第31話 くだらねえ意地だって、貫き通せばそれは立派な信念に変わるんだぜ!
アメノハバキリとグングニール、二つの神器を目の前にしながらフェンリルは余裕の表情で健登とクローディアを見据える
所詮人間の小娘と小僧が扱う神器である、神の子であり魔獣でもある自分が振るうレーヴァテインとは比較にもならない、ましてや一人はなんの訓練も積んできていない単なる子供なのだ、余裕どころかむしろ落胆していると言ってもいいかもしれない、フェンリルはつまらなそうにクローディアに向かって言った。
「ゲイレルル、一度俺に敗けてリベンジってのはいいけどよ、助っ人に連れてきたのがど素人丸出しの小僧ってのは頂けねえなぁ、そんなんで俺を楽しませる戦いができるのかあ?」
「ふざけろ、きさまを楽しませる為に戦うのではない、後悔させてやるぞフェンリル我々に戦いを挑んだことを!」
「はんっ、後悔するのはてめえの方だぜゲイレルルっ!!」
フェンリルが叫ぶと場の空気がピリピリと緊張しだす。
肌が痺れるような感覚、フェンリルの全身から迸る殺気と闘気に気圧されそうになるが、健登は鳩尾の辺りに力を入れて気合いを入れる
そんな様子の健登を見て一瞬不安になるクローディアであったが、今さら引き返すことはできない、戦うしかないのだ
「タケトっ!やれるかっ!?」
「当然だクローディアっ!」
「ヤー、ワタシがあなたに合わせるっ!気にせず普段通り全力でやってくれっ!!」
「普段って言うほど戦いには慣れちゃいねえけど、まあいいや行くぜっ!」
そう言うと健登は突進、フェンリルとの間合いを一気に詰める
その動きにフェンリルとクローディアは驚く
速いっ!
一瞬で数メートルの距離を詰めると健登は上段からフェンリルに斬りつけるのだが、フェンリルはそれを剣で受け弾き返す。
凄まじいパワーで剣を弾かれ仰け反り体勢を崩す健登は胴ががら空きになる、そこへ横薙ぎ胴体を真っ二つに裂いてやろうとするフェンリルだが、クローディアが後方から突進突き、健登の脇腹を掠めるスレスレからフェンリルを攻撃する
その突きをフェンリルは咄嗟に剣の腹で受け逸らすと、体勢を立て直した健登が再び斬りかかってきている
左手で健登の持ち手を受け止め、目いっぱい握り締めるとそのまま振り回すように持ち上げ投げ飛ばす。
地面を転がる健登には目もくれずクローディアはもう一度突きを繰り出すが、フェンリルはレーヴァテインを思いっきり振りぬき、グングニールの一撃を弾くとよろめいたクローディアに向けて前蹴りを浴びせた。
クローディアは後方に飛ばされるが、蹴りは腕を畳みガードしていたためダメージはない
ほんの数秒間の攻防であったがお互いの力量を把握するには充分であった。
健登はこれまでに獣人、アルレッキーノ、メドゥーサ、と人外の者達と戦ってきたがフェンリルに対する評価は「強い」その一言であった。
フェンリルは二人の猛攻を前にその場を微動だにせず全てをいなし反撃までしてみせたのだ
まるで子ども扱い、戦いにすらなっていないと素人の健登ですら理解できる
距離を取り一旦間を置くと再び構える健登とクローディアであるが、正直攻めあぐねる
健登は圧倒的な相手との力量の差に飲まれ始めている、次の一歩、次の一手が繰り出せない様子だ
クローディアも悩む、これでは前回とまるで変わらない、このまま闇雲に攻撃を続けてもフェンリルにグングニールの一撃を浴びせることも叶わない
そんな二人の様子にフェンリルは呆れた声で言い放った。
「おいおいなんだよそりゃあ?拍子抜けしちまったぞ、そっちのガキに至っては初めは驚かされたが、なんだ?今ので勝てねえってわかっちまったか?まあ、相手の力量がわかる分まだマシかもしれねえが、もう終わりかよ?ビビって戦意喪失かあ?」
「なっ!?舐めんじゃねえぞっ!!」
フェンリルの挑発に強がってみせる健登であるがやはり攻めにはまわれない、これまでの戦いではあれほどまでに怒りを燃やし闘志を剥き出しにして戦ってきた健登が、こうも攻め手に欠けるのはフェンリルの醸し出す攻撃的なオーラもさることながら、その手にしているレーヴァテインの存在が大きい
神器を手にして戦う者だからこそわかる相手の神器の気配とその力、レーヴァテインから放たれる燃え盛る業火のような力に完全に気圧されてしまっているのだ
「ならば見せてやるぞフェンリルっ!最強の槍の一撃をその身で味わうがいいっ!!」
気を吐いたのはクローディア
その身を低く構え槍の切っ先をフェンリルに向けて必殺の一撃を繰り出す。
― Sleipnir Zusammenstoβ ―
光りの速さで繰り出される突進突き、悠紗の石のシェルターをもなんなく粉砕した一撃がフェンリルに向かって襲い掛かる
「喰らうかよおおおおおおおおっ!!」
― Gewalt Ausbruch ―(爆発する火山の猛威)
フェンリルが渾身の力でレーヴァテインを振り下ろし大地に叩きつけると大爆発、まるで火山の噴火がその場で起きたのではないかと錯覚するほどの爆音と衝撃の後に天を突き刺すように湧き上がる赤い炎、そしてマグマの様な熱気が襲い掛かる
グングニールの一撃はその凄まじいエネルギーに弾き飛ばされ、クローディアは宙を舞うと地面に叩きつけられる
健登も爆風に吹き飛ばされそうになるが地面に剣を突き立て膝を突きなんとかその場で持ち堪える、衝撃が過ぎると隕石が堕ちたかのようなクレーターが地面にポッカリと開き中は熱を帯びた地層が赤く剥き出しになっていた。
健登は驚愕した。
レベルが違いすぎる、これまでに相手にしてきた敵とはまったく別次元の強さであった。
あんな一撃をまともに喰らえば即死だ、これが本当の戦い、これが命のやり取り、今までの戦いなんて生ぬるいお遊び程度に思えてしまう、常に余裕を見せていた悠紗も本気ではなかったのだろうとそこでようやく理解する
一歩間違えば即、「死」が待っている、廃墟で無惨に散って行った人々の姿が脳裏を過ぎった。
健登はその現実に恐怖し身体がぶるぶると震え歯をガチガチと鳴らす、アメノハバキリを握る手も震えて力が入らない、膝もガクガクと笑っている
こんな奴を相手に、こんな化け物を相手にクローディアは戦ってきたのか、一度負けたのに、それでも死んでいった仲間たちの仇を討つために再び立ち上がり戦っているのか、地面に倒れ込むクローディアに視線を向けるとよろよろとよろめきながら立ち上がろうとしている
「タケト・・・・タケトっ!逃げろっ!!こいつはワタシが刺し違えてでも倒す。だからっ!タケトは・・・くっ」
叫ぶと再び膝を突くクローディア、相当のダメージであったのだろう
健登は声にもならずその姿を見つめている
馬鹿を言え、逃げろだって?刺し違えてもだと?冗談じゃない、なにを馬鹿なことを言って・・・
「馬鹿は俺だ・・・」
健登は俯き呟く
馬鹿は俺だ、なにをビビっているんだ?なにをしているんだ俺は?姫宮に向かってクローディアの為に、死んでいった人達の為にフェンリルに勝つと豪語したのにこのザマ、情けない、心底・・・
「情けねえええええええええええっ!!逃げろだって?冗談じゃねえっ!!女の子が目の前で傷ついて倒れているんだぜ?それを置いて逃げろだと?そんな格好悪いことができるか馬鹿野郎っ!!」
「タ・・タケト?」
突然わけのわからない叫び声をあげて変な意地を張りだす健登に、クローディアは目を真ん丸にして驚いている
その様子を見ていたフェンリルは腹を抱えて笑いだし言い放った。
「はははははっ!馬鹿かガキ?てめえじゃ相手になんねえ、ビビってなにもできねえんじゃ邪魔だからとっととこの場から失せろって言ってんだよ」
「ううううううるせええええっ!んなこたぁわかってんだよっ!自分がどうしようもねえほど馬鹿だってことは俺が一番わかってんだよっ!!でもな、目の前で傷ついているたった一人の女の子も守ってやれねえ、救ってやれねえ、そんな情けねえ男にはなりたくねえんだよっ!!」
「あぁ?なんだそりゃ?くだらねえ意地だな」
健登の啖呵を鼻で笑うフェンリルだが、健登はいつしか身体の震えも止まり力が漲ってくるのを感じていた。
いよいよもって覚悟も決まった、遅すぎるくらいだと反省するのは後にしよう、今は全力で目の前の敵を倒す、ただその為に何も考えずに全身全霊全力全開で突っ走るのみ、自分にできるのはそれだけなのだから
健登はゆっくりと剣を上げるとその切っ先をフェンリルに向けて言い放つ
「くだらねえ意地だって、貫き通せばそれは立派な信念に変わるんだぜ!」




