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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第19話 安心しろクローディア、国なら守ってやる、このわたしが新たなゲイレルルとなってな

 とにもかくにもこれにて一件落着、と言うわけにもいかない

 日本政府とドイツ政府の密約を反故にしてしまったのである、いくら白を騙して交わされた約束だとは言え、それならしょうがないよねなんてことにならないのは当然だ

 今この事態をなんとかしようと白は、永田町の官僚達を呼び出して話をしている所だ

 ここに来る前に弥命が一戦終えてきていることを当然知る由もない健登と悠紗であるが、もう一つどうしてもハッキリさせておかなければならないことがある

 悠紗がそのことをクローディアに問う


「してクローディア、すべて話してくれるのであろうな?今さらそれは話せないなんて言うのは通用せんぞ」


 それは健登も弥命も同じ思いであった。

 クローディアが涙しながら叫んだあの言葉、ユウサやタケトを傷つけてしまったことを悔やむのと、自分を守るために仲間達が死んでいったというあれはなんのことなのか

 ひょっとするとそれは、今回の件に繋がる重要な動機なのではないかと、悠紗と弥命は考えていた。

 クローディアは観念したように頷くと真剣な眼差しで三人を見つめる


「わかりましたユウサ、でもワタシは・・・それでもワタシはドイツ国のワルキューレ、やはり祖国を裏切るわけにはいかない・・・」

「本当に頑固な娘であるな、であれば話せるところまででよい、話してみよ」

「ありがとうユウサ・・・奴が復活したのは今からもう半年前になる」


 唐突に話し始めるクローディア、奴とはフェンリルのことであろう、それにしても半年も前にすでに復活していてその頃から追い続けているとは、まったくもって想像もしなかった。

 悠紗と弥命は固唾を飲んでクローディアの話に耳を傾ける


「フェンリル復活の報を受けたワタシの所属する部隊は、すぐに討伐の命令を受け派遣された・・・そこで・・・」


 クローディアは深く息を吸い、大きく吐き出すと震える声で続ける


「そこで、ワタシを除く全ての隊員が戦死した・・・・」


 全滅・・・そのことだったのかクローディアの言っていたことは、しかし悠紗はどうにも解せない


「グングニールを手にしていたのにか?」


 この疑問は当然である、いくら敵が強大だったとしてもクローディアが振るうのは北欧神話の主神の力を宿す最強の槍である

 ましてや健登のようなド素人の振るうそれではなく、その槍の力を最大限に引き出すことのできるように訓練されてきた戦巫女(ワルキューレ)

 仮に勝てなかったとしても、クローディアを除く全ての隊員が殉職すると言う憂き目を見るなどとは到底思えない、指揮官が余程の無能であったのか?とさえ勘ぐってしまう

 弥命も同じことを考えたのだろう悠紗の後に続けて質問をする


「クローディアさん、それはフェンリルが、グングニールに、神器に匹敵する力を手にしていると考えてもいいと言うことでしょうか?」


 クローディアは小さく頷くと小さな声で答えた。


「肯定だ・・・それは・・・奴が・・・・」


 クローディアは逡巡する、恐らくそれがドイツ政府の隠したかった真実なのであろう

 神器に匹敵する力を持つ、どういうことなのだろうか?神以外にそのような力を易々と行使できるとは考えられない

 この世には魔力や霊力、氣力や妖力などを備えた様々な武器、道具、魔器などが存在する

 弥命の扱う呪符や霊剣などもその類だ

 しかしそれらであっても、神の力が宿る神器に匹敵する物などそうそうにありはしない、そんな物が存在するとしたらそれはもう悪魔の力を宿した物だ

 そんな物を、或いは力を、フェンリルが手にしていると言うのであればそれは一大事だ

 そしてそれを討ち損じ逃してしまったのである、それも極秘にしていたグングニールを使用してだ

 そんな失態をドイツ政府がひた隠しにしたいのは納得できる

 そこで弥命はピンとくる、まさかと思うが、その推理が正しいとなればこれはとんでもないことであるのだが、しかし考えれば考えるほどにその考えが一番道理を得ているように感じられてきてしまう、それを確認しようと弥命はクローディアに再度問いかける


「クローディアさん・・・それはまさか、ドイツ国が所有しているもう一つの・・・」



 パァンっ!!


 弥命がそれを口にしようとした瞬間鳴り響く銃声

 その音に皆が振り返ると眩い光が遊技場全体を照らす、まだ電気が生きていたのか、と健登は驚くがそんなことはどうでもいい

 目が暗闇に慣れていたせいか酷く眩しい、視界が白くぼやけて見える

 銃声のした方向、天井に向けて発砲したのだろう、掲げる右手にはハンドガンが握られている、その人物はゆっくりと四人に歩み寄ると力強い声で言い放った。


「そこまでですゲイレルルっ!!それ以上は国家の機密情報になります。それを漏らすことは重大な国家反逆罪にもなりかねませんよっ!!」

「ツェツィーリアっ!?」


 声の人物にクローディアは驚きその名を叫んだ

 皆の見つめる視線の先に居たのは、黒髪おかっぱ頭で薄いそばかすの浮く少し幼さを残した顔の少女、当然クローディア以外は面識もないので呆然とするが、クローディアの反応になにか予定外の事態が起こっていることは理解する


 なぜツェツィーリアがここにいる?彼女は後方支援のはず、こんな前線にでてくることなどありえない、ロンメル大佐の指示なのか?いや、そもそも大佐の姿が見えない、他の皆も、どういうことだ?部隊になにがあったのだ?


 突然の事態に混乱するクローディア

 

「こんな所でなにをしているのだツェツィーリア!大佐の命令かっ!?」

「いいえゲイレルル、これは准将の命令です。」


 そう言いながらツェツィーリアの持つ銃口がクローディアに向けられた。


「な、なにをしている?ツェツィーリ・・・・軍曹っ!上官に向かって銃口を向けるとは何事だあっ!!!」


 ツェツィーリアの信じられない行動に一瞬動揺するが、クローディアはすぐに気を引き締めすさまじい剣幕で詰問する

 しかしツェツィーリアは意にも介さない様子、淡々とクローディアに告げる


「軍法会議にでもかけますか?どうぞお好きに少尉、ですが私はその軍から密命を受けてここに来ています。今私があなたにこうして銃を向けているのも、軍の為、国の為、下手をすれば軍法会議にかけられるのはあなたの方なのですよ」

「ワタシが?なぜ?」

「当然でしょう?極秘のハイリヒヴァッフェ・グングニールを手にしながらフェンリルに敗れ、メドゥーサを討ち損じ石眼を手に入れる事も出来ず、日本の姫巫女にその無様な姿を晒し続けているんですよ?これは国辱です。国の威信を守れなかったあなたが責任を問われるのは当然でしょう」


 クローディアにはツェツィーリアが何を言っているのか理解できない、なぜ自分が軍法会議にかけられなければならないのか?どうしてあのツェツィーリアが自分に向かってあんなことを言っているのか、まるでわからなかった。

 健登達もわけがわからない、当然である、知らない人が突然現れてクローディアと言い争いになり、少尉だの軍曹だの国家反逆罪だの軍法会議だの、わかるわけがない

 とにかく黙って事の成り行きを見守るしかないのだが、ふと悠紗を見るとなにやらそわそわと落ち着きのない様子

 逆を見ると弥命はどちらかと言うと自分寄り、困惑した表情でこのわけのわからない状況をどうしようか悩んでいる様子だ

 そうしていると、悠紗がシャツをつんつんと引っ張って小さな声で健登に言ってきた。


「まずいぞ健登嫌な予感的中だ、囲まれている、兵隊どもは気づいていないぞ」

「どういうことだ?」


 しかし悠紗は黙り込み再びクローディア達の方を見つめている、なにやらあちらに動きがあったからだ

 遊技場の入り口から数人の男達が現れる

 頭の上に両手を乗せ後ろから銃を突きつけられているのは、ロンメル、ルーデル、エルンスト以下他に3名、HWSの面々であった。

 他にも十数名、こちらは恐らくツェツィーリア側、少し離れた所から囲むように健登達に向け銃を構えている


「大佐っ!?一体これはどういうことだツェツィーリアっ!?なぜ大佐達が諜報部の者達に拘束されているっ!!」

「ははははっ!本当にまぬけなワルキューレだなおまえは」


 突如口調の変わるツェツィーリア、その顔は今までのような無表情で感情のない顔ではなく、まるで人を見下し嘲笑するかの表情であった。

 ツェツィーリアは自分の思い通りにいっているこの状況が愉快で仕方がないのか、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている


「諜報部も確証がなく疑ってはいたのだが、まさか本当にメドゥーサの石眼が使えないとはな」

「な・・・んだと?諜報部は知っていたのか!?なぜ黙っていた。」

「必要ないからだ、石眼が使えようが使えまいがおまえらはただメドゥーサと戦いその首を獲ればいいっ!それなのにこの体たらくっ、最終的には日本のティーンエイジャー共に感化されてそのザマだ!きさまには心底呆れるよゲイレぇルルぅっ!!」


 馬鹿にするかのようにゲイレルルの名を口にするツェツィーリア、その豹変ぶりにクローディアは信じられないものでも見るかのように、困惑した表情でツェツィーリアを見つめる


「その表情(かお)だっ!!おまえのその顔が昔から大嫌いだった!!私になにを重ねているのだクローディア?会ったことも言葉を交わしたこともない妹の姿でも見ているのか?私がおまえの意にそぐわない行動をするといつもそうだった!!ツェツィーリアはそんな子じゃない、ツェツィーリアはいい子なのよ、わたしの大切な友人だから、かわいいツェツィーリア、わたしのツェツィーリア、反吐がでるっ!!結局そう言いながらおまえは仲間を友人達も裏切りっ!皆を蹴落として踏みにじってその座に着いたのだろうっ!!違うかああっ!!」


 狂っている、ツェツィーリアはまるで一人芝居でもするかのようにころころと表情を変え声色を変え、クローディアを嘲弄するかのような態度を取ると一変、烈火の如く怒りだし責め立てる


「なんだあれは?気味の悪い娘だな」

「黙ってろ悠紗、聞こえたらなにされるかわかんねえ、相手は銃を持っているんだぞ」


 ヒソヒソと話す健登達であったが、その様子に気づいたツェツィーリアが悠紗に銃口を向けると問いかける


「なんだメドゥーサ?なにか言いたいことでもあるのか?」

「ふむ、おまえ達がどうなろうと妾にとってはどうでもいいことなのだが、ここは一旦その馬鹿げた一人芝居を切り上げてお開きにしないか?このままだとここにいる者達、根こそぎやられるぞ」


 瞬間、破裂音と共に銃口から吹き出すマズルフラッシュ

 ツェツィーリアの持つ銃から放たれた弾丸が悠紗の顔の横を掠めるが、悠紗は瞬き一つ慄きもせずツェツィーリアを見据える


「次は当てるぞ?あまり人間を舐めるなよ魔女」


 クローディアはツェツィーリアの言葉に呆然として立ち尽くし、最早パニック状態であった。


 ワタシが・・・皆を裏切った?踏みにじった?なぜ?・・・確かに、ワルキューレ候補生の中でこのグングニールを手にできるものはたった一人だけ、いくら取り繕おうともワタシが今それを手にしていると言うことは他の候補生達を蹴落としたと言うことだ

 しかしそれは誰もがわかっていたこと、全員が全員仲良く手を繋ぎゴールなどできやしないのだと、それでも日々競い合いぶつかり合い切磋琢磨して厳しい訓練を乗り越えてきた。たとえこの中の誰か一人だけしかワルキューレにはなれないとしても、その誰かの為に皆、日々を乗り越えてきたのではないか?


「ツェツィーリア・・・わからない、どうしてしまったの?」

「どうもしていないよクローディア、わたしは初めからこういう人間なんだよ!今回の件はグングニールのワルキューレ・ゲイレルルの敗北と、おまえ以外のHWS隊員の全滅によって終結する、二度にも於けるフェンリル討伐の失敗とグングニールの敗北は、ドイツ軍並びにドイツ国への汚名を着せることになるだろう、おまえらを管轄する作戦部の権威は失墜、そしてHWSは解体、この一件を水面下で収束させた諜報部がその後を引き継ぐと言うのがグデーリアン准将の書いた筋書きだ」

「グデーリアン准将・・・だと?」


 そんな人物が絡んでいただなんて、准将は軍部のパワーバランスを根底から覆すつもりなのか?

 そもそも今回の一件は軍の上層部が起こした失態から始まったことだ、その尻拭いを買って出たのが作戦部、現実問題それに対処できるのがHWSしかいないと言うのもあるが、これには上層部も頭が上がらないのは当然、ハイリヒヴァッフェを有する実行部隊が軍内部に於いても発言力が非常に大きくなりつつあった。

 そんな作戦部を目の敵にしていたのだろう、諜報部の将官が一計を案じ作戦部の失墜を狙ったのだ

 弥命が「なんという恥知らずなことを・・・」と苦い顔をしているのだが、あまりにも難しい話の為健登はまったく理解できない


「国家の存亡のかかった戦いなのだぞ・・・それを・・・国の威信の為にどころか、軍内部の政争に利用するなどと・・・馬鹿にするなああああっ!それでは国を守るためっ!国民を守るために死んでいった者達が報われないではないかあっ!!」


 クローディアは激昂する、志を共にした同志の言葉に激怒する


「安心しろクローディア、国なら守ってやる、このわたしが新たなゲイレルルとなってな」


 ツェツィーリアがニヤリと笑うとその後方から聞き覚えのある声が響いた。


「そして、あたし達が一緒に愚かな人間どもを支配してあげるよ」


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