのような引き篭もり経験者はその悪循環に陥り易いっ!!」
健登の力説に狼狽える悠紗、夏休みとはそんなに難しいものであるのかと驚愕する
「ど、どうすればいいのだ?わ、妾は好きなだけ艦これができると思っていたのだがそれではまずいのか?」
「あーそれダメー、芽堂さん完全にアウトー、計画性もなく好きなだけあれができるーとか思ってるのが一番アウトー」
悠紗は涙目になり頭を抱える、明日から毎日がエブリデイの楽しい日々を送れると思っていたのに、健登にいきなりダメだしをされてしまった。
「た・・健登先生ぇぇぇ、教えておくれ、妾に夏休みの正しい送り方を教えておくれぇぇええ、なにぶん妾は夏休み初心者なのだ、どうやったら無事夏休みを満喫できるのか妾にその極意を教えておくれえええ」
そんな会話をしていると横から割って入ってきたのは芳乃であった。
「アホなこと話してんじゃないわよ、普通に規則正しい生活を送ればいいのよ普通に」
その普通が難しい、というか普通じゃいられなくなるから、夏休みってのは大変なんじゃないか
「ふんっ芳乃、おまえはそうやっていつも自分はなんでも上手くできると余裕ぶっておるが、完璧な夏休みの攻略法を知っておるのか?」
「なにが攻略法よ、ちゃんと毎日朝起きて夜10時過ぎくらいにはお布団に入りなさい、あんたは絶対に明け方までゲームをして夜型になるだろうから、なんだったら毎日わたしにこれから寝るってメールしなさい」
「まーたそういう妾を子供扱いしおって!」
まあはっきり言って子供なんだけどね、一番年上の癖に一番子供なのはなぜなのか、あんまり歳を取りすぎると幼児退行するってのは本当なんだろうな・・・そんなことを思いながらも、まあしょうがないと芳乃は呆れ顔をしながらも悠紗に言う
「まあそれでも折角の夏休みだしね、手伝ってあげるからちゃっちゃと宿題も終わらせてしまって、あんたの為に色々考えてあるからいっぱい遊びましょう」
「宿題ならもう終わっておるぞ?」
「え?」
まだ夏休みも始まっていないのに宿題はすでに終わっていると言う悠紗、そんな馬鹿なと思いながらも試しに英語の宿題範囲を見せてもらうと
「う、嘘・・・ま・・・まじで終わってやがる、あんたどうしたの一体?いつも宿題なんてやってこないのに」
めずらしいと言うか、絶対にあり得ないと思っていたことが目の前で起きているので芳乃は愕然としてしまった。
そんな芳乃を見て悠紗は得意げな顔をすると楽しそうに言う
「ふふふ、こんな面倒臭いもんとっとと片付けておくに限るであろう、妾は後々嫌なことに追われるくらいなら先に片付けておくタイプだからな」
こいつ・・・プロだわ!初心者どころか夏休みのプロっ!!
夏休みを全力で満喫する為ならば、普段は嫌いなことであってもそれに耐える忍耐強さを発揮する、これは中々素人にはできないことである
悠紗は夏休み初心者でありながら持ち前の戦闘センスによって、一番厄介な宿題と言う難敵を既に撃破していたのであった。
それを見ていた健登が不敵な笑みを浮かべながら言う
「おまえもか悠紗・・・・実は俺もすでに宿題はほとんど片付けてあるっ!!夏休みの為ならばこれくらいの苦痛安いものっ!!」
「さすが妾の旦那様であるなっ!!」
「「はっはっはー」」
二人で勝ち誇ったように笑い声を上げているのだが、なんだか納得のいかない芳乃であった。
なんなんだよこいつら、普段からそれくらい真面目に勉強しろっての
まったくもってぐうの音も出ないほどの正論である
そこへクラス委員の仕事で職員室にプリントを取りに行っていた弥命が戻ってきた。
プリントを教壇の上に置くと三人の元へとやってきて尋ねる
「なにを楽しそうに話していたのですか?」
「ああ姫宮、夏休みの計画をさ、無駄な時間を過ごさない為にはどうしたらいいかってのを、夏休み初心者の悠紗に教えてたんだよ」
健登がそう返事をすると「なんだそういうことでしたか」と弥命はニコニコしながら自分の席に行き、鞄の中からなにかノートの様なものを取り出して悠紗に渡す。
「そうだろうと思って悠紗ちゃんにはこれを作ってきました。」
「なんだこれは?」
そう言って手渡された物の表紙には、「なつやすみのとも」と、毛筆でそれはもう達筆な字で書かれた冊子であった。
「それの内容をじっくり読んで完璧に覚えてくださいね、そうすればとても有意義な夏休みを過ごせますよ」
ニコニコと嬉しそうな顔で言う弥命、悠紗の為に自分で作ってきたのだろう、なんと言うか結構こういう変なことが好きだよねこの娘
それでもなんだか悠紗はとても嬉しそうに弥命お手製の「なつやすみのとも」のページを捲り、ふむふむなるほどと熱心に読み込むのであった。
そうこうしていると教室の前のドアが開き担任の泉宮寺麻衣が入って来た。
生徒たちは皆大慌てで自分の席に戻り着席するのだが、「ざわ・・・」そんな雰囲気がクラス中からでた瞬間、麻衣が黒板を手の平で「バンっ!!」と叩き牽制する
生徒達は皆呆気にとられ声も出ない様子なのだが、また喧噪の波が戻ろうとする前に麻衣が大声を上げた。
「わかっているっ!いいから騒ぐなよお前らっ!!私だって色々ともうわけがわからんがそういうことなのだっ!!だから絶対に騒ぐなよっ!!!」
そう言う麻衣の困惑しきった表情を見てクラスの皆全員が、この人がこんなに動揺するくらいだからよっぽどびっくりしたのだろうと思った。
そして皆が同じくらいにびっくりし、ソワソワと落ち着きのない様子で麻衣の後ろからついてきた生徒を見つめている
「はぁぁぁぁぁぁ、もういいや、とりあえずもう最初から全部やれ・・・はいっ!自己紹介っ!!」
麻衣がそう言うとその生徒は、手を後ろに組み足を肩幅程に開いて胸を反らせると、通る声でハキハキと自己紹介を始めた。
「ワタシはドイツから来ました、クローディア・アンネマリー・ディートリッヒです。ワタシはこの旭ヶ丘学園高校が、旭ヶ丘学園高校の2年A組のみんなが大好きですっ!!ただいまみんなっ!ただいまEin lieber Freund」
その瞬間クラスの皆が一斉に立ち上がり声を合わせて言う
『おかえりっ!クローディアーーーーーっ!!』
明日から楽しい夏休みが始まる
クローディアにはこれからまだまだ沢山の時間があるのだ
時間は有限であると言う人がいるがそんなことはない、人生と言う長い道のりの中では無限とも思える時間があり、その中で人は様々な経験をし、様々な思い出を作り、そして成長していくのだ
その時間の中には無限の可能性が秘められているのだから
クローディアの笑顔はきっと、その可能性の中の一つに違いないのだから
神器の巫女 第三章 闇の黒狼と頑こ姫
完




