第33話 ヴァルハラから兵士達を呼び寄せたかっ!グングニールのワルキューレぇぇぇえええええっ!!
弥命は初めの場所に戻ってくると白の結界の痕跡を探ろうと試みる、自分たちは別の場所に転移されただけであるが、フェンリルは位相結界内に閉じ込めていると考えるのが妥当だ
位相結界内に侵入するなど難しいとわかってはいるが、なにもせずにいることなどできはしない、なんとかしようとしていると背後から声がする
「やめておけ弥命、おまえにどうにかできる程わしの結界はなまっちょろいものではないわ」
「であれば、今すぐに結界を解いてください・・・・白様っ!!」
振り返りながら言う弥命であるが、白の隣にいる鷺宮の存在に驚く
「それはちょっと困っちゃうかなぁ弥命ちゃん」
「鷺宮さん!?どうしてこんな所に・・・・困るってどういうことですか?」
白がこんな危険な場所に鷺宮を連れてきていることに驚く弥命であったが、そんなことよりも鷺宮の言葉の意味を問う
弥命の疑問、両方に答えたのは白であった。
「おまえらがどういう戦いをしているのかをその目で確かめたいと言うのでな、まあ安全になったところで連れてきたのじゃ」
こちらでは敵からの脅威はなくなったとはいえ、山火事が起きているのだから安全ではないだろうに、それに結界内とはいえまだフェンリルもいるのだ
まあ白もついているので安心と言えば安心ではあるのだが、それにしても思い切ったことをしたものである
「そして結界は解かぬ、今まさに二人の神器使いが魔狼と交戦しておるのじゃ、そんな危険なことはできぬわ」
「そんな・・・だからこそわたしはその二人に加勢したいのですっ!」
「駄目じゃ、山火事が起きておる、消防と警察それにマスコミも出動しておるのじゃ、世間の目にそれを晒せと言うのかおまえは?」
「そんなの大人の勝手な事情じゃないですか!!そんな理由で守羽くんとクローディアさんが戦っているのになにもせずに傍観していろと言うのですかっ!!」
弥命の言いたいことはわかる、しかしだからと言って、はいわかりましたと結界を解くわけにはいかない
鷺宮はこれまでのような朗らかな、と言うかどこか頼りない優男の様な表情から一変、その顔から感情を消すと氷のような眼つきで弥命を見据えて言う
「それもあなたの勝手な言い分ですね、大人はそんな青臭い感情論で簡単に動くわけにはいかないのです。我々が守っているのはもっと大きなモノなのですから」
「それは、国・・・ですか?」
「そうです。国を守ると言うことは国民の生命と財産を守ると言うことなのですよ、国家と言うものはそこで暮らす国民によって形成されるものなのですから、その運営や防衛に個人の感情や正義感なんて言うものは一切不要なのです。」
御尤もであった、弥命は鷺宮の言葉に反論できない
人が違えばその立場も違う、お互い守りたいもの、守らなくてはならないものがあるのは当然のこと、大を取る為に小を切り捨てる、政治の世界では当たり前の様に行われていることであるのだ
弥命は黙り込むと唇を噛み俯いてしまう、やれやれと言った表情で目を合わせる白と鷺宮
しかし鷺宮は申し訳なさそうに微笑むと優しく弥命に語りかける
「それでも彼らの事が心配なのは私も一緒です。どの口で言うのかと思うかもしれませんが本当ですよ、私も人間ですからね、だからこうして白様には止められましたけど危険な場所に赴いたのです、命をかけて戦っている彼らに対する私なりのせめてものけじめです。」
弥命は小さな声で「ごめんなさい」と呟くと、悔しそうに肩を震わせた。
「まったく、いつからおまえはそんな聞かん子になったのじゃ、前は素直過ぎるほどに人の言うことを聞く娘でどうしたものかと思っておったが、最近はすぐに感情的になり反発しおる、なんじゃ?遅れてきた反抗期か?カンニングかおまえはっ!」
「白様、それはちょっと古くないですか?」
鷺宮の突っ込みは無視してぷりぷりと怒る白であったが、仕方ないという表情をすると付け加える
「結界を物ともせず次元を行き来できるなど神くらいにしかできぬ所業じゃ・・・・気に喰わんが、あやつが既にわしの結界を超えようとしておる心配するな」
白の言葉に弥命は、ハっと顔をあげると遠い空を見上げて呟いた。
「悠紗ちゃん・・・」
森の向こうで燃え盛る炎が空を赤く染め上げている、遠く鳴り響くサイレンとヘリの音、今夜は一晩中消防と警察は大忙しであることだろう
クローディアはフェンリルの腹から槍を引き抜くと少し距離を取る、フェンリルは山肌にもたれ掛ったまま俯き微動だにしなかった。
気を失っているのか?或いはもう絶命したのか?恐る恐る近づき、だらんと垂れ下がった手に持っているレーヴァテインに手を伸ばす。
その時岩肌に亀裂の入る音、それは一気に広がり音を立てて崩れてきた、クローディアは落ちてくる岩石を見上げ身動きを取ることができないが間一髪、疾風鴉を纏った健登がクローディアを抱えて空中へと離脱した。
小規模ながら地滑りを起こした山肌は、その土砂でフェンリルの身体をレーヴァテインごと飲み込んでいった。
「こうなった場合って元に戻ったらどうなるんだ?地滑りはなかったことになるのにフェンリルは死んだままなのかな?」
「我々は結界の力により肉体はこちらにある状態だが、存在自体は二つの次元どちらにも認識されていると考えるんだ、であるから我々の身に起きた事象は結界が解けようとも変わりはしないのが定石だ」
健登の疑問にクローディアが答える、さすがはそういうのを専門に扱う特殊部隊員だけあってやっぱり詳しいのね、そして相変わらず何を言っているのかよくわからない
まあなんにしてもこのままフェンリルが死んでいれば問題はない
そう思うのだが健登とクローディアが地上を見下ろしていると爆音が鳴り響く、火山の噴火の様に土砂が隆起しそこから火炎が噴き出した。
「やっぱりそんな甘くはないのね・・・」
火柱の中からゆっくりと歩み出てくるフェンリル、全身からは真っ黒な炎が燃え盛りその怒りの形相は獣そのものであった。
空を見上げ二人の姿を確認すると怒声をあげる
「やってくれたな餓鬼どもおおおおおおおおっ!!もう遊びは終わりだ、てめえら二人ぶっ殺してその神器も奪い取ったら世界を終わらせてやるっ!!人間もアース神族も皆殺しにして、俺達魔獣や巨人族が新たな地上の支配者になるのだっ!!」
フェンリルの言葉に「ふざけたことを・・・」と苦虫を噛み潰すような表情で呟くクローディア
二人は地上に降り立つと再びフェンリルと対峙する、先程以上の闘気と殺気を放つフェンリルであるがダメージは大きいはずだ
ここで一気に畳み掛ける、健登とクローディアは目と目で合図すると一斉にフェンリルに攻撃を仕掛けた。
「舐めるなあああああっ!!」
横一閃レーヴァテインから放たれた火炎が二人を襲う、その衝撃と熱に吹き飛ばされて地面を転がる健登とクローディア、あれだけのダメージを受けながらもここに来て尚その強さを増すフェンリル、二人は身体から煙をあげながら手を突き膝を突き立ち上がろうとするのだが、さらにフェンリルは剣を地面に叩きつけると大爆発、二人はまた吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
仰向けに倒れながら苦痛の声を上げる健登、その傍らでうつ伏せに倒れ微動だにしないクローディア
健登はよろよろと起き上がると倒れ込むクローディアを庇うように、フェンリルの前に立ちはだかる
くそったれめ、強えなんてレベルじゃねえ反則だろありゃあ、人間がどうこうできる相手じゃねえぞちきしょう・・・
朦朧とする意識で見つめるフェンリルはゆっくりと近づいてきている、このままではまずい止めを刺される、どうする?どう反撃する?とにかく剣を構えるんだ、腕が上がらない重い、体中が痛む、熱い苦しい
ぶるぶると震える手をなんとか上げようとする健登、剣を構えるだけで全身から汗が噴き出すほどに辛い、もう目の前までフェンリルは迫ってきている、その手にする真っ赤な炎の魔剣・レーヴァテインを振り上げてそのまま振り下ろす刹那
重い衝突音の後にフェンリルの上半身が真後ろに仰け反った。
なんだ?なにが起きた?誰の攻撃だ?
健登もフェンリルも驚きのあまり一瞬動きが止まる、しかしすぐにフェンリルはその謎の相手からの攻撃に備えようと距離を取るのだがまた衝撃が身体を襲う
これはまるで廃墟で受けていた狙撃のような攻撃、その場に釘付けになるフェンリルであった。
誰だかはわからないがこれはチャンスだ、今の内に体勢を整えてクローディアを、そう思い振り返る健登は唖然としてしまった。
振り返った視線の先、クローディアはゆらゆらと立ち上がり目も虚ろ、意識がないようにも思えるがその手にはしっかりとグングニールが握られている
そんなクローディアの纏うオーラがなにやら神秘的なものに感じられ、健登はまるで目の前に女神が降臨したかのような錯覚に捕らわれる
ボーっとその姿を見つめているとクローディアの後方から突然霧の様に人の姿が、いや人々の姿、これは戦士いや兵士達か?
まるで夢、幻でも見ているかのようなその光景に健登は声を出すことすらできなかった。
夢幻の兵士達は鬨をあげフェンリルに向かって行く、手にした銃火器から放たれる銃弾を浴びてフェンリルは動くことができない
わけがわからず剣を振り回し兵士達に斬りつけるとその場で霧散してしまうのだが、また霧のように現れるとフェンリルに攻撃をするのだ
「死せる戦士達・・・ヴァルハラから兵士達を呼び寄せたかっ!グングニールのワルキューレぇぇぇえええええっ!!」
苦々しい顔をして雄叫びをあげるフェンリル
エインヘリャル
死んでいった戦士達がワルキューレによってヴァルハラの宮殿に迎え入れられ、不死の戦士として日々戦いを繰り返し死と復活を繰り返すという神話の物語
それは戦場で死んでいった戦士たちが女神ワルキューレの加護を受けるという名誉あることであった。
健登はクローディアの元に駆け寄り声をかけようとすると気が付いた。
クローディアは意識を取り戻していた。
そして俯き一筋の涙を流すと微笑み呟く
「Danke schön・・・みんな、ありがとう・・・・」
後方から現れた一人の兵士がそっと囁きかける
― 私達が活路を開く、後は任せたぞクローディア ―
それは確かに聞こえた声、そして健登も知っている人物であった。
クローディアは堪えきれずに声を上げる
「ロンメル大佐っ!ヘイヘっ!!みんな、みんなありがとうっ!ワタシは勝ちます。絶対に奴を、絶対にフェンリルを討ちますっ!!タケトっ!力を貸して、ワタシに力を貸してえっ!!」
「あったりめえだああああっ!!行くぜえっクローディアああああああああっ!!」
叫ぶと再び火炎焔を身に纏いフェンリルに向かって突進する健登
「生意気だあああああっ!ガキいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
剣を振り下ろすフェンリル、そこへ兵士達が銃弾の雨を降らし牽制する、健登はアメノハバキリを振り上げ渾身の力でレーヴァテインを弾き上げた。
上方に剣を弾かれて体勢を崩すフェンリルは、なんとか立て直そうとするがクローディアの方が早かった。
「やれええっ!!クローディアあああああっ!!」
クローディアは雄叫びをあげると突進、全身全霊の力で槍を突きだす。
怒り悲しみ憎しみ、それら全ての感情は投げ捨てて、クローディアは自分に関わった全ての人達へ、今こうして一緒に戦っている仲間達への感謝を籠めて
ここまで戦ってこられたのは自分一人の力ではない、様々な人々、仲間達に支えられ助けられてワタシはここにいるのだ、ありがとう皆、ありがとうグングニール
「貫けええええええええええええっ!!」
クローディアの思いを乗せてグングニールはフェンリルの胸を貫いた。
遂にフェンリルに止めを刺すことができたと思われたその瞬間、辺り一面に射す黒い影、健登は空を見上げ驚愕した。
まるでこの山全てを飲み込まんかと言うほどの巨大な闇の咢が牙を剥き出しにして開かれていた。
これは、フェンリルが生み出したものなのか?
そう思うのと同時咢は閉じられ、健登、クローディア、そしてフェンリルも一緒に闇に飲み込まれるのであった。




