第14話 いやあああああああっ!湊真ちゃんっ!!おにいちゃんを一人にしないでっ!
夕飯を食べ終え自分の部屋に戻ると健登はゲーム機の電源を入れる、最近は放課後もクローディア達に付き合っていたのでこないだ買ったばかりのゲームがまったく進んでいなかったのだ
というかそろそろ期末テストだろうに、まあそんなことはこいつには関係ないか
明日は日曜だしゆっくりとこいつを、とは言ってもクローディアの見送りに羽田空港まで行かないといけないのでそんなに夜更かしはできないが、それでもいつもよりは長くできるもんね!
コントローラーを手に取り、いざっ!始めようとすると部屋のドアをノックする音、返事をする間もなく扉が開き入って来たのは湊真であった。
「おにいーなんか暇ー、ゲームしよー」
「今から始めるところだよ、残念だがこれは一人用だおまえはそこで漫画でも読んでろ」
「ええええええ!対戦しようよ対戦~っ!」
冗談じゃない、今日は一人用がいいんだ、偶にはぼっちゲーがしたいんだよ!て言うか対戦しようと言い出しておきながらいつも負けそうになると、クソゲーとか言って放り出す癖にまったくクソ妹である
「いやだね、今日はロープレがしたいんだよ」
「じゃあそれ二人でやろうよ」
「ロープレをどうやって二人でやるんですかああああっ!?」
「わたしが十字キー操作するからおにいがボタン押して」
この子馬鹿なのかな?我が妹ながら少し心配になってくるも、なんだか不憫に思えてきたので言われるがままにそうしてみる
五分後・・・・
「おにいいいいっ!!あの漫画の3巻どこにあるのっ!続きが気になってるのにっ!!」
うっぜえなこいつマジで、受験勉強しろよ
おまえも試験勉強しろよ
背後で大騒ぎしている湊真は無視してゲームを続ける健登であったが、ふと、何の気なしに窓の方を見る・・・
「うっ!うおおおぅっ!!」
「ええっ?な、なんだよおにいっ!?」
突然健登が驚き大声を上げるので湊真もビックリする
健登はチラっと見た窓の左下に確かに見たのだ・・・・なにやら真っ赤に目を血走らせた顔面蒼白の女の顔が部屋の中を覗き込んでいるのを
「な、なんでもない・・・・」
極力平静を装いながら返事をする、湊真は不思議そうな顔をして首を傾げるもまた漫画を読み始めた。
な、なんだったんだ今のは・・・まさか、見えるようになっちゃったのか?・・・どうしよう怖い
健登はドキドキしながらも気の所為かもしれないと思い、なんとか落ち着こうとゲームを続ける
湊真は後ろで黙って漫画を読み耽っているのだが、ゲームのBGMとコントローラーを操作する音だけが虚しく部屋に響き渡る
なんだかじっとりと重苦しい雰囲気、閉め切っていたので少し蒸し暑く感じていた室内の空気も今はなにやら冷たく感じる
なんでこんな時だけ大人しく漫画読んでるんだよ、いつもみたいに大騒ぎしろよ馬鹿湊真あああ
暫くそうしていると「コンコン」と言う小さな音が聞こえる、なんだ?音のする方向は、さっき女の顔が見えた窓
おいおいおい、なんでノックするの?気づいて欲しいの?寂しがり屋なの幽霊さん?やめて、風だよね?風の音だよね?
その音に湊真も気が付いたのか、横になっていたベッドに漫画を置き、起き上がると窓を開けて外を見ようとする
ダメ!湊真!!開けちゃダメ!!あいつがまだいるかもっ!!!
カラカラカラ・・・乾いた音を立てながら開く窓、湊真は窓枠から身を乗り出し辺りを見回すがなにもない
「今なんか外から音しなかった?気の所為かなあ?」
頭をポリポリ掻きながら再び窓を閉めると、湊真はベッドから降りて部屋から出て行こうとするのだが健登は一人でいるのが怖いので慌ててそれを呼び止める
「そ、湊真っ!!」
「ん?なに?」
「ど、どこ行くんだ?」
「なんか飽きたから下でTV見る」
「そ、そそそ湊真ちゃん?なんだかおにいちゃん対戦がしたくなってきちゃったなぁ」
冷や汗を垂らしながらなんとか妹をこの場に留まらせようとする健登であったが、湊真はなんだか訝しむ様な顔をして冷たい目つきで健登を見ると一言
「きもっ」
と吐き捨て部屋から出て行こうとする
「いやあああああああっ!湊真ちゃんっ!!おにいちゃんを一人にしないでっ!ここでTV見ていいからしばらく一緒にいてえええええええっ!!」
泣きながら妹の足に必死にしがみつく兄・・・これは酷い
「うるせえええええっ!なんだ急にきめえんだよっ!離しやがれええええっ!!」
湊真は縋り付く兄をげしげしと足蹴にすると最後は蹴り飛ばし部屋から出て行ってしまった。
一人部屋に取り残された健登は戦々恐々とする、やばいやばいやばい、あの幽霊の眼つきは尋常ではなかった。あれは何かこの世に恨みを残した女の霊だ、絶対にそうだ、男に騙されて死んだ女の霊なのか?それで若い男のことを恨んで、憑り殺されてしまうかもしれない
あの顔、思い出すだけでも恐ろしい、真っ赤に血走った目の下にはくっきりと濃い隈が、顔面蒼白どころか頭髪も真っ白で、まるであれは・・・・あれは・・あれ?なんかどっかで見たことあるような気がするな?
そんなことを思っていると「バンバンっ!」と先程よりも強く窓を叩く音
ひいっ!
健登が恐る恐る窓の方を見ると、真っ白い女が窓に貼り付いて健登のことを睨みつけていた。
あまりの恐ろしさに声も出せずに健登が固まっていると、女は窓を開け中に入ってくる
湊真が鍵を閉めていなかったのだ
「かぁぁぁぁあああみぃいいいいはぁぁぁあああねええええええさぁああまああああっ!」
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!」
健登が悲鳴を上げて逃げようとすると、女はスルスルスルっと近づいて絡みついた。
「ひどいですぅぅぅぅぅ~、なんで逃げるんですかぁぁぁぁぁ~」
「ごめんなさいいいい、ごめんなさいいいいいっ!殺さないでええ成仏してええええっ!」
「殺さないですよぉぉぉぉ~」
それにしても・・・・やっぱり美味しそうです~
ジタバタと暴れる健登の首筋に女が「かぷっ」と噛みつくと
スパーンっ!!
「おめえかよっ!」
健登はメドゥシアナの頭を引っ叩いて突っ込みを入れた。
「なんなんですかぁぁぁ~、酷い暴虐の限りです~」
「なんなんですかはこっちの台詞だっ!紛らわしい登場の仕方しやがって!!」
メドゥシアナは涙目で頭を擦りながら抗議する
完全に逆切れであったが健登は本気で怖かったのだろう、ちょっぴりチビッちゃったのは内緒である
幽霊の正体がメドゥシアナだとわかり安堵する健登であったが、なぜこんな時間にやってきたのか疑問に思う
「なにしに来たんだよ、悠紗はどうしたんだ?」
「それがですね~、大ピンチなんですかみはねさま~~~」
大ピンチ?
の割には随分とのんびりしてるじゃねえか、健登は眉を顰めるのであった。
弥命は湯船から上がると脱衣所に戻り、身体を滴る水滴を拭く為バスタオルを手に取る
ほんのりピンク色に蒸気した肌、真っ白なタオルを腕からたわわに実った双峰へ、キュッとしまったお腹に滑らし、胸に比べて小柄なヒップから伸びるカモシカのようにしなやかな脚までを万遍なく拭う、水滴が垂れないように頭にタオルを巻いて寝間着に着替えると廊下に出た。
風呂上りに火照った身体を冷ます為に少し遠回り、庭の縁側回りに夕涼みでもしながら自分の部屋へと行く、夜風が火照った身体といい按配でとても心地よかった。
部屋に戻るとドライヤーで髪の毛を乾かして明日の身支度を始める
いよいよ明日はクローディアと本当のお別れの日だ、とは言ってもそれは仮のお別れ、クローディアがグングニールの姫巫女であり、恐らくはドイツ特殊部隊のエージェントであることは弥命も気が付いていた。
当然である、どんなに上手く取り繕おうとも、神器の姫巫女である自分が他の神器の気配に気が付かないなんてことあるわけがない、ましてやあんな都合よくドイツから留学生がやってくるなんてそれで気が付くなという方が無理である
意を決し自分がクローディアと二週間共に行動すると先生に言ったのもそれがあったからだ
最初はクローディアの挙動を常に警戒した。しかし相手はまったく隙を見せなかった。むしろ不自然なほどの隙のなさである、彼女はその身のこなしもまるで素人ではない、軍人然とした歩き方、姿勢、一挙手一投足それら全てが訓練された者のそれであった。
よっぽど不器用なのであろうか、まるで潜入には向いていない、そんなことを思い返していると弥命はなんだか可笑しくなってしまった。
本当に・・・クローディア・アンネマリー・ディートリッヒと言う少女は一緒に居れば居るほどに、不器用でいて一生懸命でいて、でもそれがかわいらしくて、いつしか警戒するのも忘れて本当の友達のように、 彼女に「ミコット」と呼ばれるのがとても嬉しかった。
彼女の目的がなんなのかはわからない、なぜわざわざ旭が丘学園高校に来たのか、なぜわざわざ自分のいる2年A組へやってきたのか、それはわからないがこちらに害を及ぼさないのであれば極力干渉しないようにと思っていた。
それなのに、唐突にその決意は崩されることになる
弥命の携帯が着信音を鳴らし振動する、こんな時間に誰かと思い画面を見ると「守羽くん」と表示されていた。
「はいもしもし、弥命です。」
『姫宮かっ?まずいことになった!』
電話口の向こう、健登の様子がなにやらおかしい、なんだか非常に鬼気迫った声で怒鳴っている
「どうしたんですか?なにかあったんですか?」
弥命は即座になにかがあったのだろうと察して健登に問いかける
『悠紗とクローディアがやばいことになってんだっ!!』




