第30話 むっふっふっふ~♪余裕余裕~♪なーにが魔狼の一族だ!
白は急に立ち上がり叫び声をあげた。
「やりおったな!あやつめええええええっ!!」
急に白が大声をあげるので鷺宮は驚きの声をあげる
「ど、どうしたんですか?」
「弥命の奴が生意気にもわしの術式に割り込んで自らの術を展開させてみせたのじゃ!!」
生意気と言いつつもどこか嬉しそうに声をあげる白であるが、鷺宮は言っている意味がわからない
「弥命ちゃんが勝ったのですか?」
「大勝じゃ!まったくもってとんでもないことをやる娘じゃ」
「はぁ、なにをしたんですか?」
「間の抜けた声をだすな馬鹿者、弥命の奴は森全体を覆う術式を組み上げる為にわしの張っている結界術式を利用して見事巨大な魔法陣を展開しおったのじゃ」
なるほど、まったくわからない
弥命がなにをやったのかと言うと、この山には白が様々な結界を張っていることは何度も説明していることだが、結界を同じ場所に幾重にも張り巡らせると言うことは基本的には無茶なことである
結界同士が干渉しあい意味をなさなくなるだけならまだいいのだが、下手をすればその影響でなにかしらの問題が発生することもある
なにかしらと言うのはとにかくなにかが起こるかもしれないとしかいいようがない、起きてからでないとわからないからだ
それを防ぐために白は超難解な術式を組み上げた上に、その個々の結界術式同士を干渉しないように繋ぎ合わせ情報を伝達しあう術式を別に組んでいるのだ
その術式構造は人間で喩えるならばニューロンとシナプスの様なもの、個々の結界は複雑に張り巡らされた神経細胞により様々な情報を伝達しあい、それらを繋ぐ術式がシナプスの役割を果たしている
弥命はその神経を辿り、自らのマナをバイパスさせる、しかも白の妖力でもあるシナプスから発せられる情報は弥命の術の威力を増幅させた。
そうやって弥命は迷路のような神経組織を辿って行き、森全体に術式を組み上げてこの術を発動させたのである
「まあなんにしてもそんなすごいことをやったのなら、帰ってきたら褒めてあげないといけませんね」
鷺宮が笑顔でそう言うのだが、白は不満そうな顔をすると「あいつにはまだ早いわ」と言い不貞腐れてしまうのであった。
木の幹に水谷をもたれ掛らせると弥命はエプロンを裂き包帯の代わりに使う、血止めの応急処置を施すが早く医者に診せきちんとした処置をしたいところだ
「水谷さん痛みますか?すぐに人を呼びますので堪えてくださいね」
「わたくしは大丈夫です姫様・・・それよりも、姫様は早く守羽殿の元に・・・」
こんな状態で健気にも健登の心配もしているであろう弥命に気を使う水谷であったが、このまま置いて行くことなどできはしない
弥命は水谷から携帯電話を借りると紅葉に連絡をしてすぐ救援に来るように言った。
「すぐに紅葉さんが来てくれますから」
水谷の手を握り心配そうに見つめる弥命であったが・・・
ぐ・・・ぐへへへ・・・姫様がいつになくわたくしに優しい、身体を張った甲斐がありましたああ
水谷は内心大喜びであった。
それにしても健登とクローディアは無事であろうか、弥命は二人に思いを馳せる
この状況であればフェンリルに対峙しているのはおそらくあの二人であろう、神器を扱う二人であるが相手も神器レーヴァテインを手にする魔狼フェンリルである、訓練を積んできたクローディアでさえも退けた敵を相手に、素人の健登が加わったところでどれだけの効果があるかはわからない
一刻も早く自分も駆けつけてサポートしたいところではあるのだが・・・・
そんなことを考えていると、背後から感じる人の気配
まさか?
振り返るとそこには、息も絶え絶えになりながら全身を引き摺るように歩いてくるハティの姿があった。
「ハァハァ・・・・てめぇぇ・・・人間の癖に、人間の癖にぃぃぃいいいいっ!!」
あの術を喰らいながらも尚消滅せずにいるなんて、やはりフェンリルの血を引く魔狼の子だと感心する
しかしながらもう虫の息である、敵ながらあっぱれとは思うが情けは無用、弥命は立ち上がり剣を手にすると構えた。
そこに右手の方から聞こえる森を駈る音、なにかが迫ってきている
次の瞬間飛び出して来たのは体長2メートルはあろうかと言う蒼い毛並をした狼であった。
「スコルっ!!」
ハティがその名を呼び、スコルは跳躍しながら叫ぶ
「ハティっ!無理だ!!あんな化け物を相手に一人ではとても太刀打ちできない、一緒にたたかっ」
言いかけると後方から飛び出して来た数本の石の刃に身体を貫かれるスコル
そのまま落下して仰向けの状態で地面に叩き付けられると、上空から降りてきた悠紗が馬乗りになり喉元に右手の爪を喰い込ませた。
その瞬間スコルの全身が石へと変わり悠紗は右手を握り締める、石になった喉元が割れそこから全身に罅が入るとそのまま砕け散るのであった。
「スコルっ!?馬鹿な・・・なんだおまえは?メドゥーサか?・・・うっ!!」
その状況に驚き唖然としていたハティであるが、胸元に軽い衝撃
ゆっくりと視線を下すと胸の中心に突き立てられる刀身が見える、そして視線を上げるとそこには剣を我が身に喰い込ませる弥命の姿があった。
「糞ビッチがぁぁ」
それが最後の言葉、そのままハティは絶命した。
「悠紗ちゃん!」
弥命が名を呼び駆け寄ると悠紗は元の姿へと戻り、右手を突き出しピースしながら誇らしげに言う
「むっふっふっふ~♪余裕余裕~♪なーにが魔狼の一族だ!てんで大したこともないわ、おまえも無事のようだな弥命」
「はい、なんとか勝つことはできましたが・・・水谷さんが重傷です」
「うむ、どれ見せてみろ?」
悠紗は水谷の元に駆け寄ると包帯を外し、傷口を石化させて止血処理を行う、この処置の方法は縫合するよりも肉体への負担が少なく、傷口が塞がってから石化を解けば綺麗に治り痕も残らないと言うので弥命は安堵した。
涙目で悠紗に抱き付いて感謝の言葉をかける
「ありがとう悠紗ちゃん、本当に悠紗ちゃんが居てくれて助かりました」
「うむうむもっと妾に感謝するがよい、それにしても水谷、おまえらがどういった関係なのかは知らないがもう少し自分の命を大事にせい、主君の為に命を張るのは立派なことであるがそれではお互いあまりにも酷であろう、時には主に逆らってでもお互いの命を守る為に逃げの一手を打つことも肝要であるぞ」
「・・・面目ない次第です。悠紗殿」
申し訳なさそうに言う水谷であったが、無理を言って身体を張らせたのは自分なのだからあまり責めてやらないでくれと弥命は言う
「それにしてもバカデカい術を展開したものだな弥命、どうやったのだあれは?」
「あれは白様の張った結界術式をちょっと使わせて貰いました。術式経路は直ぐに見つかったのですが、白様の妖気にわたしのマナを同調させるのに手間取ってしまって、その所為で水谷さんに負担をかけてしまって申し訳ないです。」
「もったいないお言葉です姫様、そのおかげでわたくし達は今もこうして無事でいられるのですから、あまり気に病まないでください」
さて、いよいよいもって残るはフェンリルのみとなったわけだが、悠紗が突如声をあげる
「ビビビっ!メドゥシアナが呼んでおる!!弥命っ、妾は例のブツを取りに行ってくる、いよいよ最後の仕上げだ!!とっととこんな戦いは終わらせるぞ」
「はいっ!悠紗ちゃん、わたしは先に守羽くんとクローディアさんの救援に向かいます。」
悠紗がメドゥシアの元に飛ぶと数分もしない内に紅葉が巫女達を連れて降りてきた。
血塗れになっている母の姿を見て一瞬動揺するも、巫女達がその場で処置をして容体も安定してくると、水谷を担架に乗せて紅葉達は再び山を登り神社へと引き返した。
弥命はその姿を見送ると初めの場所、フェンリル達と遭遇した場所へと走った。




