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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第12話 ならば戦えっ! メドゥーサああああああああああああっ!!

 ようやく芳乃達が戻ってくると昼食をとり、アキバでの用事もそこそこに午後はちょっとした東京観光、浅草に行って雷門を見てからスカイツリーを見に、ものすごく混んでいたので展望台に行けなかったのは残念だったけれど、下から見上げるツリーの迫力にクローディアばかりか毎日のように見ている遠景の物との違いに皆が驚いた。



 楽しかった。本当に楽しい一日であった。クローディアは今日と言う一日を任務を忘れて楽しんだ。

 それは自分の立場を任務を放棄したわけではなく、ロンメル大佐からの命令でもあった。

 日本での高校生活最後の思い出として今日一日だけは任務関係なく思いのままに楽しんで来いと、最初は大佐の意図するところを理解できなかったが今はなんとなくだがわかった。


 大佐はずっとこの任務の間ワタシの為に……


 このチームHWSにいるメンバーは、皆お世辞にも真っ当な人生を送ってきたとは言い難い者ばかりであった。

 碌に学校にも通わず逮捕歴は数知れず、家庭環境が劣悪だったものなどは当たり前であった。

 それでもこうして軍に入り特殊部隊のメンバーになれたのはある分野に於いては非凡の才を持っていたというのもある、格闘の得意な者、射撃の得意な者、爆発物取扱いの得意な者など様々だ。

 ロンメルであってもそうである、士官ではあるものの現場叩き上げの大佐である。

 佐官でありながらこんなゴロツキばかりのチームを押し付けられたのもその所為であったりする。

 そんな皆がクローディアのことをまるで娘や妹のように思い、普通の女の子としての人生を歩めないことはわかってはいるが、せめてこの二週間、日本の高等学校に通っている間だけは真っ当なティーンエイジャーとしての思い出をと、そういう親心のようなものからの命令であった。


 ありがとう大佐……ありがとう皆……でも……ここからは……ここからワタシは、グングニールの戦巫女(ワルキューレ)として、槍を持って進む者(ゲイレルル)としての任務を全うします。



 帰りの電車の中、他愛のない会話を交わしながら笑う女子達、まるで皆この最後の時間を終わらせたくないと、わざとそれを忘れているかのようにお喋りをした。


 一秒でもこの時間を無駄にしないように……


 そして次は健登と弥命と芳乃の降りる駅である。


「クローディア、本当にありがとう、楽しかった。ほんっとうにあなたと一緒に居た二週間は楽しかったわ、明日も必ず見送りに行くから」


 涙目でクローディアを見つめながら言う芳乃。


「クローディアさん、あなたはわたしの大切な友達です!友達の少ないわたしの大事な大事な親友です。だから……わたし……うぅえぇぇ」


 堪えきれずに泣き出してしまう弥命、それを「わかっていますよ」と抱きしめてあげるクローディア、ついには芳乃も我慢できずにクローディアに抱き付く、三人抱き合い涙を流して別れを惜しむ。

 そしてクローディアは吊り革につかまっている健登を見つめると笑顔で言う。


「アリガトウ、タケト。サヨナラです」

「あぁ、またなクローディア」


 電車が駅に着きホームに降りると三人はガラス越しに手を振りあう、電車が発車しても弥命と芳乃はいつまでも線路の先を名残惜しそうに見つめているのであった。




 車内はそれほど混んでおらず乗客はまばらであった。

 座席に並んで座るクローディアと悠紗であるがずっと黙ったまま、悠紗は相当に落ち込んでいるのだろうか?弥命と芳乃が別れを嘆いている間も押し黙ったままであった。

 クローディアもまた無言のまま悠紗の隣に座っていたのだが、しばらくして悠紗の方から切り出してきた。


「さて……ようやく二人きりになれたわけだが」


 その言葉にクローディアは少し驚くも、やっぱりとどこか納得したような表情で返す。


「いつから気がついていた?」

「ふむ……いつからと言われれば、まあ最初からではあるな」


 それは驚いた。それならばなぜ二週間なにもせず、恐らくは自分を狙っているであろうと気づいている相手とあんなに自然に親しく振る舞うことができたのか。

 クローディアはこの二週間何もしていなかったわけではない、共にいる間つぶさに悠紗の行動を観察しながらなにか弱点はないかを探し、或いはチャンスがあればと仕掛けるタイミングを窺ってきたのである。

 しかし、一緒に居れば居るほどにこの芽堂悠紗と言う少女は極々普通の少女にしか思えなかったのだ。

 学校で天真爛漫に振る舞う悠紗の姿は、とてもギリシャ神話で名を馳せるあのモンスターとは微塵も思えなかったのである。

 それでも石眼を持っていることには違いない、弱点を見つけることはできなかったが自分とて神器を手にするワルキューレである、弱点を探すのは勝利をより盤石にする為のものであって、見つからなかったからと言ってそれを諦めるものではない。


「上手く誤魔化せていたと思ったのだがな」

「はははっ! あれでか? まったくもって面白い娘だな、人と言うものはその身に沁みついた癖と言う物はなかなか消せるものではない、おまえのその身のこなしや普段から見せる周りへの警戒心、あれは相当の訓練を普段から積んできておる者のそれである、素人の目は誤魔化せても妾や弥命の目は誤魔化せんよ」


 余裕の笑みで言う悠紗であるが、それにしても弥命まで気が付いていたとはどういうことだ?あの娘もそんな素振りは一切見せてはいなかった。

 騙していたつもりが騙されていただなんて、これではまるで道化ではないか


「ミコトヒメミヤも知っていたと?」

「当然だ、あやつのことをあまり舐めるなよ、ああ見えて恐ろしい女であるからな」


 弥命が神器アメノハバキリの姫巫女であることは諜報部からの情報として当然知ってはいた。

 自らそれを顕現させることも振るうこともできない出来損ないの戦巫女(ワルキューレ)だと思っていたのだが、メドゥーサは相当にあの巫女のことを買っているように見える。


「最初から気づいていたのになぜ……」

「ふぅむ、そもそもおまえらのことは前日に会った魔狼の一族の者達に聞いていたからな、翌日にドイツ娘が転入してくるなどこんな出来た話もあるまい」


 やはり奴らが我々の情報を……


「しかしな、まさかそれが神器の巫女だとは思いもしなかったぞ」

「そんなことまで知られていたのか」

「まあ奴らに聞いていなくとも、おまえからぷんぷんと漂うその神器の匂いですぐに気がつくわ」


 そんなに臭うのだろうか?なんか失礼な言い方だな。


 いやそうではない、知っていながらなぜ、なぜ弥命も悠紗もなにも気づいていない振りをして普通に接していたのか、いや普通以上にあんな……


「ワタシを油断させる為の策であったと……」

「それは違うな、この二週間おまえと過ごした時間は偽りのものではない、それは弥命も芳乃も健登も、そして妾も、それだけは嘘偽りのないものだ」


 なにを言うのだこの化け物は……人を石へと変える魔女が……そんなことを信じられるものか。


「おためごかしを……」

「まあよい、なぜ魔狼どもを狙っているおまえらが妾に近づくのか、それだけがわからなかったが……ここらで降りるか?」


 悠紗がそう言うと電車が止まる、そこは“旭が丘学園高校前駅”二人が通う学校の駅であった。


 クローディアは悠紗の後に続き見慣れた通学路を(と言っても二週間しか通ってはいないが)歩き学校前を通り過ぎる。そこから少し歩くと今は廃墟になっている建物がある。元々はボーリング場であったのだが1年程前に閉鎖してから取り壊されずにいまだに残っているのだ。

 フェンスを飛び越えて中に入る悠紗とクローディア、完全に不法侵入であるが神話の女神とドイツの軍人である、そんなことを気にするわけがない。

 建物の中へ入ると広い遊技場でお互い距離を取って向かい合う、明かりと言えば外から差し込んでくる街灯の光だけなので屋内はとても暗かったが、しばらくするとこの暗闇に目も大分慣れてきた。

 まあ神器を使えば関係ないのであるが、やはり視界が暗いと言うのはどうにも居心地が悪い。

 駅を出たところで緊急通信は入れておいた。

 ここであればGPSを追って来ればすぐに部隊も到着する、恐らくはもう展開しているはずだ、これだけの広い場所であれば狙撃の射線も難なく取れる。


 問題ない……


 あとは自分がメドゥーサと交戦して追いつめたところを生け捕りにすればよい、或いはその場で首を刎ねてしまえばそれでこの作戦は終了なのだ。

 クローディアは右拳を強く握り締めると胸に当てて目を瞑り深呼吸をする。


「して、これからどうするのだ?」

「メドゥーサ、すでにあの魔狼達と遭遇したおまえならもう知っているはず、奴が復活したということを、我々はなんとしても奴を、奴らを葬らなければならない! 絶対にラグナロクなどを起こさせてはならないのだ!!」

「なんだと? ちょっと待てどういうことだっ! すでにフェンリルがっ」

「問答無用っ! その為に貴様の石眼を貰い受けるっ!! Ein Ergebnis Gungnir!」


 クローディアが呼ぶとそれに呼応するように胸元が光り輝く、その光の源から銀色のランスが飛び出すとクローディアはそれを掴み構える、刹那眩い光に包まれクローディアは白銀の甲冑をその身に纏っていた。


 ―― weiβPanzer StahlNonne ――(白銀の装甲 鋼鉄の修道女)


 そういうことか、妾の石眼を狙って……


 やるしかない、悠紗はまずこの聞かん(むす)を叩きのめしてから真実を問いただすことにした。

 あの狼の子供達は父親が復活の兆しを見せていると、その為人間たちが早期にその芽を摘もうと自分達は狙われていると言っていた。

 しかしクローディアは復活したフェンリルと言っている、大した違いではないかもしれないがどちらかが偽りの言葉を発していると言うことだ。


「どうにも虫が好かんな……」

「ならば戦えっ! メドゥーサああああああああああああっ!!」


 叫ぶとクローディアは槍を突き出し突進してくる、悠紗が地面に手を翳すとレーンの板を突き破り石の剣が飛び出した。

 それを引き抜き迎え撃つ悠紗は矛先を剣の腹で受け流しそのまま回転、横なぎの一撃を浴びせる。

 クローディアは咄嗟に身体を反らしその一撃を躱すと地面に槍を突き立てそれを軸に回転しながら悠紗の背中に蹴りを食らわせた。

 悠紗の身体は前のめりに吹っ飛び地面に転がる、すぐに体勢を立て直そうと仰向けになるとその真上、飛び上がったクローディアが落下してくる、そのまま悠紗に槍を突き立てるつもりだ。

 悠紗はレーンの板の下から石の盾を作り出しそれを防ぐ、槍の一撃を弾き返されクローディアはそのまま身を翻して着地をすると少し距離を取って再び構え直した。


「やれやれ、せっかちな娘であるな、神器を使うものはどうも堪え性がない、少しは言葉を交わす気はないのか」

「問答無用と言ったはずだ」

「いいだろう、少しばかり仕置きをしてから話を聞いてやろうっ!」

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