表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
76/124

第25話 俺はやっぱり、なにもしないでのうのうと生きてきたんだなって思う

 そこからのクローディアの話はとても聞くに堪えない内容であった。

 エメレンツィアは幼い頃から日常的に父親から虐待を受けていたらしい、暴力などは当たり前、食事を与えられないことなどはしょっちゅうであった。

 学校にも通わせてもらえず、初等部に上がる年齢の頃には男の客を取らされた。

 そして借金のカタに売られ各地を転々としていた時に、軍に拾われたと言うのである

 しかしそれは更なる過酷な日々を彼女に強制することになる、ワルキューレの素養を認められた彼女は軍の養成施設で教育と訓練を受けるようになった。

 ワルキューレの訓練は想像を絶する過酷なものであるらしい、限界まで肉体を鍛え、極限まで精神を鍛え、戦巫女になる為に文字通り死に物狂いで訓練に明け暮れる、その先にこそようやく真っ当な暮らしが約束されているからだ

 それでも候補生全員がワルキューレになれるわけではない、限られた優秀な候補生の中からさらにたった一人だけ選ばれた者、神の代行者たるに相応しい能力を開花させた者だけがなれるものなのだ


 しかし実情はそんな栄誉あるものではなかった。

単純に戦闘能力に長け器として頑丈な肉体と精神を持つもの、それがドイツの姫巫女に必要な能力であった。

 ドイツの姫巫女は純潔であることを問わない、現代の科学力を以てして強制的に巫女の身体に神器を宿らせるのである

 それは血反吐を吐きながら苦痛に耐え、ようやく手に入れられる力であるとクローディアは語った。

 それはつまりクローディアも・・・・


 そんな地獄の日々を乗り越えてエメレンツィアはレーヴァテインのワルキューレへと上り詰める、そこから輝かしい栄光の日々を手に入れられると、彼女は自分の人生を取り戻せると思っていたのだ

 ある日彼女は新しいワルキューレ候補生達のリストに目を通す機会があり、そこで発見してしまう


 ツェツィーリア・・・自分を人買いに売った後にあの男がまた子を作り、そして軍に売ったのだ


 エメレンツィアはツェツィーリアの血液検査の時に自分のDNAと照合した結果、間違いなく彼女が自分の妹であることを確信する

 だがエメレンツィアはツェツィーリアにはそのことを告げなかった。


「エメレンツィアは、ワルキューレとして非の打ち所のない優秀な戦士だった。そんな彼女に憧れを抱く候補生は数知れず、ツェツィーリアもその一人。彼女に近づく為、いや、彼女と肩を並べて戦える、そんな日を思い描いていたのかもしれない、そんな彼女の拠り所をワタシは奪った・・・・」


 歯を食いしばり、悲痛な面持ちで言うクローディア

 それはしょうがないではないか、それならばクローディアは、それを知ってしまったクローディアは自分を諦めなければならないのか?

 そんなわけにはいかないだろう、誰もがそう思うが口にはしない、その言葉にはなんの意味もないからだ

 クローディアがグングニールのワルキューレに選ばれ、ツェツィーリアは選ばれなかった。

ただ、その事実だけしか存在しないのだから


「今になって思えば、彼女はわざとフェンリルに負けたのかもしれない、レーヴァテインを失えば、ツェツィーリアを、実の妹をこの狂気の運命から解放できるのではないかと・・・いや、或いはこれは復讐だったのかもな・・・彼女の、この残酷な世界に対する・・・」


 それは憶測である、これまでのエメレンツィアの言動から推測することはできるが、もう決して答えはでないのだ・・・


 そこまで話してクローディアは黙り込む、それを聞いていた健登、弥命、悠紗、水谷もそれぞれ神妙な面持ちで沈黙する


「これから強敵を相手にしようと言うのに士気を下げてしまった。すまなかったな、ワタシのことなら気にしないでくれ、今こうして皆と共に戦えることがワタシにとっては掛け替えないことだ、倒そう、フェンリルを、皆で力を合わせて」


 無理をしている、無理に気丈に振る舞ってみせている

 だがそれでいい、今は一人ではないのだから、ワタシは友と一緒に戦えるそれだけでなによりも心強い、一人ならばポッキリと折れてしまいそうな心の刃も今はここに居る皆が支えてくれる、ならばワタシは戦える、今度こそ・・・


「よっしゃあっ!!やるぜ、やってみせるぜっ!悩むのも悲しむのも後悔するのもっ!全部あいつらを倒してからだっ!!全部終わったら一緒に悩んでやる、一緒に泣いてやるっ、そしてっ!!」


 突然立ち上がり大声で叫ぶ健登、少し溜めてクローディアのことを優しい眼差しで見つめると


「みんなで一緒に笑おうぜ」



 健登の一言で皆が一丸となるのであった。




 ツェツィーリアの容体が気になるので様子を見に行きたいとクローディアが言うので、水谷の案内で部屋を出て行くと皆思い思いのことを始める

 悠紗はと言うと、なぜだか紅葉にえらく気に入られ、他の巫女達も加わり一緒にお菓子を食べながらカードゲームやボードゲームなどに興じている

 これから過酷な戦いが待っているかもしれないのに暢気なものであるが、弥命曰く「ああやって戦いの前にリラックスをしておくのも重要なことなのですよ」らしい、あまり気を張りすぎると本番までに疲れちゃうんだとさ

 それもそうだと思い、それならばと健登は「ちょっと夜風に当たってくる」と部屋を出る

もう夏だと言うのに山の夜は涼しい、虫の鳴き声を聞きながら縁側に腰かけて夜空を見上げていた。

 しばらくすると弥命が出てきて背後から声をかけられた。

健登が振り返ると、とても心配そうな顔で自分を見つめている


「どうしたんだ姫宮?」

「守羽くん・・・その、クローディアさんのお話で落ち込んではいないかと思いまして・・・」


 クローディアの話した内容は、日本のティーンエイジャーからすればとても考えられない内容であった。

 勿論ここ日本国内に於いても、児童虐待や児童買春などは深刻な問題である

 しかし普通に日常生活を送っている高校生にとって、「死に物狂いで毎日を生き抜く」と言う話は、やはり非日常的な話であった。

 普通に朝起きてご飯を食べて、学校で学び友達と話し遊ぶ、悩み事と言ったらテストの点数や部活動のこと、今月のお小遣いのことであったり友人関係や恋の悩み、それが普通の高校生、高校生活と言うものだ

 勉強やスポーツの成績で競い争うことはあっても、血反吐を吐きながら生き抜くために日々戦うことなんてありはしない

 でも、クローディアやツェツィーリア、エメレンツィアにとってはそれが当たり前の日常であったのだ

 そしてそれは・・・神器の巫女と言うものが皆そんな過酷な運命を背負わされているのだとしたら


「俺はやっぱり、なにもしないでのうのうと生きてきたんだなって思う」


 あの時言われたことを健登は口にする、言葉にしてから弥命自身が恥じたあの台詞

 もうすっかり忘れていたのに今になって急にそんな話をするなんて


「守羽くんそれって!もうっ、意地悪ですね」


 弥命は顔を真っ赤にしながら頬を膨らまして抗議した。


「いや、本当にそう思ったんだ、それが当たり前で、なんもしてないのに楽しい毎日が普通に送れているって、俺はどんだけ恵まれているんだろうなぁってそう思ったんだよ、それはクローディアだけじゃなくて、姫宮だってやっぱり・・・」


 ああそうか、あの話を聞いて健登は自分のことを心配しているのかと、弥命はそこで初めて気が付く

 弥命もクローディアと同じように、神器の姫巫女となるべく幼い頃から厳しい修行を課せられてきたのではないかと、そう考えたのだろう

 弥命はなんだか嬉しくなってしまう、そして同時に申し訳ない気持ちにもなってしまった。


「そんなことないですよ守羽くん、彼女達に比べればわたしなんて幸せなほうです。いえ寧ろ、恵まれすぎているくらいです。わたしは色んな人からたくさんの愛情をもらって生きているんだなと、改めて思いました。だったら今度はわたし達がクローディアさんに」


 そこまで言って弥命は驚きのあまり次の言葉が出てこなかった。

 目の前で健登が大粒の涙をボロボロと流しながら泣いていたからだ


 男の人が泣く所など初めて見た。いや、見たことはある・・・

遠い幼い頃の微かな記憶、物心つくかつかないかのそんな時期、それは出来事ではなく光景として脳裏に焼き付いた記憶

 母の告別式での場で親戚や列席者達の中にある人々の涙、でも・・・そんな時でも父は涙を見せなかった。最後まで気丈に振る舞って淡々と喪主をこなしていた。

 それを薄情なものだと言っていた親戚がいたことも覚えている、しかし最後、白様に「よくがんばったな」と言われた父は、なにも言わずに自分の書斎へと行ってしまった。

 水谷に手を引かれ見ていたその時の父の背中は、わずかだが震えていたような、今にして思えばそんな気がするのだ

 だから弥命は、男性が人前で、女性の前でこんなにも感情を露わにして泣くものではないのだと、きっと皆そうなんだろうと思っていた。


 健登は弥命の目の前であることも忘れて涙を流した。

 恥ずかしかった。女の子の前で、それも弥命の前で泣くのなんて情けないと思った。

 でも止められなかった。止まらなかった。次から次へと涙が溢れてくるのだ


「俺は、絶対に勝ちたい、クローディアの為にっ!死んでいった人達の為に絶対に仇をとってやりたいっ!だからっ!だから俺に力を貸してくれ姫宮っ!!」


 腕で涙を拭いながら真剣な眼差しで言う健登

 これは自分が悲しいから泣いているのではない、辛いから涙を流しているのではない


 これは決意の涙だ


 誰かが傷ついているのなら、誰かが悲しんでいるのなら、その誰かの為に涙を流しその人を助ける為に立ち上がろうとする決意の涙だ


 弥命はめいっぱいの笑顔でその決意に応える


「もちろんですっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ