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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第28話 ちなみにわたしは猫派です。

 ハティは遠く、森の向こうを見上げると深く溜息を吐いた。


「あの筋肉バカ、蛇女なんか相手になにテンパってやがるんだか」


 山中ではあるが少し開けた場所、そこにある岩の上から眼下を見下ろすと弥命と水谷が自分を見上げている、まるで憎き仇でも見るかのような目で睨みつけていた。


「おいおい、なんだよその眼?あたしは別にあんたらの知り合いは一人も殺しちゃいないだろ?八つ当たりはやめてくれよ」


 やれやれと言った感じで首を振りながら言うハティ、これは挑発であるが弥命と水谷は当然乗らない、毅然とした態度で相手を見据える

 冷静でありながら心の内には怒りの炎を燃やし、その熱を己が剣に乗せてぶつける瞬間を待つ、弥命は深呼吸をするとハティに向かって言った。


「あなた方はわたしの大切な友達を傷つけました。そして・・・その親友の仲間を家族を奪いましたっ!わたし達にはそれだけで戦う理由は十分ですっ!」

「だったらどうすんのさぁ?」


 咢を獣の様に開き舌を出しながら厭らしい笑みを浮かべて言うハティ、どこまでも人間を虚仮にして愚弄するかの様な態度

 弥命は手にしていた刀を構えると水谷に向かって叫ぶ


「水谷さんっ!アレで行きますっ!!」

「かしこまりました姫様っ!」


 確認もせずに水谷はそれがなにかを察すると身構えた。


「いざっ!参りますっ!!」


 弥命が叫ぶと水谷がスカートの中からサブマシンガンを二丁取り出しフルオート射撃、岩の上に居るハティーに向かって鋼鉄の雨を降らせる

 ハティは人間にはとても真似できない軌道で岩の上を真横に走り弾丸を躱しながら駆け下りてくる


「ひゃはははははは!喰らうかよ人間っ!」


 弥命と水谷はなにかコンビネーションをやろうとしているみたいだが、構うものかとハティは距離を詰めようと走ると弾丸の雨が止む

 弾切れだろう人間の武器はこれがあるからやり易い、ハティは地面に降り立つと一気に水谷との間合いを詰める

 突進してくるハティに向かって水谷は弾切れの機関銃を投げつけるとそのまま跳躍、銃を払い除けるハティを宙返りして飛び越えた。

 ハティは水谷の動きを目で追い振り返ろうとした瞬間、咄嗟に進行方向からの攻撃を察して身を躱す。

 弥命の剣が掠め自慢の鬣が少し切られると、ハティは怒りの表情を見せ突進するのだが背後から殺気、直後背中に衝撃が走る

 水谷の持つハンドガンから放たれた弾丸二発がハティの背中に喰い込む


「て・・めえっ!味方に当たるかもしれねえのにっ!」


 ハティが言うと


「ご心配なく」


 そう言った弥命は既に射線からは外れハティの真横へと移動していた。

 ハティはすぐに距離を取ろうとするが弥命の方が早い、突き一閃、手にした剣がハティの喉元を貫いた。


 かと思われたが、ハティは咄嗟に刃に噛みつき突きを受け止める、一歩間違えばそのまま口腔を貫かれる危険もあったがあのタイミングではこの受け止め方しかなかった。

 だがその防御が功を奏す、剣よりも牙の硬度の方が勝った。

 ハティはそのまま刀身に噛みつき離さない、弥命はそれを引き抜こうとするが牙の間にガッチリと嵌った剣はビクともしなかった。

 ハティは全身のバネを使い身体を仰け反らせると弥命を上空へと跳ね上げる

 その勢いで弥命は手を離してしまうと、ハティは咢から剣を放し手に持つと上空へと突き上げた。


「このまま串刺しにしてやるっ!!」


 ― 雷光一閃 ―


 迸る雷が突き上げた剣に落雷、凄まじい電流が体中を駆け巡った。

 ハティは昏倒しそうになるがここで気を失うわけにはいかない、なんとか持ち堪えて一旦距離を取る為に後方へ跳躍するのだが着地した足元、なにか小さな丸い物体が転がる


 まさかっ!?


 気づいた時には遅かった。刹那、爆音が響き爆風と衝撃が身体を襲った。


 地面に伏せた身体にパラパラと砂利が降り注ぐ、弥命はゆっくりと立ち上がると砂埃が舞いあがる場所を見つめ傍らに転がる剣を拾いながら言った。


「やりましたね水谷さん」

「いえいえ姫様の方こそ流石です。」

「それにしてもよく、“アレ ”でわかりましたね」

「当然です姫様、適当に合わせろってことですよねっ!」


 ご名答と言わんばかりに弥命は口元に笑みを浮かべて頷く

 とは言え即興で見事なコンビネーションを見せた二人、これは当然と言えば当然なのであったりする

 幼い頃から弥命に戦闘技術を叩きこんできたのは何を隠そうこの水谷である、物心つくころからずっと一緒に鍛錬を重ね、幾度も共に修羅場を乗り越えてきた。

 阿吽の呼吸、相手がそう動くのであれば自分はこう動き、自分がこう動けば相手はそう動くだろうと言うのが最早呼吸をするかの如く自然に、瞬目するかの如く瞬時に理解し行動に移せるのだ

 はっきり言ってあのメンバーの中ではこの二人は最強のコンビと言っても過言ではない、ハティにとっては最悪のコンビが相手になったと言えるだろう

 それにしても容赦のない怒涛の攻撃に、今回の戦いに対する弥命の姿勢がうかがわれる

 全ての攻撃が確実に相手の命を奪うための一撃であり反撃の隙も与えなかった。

 手榴弾の一撃をまともに喰らったのである、いくら魔狼であっても無事ではないだろう、あとは止めを刺すだけと砂埃が晴れるのをまつのだがその向こうから複数の気配を感じる

 獣の威嚇する唸り声、辺り一帯から感じられる殺気と気配、気が付くと無数の黒い狼達に囲まれていた。


 そして取り囲む黒狼達の奥から声が響く


「ざっけんじゃねえぞクソビッチがあああっ!!勝ち誇ったツラしやがって、あれであたしを殺ったつもりかあ?舐めんじゃねえぞおおおおおっ!!」


 まさに怒髪天を突く、真っ赤に燃え盛る炎のような鬣を逆立てながらハティが吠える

 やはり間一髪爆発から逃れていたようだが、相当の深手は負っている様子両足の太ももから流れるように血を滴らせていた。

 満身創痍ではあったがハティは余裕の笑みを見せる、いくら二人のコンビネーションが完全無欠であったとしてもやはり多勢に無勢であるからだ、数十匹の獣に一気に襲い掛かられれば成す術なくその牙の餌食となるだろう


 しかし弥命と水谷は動揺した気配すら見せない

 少しでも気後れすればやられてしまう、どんな劣勢に立たされようとも戦いの最中に臆したらその時点で敗北が確定しまうことを、数々の修羅場を潜り抜けてきた二人の戦士は理解しているからだ

 それにまだ劣勢だと決まったわけではない、現状満身創痍なのはハティの方である

 獣達の攻撃さえ潜り抜けることができれば勝利は目前である、焦らずアグレッシブに、常に戦況を把握し思考はクレバーに、されども闘志は燃やせ!様々な戦いを繰り広げてきた先人達の教えである


 まるで恐れを見せないそんな弥命達の態度が気に入らないのか、ハティは歯ぎしりをしながら地面を蹴りあげる


「ああああああっ!気に食わねえ気に食わねえ気に食わねえええ!てめえっ!てめえだこの糞巫女!!なんでビビらねえっ!騙されてるってわかった時も糞みてえにつまらねえ反応しやがって!・・・・決めた。てめえは嬲り殺しにしてやる、狼達に手足を食わせた後、泣いて命乞いをするまで少しずつ少しずつ肉を引きちぎってやる」


 下卑た笑みを口元に浮かべながら下衆な言葉を吐くハティに、水谷はぶるぶると震えながら激怒する


「姫様に向かってなんということを・・・・許せませんっ!動物は犬派のわたくしであっても流石に頭にきましたっ!!」

「水谷さん落ち着いてください、ちなみにわたしは猫派です。」


 なんだか弥命までもがおかしなことを言いだしふざけている様に見えるが、これはハティへの挑発である

 これだけの数の獣を全て相手にするのは流石に無茶である、であれば本命のハティを上手く誘い出してカウンターの一撃で止めを刺そうと言う考えだ

 それにしてもどうしようもない会話に聞こえるがその下らない挑発にまんまと乗るハティ


「・・・・てめえら、ふざけてんじゃねええええええっ!!」


 叫ぶと獣達と一緒に襲い掛かってきた。


 かかった!


 この瞬間、弥命は密かに施しておいた術式を展開する

 地面に剣を突き立てると短く気合いを入れる、学校で影の軍勢に襲われた時と同じ術式

 足元に半径5メートル程の魔法陣が展開する、魔を祓い闇を滅する光の柱が空に向かって伸びる、四方から飛び掛かっていた黒狼達はその範囲内に入っていた。

 そのまま一網打尽、消滅させたかに思えたが


「させるかよおおおおおっ!!」


 ハティが両手を組み前に突き出しまるで上顎と下顎の様に大きく開くと、そこから真っ暗な闇の咢が出現する

 その闇は瞬く間に直径10メートルはある魔法陣を呑み込むほどの大きさに膨れ上がると、ハティは獣が噛みつく動作の様に両手を素早くかち合わせた。


 まずいっ!?


「水谷さん避けてくださいっ!!」


 叫ぶと咄嗟に判断し弥命と水谷は左右へ散る、二人の間を闇の咢がまるで空間を引き裂くかのように閉じ魔法陣ごと黒狼達を呑み込んだ

 公園で悠紗が撃退した狼達を呑み込んだ影、あれはハティが出したものだったことを弥命はここでようやく知る

 それにしてもあの時それを見ていなければ回避も遅れて牙の餌食となっていただろう

 上手く躱してみせたもののハティが再び同じモーションに入る、咢を開けるとその闇の中から再び黒狼達が現れた。

 まるで出し入れ自由な四次元ポケット、その闇は魔を祓う光までも喰ってしまった。


「水谷さん、一旦森の中へ入りますっ!この場所では不利です!」


 水谷も同じ考え、返事をするよりも先に二人は森の中へと駆け出していた。


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