第11話 ワタシは、アキバにとてもキョウミがあるっ!!
日本で送る二週間はあっという間であった。
毎日同じ時間に起床して同じ時間に出発し同じ時間に登校する、そして決められたスケジュールでプログラムをこなしていく、学校生活と言うものはまるで軍隊と変わらない。
クラスメイトの中には昨夜夜更かしをしたので寝不足だと言っている者や、毎日同じことの繰り返しでつまらないと言っている者もいるが、規則正しい生活を送るのはクローディアにとっては当たり前のものでありなんら苦痛ではなかった。
クラスメイト達と肩を並べて勉学に励み、他愛のないことで笑い、放課後にはコンビニに寄り道して買い食いと言うものもしたし、そこで食べたアイスクリームは冷たくてとても美味しかった。結局最後まで激辛の食べ物には慣れなかった。
そして……短い高校生活が終わろうとしていた。
放課後
クローディアの為にささやかな送別会が行われ、楽しい宴会も終わりを迎えようとしていた。
クラスメイトからの寄せ書きと花束を受け取りクローディアは最後のお別れの挨拶をする為に教室の前に立つ。
皆一様に神妙な面持ちでその言葉に耳を傾けていた。
「ミナサン、短い期間ではありましたがトテモオセワになりました。ワタシはこの旭ヶ丘学園高校2年A組で様々なことを学ぶことができました。このクラスでの思い出は、ワタシの人生でかけがえのないタカラモノになりました。ドイチュラントに戻ってもケッシテワスレマセン、ダンケシェーン、ありがとう、Ein lieber Freund」
クローディアがお辞儀をすると、堪えきれずにワァっと皆が駆け寄る「せっかく仲良くなれたのにもうお別れだなんて」「今度ドイツに遊びに行った時はよろしくなっ!」「クローディア帰らないでっ!」皆が皆思い思いの言葉を投げかける、笑顔で送る者、涙を流し別れを惜しむ者、出会いあれば別れありとはいえど、やはり別れは寂しいものである。
そこへクラメイトを掻き分けて悠紗はぽふぽふとクローディアの前まで行くと、不思議そうな顔で問いかける。
「で、どこへ行くのだ?」
今までなにを聞いていたのだこの娘は、そんな悠紗の質問にクラスメイトの女子が答える。
「どこへって、ドイツへ帰っちゃうのよ、クローディアに会えるのは今日が最後なの」
「ふーん、じゃあまた来週な」
「だから、この学校へはもう来ないのよ」
そう言われ悠紗は、何を馬鹿なことをと呆れたような顔で芳乃を見る。
あー……こいつ完全にわかってないわ
そもそも留学生と言うものがなんなのか理解していなかったっぽい、芳乃は困った表情で悠紗にそれを説明した。
すると……
「いいいいやああああだああああああああっ! なぜだ?もう少しここにおれクローディア、別にいいだろう? それとも妾のことが嫌いか?」
泣きながらクローディアのスカートに縋り付き、帰らないでくれと駄々をこねだす悠紗。
これにはクローディアも困ってしまうが、膝を折り悠紗の目線にあわせると優しく頭を撫で指で涙を拭ってあげる、そして寂しそうに微笑むと優しく言った。
「ゴメンナサイ、でもウレシイデス、またいつかアソビにきますので、泣かないでユウサ」
「うぅぅぅぅ、妾はちっとも嬉しくないぞ……」
納得のいかない様子の悠紗であったが、クローディアは困り顔で微笑むと右手の小指を立てて指切りをしようと言う。
「約束です。また、必ず会いましょう……」
その場がお開きになっても名残惜しそうに話しかけてくるクラスメイトにクローディアは捕まっていた。
ようやく解放されそれを待っていた弥命達の元へとやってくる。
「すみませんミナサンお待たせシマシタ、ミコット、ヨシノ、ユウサ、そしてタケト……四人には特に本当にオセワになりました。ダンケシェーン」
そう言って深々と頭を下げるクローディア。
「なに水臭いこと言ってるのよ、まだ今日で終わりじゃないでしょ」
「そうです。明日の最後の土曜日は皆でお出かけしようって約束したじゃないですか、どこか行きたいところはありますか?」
「妾はアキバに行きたいぞっ!!」
アキバ? 悠紗のその言葉にクローディアはルーデルが言っていたことを思い出す。
手に入らない物はないと言われている日本最大の闇市場……巨大ロボットが売られている……
巨大ロボットだと? ……見てみたい、買わないけど見てみたいっ!
「もうっ悠紗、そこはあんたの行きたいところでしょ、今回はクローディアの」
悠紗の言葉に呆れ顔で注意する芳乃であったが、言いかける芳乃にクローディアは右手を翳してそれを制止すると言い放った。
「いや、ヨシノ……ワタシは、アキバにとてもキョウミがあるっ!!」
えぇぇ……?
かくして明日の土曜日は最後に皆で秋葉原電気街へ行くことになった。
東京都千代田区には秋葉原という住所はない、実は台東区なのである。
しかしアキバと聞いて多くの人が頭の中にイメージするのは、東京都千代田区外神田の秋葉原ではないだろうか。
JRの改札から電気街口というゲートに出ると左手にはラジオ会館の新館、そして右手に抜けて進むとガンダムカフェやAKBカフェ、そして今では某アニメの聖地にもなっているUDXビルの巨大ビジョンが見えてくる。
今でこそつくばエクスプレスに繋がる巨大ビルディングが立っているが、昔はバスケットゴールの立つ小さな公園と駐輪場であった。
まあそんな懐古厨話はどうでもいい、実際秋葉原という場所は戦後の闇市として栄えてきたらしいが、現在では外国人にも人気の観光スポットであり、電化製品や電気部品、オタク文化を代表とするサブカルチャーの発信地であると同時に、オフィスビルの立ち並ぶ経済の中心地であったりもする摩訶不思議な場所なのである。
土日ともなると外国人観光客のみならず、日本人もこの街に買い物にやってくるので年がら年中人の多いこの場所、そんな秋葉原へ初めてやって来たクローディアと弥命は度肝を抜かれてしまった。実は弥命も今回初めてアキバへ来たのであった。
なんなのだこのやかましい場所は?
店の軒先から流れる大音量のアニソンに(当然クローディアはアニソンとはわからない)マイクを片手になにやら叫び声をあげている店員と思しき人物、建物と言う建物にカラフルな看板や電光掲示板が付いているがなんの店なのかさっぱりわからない、道行く人々の中には外国人もいる、西欧人やアジア人など日本国内で外国人をこんなに一度に見たのは初めてだ。
クローディアは見るもの全てが物珍しく、柄にもなくついはしゃぎそうになってしまうのだがそこであるものに気が付いた。
「なっ? どういうことだあれは?」
「どうしたんですか? クローディアさん」
なにかに驚き唖然としているクローディアに弥命は問いかける。
「ミコット……ナゼ、あんな道端でメイドが紙切れを配っているのですか?」
クローディアの視線の先にはメイドカフェのアルバイト達がビラ配りをしているところであった。
その質問に弥命も不思議そうな顔をして答える。
「どういうことでしょう? お仕えする主人の行方でもわからなくなって、ああやって人探しのビラを配っているのかもしれません」
まったく見当はずれなことを真剣に言う弥命、もしかしたら大変な事件かもしれないとクローディアと二人話している。
そんな二人の会話を聞きながら他の三人、健登と芳乃と悠紗は、恥ずかしい人達がいる……とっても恥ずかしい人達がいるううううっ!! と思った。
「アホな会話してんじゃないわよ、あれは喫茶店のバイトよ、バ・イ・ト! まったく、これだからリアルメイドのいるお嬢様は」
「むぅっ……芳乃さん、その言い方はちょっと不愉快です」
むくれる弥命のほっぺたを両手でふにふにとはさみながら、「はいはいごめんごめん」とじゃれる芳乃。
そんな二人を見ながら健登はある違和感を覚える。
そういや、こんな所に来ているのに妙に大人しくしているな。
「おい悠紗、おまえ行きたい店が……ってあれ?」
さっきまで隣に居たはずの場所に悠紗の姿は跡形もなく消えていた。
いきなり迷子かあの野郎っ!!
慌てて四人は辺りを見回すが見当たらない、この人混みである、小さな悠紗をそうそう簡単に見つけられるわけが……簡単に見つかった。
ゲーセンの入り口にできる人だかり、その中央にいるのはUFOキャッチャーをしている悠紗であるのだが、その見事なテクニックにギャラリーができていたのだ。
悠紗がボタンを離すとクレーンが下降しアームが開く、するとまるで景品が吸い込まれるように二つ引き寄せられアームがガッチリと捕らえる、それを見ていたギャラリーから歓声が沸く。
「兄者、いったいあれは何者でござるか? この辺りでは見かけない猛者でござるな、あと小学生かわいい」
「弟者よ拙者も知らぬ、なんだあの面妖な術は? スライドでもない、ホールフックの応用でもない……プライズがクレーンに吸い寄せられるなど見たこともないでござる、やっぱ小学生は最高だな」
なんかゲーセンに必ず居そうな解説キャラだけど、リアルには一度も見たこともないような二人組がそんなことを話している。
後にこの技はピンポイントブラックホールと名付けられ、悠紗自身は真っ白なワンピースを着ていたからか「隻眼の白き妖精」と呼ばれるようになる話は今回は関係ない。
あれは絶対に魔眼を使っている、景品が明らかにおかしな挙動をしたのだ。
人混みを掻き分けて悠紗の首根っこを掴んで叱る芳乃。
「悠紗っ! それはお店に返してきなさいっ!!」
「なぜだ!! これは妾の獲った景品だっ!!」
「ずるして獲ったものでしょっ! 犯罪よっ!!」
「嫌だ、ちゃんとお金は払ったのだ、後は個々の能力次第であろう?妾はそれを有効活用したまでだっ!! だいたいなんと説明するつもりだっ!!」
まったくもって屁理屈ばかり達者な女神である、芳乃は呆れてものも言えないが周りを見るとなにやらヒソヒソ話をしながら皆怪しげな眼でこちらを見ているので恥ずかしくなり、悠紗を引き摺ってその場からそそくさと離れるのであった。
ぷりぷりと怒りながら戻ってきた悠紗はまだ愚痴っているのだが、獲得したぬいぐるみはしっかりと小脇に抱えている。
「まったく、妾のやることにあれやこれやとすぐに難癖をつけおって」
「あんたが非常識なことばかりするからでしょ」
「おまえは妾の保護者かっ!!」
「そうよ」
なぜか言い返せない悠紗、他の三人はうんうんと納得したように頷いた。




