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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第26話 パパ、あのワルキューレは欠陥品なんだよ

 静かな夜


 辺りに聞こえるのは木々が夜風に揺れ囁く葉の音と、虫の鳴き声だけ

 見上げる空は満天の星、デネブ、ベガ、アルタイル、夏の大三角と呼ばれる一際明るい恒星達がその存在をまるで誇示するかのように輝いていた。

 山を降りれば街の喧騒にこの静寂も途端に打ち消され、見上げる星々の光もか細くなる

 こんな近くにあるのにまるで違った夜空が、そこには広がっているように健登には感じられた。


 弥命と二人並んでその星空を見上げていると、その静寂が突如引き裂かれる

 神社一帯にけたたましく鳴り響く鳴子の音、木と木がぶつかり合いカラカラカラと言う音が輪唱するように緊急事態を報せている


「な、なんだっ!?」


 何かが起こったことはわかるが、それがなにを報せるものなのか健登にはわからない

 それを確かめるかのように横を見ると、驚きの表情をした弥命の姿があった。


「そんな・・・ここに攻め込んでくるなんて・・・・」

「まさか、フェンリルか?」


 弥命は信じられないという表情を見せながらも、気を引き締めると健登の眼をキっと見据え重い声で告げる


「行きましょう守羽くん、いよいよ決戦です。」


 健登は声には出さず、しかしながら全身からは闘志を漲らせて力強く頷いた。



 神社内はまるで戦場であった。

 慌ただしく所狭しと駆け回る巫女達は、侵入者の、いや侵略者の存在を告げる鳴子の音に急かされる様に戦闘準備をしている

 戦いが専門ではない後方支援の巫女達は怪我人が出た時にすぐ対応できるように、弥命と同様戦闘が専門の戦巫女達は薙刀や刀や弓矢などを手に自分の持ち場へと走る

 それらを纏め指示を出すのは大巫女である東條唱の役目である、大声でありながら落ち着いた声で的確に巫女たちに指示を出す。

 まだこの神社に来たばかりの巫女達には紅葉を先頭に奥へ避難するように言った。

 それにしてもこんな事態は初めてであった。

 東條家も水谷家同様代々姫宮神社に仕える巫女の一族であるが、唱が生まれてからというかもう何百年もこんな事態が起きたなどと言う話は聞いたこともない

 アルレッキーノがこの山に侵入した時にも、結界に引っ掛かりはしたもののここまでの危険を知らせるものではなかった。

 しかし今の状況は、神社全体のアラームが侵入してきた敵が如何に強大で邪悪であるかと告げるかのように鳴り響いている


「状況を報告しなさいっ!」

「はい、大巫女様、侵入者は次々と結界を破壊しながら進行してきている模様、このままだと半刻もしない内に境内にまで辿り着くと予想されます。」

「白様の結界がまるで通じないとは厄介ですね」


 巫女長の報告に渋い顔をしながら答える唱、この山一帯には白が幾重にも結界を張り巡らせている、それこそ鼠一匹蚤一匹逃さぬようにと張られた結界は白の持つ強力で莫大な妖力によって施されたものであり、そう易々と解除、破壊できるような代物ではなかった。

 しかしフェンリルはそれをいとも簡単に次々と破壊しながら山を登ってきていると言う、神話の魔獣が振るう神器の力だからこそ成せる技であろう


 さらに巫女長が報告を続ける


「現在それを迎え撃たんと姫巫女様以下、御友人の方々とメイド長が降りて行かれました」

「白様は弥命を戦わせるおつもりなのですか、永田町からいらしている官僚はどうしていますか?」

「鷺宮様のことは心配するなと白様が仰っていました。」


 唱は弥命が戦うことを、この短期間で三度も神器を使用することを危惧したが、それを白が許可したと言うのであれば反対はできない、長考すると巫女長に告げる


「わかりました。我々は引き続き神社一帯の警護を強化、絶対にこの神社と神官様、そして白様を御守りするのです。」


 巫女長は「かしこまりましたっ!」と言うと自分の持ち場へと戻るのであった。




 弥命が先頭に立ち健登達はその後に続き山を駆け下りる、神社の境内は神聖な場所でありそこで戦闘を行うなどもっての外である、山中でフェンリル達を迎え撃とうと言うのだ

 警報と同時にクローディアと水谷も駆け出しすぐに合流すると飛び出したのだが、まるで段取りを話し合ってもいない

 敵は三人である、フェンリル、スコル、ハティ、この三人を誰がどのように相手をするか、もっとちゃんと話し合っておけばよかったのだがまさかこんなにも早く再戦になるとは、ましてやここまで攻め込んでくるなどとは考えてもいなかったのだ


「ミコット!どうやって迎え撃つ!?とにかくあの三人はバラバラにするべきだ、即興でいい、なにかいい案はないか?」


 クローディアが弥命に問いかける、当然この山中の事であれば弥命の方が詳しい、なにか相手を誘い出し個別に相手にできる地形、或いは罠などが仕掛けられていないものかと考えた。


「はい、白様の結界を解いているのはフェンリルでしょう、であれば他の二人は上手く誘い出せば結界内に閉じ込められると思います。そこで各個撃破することができれば」

「であればワタシがフェンリルの相手をする、その間に皆は魔狼の子達を撃破してくれ」

「ですがそれはっ!あまりにも危険です。」

「心配するなミコット、もう憎しみで我を忘れるような真似はしない、上手く奴を引き付けて皆と合流するまでは無理をしないと約束する」


 今の自分は散って行った仲間達によって生かされていると十分に理解している、だからこそこの命は決して無駄にはしない、必ず皆の仇は討つと強く心に誓った。


「わかりましたクローディアさん、そうなればわたしと悠紗ちゃんはハティを、守羽くんと水谷さんでスコルを迎え撃ってください」


 弥命はそれぞれの組み合わせと相手を指示する、それに健登が問いかける


「組み合わせに意味は?」

「一応相性なのですが・・・正直守羽くん以外の全員は誰でもいいんですけど、なんと言うか・・・」


 言いかけて弥命は躊躇する、なんて言ったらいいものか困ってしまうのだが悠紗が遠慮なく健登に告げる


「おまえには合わせ辛いのだっ!あまりにも考えなしに突っ込む戦闘スタイルだからな、術を駆使する弥命や石を操る妾はやり辛いのだっ!!」

「えー、なんだよそれー、結構ショックだぞっ!!」

「まあそう言うな、それを押しても尚神器の力はやはり絶大なのだ、それに水谷の老獪な戦いぶりはおまえのサポートには打ってつけでもあるのだ」

「失礼ですね、中身だけなら悠紗殿の方が上でしょう」


 まあ別に老いていると言っているわけではないのだが、悠紗もどっちかと言うと健登寄りなタイプ、と言うか基本自分中心の戦い方なのでサポート役には気の利く相手がよいのだ、と言うわけでこの組み合わせになったのである

 それにしても相も変わらず緊張感のない奴らなのだが、かえってクローディアは気負わずに挑めるような気がした。


 まるで隠す気のないフェンリルの攻撃的な気配を辿り迷路のような森を抜けると、走り出してから10分ほどですぐに相手の姿を捉えた。

 向こうもクローディア達に気が付くと余裕の表情を浮かべて立ち止まる、再び相見えるクローディア達と魔狼の一族

 距離を取りお互いが睨み合っているとフェンリルがまず口を開いた。


「よおよおよお、雁首揃えてよく来たじゃあねえかぁ、ここなら有利に戦えるとでも思ったのか?まあいい探す手間も省けたしここで闘りあおうぜっ!」


 クローディアが一歩前に踏み出してフェンリルのその挑発に答える


「望むところだフェンリルっ!今度こそおまえをこの場で滅ぼしてやるっ!!Ein Ergebnis Gungnir!」


 クローディアがその名を呼ぶと胸の中心が光り輝きそこから飛び出すグングニール、それを両手で掴み中段に構えると一瞬の閃光、白銀の鎧にその身を包まれた。


「俺達も行くぜ姫宮っ!」

「はいっ!守羽くんっ!!」


 健登は弥命の身体を抱き寄せ胸に手を伸ばすと中心が光り輝き、そこから飛び出す剣の柄を掴みアメノハバキリを引き抜いた。

 そして風をその身に纏うと刹那、黒の具足にその身を包まれた。

 それを見ていたフェンリルが感嘆の声を漏らす。


「へぇ、日本のワルキューレは神器を自分で使うんじゃねーのか、そのガキがそこまでの戦闘能力があるようには見えねえがな」


 そう言うフェンリルにハティが説明をする


「パパ、あのワルキューレは欠陥品なんだよ、自分では神器を抜けないんだってさ」


 弥命のことを欠陥品と言われ健登と水谷が憤慨するのだが、それを落ち着けと弥命本人に窘められている

 準備が整うとお互いが戦闘態勢に入る、仕掛けるタイミングを窺い誰からともなく動こうとした瞬間

 その場に居た全員が感じる違和感、まるでこれは空間全体が歪むようなズレるような感覚、前にも似たような感覚を感じたことを健登は思い出した。




 それは刹那の出来事であった。

 辺りは変わらぬ風景であるが先程までとはまるで違う場所に居るかのような感覚、視覚から得られる情報と所謂第六感「勘」が知らせるそれが全くの別物なので頭が混乱する

 現状を整理しようと思考が情報を求める、クローディアは辺りを見回していると背後から声が響いた。


「やれやれ、これは随分と手の込んだことをやってくれるじゃねえか」


 振り返るとそこに居たのは、炎の魔剣を肩に担いだフェンリル、そして対峙する黒衣の鎧を身に纏った侍


「タケトっ!!」


 クローディアが健登の名を呼ぶと、そのまま振り返らずに応えた。


「どうやら、白様がこういう組み合わせにしたみたいだぜ?クローディア」


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