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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第16話 これが笑わずにいられるか、おまえらが欲しているこの石眼・・・今は使えぬよ

 弥命に事情を説明して健登は電話を切ると、メドゥシアナと共に部屋から飛び出し階段を駆け下りる

 母が「階段を走るな馬鹿たれっ!」と怒鳴っている、「お母さんっ!おにいの後ろを幽霊がついてったあああああ!」と湊真が叫んでいるが気にしない

 玄関を飛び出すと駅まで走ろうとするが、メドゥシアナが健登を呼び止めた。


「かみはねさま~、待ってください~」

「なんだよ急げよっ!悠紗がやばいんだろっ!」

「かみはねさまの足ではもっと時間がかかりますよ~」


 おまえがそうやってダラダラ喋ってる方が時間かかるだろうがと健登は苛々する


「じゃあどうすんだよっ!タクシーなんか呼ぶ金ねえぞ!」

「それならばわたくしがタクシーになります~」


 そう言うと健登に飛びつき首筋に(かぶ)り付くメドゥシアナ


「馬鹿こんな時になにやってんだ!」

「あん❤もうちょっと、もうちょっとだけです~」


 そう言いながらくねくねと絡みつきペロリと首筋を舐めるメドゥシアナ、健登はなんだか気持ちよく・・・いや、こんなことやってる場合じゃねえとメドゥシアナを引っぺがそうとするのだがなかなか引き離せない


 あれ?こいつ、こんなに力あったっけ?


 そして「こんなもんかな」と言うとメドゥシアナは健登から離れた。


 すると、おや?メドゥシアナの様子が?なにやら光り輝くオーラの様なものが見える気がする、まるでスーパーサイ(略

 今までのなんだか猫背で姿勢が悪く、か細く不健康そうでフラフラしているような感じから一変

 すっと背筋を伸ばして立ち、凛としたその姿はまるで一匹の美しい白蛇

 胸を張りスラッと伸びた長い手足はモデルのようで、その美しい横顔の頬には紅がさし見つめる赤眼はとても妖艶であった。

 メドゥシアナは長い白髪の後ろを束ねると力強い口調で健登に言う


「参りますよ守羽様!しっかり捕まっていてくださいっ!!」


 なにやら喋り方までハキハキとしている

 メドゥシアナは健登を抱えると凄まじい勢いで跳躍、民家の屋根を次々と飛び越え翔けて行く


「うおいっ!なんなんだおまえ!!こんなことができるのかよっ!」

「本来の力はこんなものではありません、守羽様のすべての精気を吸い尽くせばあんな金髪娘にも遅れは取りません」


 あーそれは無理、それはつまり俺の命と引き換えにパワーアップってことじゃねーか、絶対無理


 とにかくこれならばすぐに着きそうだ、健登は自分の精気にこんな能力があったことに驚くが、あんまり吸わせると死んじゃうらしいのでほどほどにしようと思うのであった。


 次々と民家の屋根を飛び越え、ビルを飛び越え、電柱を飛び越えて行くメドゥシアナ、あっと言う間に「旭が丘学園高校前駅」まで来ると、健登は眼下を凄まじい勢いで駆け抜けて行く車に気が付く

 弥命だ、メドゥシアナにその車を追うように言う、全速力で追いすがるとメドゥシアナは屋根に飛び乗った。


「ぜぇっ、ぜぇっ!!流石にっ、キツイです。」

「サンキューなっ!!姫宮っ!!」


 メドゥシアナに礼を言いつつ車の屋根から助手席側の窓をドンドンと叩き顔を出して覗き込んだ、それに気が付いた弥命が窓を開けて叫ぶ


「守羽くんっ!?なにやってんですか!?今停めますから!」

「そのままでいいっ!メドゥシアナがいるから大丈夫だっ!全力で飛ばせっ!」


 今はそんな時間さえも惜しい、心得たとばかりにアクセルを踏み込む水谷、ボーリング場まではもうすぐだ

 健登は車の屋根にしがみつきながら悠紗とクローディア両方の無事を祈った。





 元ボーリング場であった廃墟の中睨み合う二人の少女、その一人が片腕を失い傷つきながらも眼前の少女に向かって怒声を浴びせる


「わからぬのなら教えてやるっ!この大馬鹿者があっ!!」


 悠紗の気迫にクローディアは一瞬たじろぐも、苦々しい顔をして言い返す。


「大馬鹿者だと?誰が馬鹿だ、おまえにそんなことを言われるすじあ・・・」

「何を肩肘張っているのだ馬鹿たれがっ!ワルキューレだと?ゲイレルルだと?知ったことか!筋合いがない?おまえはそう言うのかクローディア・アンネマリー・ディートリッヒ、妾とおまえ。いや、弥命も、芳乃も、健登もっ!おまえとはなにも関係がないと言うのか?」


 関係がない・・・そうだ、関係などない!あんな物はすべて振り、クラスメイトの振りをしていただけ、ドイツからやってきた留学生を演じていただけ、旭が丘学園高校2年A組に於けるワタシは仮の姿、本当のワタシではない・・・


「本当のおまえは誰なのだクローディア?」


 その言葉に眼を見開き、驚き、動揺の色を隠せないクローディア、思考を読まれたのか?まるで悠紗に心を見透かされたかのような感覚になる


 本当のワタシとはどういうことだ?ワタシは、ハイリヒヴァッフェ・グングニールを振るうワルキューレ・・・・いや、ゲイレルル・・・・ドイツ陸軍特殊部隊HWSの・・・少尉・・・・ワタシは・・・・ワタシは・・・・・


 ナンナノダ・・・・?


 悠紗はゆっくりと一歩前に踏み出し力強くクローディアを見据えると、深呼吸をして再度クローディアに問う


「おまえは誰だ?妾はおまえの事情などなにもわからんし知ったことでもない、妾に向けられるおまえのその怨嗟の眼、おそらくは復讐か・・・それは妾に対するものではないのであろうが、おまえはその復讐の炎に身を焦がし、仇敵を討たんが為に妾に矛先を向けている」

「くだらん説教だ、復讐などやめろとでも言うつもりか・・・」

「いいや、復讐結構大いに結構、それでおまえの気が晴れるのならば好きにすればよい。ただ、それに巻き込まれる妾はたまったものではないわ」


 悠紗はうんざりといった表情で右手をヒラヒラさせながら言う


「ふん、それこそ知ったことか魔女め、ワタシはゲイレルルだ、ワルキューレだっ!!人々に仇なす魔を!モンスターを!悪神を討つことが我が使命!どんな苦境に立たされようと!どんな苦難を与えられようと!ワタシは勝たなくてはならないのだっ!!」


 まるで悲鳴である、自分で自分に言い聞かせるかのように叫び声をあげるクローディア

 言い聞かせる・・・いや、これは言い訳だ、自分の成すことに大義名分のない者の言い訳

 

「醜いことこの上ないな・・・・クローディア、おまえはそれを使命と言うが、ただ逃げているだけであろう?ワルキューレであることに、ゲイレルルであることに、それはおまえが、おまえではないからだ」

「ワタシが・・・ワタシではない?・・・なにを言うワタシはワタシだ、ワタシがワタシではないと言うのならなんだと言うのだ?・・・・なんだと・・・」


 言いながらクローディアは戸惑いの表情を見せる、悠紗はただ黙ってそれをじっと見つめているだけだ


 なんだその眼は?憐れんでいるのか・・・


「ここに来てからおまえは、妾のことを一度もユウサとは呼んでいないな」

「だからなんだと言うのだ」

「そんなに怖いのか?ただのクローディアでいる事が、そんなに恐ろしいのか?ゲイレルルでワルキューレでいられなくなることが」


なにを言っているのだこの魔女は・・・クローディアはワタシだ、ゲイレルルはワタシだワルキューレはワタシだっ!それが・・・それが・・・ワタシ?


 わからない・・・ワタシにはワタシがない・・・

 ワタシは、物心ついた時からワルキューレになるべく軍に訓練され教育され作られてきた。

 そう、作られたのだ・・・グングニールの入れ物として、それを扱う兵器(マシーン)として、だからなんだと言うのだ、それでも感情まで失ったわけではない、ワタシはワタシとしてワルキューレになったのだっ!ゲイレルルとなったのだっ!!


 クローディアは突如槍を横なぎ、悠紗を殴り飛ばす。

 突然の攻撃に反応することができずに悠紗はそれを喰らうと真横に転がった。

 声をあげることもできずに悠紗は倒れこんだまま痛みを堪える


「黙れ魔女め、動揺でも誘っているつもりか?ワタシはゲイレルル、グングニールのワルキューレだ、それ以上でもそれ以下でもないっ!」

「くっ・・・頑固な娘だ」

「メドゥーサ、束の間ではあったが同窓のよしみであった者としてせめてもの情けだ、殺さずに捕らえて苦しまぬように石眼を取り出してやる」


 クローディアが悠紗を捕縛しようと手を伸ばすと、堰を切ったかのように悠紗が笑い出す。


「あはははははは、はーはっはっはっはーあはははははははっ!」

「気でも狂ったか」


 なにがおかしいのか、腹の底から溢れ出るものを抑えきれないかのように笑い続ける悠紗

 笑いながらむくりと起き上がると、腹を押さえヒーヒー言いながら呼吸を整える

 そして、不敵な笑みを浮かべたままクローディアを見ると嘲笑するかのように告げる


「ふふふふ、これが笑わずにいられるか、おまえらが欲しているこの石眼・・・今は使えぬよ」

「なにを馬鹿な」


 クローディアが言うと、悠紗はおもむろに右目にしている眼帯に指をかけて捲り上げる

 石眼を使われると思ったのかクローディアは身構え槍で突こうとするが、目の前の信じられない光景に衝撃のあまり動くことができなかった。


「見てみろ、これが今の妾の石眼だ。神器アメノハバキリに切り裂かれて見る影もない、まあこれでも大分良くはなったのだがな、どうする?これが完治するまで気長に待つか?人間の小娘よっ!!」


 悠紗の右眼は遠目に見てもわかるくらいに瞼の上から縦に深く切り裂かれ、それは恐らく眼球にまで届いている、普通の人間であれば当然失明、今も激痛に苛まれるであろう程の大怪我であった。


 そんな馬鹿な?どういうことだこれは?ありえない、石眼が使えぬだと?どうして?諜報部からの情報では、タケトカミハネの振るう神器アメノハバキリをメドゥーサは退けたと聞いている、石眼は健在!その筈だったのに・・・だったら一体、今目の前にあるこの光景はなんだ・・・なんなのだっ!!


 クローディアは魂が抜けてしまったのではないかと思うほどに放心状態になるが、一転、鬼神の如き怒りの表情を見せると怒声をあげ悠紗を拳で殴り飛ばす。


「ふざけるなああああああああああっ!!」


 叫びながら、何度も何度もその拳を叩きつけ蹴りを浴びせ踏みつける、最早それは理性を失った復讐鬼の姿であった。


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