第18話 旭ヶ丘学園高校2年A組っ!!出席番号41番クローディア・アンネマリー・ディートリッヒに決まってんだろうがあああっ!!
横一閃、クローディアが槍を薙ぐとエネルギー波が弥命に向かって放たれる、弥命は数枚の呪符を右手の人差し指と中指で挟み前へ翳す。
― 爆雷装光 ―
雷を帯びた魔法陣が幾重にも展開されクローディアの放ったエネルギー波と衝突すると爆発その衝撃で威力を相殺する、爆煙に紛れながら弥命は間合いを詰める
煙で視界を塞がれたクローディアは弥命の姿を見失うも、目を瞑り神器の力により強化されている五感を研ぎ澄ました。
「そこだあああああああっ!」
クローディアはカっと目を見開き真上に向かって槍を突きだした。
間一髪弥命は身を捻り剣で矛先を逸らし串刺しは免れるも、クローディアは槍をそのまま横へと振りぬいた。
槍をその身に叩きつけられ弥命は真横へと吹っ飛びながらも、手にしていた呪符をクローディア目掛けて投げつけると「雷光一閃」クローディアに浴びせられる雷であるがその身に纏うは神器の鎧、そう易々とはダメージを通さない
弥命は床に叩きつけられ転がるもすぐさま体勢を立て直し、再びクローディアに向かって間を詰めようとする
なんと言う女だ!術を駆使する分メドゥーサよりもやりづらい、それに人間相手にグングニールの本気の一撃を喰らわすわけにはいかない、いや・・・たとえ本気を出したとしてもこの戦巫女は・・・
そう思う間にも間合いを詰めてくる弥命を迎え討たんと再び構える
「やめろおおおっ!馬鹿野郎どもおおおおおおっ!!!」
剣を振り上げる弥命と槍を振りぬこうとするクローディアの間に、叫びながら割って入ってきたのは健登であった。
「ばっ、ばかっ!」
クローディアは言うがもう止められない、振りぬいた槍に吹っ飛ばされる健登は向かってきていた弥命を巻き込み床を転がった。
「いってえええええええっ!」
「いたたた・・・なにやってるんですか守羽くんっ!!どいてくださいっ!!」
「おまえこそなにやってんだ姫宮っ!おまえがクローディアと戦ってどうすんだよっ!!」
「わかっていますっ!ですがこうするしかありませんっ!!倒して止めますっ!!」
なんでそうなるんだ、なんもわかってねえじゃねえかこいつ
いつから弥命はそんな昭和の青春ドラマよろしく熱血漢になったんだ、「殴り合った後は笑顔で仲直り作戦」は、この間の悠紗との戦いで痛い目みているだろうが、もうちょっと冷静に対処しやがれと健登は思うのであった。
健登を押し退け立ち上がると再び走りだす弥命、健登も慌ててその後を追う
「倒して止めるだと!?やってみろミコットおおおおおおおおおっ!!」
叫び突き出した槍が肉へと喰い込む感触、遂に捉えた・・・やってしまった・・・ワタシは人を相手に・・・ミコットを相手にこの槍を・・・・
「いってぇ・・・・」
その声にクローディアは我に返る
己が突き出した槍が貫いたのは弥命ではなく健登の身体であった。
左の肩口を貫通した槍を伝い真っ赤な血が手元まで流れてくる、クローディアがゆっくりとその槍を引き抜くと健登はその場に頽れた。
クローディアはふるふると震え、目の前に倒れる健登を見つめる目は視点が定まらない、そのままフラフラと後ずさると立ち尽くした。
「守羽くんっ!!」
「健登っ!!」
剣を投げ出し叫ぶ弥命とそこへ駆け寄ってくる悠紗
クローディアはただ呆然とそれを見つめているしかなかった。
目の前で起こること全てが、まるでスローモーションであった。
体感するもの全てが速度を落とす、しかし思考だけは加速する、いや、迷いだけが頭の中を物凄い勢いで駆け巡る
誇り高きドイツ国民として、いや、名誉あるドイツ軍人として・・・・それも違う・・・
ワタシは“槍を持って進む者 ”祖国を守護し民を守り、どんな困難にも敵にも決して屈することは許されない・・・
そう・・・ワタシは神の代行者
人としての人生などはとうに捨てた。
私を滅しこの国に仕えること、そして神の代行者として民を導くことそれがワタシの使命であり、戦士としてその身を賭して戦い天寿を全うした兵士達をヴァルハラへと送らなければならない
その為にワタシは・・・ワタシは絶対に負けることなど許されないのだっ!
ワタシは聖なる武器“グングニール ”の選ばれし戦巫女なのだから
だから今、宿敵を倒す為に、石眼を手に入れる為にこうして戦っているのだ
作戦は全て順調に進んだ、魔眼を使う神であろうがワタシの敵ではなかった。
石の刃も柱も壁も全てこのグングニールの一撃で砕いてやった。
石手も切り落とした。
心を操る眼も主神オーディンの叡智の眼には通用しない、ワタシは勝ったのだ、勝ち得たはずなのだ
なのにどうして・・・・どうしてワタシは、たかが一人の・・・今目の前にいる自らを神と名乗る少女を、人々に仇なす悪神を討つことができないのだ
「どうして・・・・ワタシは・・・何の為にこのニホンまで来たのだ・・・・何の為に・・・」
クローディアは、金髪の三つ編みを背中で揺らすと手にしていた突撃槍を落とし両手で顔を覆った。
涙を流し震えるクローディアの前で悠紗は、傷つく身体を引き摺りながらも健登の元へと駆け寄り、膝を突くと傷口に手を当て石化させる、止血する為の応急処置だ
そしてその傍らで同じく傷ついた健登を心配そうに抱きかかえる弥命
クローディアはその様子を見つめながら震える声で呟く
「ワタシは・・・・ワタシはもうワルキューレではない・・・・人を、タケトを傷つけてしまった・・・・」
血に染まる両手を見つめながら悲鳴を上げるかのように言う
「見ろっ!この手を、血に染まったこの両手をっ!!これは、ユウサの血であり、タケトの血でありっ、ワタシを守るために死んでいった仲間達の血だっ!!!」
そのまま泣き叫ぶクローディア
「ワタシはワルキューレであった。だから、名誉の戦死を遂げた兵士達へ、勝利と言う花を手向けてヴァルハラへと導いてやる責務があった・・・なのに見よ、いつしかワタシの手はこんなにも血に塗れてしまった。グングニールを持つワタシをっ!ゲイレルルを守る為に散っていった仲間達の死によって!!」
その場に膝を突き泣き崩れる、弥命と悠紗はクローディアの言葉の意味が分からない、かける言葉も見つからずにただそれを見ているしかなかった。
「くっ・・・・クローディア・・・」
「守羽くん!だめ、じっとしていないと」
起き上がろうとする自分を心配する弥命を制止すると、健登はふらふらと立ち上がり左肩を押さえながらクローディアの元へと歩み寄る
そしてクローディアの前で膝を突くと、嘆き悲しんでいる頭をそっと撫でて優しく言った。
「なーんだよ、やっぱりクローディアには悠紗を殺すことなんかできやしねーじゃんか」
その言葉に健登の顔を見上げると、クローディアは驚く
健登が悲しげでいて申し訳なそうな顔をして自分を見ていたからだ
「ヒック・・・どうじて?」
鼻水を垂らし、涙を流し、くしゃくしゃの顔でしゃくりあげながらそう問いかける
「だってそうだろ?クローディアはこんなにも優しい女の子なんだぜ?ごめんな・・・信じてやれなくて、あああっ!俺はクローディアの友達失格だあああっ!!!クローディアが悠紗のことを殺しちまうんじゃないかって一瞬でも疑っちまったああああっ!!」
頭を抱えて自分自身を責める健登、クローディアのみならず弥命も悠紗もその様子を呆然と見つめている
「いやいや、妾を見ろ、ボコボコにされたんだが」
「でも生きてるじゃん、いいだろそれで」
細けぇこたぁ気にすんなと言わんばかりの健登に悠紗は開いた口が塞がらない
いいわけないだろ、生きてるけどはっきり言って死にかけたのだぞ、尖がった棒でツツかれて馬乗りにされてぼこぼこに殴られたのだぞ、それを・・・それをっ!
「いいわけあるかあああっ!!おまえは自分の妻がこんなキズモノにされたのにそれでよいのか!たわけええええっ!!」
「いてええっ!傷口を殴るんじゃねええっ!だいたい妻じゃねえしっ、あとキズモノの意味も違えええっ!!」
左肩の傷口にグーパンチ、優しさの欠片もない言葉にぷりぷりと怒り泣き出す悠紗であったがそのまま弥命の元へと行ってしまう
「うぉぉんおんおん、酷い仕打ちだ弥命ぉ、健登はもう妻である妾のことをこれっぽっちも愛していないのだぁぁぁああ・・・」
「はいはい、わかりましたから泣かないでください、あと妻ではないですからね」
胸に顔を埋める悠紗の頭を撫でてあげる弥命であったが最後の部分は譲れないらしい、笑顔で言うのだがその笑顔がなんだか怖かった。
クローディアはぽかーんとしてしまう、あれだけのことがあったのに、あんなことをされたのに、健登は今でも自分のことを友達と呼んでくれる、どうして?悠紗だって、弥命だって、どうして自分を憎み恨み責め立てないのか、それどころか疑って悪かったと謝っている
どうしてそうやってすぐに普段と変わらないように振る舞えるのだ
信じられないという表情をしているクローディアの顔を覗き込み、申し訳なさそうな顔をして健登がまた話し出す。
「俺は頭悪いからさ、正直おまえがさっき言ってたことの半分もわからない、でもよ、おまえが悲しんでいること、傷ついている事、そして後悔していることはわかった。本当のおまえはこんなことしたくないんだって叫んでいるように思えたんだよ」
「こんなことは・・・したくないと・・・・本当のワタシが?」
「そうだよ、ワルキューレだから、神器の巫女だからって、誰かの為に泣いていたんだろ?そうしなくちゃならなかったんだろう?」
「けれどワタシは・・・そうでもしなければ死んでいった仲間たちに顔向けができないじゃないか・・・・じゃあ・・・どうしたらいいの?ワタシは・・・誰になればいいの?何になればいいの?教えて・・・教えてタケト」
本当の自分とはなんなのか、健登の言う本当のクローディアは悠紗とは戦いたくないと、誰も傷つけたくはないと思っていると言うが、本当の自分とは誰なのかクローディアにはわからなかった。
俯き力なくクローディアがそう言うと、健登はすくっと立ち上がり大声で言う
「旭ヶ丘学園高校2年A組っ!!出席番号41番クローディア・アンネマリー・ディートリッヒに決まってんだろうがあああっ!!」
「わたしの隣の席で、いつも一生懸命、日本語の教科書をがんばって理解しようとしているクローディアさんですっ!」
「激辛カレー焼きそばパンを食べてゲボを吐いたクローディアだな」
「吐いてないっ!!」
最後にオチをつけた悠紗に突っ込みを入れるクローディアであった。
まあそんな冗談はさておき、悠紗は困ったもんだと言わんばかりに呆れた顔をしながらも笑みを浮かべてクローディアに言って聞かせる
「まあなんだ、妾達だけではない、芳乃も、田中も、麻衣も、クラスの皆も、誰もがおまえのことをそう思っておる、クローディア、おまえはそれ以上でもそれ以下でもない、ただのクローディア・アンネマリー・ディートリッヒなのだ」
クローディアは悠紗の言っていた言葉の意味をそこでやっと理解する
ただのクローディア・アンネマリー・ディートリッヒ
その言葉に、ようやく救われた気がした。ようやく解放された気がした。
ワルキューレであることから、ゲイレルルでいることから、クローディアはようやくクローディアになれたのだ
クローディアは再び涙を流し、皆に言う
「ごめんなさいユウサ・・・ごめんなさいタケト、ミコト・・・・そして」
顔を上げると笑顔で告げた。
「Danke schön. Ein lieber Freund」
健登が右手を差し出すとクローディアは照れながらその手を取る、思いっきり引き上げると勢い余って健登の胸の中へ飛び込んでしまった。
そのまま倒れてしまわないようにクローディアのことをしっかりと抱きしめる健登
「ご、ごめん、クローディア」
「う・・・ううん、これはその、嫌じゃ・・・ない」
頬を染めて恥ずかしそうに呟くクローディア
健登もなんとなく嫌じゃない・・・というか美少女を抱きしめているのだ嫌なわけないだろうくそったれめ、のでそのままでいるのだが、背後から感じる凄まじい殺気に恐る恐る振り返ると、鬼の形相で睨みつける悠紗と雪女のような冷たい視線で見つめる弥命の姿
健登は青褪めながら言い訳をする
「いや、だからこれは・・・不可抗力と言いますか・・・」
「だったら・・・・さっさと離れぬかこの浮気者があああああっ!!!」
さっきまでボロボロのふらふらだった癖に、もの凄いとび蹴りを喰らわせる悠紗であった。




