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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第35話 グングニールがなぜ最強の槍と呼ばれているのか、それはどこにあろうとも絶対に標的は外さない、一撃必中必ず狙った敵を貫くからだっ!

 なんだか納得のいかないクローディアであったが、そんなことには気づかず健登は話かける


「なあ、クローディア」

「なんだ」

「・・・なんか怒ってない?」

「怒ってない、呆れているだけだっ!!」


 いや怒ってんじゃん、健登はわけがわからなかったがとりあえず続ける


「フェンリルはまだ生きている」


 その言葉にクローディアはようやく自分達が今置かれている状況を思い出す。

 今自分達は敵の手中にあるのだ、なにを暢気にこんなラブコメチックなことをやっているのかと自己嫌悪に陥りそうになる

 健登は天然ではあるが至って冷静であった、そうだフェンリルは生きている

 この闇が展開していると言うことはまだフェンリルは生きているということ、今もこの闇の中で二人のことを狙っているのか、或いは回復に専念しているのか、なんにせよこの中ではどうすることもできないしなんとかして脱出する手立てを考えなくてはならないとクローディアは思うのだが、健登はそのクローディアの考えとはまったく逆のことを言う


「これが最後のチャンスだ」

「どういうこと?」

「今まさに同じ闇の中にいるのにフェンリルは俺達に止めを刺そうとはしない、自分の術であいつも周りがまったく見えないなんて間抜けな話はないだろうから、やっぱり俺らに攻撃するよりも回復に専念しないといけないくらいのダメージを負っているって考えるのが妥当じゃないかな?」


 クローディアは唖然としてしまった。


 なんだなんだなんなのだ、外で戦っている間はずっとオタオタわちゃわちゃとしていたのに、ここにきてどうしてこうも落ち着いて思考を巡らすことができるのだ、この男はいったいなんなのだ


「そ、そうだな・・・し、しかしどうやって攻撃する?奴の姿を見つけることができなければ、いくらグングニールであってもワタシが敵を認識できなければ当てることはできない」

「認識さえできればいいんだな?」

「え?それは・・・まぁ」


 健登はその言葉を待っていましたとばかりにクローディアに言う


「さっき試しに焔を使ってみたんだが、この闇は炎の明かりも飲み込んじまうらしい」

「だったらどうやって奴を見つけるのだ」

「目で捉える必要はないだろ?」


 ニヤリと口元に不敵な笑みを浮かべてなにか思わせぶりに言う健登であるが、クローディアは健登の言わんとすることにまだ気づけない


 どういうことだ?目で見ないでどうやって敵を認識しろと・・・


 怪訝な顔をするのだがこの暗闇の中で健登にはそれが見えているのだろうか?そんなわけはないのだが、クローディアの疑問に答えるかのように健登が言う


「心眼って知ってるか?」

「ほ、本来であれば物事の真実を見抜くことの意味であるが、武道なんかでは相手の挙動などを見抜く所謂、勘、心の眼の様な意味で使うこともある・・・であっているか?」


 なんでそんなに詳しいのか、この娘本当にドイツ人なんだろうか?まあそれは置いておいて


「まあ心眼とはちょっと違うかもしんねえけど、俺達の使ってる神器は人間の身体機能を飛躍的に向上させるだろ?それは運動能力や筋力とかだけじゃなくて、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、これらの感覚、所謂五感ってやつも強化されてるわけだ」

「そ、そうだな?」

「だったらそれこそ、直感や第六感なんかの勘なんかが強化されていてもおかしくない、それをフルに使うんだ、視覚が奪われている今、それ以外のすべての感覚を研ぎ澄ましてあいつを探るんだ」


 なんて無茶苦茶なことを言いだすんだとクローディアは思うのだが、しかしこれはもしかしたらいけるかもしれない

 視覚障碍者や聴覚障碍者に限らず、なにかしらの身体的ハンディキャップを有する人達はそれを補うために別の感覚が発達する人も少なくない、ややもすればそれは常人の感覚を遥かに凌駕する超感覚にまで発達させる人もいるくらいだ


 それを今この場で神器の力を使って実践しようと言うのか?まったくもってとんでもないことを言いだす。


「そんなことができるのか?」

「やってやるさ、アメノハバキリはいつだって、俺が力を望んだ時に応えてくれたんだ」


 健登がそう言うのであればそれは出来得る、可能であるとクローディアはなぜだかわからないが確信してしまう

 今回の件で健登はクローディアのことを、何度もその身を挺して守ってくれた。

 自分の為に心を痛め、共に怒り悩み苦しんでくれた。

 そんな健登が今、自分の為にやってやると言っているのだ、それを信ぜずして何を信じろと言うのか


「ああ、やろうタケト!奴を倒してこの闇から抜け出そうっ!!」


 健登は静かに目を閉じる、心は穏やかにそして奥深く深くへ精神を統一し始める

 今必要なのは敵を倒すための闘争心でも燃えるような闘志でもない、ただ静かに全てを受けいれる心、神器の声に耳を澄まし心を通わせる、そして神器を通して感じるこの世界の声に耳を傾ける

 クローディアも同じように、そして感じるのは健登の呼吸、鼓動、存在そのものを強くイメージし自分と重ね合わせる


 深く深く・・・心を一つに


 その時感じる小さな光、目で捉えたのではない、これは思考で感じる、いや体中の全てでそれを感じるかのような、そこにあるもの全てが眩い色とりどりの色彩を放っている

 それは人の視覚などでは到底捉えようのない、まるで神々のみが見ていると言うイデアの世界を投影するような美しさであった。


 そうか、世界とはこれほどまでに美しいものであったのか、エメレンツィアにもこの光景を見せてやりたかった、きっと彼女もこれを見れば、世界は残酷なものなんかではなくツェツィーリアと共に二人で生きて行くに値するものであると感じたのではないか、そんなことを思った。


翠碧(すいへき)(さかき)


 一点の揺らぎもない水面に映る静かな大樹を思わせるような、世界にその枝葉を広げ全てを包み込む程の大きな精神によって編み出された翠色(すいしょく)の具足


「見えるか・・クローディア」

「ああ・・・見える、ワタシにも見えるぞタケト、おまえを通して神器を通じてこの世界の全てが」

「じゃあ、あそこにある邪悪な炎の姿も見えているな」


 二人が見ているのはその美しい世界を、美しい色彩を塗り潰すかのような一点だけ燃える真っ黒な地獄の業火


 フェンリル、その炎は燻るようにしかし猛々しく燃えている


 それを見てクローディアは自嘲気味に口元に笑みを浮かべると、それでもなにかに納得するかのように覚悟を決めた声で言う


「タケト、ワタシはやはりワルキューレなのだな」

「なんだよ急に」

「今ワタシはこの場に於いて、主神オーディンが力を宿せしハイリヒヴァッフェ・グングニールを手に、祖国の敵である奴を討てることを誇りに思い、仇敵フェンリルを討つことで死んで行った皆への手向けとできることを嬉しく思うっ!!」


 クローディアは力強く言葉にするとグングニールを両手で持ち構える


「ああクローディア、それもおまえだっ!!全部ひっくるめてクローディアだっ!!」

「応ともタケトっ!!ワタシはゲイレルル!ハイリヒヴァッフェ・グングニールのワルキューレであり旭ヶ丘学園高校2年A組出席番号41番のっ!!クローディア・アンネマリー・ディートリッヒだっ!!」


 叫ぶとクローディアは助走をつけ、槍を片手で持ち振りかぶると斜め上前方で燃え盛る炎へと全力で投擲した。

 光速の矢と化しフェンリルに向かって飛ぶグングニール、光が的を貫かんとしたその瞬間


 炎の魔剣が怒り狂うかのごとく燃え盛り炎塵を巻き上げると一閃、グングニールを後方へと弾いた。


 仕損じた・・・最後の一撃を返された、フェンリルは復活していた、その傷は癒えクローディアが最後の一撃を放つの待っていたのだ


「残念だったなゲイレえええルルぅぅぅううううっ!!」


 口を大きく拡げ舌を垂らしながら恍惚の笑みを浮かべるフェンリルは、レーヴァテインを天に向けて翳す。

 灼熱の炎が逆巻き渦を巻き始める、それはどんどんと巨大化していくと球体へと変化していった。


 これはまるで小さな太陽、その炎の熱と光は一帯を紅く染め上げ飲み込んで行く


 ― Hölle Sonne verbrennen ― (焼き尽くす地獄の太陽)


「これで終わりだ餓鬼どもおおおお!!」


 万事休すっ!!


 かの様に思えたがクローディアも健登も怯まない、二人手を握り合いフェンリルをじっと見上げている

 その眼は死を覚悟したものではない、なにかをじっと待つような、誰かを信じるかのようなそんな眼であった。

 しかしフェンリルは意にも介さない、どんな虚勢を張ろうともこれで終わりなのだ

 この魔剣を振り下ろせば6000℃を超える超高熱の火球が頭上から降り注ぐ、人間などあっと言う間に蒸発してしまう


「死ねえええええええええっ!!」


 これで終わりだ、生意気なワルキューレと人間の小僧を始末したら神器を回収して人間どもを根絶やしにしてやる


 しかし右手に持った魔剣を振り下ろそうとした瞬間に違和感を覚える、いや逆だ感じない、右手の感覚が無くなっていく、それは次第に腕を伝い肘の辺りまで、振り下ろそうとする手を止めて見やると


「なっ!なんだこれは・・・・なんだこれはああああああああっ!!」


 フェンリルは驚愕した。


 右手が右腕が石へと変わり、それはゆっくりと腕を伝い身体を侵食していく、なにが起きているのかわからず混乱するフェンリルはその場を離れようとするもなにか強い力に腕を引かれ動けない、誰かに掴まれている、腕を何者かに握られているのだ

 目を凝らし見つめるとそこにぼんやりと浮かんでくる人物の名をフェンリルは叫んだ


「メドゥーサあああっ!!きっさまああああああああああああああっ!!!!」

「はっははははははああっ!残念であったのはおまえ方だフェンリルっ!形勢逆転!!いや、妾達の勝ちだっ!!」


 悠紗は頭に被っていた帽子のようなものを脱ぎ捨てながら言うと石になったフェンリルの右腕を砕き圧し折る、そしてレーヴァテインを奪い取るとクローディアに向かって叫んだ


「今だっ!最後の一撃はおまえのものだっ!やれっ!!クローディアっ!!!」


 腕をもぎ取られ呻き声を上げるフェンリルは、クローディアを憎しみに満ちた表情で睨むと吠える


「ふざけるなあああああっ!グングニールを持たない小娘にこの俺が殺れるかよおおおっ!!!」


 クローディアは一瞬憐みの表情でフェンリルを見つめると、キッと見据えて静かに言った。


「忘れたかフェンリル・・・グングニールがなぜ最強の槍と呼ばれているのか、それはどこにあろうとも絶対に標的は外さない、一撃必中必ず狙った敵を貫くからだっ!!戻れっ!グングニールっ!!!」


 クローディアは右手を前に翳してグングニールを呼ぶ、己が魂に呼びかけるっ!!

 フェンリルがグングニールを弾いたのは自分の後方、その対角にいるクローディア、手の中に戻ろうとするグングニールの通る軌道上に居る者は誰なのか


 フェンリルは戦慄した。


 躱さなくてはその身を貫かれてしまう、しかし動かないなぜか体が動かない、焦れば焦るほどに自分の言うことを身体が聞かない

 そうではないフェンリルは視線を落とし自分の胴体を見ると、腕から侵食した石化が足まで達しようとしていた。

 そしてそれが全身を覆った直後、グングニールがフェンリルの背中を貫くと石になった身体は粉々に砕け塵と化すのであった。


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