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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第21話 女の子を泣かせるものじゃないですよ

 レーヴァテイン


 北欧神話に登場する炎の魔剣、とは言うものの神話内では剣とは明確には記載されていないなにやらよくわからない武器であるらしい


 弥命の言葉に健登は驚く


「なんで神器をあんな奴が!?」


 健登のその言葉は耳に入っていないのか、弥命はこの信じられない状況に驚きながらも合点がいった表情で呟く


「やはり・・・そういうことか、ドイツの隠したかったことはこの事態だったのですね」


 弥命一人が納得いった様子に健登も悠紗も少し苛立つが今はそんな場合ではない

 敵も神器を使えるとなると条件は五分と五分、いや、相手は北欧神話に於いて神々に災いをもたらし世界を滅ぼしたとされる魔獣、武器が一緒なら扱う者のレベルがだんちのフェンリルの方が圧倒的に有利であろう


 先程の健登の疑問に答えたのはフェンリルであった。


「なぜ俺がこれを使えるかって?おいおい、魔獣だと使えないなんて言う理屈がどこにあるんだよ?と言うかこのレーヴァテインは俺の父親でもあるロキが鍛え上げた剣だぜ、その息子である俺が扱えない道理なんてないだろう」


 これは事実である、ラグナロクの際に地上に現れた魔獣フェンリル、大蛇ヨルムンガンド、そして死者達を引き連れたヘル、これらは皆兄弟であり神であるロキが巨人族の女に産ませたものだと言う神話だ


 生まれや血筋などどうでもいい、今敵が目の前でその神器を振るって見せたのだ

 相手の実力は計り知れない、ハティやスコルもいる、獣の群れも、人間側は総崩れ最早これは戦いにすらなっていない一方的な殺戮の状態だ

 フェンリルは地面に突き立てた剣を今一度引き抜くとその力を誇示するかの如く振り上げて叫ぶ


「魔獣の振るう魔剣の威力っ、今一度味わって見ろっ!ゲイレルルっ!!」


 振り下ろそうとした瞬間、重い衝撃音が鳴り響きフェンリルの頭が後ろへ弾かれた。



                ※



 水谷はこの大口径の対物ライフルの見た目からは、想像もできない反動の小ささに感嘆の声を上げながら再びトリガーを引く


「凄まじいライフルですねこれは・・・バレットM82、アメリカ人の作った銃とは思えないほど繊細かつ大胆な一品です。」

「正確にはM95、M82A1をさらに小型化した目的使用は対装甲車狙撃銃だ・・・」


 水谷の後方で壁に寄りかかって座り込み、腹を押さえながらヘイヘ軍曹が説明する

 ライフルの講習を受けたのは確か湾岸戦争のあった頃だったか?そんな後継機知らないもん!と思う水谷であった。


「それにしても驚いたな、日本のメイドは可憐な外見とは裏腹に銃火器まで扱えるのか」

「まあ、可憐だなんてお上手ですね、こう見えて私、子持ちの人妻なんですよ」


 照れながら引き鉄を引く水谷

 ヘイヘは口元に笑みを浮かべると付けていたインカムを取り水谷に投げて渡す。

 それは血糊でべっとりと濡れていた。


「汚れていてすまないな・・・うちの指揮官と繋がっている、事情は説明しておいた。それであんたのところのお姫様と話しができる」


 水谷は血で汚れることも気にせずに「感謝します。」と一言告げるとそれを耳にかけて呼びかける


「姫様!」



                ※



 対物ライフルの銃弾をその身に受けて仰け反るフェンリル、普通の人間であったら上半身が吹き飛ぶ程の威力を喰らいながらも、フェンリルは衝撃でその場に釘づけになる程度だ

 父を守るためにハティとスコルが動こうとするも、ロンメルとエルンストが銃撃それを牽制する


「ミコトヒメミヤっ!きみを呼んでいるっ!!」


 そう叫んでロンメルはインカムを投げてよこした。

 弥命はロンメルから受け取ったインカムを付けると水谷が呼びかけていた。


『姫様!聞こえますかっ!?』

「水谷さん!?これは一体?」

『姫様!状況は把握しています。ここは私が援護しますのですぐにその場を離脱してくださいっ!』


 その言葉に弥命は瞬時に状況を理解すると皆に駆け出すように言う


「行きますよ守羽くんっ!!クローディアさんっ!水谷さんが援護してくれていますっ!チャンスは今しかないですっ!!」


 尚もその場に留まろうとするクローディアであるのだが、ロンメルが歩み寄り頭の上にポンと手を置くと今まで見たこともないような、まるで我が娘に優しく語りかける父のような表情で言った。


「行きなさいクローディア、おまえが、おまえさえ無事で居てくれれば私達はそれで満足だ、おまえがこれから先の人生も、友人達と笑いあい、生きていてくれることこそが我々の願いなのだから」

「そんなことできませんっ!それならワタシも一緒です!!部隊の皆がっ、家族が一緒にいてくれなければ!そんなの嫌だっ!!」


 駄々をこねる子供のように叫ぶクローディア

 それを見ていたルーデルが銃を撃ちながらいつものようにクローディアに言う


「クラウっ!誰が死ぬって言った!おまえは先に帰って飯でも作って俺たちの帰るのを待ってろって言ってんだよっ!!一番年下なんだから言うこと聞きやがれっ!!」


 続いてエルンスト


「少尉っ!!我々の退路はあなたが作っておいてくださいっ!!この場を切り抜けても帰れる場所がなければ意味がありませんっ!!」


 後輩で年下であっても上官のクローディアにはいつものように敬語のエルンスト

 他の隊員達もクローディアの名を呼び自分達も後から行くから心配するなと言う


 前もそうだったんだ・・・皆あとから必ず戻ると、しかし誰も帰っては来なかった・・・ワタシ一人だけが生き残って・・・誰も帰ってこなかったんだ


 そして、唇をわなわなと震わせて今にも泣き出しそうなクローディアにロンメルが告げた。


「ÜberlebenGe liebte Tochter・・・・行け少尉っ!これは命令だっ!!」


 その言葉に震える涙声で「ヤ・・・ヴォール」と言うと、クローディアは弥命達と共にその場を後にする

 振り返り出入り口へ駆け出そうとすると目の前にフラフラと歩いてくる人物、獣達の襲撃を受けて血塗れになりながらも逃げおおせたツェツィーリアが、クローディアに銃口を向けて引き鉄を引くが銃弾は逸れる


「行かせるかよクローディアっ!!この場でおまえを殺して、わたしがゲイレルルになるのだっ!!グングニールのワルキューレになるんだあああっ!!」


 どこを見ているのかもわからない視点の定まらない眼つきで、狂ったように笑いながら再び引き鉄を引こうとすると、真横から現れた何者かに手にしていた銃を蹴り飛ばされ、そして当身を喰らうと気を失いその場に頽れた。


「メドゥーサ様!遅くなりました。」

「どこで何をしておったのだメドゥシアナ!それにその姿っ!さては健登の精気を吸ったなきさまあああっ!!」


 たとえ自分の分身であっても浮気は許さない、メドゥシアナは「仕方なかったんですごめんなさああああい」と謝っている


 クローディアは気を失っているツェツィーリアに歩み寄るとその場で膝を突き彼女の頬をそっと撫でた。

 そして皆の方に振り返ると頭を下げて懇願する


「頼む・・・彼女も一緒に連れて行ってくれ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「走れ走れ走れっ!獣達が追ってくるぞっ!!」


 言われなくても分かっている、悠紗の言葉に皆が心の中で突っ込みながら全力で出入り口に向かって走る


「前みたいに石の刃でなんとかしろよっ!」

「馬鹿者っ!あれはああいう袋小路だからできたことだ、こんな場所で足を止めたらあっという間に囲まれて奴らの餌食だぞっ!!」


 ごもっともと思いながら走る健登、前には悠紗、弥命、クローディア、そしてツェツィーリアを肩に抱えるメドゥシアナ、自分が一番後ろなのでもう必死だ

 遊技場の出入り口から出るとエントランスを駆け抜ける、弥命が最後の呪符を地面にばら撒くと、後から追ってきた獣たちが見えない壁に阻まれるようにそこから先へは進めなくなる

 その隙に再び走りだすと入り口に止めて置いた車に駆け込む、破壊されていなかったのは助かった。

 助手席には弥命が、後部座席にはクローディアとメドゥシアナがツェツィーリアを放り込み、続いてメドゥーサが乗り込む

 そして健登の襟首を掴んでメドゥシアナは屋根に飛び乗った。


「また俺はここかよおおおおおっ!!!って誰が運転するんだっ!?」


 しまった!と言う顔をする弥命、ゆっくりと後ろを振り向き微笑むと


「誰か運転免許持ってません?」


 健登と悠紗が青褪めどうすんだよおいおい、と思っていると、後ろのクローディアが呆れた声を上げる


「ええいっ!ミコットは天然なのか?てっきり自分で運転するものだと思っていた。ワタシが運転するっ!!」


 さすが軍人、まだ18歳前なのに車の運転もできるんですねすごーい!


 クローディアは運転席に乗り込むと刺さりっぱなしだったキーを捻りエンジンをかける、サイドブレーキを下しギアをドライヴに入れる、ブレーキを開放し、アクセルを踏み込んで車は急加速すると走りだした。


「クローディアさんっ、隣の別棟にいる人を回収してくださいっ!狙撃援護をしてくれていたわたしの護衛が居ます。」


 水谷とインカムで通信していた弥命がクローディアに言う

 フェンリルを狙撃していた銃は威力から見るに対物ライフル、ヘイヘの持っていたM95ではないのか?クローディアは咄嗟に思い出す。


「まさか・・・ヘイヘの使っていたライフル・・・ミコット、その人に尋ねてくれっ!!そこにドイツ人の狙撃兵は居なかったか?」


 クローディアの問いに弥命は逡巡するも、ボソっとインカムに向かって呟く、そして暫く押し黙っていたのだが残念そうに俯くと告げた。


「・・・ヘイヘ軍曹は殉職されました。別のドイツ兵の襲撃に合っているところに水谷さんが駆け付けたのですが、腹部に銃弾を受けていたらしく・・・水谷さんは最後まで気丈に振る舞う立派な軍人であったと言っています・・・」


 クローディアは「そうか・・・」と呟くとハンドルを強く握り締め、ただじっと前を見つめ運転を続けた。



 隣の棟の駐車場に着くとメイドが駆け寄ってくる、運転席のドアを開けるとクローディアと運転を代わると言うのだが、その時に水谷がクローディアに話しかける


「クローディア殿ですね、ヘイヘ殿のお言葉です。必ず生きてくれ、生きて幸せになってくれ・・と、これはあなたに渡しておきます。」


 水谷は右手を差し出すと握っていたものをクローディアに渡した。

それはヘイヘの認識票であった。

 クローディアは「ありがとう・・・」と呟きそれを受け取り両手で握りしめると、俯き小さな泣き声を上げる

 座席を代わろうとしたその時、ズンという衝撃と凄まじい爆発音が響いた。

 振り返るとボーリング場の建物が凄まじい炎と黒煙を上げている、まるで空爆でも受けたかのようなその光景に誰もが息を呑んだ


「そんな・・・・たい・・・・さ・・・・皆が・・・いやああああああっ!!」


 クローディアが悲鳴を上げる


「姫宮・・・やっぱり戻ろうっ!!次々と人が死んでいくっ!あんな奴をこれ以上好き勝手にさせるわけにはいかねえっ!俺がやるっ!俺が何とかして見せるからっ!!」


 健登は車の屋根から飛び降りると助手席に座る弥命に向かってそう言うのだが、その様子を皆が黙って見つめ弥命の反応を待つ、弥命は健登の方を見ると怒りの表情を見せ声を荒げた。


「いい加減にしてください守羽くんっ!!あなたの我儘でここにいる皆を死なせたいのですかっ!!」


 健登と弥命の夫婦喧嘩がまた始まる、戦いの時にはいつもこうなってしまうのか?水谷はしょうがない子達だと思いながらも、目を伏せ黙って聞く


「平気そうな顔をしているけれど悠紗ちゃんだって疲弊しているのですよっ!」


 後部座席を見ると、辛そうに座席にもたれ掛り肩で息をする悠紗の姿が見えた。


「お・・俺は・・・俺はただ人を助けたくてっ!」

「守羽くん言ってたじゃないですかっ!!ごめんって、わたしの気持ちも考えるべきだったって!あれは嘘だったんですか?わたしだって、自分の命惜しさに逃げようって言っているんじゃないです。わたしにはなによりも優先しなければならないことがあります!それは悠紗ちゃんのことでありクローディアさんのことであり、守羽くんのことでもあるんですっ!!辛いのはわたしだって一緒ですっ!!!どうしてわかってくれないの・・・ばかぁ・・・」


 捲し立てる弥命であったがしまいには泣き出してしまった。

 健登は何も言い返せず握り拳を作り歯を食いしばり俯いている


「もうそれくらいにしておけ馬鹿者ども・・・・メドゥシアナ」


 呆れる声で悠紗が言うとメドゥシアナが屋根の上から健登を引っ張り上げる、そして車が発進するとうつ伏せに叩き付けて顔を屋根に押し付け言い放った。


「あれはあなたが悪い、反省してください。女の子を泣かせるものじゃないですよ」


 健登は目を逸らし小さな声で「・・・ごめん」と呟いた。


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