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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第22話 おまえ、日本語ペラペラだな

 ボーリング場は凄まじい炎に包まれ真っ暗な夜空を紅く染め上げていた。

 辺り一面にはコンクリート片やガラス片が散乱し、火のついた木片がパチパチと音を立てて燃えている

 ゴオゴオと音を鳴らしながら燃え盛る炎、誰かが通報したのだろうか?遠くでサイレンの音が聞こえる、最早この中に生存者がいるとは考えられなかった。

 この灼熱の中で生存できる者がいるとすれば、それは人ならざるモノである

 その人ならざるモノ、ハティとスコルは建物の中から飛び出すと辺りを見回した。

 しかし敵の姿と車が見当たらない、既に走り去ったのだろう、スコルは念の為に周辺を捜索しに走り出した。


「パパっ!人間ども逃げちゃったよ」


 ハティは振り返りそう言うと、炎の中からゆっくりと出てきたフェンリルに駆け寄り腕に抱き付いて甘える


「せっかくパパが遊びに来たのに、あいつらすぐに逃げちゃうんだもん許せない」

「大丈夫だよハティ、あいつらの行くところなんて一つしかないんだ、焦らなくてもすぐにまた遊べる」

「うんっ!そうだよね」


 ハティの頭を撫でながらフェンリルが微笑むとハティは嬉しそうに頬を染めた。

 そうしていると周辺の捜索をしていたスコルが戻ってきて報告をする


「父さん、やはり奴らはもう居ないみたいだね、向こうの建物にいくつか人間の死体があったから子供たちに処理させておいたよ」

「ご苦労だったねスコル、今回はよくやってくれた。」


 父に褒められ誇らしげな顔をするスコル

 二人の子供を交互に見つめるとフェンリルはにやりと口元に笑みを浮かべ告げる


「さぁて、そんじゃあ行くか、狩りを始めるぞっ!女狐のいる総本山に殴り込みだっ!!」


 三人が闇夜の中へ消えるとどこか遠くで犬の遠吠えが響いた・・・




 車内のバックミラーで後方を見ると悠紗は眠っているようだ、相当なダメージであったのだろう、クローディアはツェツィーリアを膝枕して額に手を当ててやりずっと俯いている、表情は見えないが憔悴しきっている様子だ

 屋根の上にいるメドゥシアナと健登にはなにも動きはない、たぶん落っこちてはいないと思う

 そして横目でチラリと助手席の方を見やる、弥命もまた押し黙ったままで落ち込んでいる様子だ

 水谷はこの車内のどうにも陰鬱とした空気に正直耐えられなくなりラジオをつける


『先程入って来たニュースです。東京都○○区の建物で爆発音のようなものが聞こえ火災が発生しているとの通報があり、現在消防が確認をしているとのことです。現場周辺では銃声のようなものも聞こえたと言う通報が警察にも入っており、その関連性を調べているとの情報も入ってきています。』


 弥命は水谷を横目で睨みつけ「消せっ!」と目で合図する、怖い

 水谷は申し訳ないという表情をしてラジオを消した。


「こ、これからどうしますか姫様?そちらの黒髪の女性は正直危険な状態だと思います。早く医者に診せないと・・・」

「わかっていますそんなことは、このまま神社に戻ってください、既に紅葉さんにメールしてお医者様にすぐ来て頂くように手配してあります。」


 冷たい口調で言い放つ弥命に、「かしこまりましたぁ・・・」と小さく返事をして項垂れる水谷


 姫様に冷たくされた姫様に冷たくされた姫様に冷たくされた・・・・・くすん


 神社に着き敷地内にある弥命の住まいの前に車が止まると、ぞろぞろと巫女たちが出てきた。

 重傷者が居るのですぐに対応できるようにと紅葉が手配してくれていたのだ

 巫女たちは慣れた動きでツェツィーリアを担架に乗せると建物の中へと急いで行った。

 その様子を心配そうに見つめていたクローディアに弥命が言う


「心配しないでください、大丈夫です。ここには外科手術のできる設備も整っていますから、あの巫女達も皆医療の資格を持っている者達です。すぐに医者(せんせい)が対応してくれます。」

「すまない・・・ミコット」

「気になさらないでください、さあ、クローディアさんも中へ、今はとりあえず身体を休めてください、ここには白様がいらっしゃいますから奴らもそう易々とは手出しをできません」


 奥の間へ通されると皆一様に息を吐く、弥命は「少しここで休んでいてください」と言い残しどこかへ行ってしまった。

 健登とクローディアは座布団の上に座り黙ったまま、外から虫の鳴き声が響いてくる

 部屋の中に流れる静寂のひと時、メドゥシアナの膝の上では悠紗が「すぅすぅ」と寝息を立てている、いつもは喧しいのが眠っているとかわいらしいものである

 その様子に少し気も休まるのだが、やはり気分が晴れるものではない

 当然である、クローディアはまたも仲間を失い、健登は人の死を目の前でまざまざと見せつけられたのだ

 あんな光景はそうそう慣れるものではない、水谷や弥命であっても気が滅入ってしまうほどの惨状であった。

 健登は人の命が簡単にも消えていくあの光景に深い悲しみを、そしていとも簡単に命を奪った魔狼達に憎しみを抱いた。


 暫くすると悠紗が目を覚まして伸びをすると身体を起こし、目を擦りながらメドゥシアナに問いかける


「んっ、ん~っ!よく寝たわ、妾はどれくらい寝ておったのだ?」

「1時間くらいですよメドゥーサ様、お身体の具合はどうですか?」

「ふむ、左腕がない以外は大分よくなったかな」


 クローディアが悠紗を見つめ申し訳なさそうな顔をしている、それを見て悠紗は満足げな顔をすると、意地悪に口元を吊り上げて言った。


「うむうむ普段からそれくらいしおらしくしていれば、可愛げがあって良いぞクローディア」


 そう言われて、しゅんとしてしまうクローディアであったが、横で聞いていた健登がようやく口を開く


「あんま意地の悪い言い方すんなよ悠紗、クローディアだって悪気があったわけじゃないだろ」

「いいんだタケト、どんな理由であれワタシがユウサの命を狙ったのは事実だ・・・」


 それはそうだが、健登の性格上やはり責められているクローディアを庇ってやりたくなるのだが、調子に乗った悠紗が尚も喋り続ける


「そうだぞ妾はたまったもんではない、ときにクローディア、おまえと戦っている時にずっと思っていたのだが・・・」

「はい?」

「おまえ・・・」


 もったいぶる悠紗にクローディアと健登は唾を呑みこんだ

 なんだ?悠紗はまだなにか勘ぐっているのか?それともワタシの戦い方になにか癖や弱点があったのか?クローディアはドキドキしてしまうのだが、悠紗の口から出た言葉はまったくもって予想もしない、と言うかどうでもいいことだった


「おまえ、日本語ペラペラだな」


 そう言われれば・・・健登は言われてようやく気が付く、片言ではなくなっているしデスマス口調でもなくなっている

 一応あれはクローディアなりの留学生風を装った演技だったらしいのだが、まあ一応皆なにも疑問には思わなかったしそれなりに効果はあったのかもしれない、それにしてもベタすぎる


「いや、それはあのその・・・はい・・・喋れます普通に・・・」


 恥ずかしそうに顔を赤くして俯くクローディア、なんでそんな意味のない演技をしていたんだか、健登達はなんだか可笑しくなり


「「「・・・ぷっ・・・・あははははははははっ!!」」」


 三人同時に笑い出した。


「本当におもしろい娘だなおまえは、しかもな健登、こやつは戦っておる時におまえでもやらなかった必殺技名を叫ぶのだぞっ!もうケッサクであろう?」

「なんだと?マジかよっ!?」

「なっ!?あれはおかしいのか?普通そういうものではないのかっ!?」


 クローディアは愕然としながら言う、一体なにが普通なのかはよくわからないけれど、クローディア的にはその方がなんとなく技をイメージしやすく出しやすいらしい

 ニヤニヤしながらなんて言う技名なのか教えろと迫る健登に、クローディアは真っ赤になりながら教えられないと恥ずかしがる

 悠紗は立ち上がるとそんな二人の元へ歩みより、共に頭を抱き寄せる

 突然の悠紗の行動に驚き胸の中でクローディアと健登は赤面した。


「よく妾達の元へ戻ってきたなクローディア、妾はこうしておまえらと笑っている時が今は一番幸せなのだ、おかえりクローディア」


 まったく、こういう所が悠紗の憎めないところであり、皆が頼りにし信頼を寄せるお姉さんであったりするのだ

 こんな時は本当に女神様に見えてしまうから不思議である

 健登は小さく微笑み悠紗に言った。


「おまえってほんとズルいよな」

「ふふふ、健登・・・女というのは皆ズルい生き物なのだ」


 不敵な笑みを浮かべて言い放つ悠紗であった。

 クローディアは悠紗の胸の中で震えながら「ほんと・・・ズルい」と小さな声で言った。


「やれやれ、よく泣く娘だな・・・さて」


 悠紗がおもむろに部屋から出て行こうとするので健登が声をかける


「どこ行くんだよ?便所か?」


 その言葉に女子二人は冷たい視線を健登に浴びせる


「レディーに向かってそういう事を言うなと、昼間芳乃に散々叱られたのをもう忘れたのかおまえは?」

「タケトはいつもこうなのか?ちょっと幻滅だ」


 ほんとごめんなさい


 悠紗は庭に出てくるりと辺りを見回し何かに気が付くとすたすた歩きだす、そして適当な大きさの石の燈籠の前で立ち止まると左腕を翳した。

 すると燈籠がまるで泥のようになり、肘から先の無くなった悠紗の腕にくっ付くとあれよあれよと形を成し元通りになった。

 悠紗は二~三度手を開いては握り、大丈夫なことを確認する


「これで元通りだ」


 その様子を見ていたクローディアは目を真ん丸にして仰天してしまっている、健登は損壊した肉体が回復してみせるのを、前回見ているのでそれほど驚きはしなかった。


「これをやるとだいぶ魔力を消耗するので疲れる、メドゥシアナそろそろおまえも戻れ」

「わかりましたメドゥーサ様、それでは最後に・・・」


 そう言うと「かぷぅ」と健登の首筋を齧りちょっと精気を吸う

 クローディアはびっくりしてなにかいけないものを見ているような、そんな気持ちになり赤面している


「なにをしているのだおまえはっ!とっとと戻らぬかああっ!!」

「メドゥーサ様の為にやっているのにぃぃぃい」


 メドゥシアナは怒られて泣きながら白蛇の姿になると、するするするっと悠紗の頭へと戻っていくのであった。


「まったく、主の旦那様にあんな不埒な真似をするなど・・・・」


 ドクンッ!


「な・・・なんだ・・これは?」

「どうしたんだ悠紗?」


 突然悠紗がなにやら困惑したような顔になり固まってしまう、心配になり健登が声をかけると驚きの声をあげた。


「うっ・・・うぉぉぉっ!?ファイトオオオオオオオいっぱああああああつ!!なんだこれは?力が!魔力が漲ってくるぞおおおおおっ!!」


 栄養ドリンクのCMの真似をする悠紗、どうやら健登の精気をたくさん吸ったメドゥシアナが戻ったおかげで、悠紗自身もその恩恵に与れたのかめちゃめちゃ元気になったらしい


 とにかく元気になってよかったね


 そんなこんなで庭で大騒ぎをしていると弥命が戻ってきた。


「なにを騒いでいるのですか?・・・・って、あああああっ!どうしたんですかそれえっ!?」


 半分ほど欠けてなくなっている燈籠を指差して絶叫する、クローディアが説明すると弥命は困ったような表情をしながらも渋々納得する


「それ結構高いんですよぉぉ、また大巫女様に叱られてしまいます」


 大きなため息を吐き項垂れながら皆に部屋に戻るように促した。


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