第27話 妾は・・・超メドゥーサだ!!
悠紗は目の前にいる蒼髪の美青年を静かに見据えていた。
空間が歪み別の場所に転移されたことを神である悠紗は直感する、相手も多少驚いては居る様子だったがすぐに現状を理解すると悠紗を睨み話し始めた。
「これは、この山全体に結界を仕掛けている化け物の仕業か?なるほど、我々を個別に迎え撃つ為に随分と大掛かりなことをしたものだが、こちらとしても戦力を分散させることができてかえって好都合だな」
「ふん、別にこんなことをしなくてもおまえら程度であればわけもなかったのだがな」
そう答える悠紗であったが、実は怒り心頭
なぜだ・・・なぜ妾だけ一人なんだぼけえええええええええええっ!!あの女狐めええええええ、わざと健登と妾を引き離しただけでなく、妾だけ負担を大きくしやがってビッチがああああっ!!!
悠紗は声には出さないが地団駄を踏む、その様子を見ていたスコルが不思議そうな顔をするのだが当然わかるわけがない
「まあいい、スコルだったな、とっとと始めようではないか」
「随分と余裕だなメドゥーサ、たかが蛇一匹が狼に勝てると思うなよおっ!!」
叫ぶとスコルは凄まじい速度で飛び掛かる、悠紗はお得意の魔法を使い地面から無数の石の刃を生み出すとスコル目掛けて浴びせかける
しかしスコルはいとも簡単にこれを回避、刃を砕いていくと悠紗との間を一気につめて拳を繰り出した。
悠紗はそれを回避することもなく左手で受け止めるとそのまま掴んで離さない
スコルは左の拳を悠紗に繰り出すがそれを右手で受け止める悠紗、力比べの状態になったままその場を動けなくなる
「ぐ・・メドゥーサっ!なんだそのパワーはっ!!その細腕のどこにそんな力がっ!?」
スコルはなんとか押し込もうと両腕に力を入れ、両足を踏ん張り全体重をかけるがビクともしない、悠紗はフっと口元に笑みを浮かべると両腕を持ち上げる
「なっ!?」
スコルが驚いた瞬間、フワっとその身体が浮きあがり悠紗はその胴体目掛けて前蹴りを入れる
両手を塞がれていたためにモロに蹴りを喰らいスコルはそのまま真後ろに吹き飛び、地面に叩き付けられ数メートル転がると腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がった。
「メ・・メドゥーサ・・・おまえどうやってそんなパワーを」
「違うな、妾はメドゥーサではない」
「な、なんだと?」
悠紗はそう言うと。右手の親指で自分を差し不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「妾は・・・超メドゥーサだ!!」
「は?超メドゥーサ!?な、なんだそれはっ!?」
「いちいち説明するのも面倒だ、おまえで勝手に想像しろ」
腕を組み自信満々にスコルを見る悠紗
き・・・きまったあああああああああああっ!!言うてやった!言うてやった!いつかやろうと思っていたのだ!やったあっ!!
悠紗は某戦闘民族のツンデレ王子の真似ができてご満悦の様子であった。
しかしなぜここまでの超パワーを手に入れられたかと言うと、それはもう皆さんお察しの通り、健登の精気を存分に吸ったメドゥシアナからそれを吸収したからであった。
今の悠紗はドーピング状態、一時的にではあるが通常の状態を遥かに凌ぐ力を手に入れていた。
スコルはわけがわからない、メドゥーサはなにを言っているのだ?とにもかくにも信じられない超パワーを見せたメドゥーサは危険な相手であると察する
「どうやら、遊んでいる場合ではなさそうだな」
そう呟くと目を瞑り深く息を吸う、そして大きくそれを吐くと気合いを入れ全身に力を漲らせた。
ピリピリと張り詰める空気、スコルのオーラが闘気が膨れ上がっていくのを感じると同時に肉体にも変化が現れる、細身の優男風であった身体は筋骨隆々となり毛で覆われる、口には牙が剥き出していた。
「全力でやってるやるぜメドゥーサっ!」
「うぅむ、見た目は前の方が好みであったがまあよかろう、かかってこいっ!」
悠紗がげんなりした顔で言うとスコルが手を下に向け引っ掻くように腕を振り上げる、地面を切り裂きながら衝撃波が襲い掛かってきた。
咄嗟に真横へ跳躍回避する悠紗であったが瞬時に回り込んでいたスコルが背中に蹴りを喰らわせた。
丸太の様な脚から繰り出された蹴りの衝撃に悠紗は肺の中の酸素を一気に吐き出し地面に叩き付けられると、跳ねた身体を今度は蹴りあげスコルは跳躍して宙に跳んだ悠紗を追い越し組んだ両手を振り下ろし叩き付けた。
悠紗が落下して地面に衝突する音が鳴り響く、土を抉る程の凄まじい衝撃をその身に浴びて倒れ込む
連続攻撃を成す術なく受けた悠紗は声を上げることもできずにその場にうずくまった。
スコルは着地するとゆっくりと悠紗の元へと歩み寄って言い放つ
「ははははっ、なにをしたかは知らないがパワー勝負でこの俺に勝てると思ったかメドゥーサ?こうなったらパワーもスピードもおまえなんかとは比べ物にもならんぞ」
挑発しながら近づいてくるスコルを倒れながら見つめる悠紗、手を突き膝を突きヨロヨロと起き上がろうとするがスコルがそれを殴り飛ばす。
右フックをもろに顔面に喰らい真横へと吹っ飛ぶと、そのまま森の中へと突っ込み木々をへし折りながら飛ばされ、巨木に衝突して音を立てて落ちた。
スコルは悠紗の飛んで行った暗い森の奥を見つめながら「チっ」と舌打ちをして唾を吐くとその方向へ歩みだすのだがそこで背筋に走る悪寒
な、なんだ今のは?
これは野生の獣の勘かもしれない、見つめる森の奥から感じる底知れない力、いや、これは恐怖に近い、目には見えないがそこから流れでてくる得体の知れない恐怖の波動をスコルは確かに感じていた。
これはメドゥーサが放っているものなのか?今までの者とは比べ物にならないほどの魔力と殺気が暗闇の奥から流れ出てきている
次の瞬間、「瞬」と風を切る音が鳴る
「ぐっ!?あああああああああっ!」
叫び声をあげるスコル、腹に突き刺さった石の刃を抜き取ると握りつぶし粉々にした。
なんだ今のは?まるで見えなかったぞ?
困惑しているとまた風を切る音、今度は右肩と左足太腿に衝撃そして鋭痛が走る
「糞がぁっ!」
スコルは突き刺さった刃をまた引き抜くと砕いて地面に叩き付ける、攻撃を受けてはいるが大したダメージではない、鋭すぎる刃の傷など魔狼の力をもってすれば直ぐに塞がり回復する、こんなものを数発喰らったところでさほどの問題ではない
そう思っていると、真下から突き上げるように円錐状の棘が飛び出す、スコルは咄嗟に顎を引きスウェーバックしてそれを躱す。
危なかった。直感で躱しはしたがモロに喰らっていれば顎を貫かれるところであった。
「メドゥーサあああああああっ!!姿を見せろおおおっ!」
怒り叫ぶスコルの声が虚しく森に木霊する
当然であるが悠紗からの返事はない、尚も姿を現さず沈黙を続けたままである
「いいぜ、だったらその森を焼き払って炙りだしてやる」
そう言うとスコルは体内に力を集中させる、魔力を身体の中心に凝縮させて咢を開けると一気にそれを放出した。
― Hölle Flamme niederbrennen ― (焼き払う地獄の炎)
スコルの口腔から吐き出された巨大な火球は、木々を焼き払いながら森の奥へと飛んで行き一気に爆発する
凄まじい轟音が鳴り響き爆風で木々をなぎ倒すと辺り一面を焼野原へと変えた。
「はははははっ!これじゃあ吹き飛んじまったかあメドゥーサぁっ!?ははははっはっ!はは・・・は?」
馬鹿笑いをしていたスコルであったが炎の中に見える半球状の岩の塊に気が付く、それは恐らくメドゥーサが作り出したであろう石のシェルター、咄嗟にそんなものを作り出して今の攻撃を凌いで見せるとは、石眼の魔女の力はやはり侮れないとスコルは警戒する
「しかしそれでも、間抜けだなメドゥーサ、そんな石窯の中に居てはこの灼熱の炎で蒸し焼き、蛇の丸焼きが完成だっ!」
またも嘲笑するように笑うスコルであったが、甲高い音が鳴り響くと石のシェルターに罅が入る、緊張しそれを見つめていると石が一気に砕けて中から現れたその姿は・・・
「そ、そんな・・・・なんだそれは?聞いていないぞそんな・・・・そんな力っ!!」
スコルは恐怖した。
目の前に現れた美しい天使のようなその姿に、黄金の翼を生やし浮き上がる少女の姿、両の腕は青く輝き、魔力を帯びた左眼は紅く妖艶に光る、そして頭髪は美しい真っ白な蛇へと変わっていた。
石眼の魔女、ギリシャ神話のモンスター、メドゥーサの真の姿、それを目の前にした時スコルは直感した。
勝てない、こんな化け物に勝てるわけがない
なんだあの魔力は?強力であるとか強大であるとか膨大であるとか莫大であるとかそんなレベルの代物ではない
あれが神・・・あれこそが神の持つ魔力・・・いや神力
圧倒的な実力差を目の前にスコルは最早戦意を喪失していた。
あんなものを一人で相手にするなんて正気の沙汰ではない、妹と・・・ハティと合流して、そして父の元へ行かねば殺される
咄嗟に踵を返すと遠吠えでハティを呼ぶ、間を置かず森の向こうから返事が返ってきた。
スコルは敵前逃亡、メドゥーサの放つ魔力と殺気の前に恐れを為し我を忘れて駆け出すのであった。




