第36話 Meine geliebte Person Danke schön
手の中にグングニールが戻ると、膝を突き歓喜の声を上げるクローディア
「やったぞっ!みんな、遂にやったぞっ!!仇は取ったぞ・・・みんな・・・」
震えるその背中にそっと手を当ててやり微笑む健登、そして悠紗は地上に降り立つと二人の元に駆け寄って言った。
「よくやったクローディア、よくやったぞ二人ともっ!まったく大したものだ」
「そんな、ありがとうユウサ、あなたのおかげで勝つことができた、本当にありがとう」
色々なことがあった、悠紗には感謝してもしきれないとクローディアは頭を下げるのだが悠紗は呆れ顔で言う
「なにを言うのだクローディア、これは皆の勝利だ、おまえが居て妾が居て、弥命が健登が水谷が居て、そしておまえの仲間達が居て、皆が居たからこそ掴めた勝利だ」
「ユウサ・・・」
相変わらずおいしいところを持っていき、良いことを言う悠紗であった。
そんな悠紗に健登がもう呆れてしまうほどに感心しきった声で言う
「それにしても、よくあんなドンピシャなタイミングで間に合ったもんだな」
「うむ、メドゥシアナの奴がよくがんばってくれた。双子神達に酷い仕打ちを受けながらもなんとかこの”隠れ兜 ”をハーデウスから借り受けてきてくれたわ」
そう言いながら悠紗は手にした革の帽子のようなものを二人に見せる
これは過去にペルセウスがメドゥーサ退治の際にその身を隠す為に使用したものであるのだが、悠紗はそれを思い出しメドゥシアナにハーデウスから借りてくるように言ったのだ
今回悠紗が立てた作戦、それはなんとかしてフェンリルからレーヴァテインを奪い取ることであった。
いくら健登とクローディア、この二人が強力な神器を手にしているとは言えども相手も同じく神器を手にしている、ましてやその相手は魔獣であるのだ
やはり相手の戦力を削ぐより他に勝つ手立てはない、しかしながら真っ向から奪いに行ってもこちらも相当の痛手を負うことは必至、であれば隙を突いて相手に気づかれないように奪うしかないと考えたわけだ、そこで思い出したのが件の兜である
現在もハーデウスがそれを持っているかどうかの確証はなかったが、それに賭けてみるしかなかった。
まあそれは皆には黙っていたのだが、なんとかなったのだから結果オーライであろう
「本来であればこんな忌々しい道具は使いたくはなかったのだがな、おまえらの命には代えられまい」
そんな悠紗の頭を「エラいエラい」とガシガシ撫でてやる健登だが、もう少し優しく愛を籠めて撫でろと悠紗は怒るのであった。
それをクローディアは微笑みながら見ているのだが、突如この空間に地鳴りのような音が響き始める
それはこの闇を展開していたフェンリルが死んだことにより、空間が消え去ろうとしているのを拒否するかのような悲鳴のようにも思えた。
「おいおいっ!大丈夫なのかこれ?」
なにか地面から得体の知れないものが湧き上がってくるような不吉な音にも聞こえて、少し焦る健登であるが悠紗が呆れながら安心しろと言う
「なにをオタついているのだまったく、大丈夫だ、この闇はフェンリルが生み出した結界のようなもの、術者が居なくなり魔力供給が出来なくなった為に崩れ去ろうとしているだけだ」
そうは言われてもやっぱりこの轟音はちょっと怖いじゃんと思いながら空を見上げる、天に亀裂が入り一気に砕けると元の山野へと戻っていた。
戦いはようやく終わりを迎えた。
それでも沢山の犠牲を払った、多くの命が散っていった。
終わりよければ全て良しとはいかないけれど、それでもロンメルは言っていたのだ
友と一緒に笑っていて欲しいと
クローディアは振り返ると笑顔で言う
「ただいま」
弥命は涙を流しながら駆け寄るとクローディアに飛びつき、めいっぱい抱きしめるのであった。
おかえりクローディア、そして・・・おつかれさま
芳乃は玄関でつま先を何度も地面に打ち付けて苛々しながら待っていた。
どうしてあいつはいつもいつもこうして大事な用がある時は決まって寝坊をするのか、そんな芳乃のイラつく気配をリビングで察しながら、健登の母が「あれは絶対、将来尻に敷かれるわ」と言うと、湊真が「もうすでに敷かれてるよ」なんて二人してヒソヒソと話すのであった。
ようやく健登が階段から降りてくると芳乃は鬼の形相で怒鳴りつける
「はっやくしなさいよこの馬鹿っ!!国際線ってのは手続きに時間が掛かるから見送りは早く行かないとダメだって何度も言ったでしょうがっ!!」
「うぅっるせえなぁ、疲れてんだからしょうがねえだろ」
大きな欠伸をしてボリボリと頭を掻きながら降りてくる健登の姿を見て芳乃は仰天してしまう、寝癖で髪はボサボサ、シャツはボタンを掛け違えてずれているし、ヨレヨレのズボンに靴下も色違い・・・と言うか体中傷だらけで包帯ぐるぐる巻きのミイラである
嫌だ・・・こんな奴と一緒に電車に乗るのなんて恥ずかしすぎて死んでしまう
芳乃は靴を脱ぎ捨てて家に上がると健登の首根っこを掴み、洗面所に引き摺って行って洗面台に水を張るとそこに健登の頭を突っ込むのであった。
なんとかギリギリ間に合う電車に駆け込み席に座る二人、ぜえぜえと息をしながら健登が文句を言う
「はあっはあっ、おまえっ、俺は怪我人なんだぞ、全身をなます切りにされて大火傷を負ってんのに、こんな全力疾走させやがって」
「あんたがいつまでも起きないのが悪いんでしょうがっ!ほんとに・・・なんで・・・なんでそんな危ないことばっかするのよ・・・」
怒りながら泣きそうになる芳乃を見て、健登は気まずくなる
「クローディアも弥命も悠紗も・・・あんたもっ!なんでそんな大変なことがあったのに黙ってたのよっ!ばかあっ!!うぅぅ・・・」
「わあかった、わかったから泣くなよっ!大声出すなよ、なっ!?」
なんだか自分が泣かせているみたいになり、車内に居るほかの乗客達の視線が酷く痛い健登であった。
昨夜はあのあと神社で治療を受けると、余程疲れたのであろうそのまま全員気を失う様に眠ってしまった。
明け方近くに目覚めるとクローディアは、帰国の準備をしなくてはならないので一度マンションに戻ると言いだした
こんな状態で無理して帰国する必要はないのではないかと引き止めたのだが、一応留学生と言う名目で入国しているので、出国手続きをしないと実際には存在しないクローディアと言う学生を探してエライことになってしまうと言うので仕方なく送り出す。
それにしてもなんかこうもっと潜水艦とかなんかそう言うので来て、ばれない様に上陸したりしてんのかと思ったけど、意外と普通に入国してたのねこいつら
昨日あれだけの死闘を繰り広げたのに、このあと数時間後に12時間以上ものフライトをしようと言うのだから本当に頑丈なんだなって思ってしまうのであった。
ちなみにツェツィーリアは危険な状態から山も越え容体も安定してきたので命の心配はないと言う、当然帰国などはできないのでここ姫宮神社でしばらくは面倒を見ることになった。
そんでもって健登はと言うと、クローディアと一緒に神社を後にして早朝に家に戻るのだが、家の前まで紅葉に車で送ってもらうと芳乃の待ち伏せに合う
またボロボロの血塗れぐるぐるの包帯巻きになって帰ってきた健登の姿を見て卒倒しそうになる芳乃
昨夜、今日は帰れないという旨のメールがなぜだか芳乃の元にいっていたらしく、健登の両親や自分の両親にまでも嘘をついてなんとかごまかしていたのだとエライ剣幕で怒られ、事情を説明しろと迫られたのだ
健登が一通り簡単に説明すると芳乃は青褪め、自分の知らない所でそんな危険なことを皆でしていたのかと絶句してしまった。
とにかく健登はまだ寝たりないから続きはまた後で話すと言うので仕方なく、クローディアの帰国便は夕方だから絶対に寝坊しないようにと釘を刺して家の中へと戻った。
そして今に至るのである
電車が羽田空港国際線ターミナルに着くと再び走る健登と芳乃、搭乗手続きの場所はどこだ?もうすぐ入場時間になってしまう、空港なんてそう何度も来たことないのでよくわからない、電車内で弥命から受け取っていたメールでなんとか皆がクローディアを見送る場所を探す。
すると遠くで手を振る人の姿が見える、弥命だ、クラスの皆も早く早くと手を振り二人を呼ぶ、なんとか間に合った。
二人に気が付くとクローディアは大きな声で叫ぶ
「ヨシノっ!ありがとう、さようならは言わないわっ!また必ず会いに来るからっ!絶対に絶対に会いに来るからあっ!!」
「うんっ!待ってるわクローディアっ!夏休みになったら遊びに行くわ、絶対に行くからっ!!またねっ!クローディアっ!!」
走りながら大声で叫ぶ芳乃の言葉を聞いて微笑む、そして健登の方を見つめると目を細めて言った。
「タケト・・・Meine geliebte Person Danke schön」
「クロオオオディアアアアアっ!まったなああああああっ!!!」
健登は拳を突き上げるとその顔には満面の笑顔で、真っ白な歯を剥き出しにして笑った。
搭乗ゲートを進み飛行機に乗るとここから約14時間のフライトだ
昨日の今日なのでクローディアは、流石に堪えるな・・・なんて思いながら離陸したらとりあえず睡眠を取って体力の回復に努めようと考える
しかし自分の席の隣に既に着席している男性・・・酒臭い、離陸前だと言うのにもうアルコールをとっている、しかもリクライニングを全開に下げ足を組み新聞紙を顔の上に広げてガーガーと鼾をかいている
クローディアは大きく溜息を吐き、自分の席に座るとその男に向けて言い放った。
「機内でみっともない真似はやめろ、他の乗客の迷惑だぞ・・・ルーデルっ!」
男はそう言われるとピタっと鼾を止めて新聞紙を取りつまらなそうな声で言う
「なんだよクラウ、気づいてたのかよ?」
「あたりまえだ、きさま程の品のない人間はそうそういないからな嫌でもわかる、大体エインヘリャルの中におまえらの姿はなかったのだ、生きているかサボっているかのどちらかしかないだろう」
そっぽを向きながら冷たく言い放つクローディア
ルーデルはやれやれと言った表情を見せると逆を向き、自分の隣で帽子を目深に被り腕組みをしながら寝ている男に言う
「だとさエルンスト」
「だから言っただろうすぐにバレると」
エルンストは帽子を取ると仏頂面で答えた。
そして前後に座っていた男たちが立ち上がる、ミハエル、オットー、エーリヒ
『おつかれさまクローディアっ!おかえり、俺達のかわいい妹よっ!!』
声を揃えて言うと、突然他の乗客達から拍手が沸く
別に仕込んでいたわけではないのだが、なんだかいいことがあったのだろうと思ったのか、と言うかこれから海外旅行に向かう観光客たちが変なテンションでノッてきているだけなのだが
クローディアはそっぽを向いたまま答える
「やめろ馬鹿っ、恥ずかしいだろう、なんだこれは・・・馬鹿者どもが・・・・」
途切れ途切れ震える声で言う、ルーデルはクローディアの頭を後ろからわしわしと撫でると微笑みながら言った。
「泣くなよ、馬鹿なやつだなおまえは」
「泣いてなどいない・・・馬鹿って言うなバカ・・・」
そんな姿を見つめながら、HWSの面々はクローディアの勝利と帰還を祝福するのであった。




