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神器の巫女  作者: あぼのん
第三章 闇の黒狼と頑こ姫
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第4話 違うぞ、妾が健登のつまっもがふぅっ!!

 それにしても今日はとても蒸し暑い一日であった。

 健登は開襟シャツのボタンを胸元まで開け団扇でバタバタと煽ぎながら椅子にもたれ掛かり机の上に足を放り出している。


「あぢぃぃぃぃ、なんか年々暑くなってるんじゃねーか地球? 地球マジでやばいよ地球」

「これ健登、みっともない恰好をするでない、一緒にいる妾の方が恥ずかしいではないか」


 そんな行儀の悪い健登を叱る悠紗であるが、健登は自分を煽いでいた団扇を悠紗に向けると思いっきり風を送る。


「おまえにも恥ずかしいって気持ちがあるのかよー?」

「むぉぉぉ、やめぬか馬鹿者ぉぉぉぉ」


 今は既に放課後であるのだが、弥命が少し生徒会室に用事があると言うので二人教室で待っているところであった。

 隣の駅前にできたスイーツのお店に寄って帰ろうと約束していたのだが、言いだしっぺの芳乃はなにやら急用ができたらしく一緒に行けなくなったと言うのだ。

 それならまた今度にしようと言ったのだが、オープンセールチケットの有効期限が今日までなので折角だから行ってきて感想を聞かせてくれと言うので、そういうことならばと健登、弥命、悠紗の三人で行こうということになったのである。

 向かい風にもめげず悠紗は健登から団扇を取り上げ、ゆっくりと優雅に自分を煽ぎ始める。


「当たり前であろう、いい女というものは恥じらいも忘れてはならぬのだ、妾のように常に謙虚な心を持ち、時に恥じらう姿はとても可憐であろう?」

「あー、それにしても姫宮遅せえなぁ、早くケーキ食いてええ腹減ったぁ本当はらーめんが食いてええ」


 人の話をまったく聞いていない健登に悠紗は、ぷくーっと頬を膨らませポカポカと頭を叩いて抗議する。


 誰もいない教室で幼女と二人戯れるなんてマジで死ねばいいのに……


 そうこうしているとようやく弥命が戻ってきた。


「すみません、遅くなりました。少し手間取ってしまいまして……それと」


 遅くなったことを謝罪する弥命であったがどうも様子がおかしい、なにやらそれ以上に申し訳なさそうにチラっと後方を見ると弥命以外にもう一人影が見える、その人影はスッと教室に入ってくると、シルバーブロンドのツインテー(以下略


 そうそれは紫であった。


 どうやら流れでうっかり紫に話してしまったらしい、まあ別に来てもいいのだが悠紗とまた喧嘩にならないかと心配してしまう。


「わたしもご一緒させてもらっていいかしら?」


 ニコニコとそう言いながら健登の腕に絡みつく、紫の胸が腕に当たり一瞬嬉しそうな顔をするも、健登は誤魔化す様に頭を掻きながら明後日の方向を向く。

 その様子を見て弥命はムッとしながら健登を睨んだ。

 恨めしそうな視線に気が付き健登は冷や汗をかく、最近の弥命は妙に嫉妬深く他の女の子と仲良さげにしているとすぐに拗ねるのだ。

 まあ弥命が嫉妬しているなんてことには、健登は気付いていないんだけどね。


「ダメだ、ポイニークーンおまえは連れて行かん」


 さすが悠紗ちゃん、容赦のない拒否っぷりである。


「なんでよ? 別にいいでしょ、大体わたしは健登くんに聞いているのであって、あなたの許可は求めていないわ」

「おまえが来ると健登に碌な事をしないからな、健登は妾の旦那様なのだ、よって誰と行くかは妾に決定権がある」

「なによそれ、じゃあ弥命ちゃんはいいの?」

「当然、弥命は妾の友であるからな」


 まあ、なんて嬉しいことを言うのでしょう! 弥命は悠紗のその言葉に感激する。

 紫はと言うとそんなのもお構いなしに、相も変わらず健登の腕におっぱいを押し付けながら悪びれもせず悠紗に言う。


「だったらいいじゃない、わたしも弥命ちゃんとはお友達なんだから、友達の友達は友達も同然って言うでしょ」

「なにをわけのわからぬことを、ダメなものはダメだっ! と言うか、いい加減健登から離れぬかっ!!」


 まったくなぜにこの二人はこうも仲が悪いのか、とも思えば悠紗の為に傷薬を作ってあげたりと、最早あれなのか? 一周廻ってこれは逆に仲が良いのかもしれない。

 まあとにかくこれではいつまで経っても先に進めないので、健登は悠紗の頭をわしわしと撫でると窘めるように言う。


「まあいいじゃねえか悠紗、傷薬も作って貰ったんだしそんな意地悪言うなよ」

「まあ! 健登くん優しいのね、だから好きよ❤」

「ぐぬぬぬぬ、妾の方がもっと健登のことを好いておるわ! それ以上に健登は妾のことを好いておるのだああっ!!」


 二人の突然の告白に弥命は唖然としてしまう、まあいつものことなので悠紗は置いておくとして……なに? どうして紫までが健登のことを好きだなどと、まあ冗談半分なのかもしれないが、昼には手作り弁当を食べさせてあげようとしたり、やたらとアピールしているような気がする、今もスキンシップと言うには妙に距離が近い、近いどころではないあれは完全にわざと当てている……当てて……


 そういうアピールの仕方もあるのか……


 弥命はふらっと健登の横、紫とは反対側に行くとギュッと腕にしがみ付く、突然の行動に驚く健登だがそれ以上に腕に感じるこの感触、弥命のもつ破壊力抜群の柔らかさについうっかり鼻の下を伸ばしてしまう。


「ひ、姫宮?」

「そ、それじゃあ……い、行きましょうか?守羽くん」


 弥命は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら言うが、紫は尚も健登から離れようとしないのでここは引き下がるわけにはいかない。

 既に女の戦いは始まっているのだ、ここで一歩でも後れをとれば命取りになる、人間の腕は二本しかないのだ、であれば悠紗に取られる前にこのポジションを死守しなければ自分は蚊帳の外、戦いに参加する前に負けるようなもの。

 今やもうただスイーツを食べに行くだけなどと言う、ピクニック気分のお出かけではなくなった。


 これは謂わば戦争なのだっ!!


 そんな弥命のアホな思いも露知らず、健登は美少女二人に挟まれ両の腕に感じる心地よい感触にドギマギしながらも悪くはないと思ってしまうのだが、その様子を見ていた悠紗の苛立ちが頂点に達する


「なあああああにをデレデレしているのだああああああああっ!!」


 悠紗は三人の前に立ちはだかり飛び上がると、健登の顔面に見事なパンチを喰らわせるのであった。





 お店から出る頃、時刻はまだ午後五時を回るくらいであった。

 紫はこの後別の用事があると言うのでその場で別れると、健登達三人は家路につくのであったが、途中健登が電車に揺られて体調が悪くなったと言うので降りた駅の横にある公園で少し休むことになった。


「うぇぇぇぇ、気持ち悪りぃぃ食いすぎたぁぁ……」


 健登は胸を押さえながら公園のベンチにもたれ掛かる。

 いくら腹が減っているからと甘いものをあんなにバカバカ食ったら胸やけするに決まっているだろう、生クリームなんて純度の高い脂を飲んでいるようなものなのだから当然である。


「安いからってあんなに食べるからですよまったく」


 弥命は呆れ顔でペットボトルのお茶を健登に差し出すとその横に座った。


「あんがと……って、この暑いのにホットのお茶なんてどっから手に入れてきたんだよ?」

「そこの売店にありました。冷たい物を一気に飲むよりも、暖かいお茶を少しずつ飲んだ方が胃腸にもいいんですよ」


 なんだかおばあちゃんみたいなことを言うなと思いながらも、健登はそれを受け取りチビチビと飲む、暫くすると弥命の言う通り胸焼けも治まり始めてだいぶ良くなってきた。

 悠紗は目の前の噴水の所へ行きそこに居た子供たちと一緒に水遊びをしている、ああやっているのを見ると普通の子供にしか見えない。

 夏を感じさせる夕暮れの一時、弥命の神器を引き抜いた日もこんな夕焼けを二人で見たな、なんてそんなことを思っていると心地よい風が吹き抜ける。

 風に誘われるように健登はふと横に目をやると弥命も同じように遠くを見つめていた。

 夕焼けに照らされほんのり紅く染まる頬とその瞳に映る夕陽はとても鮮やかで、いつの間にか健登は弥命の横顔に見とれてしまっていた。

 どことなく愁いを帯びたその表情に思わず声に出してしまう。


「綺麗だな……」


 呟くように言った言葉であったが、健登は「しまった」と思い下を向き焦る、聞かれていただろうか? ついうっかりぼーっとして言ってしまったが、恥ずかしいったらありゃしない。

 

「はい、とても綺麗な夕焼けですね」


 どうやら弥命は夕焼けのことを綺麗だと言ったと勘違いしたらしい、健登はホッとして顔を上げると……これが弥命の本当の笑顔なのであろうか、健登は一か月前のあの日のことを思い出す。

 「わたしも学校を好きになれるだろうか?」と言った弥命に、「あたりまえだ」と返したあの時、弥命はどんな顔をしていたのであろうか?……いや、そんなことは今となってはどうでもいいことなのかもしれない、今こうして弥命が目いっぱいの笑顔を見せてくれていること、健登にとってはそれがなによりも嬉しいことであった。


「なにを二人してニヤケながら空を眺めているのだ?」


 ペチャペチャと水を垂らしながら戻ってきた悠紗が二人の前で不思議そうな顔をしている


「うわっ! おまえびしょびしょじゃねーかっ!!」

「うむ、勝って来たぞ!妾は子供相手でも手加減はしないからなっ!!」


 なにを自慢げに言っているのか、そういうのを大人げないと言うのだ、まあ見た目は子供だけど。

 弥命は鞄の中からタオルハンカチを取り出すと悠紗の顔と頭を拭いてあげる、健登がどうせパンツまでびしょびしょだろうからもう搾って適当にそこら辺に干しておけと言うと、悠紗が真に受けて脱ごうとするので慌ててそれを止める。

 そんなことをしていると通りすがりの老夫婦が、「まあまあ、若いお父さんとお母さんでいいわねお嬢さん」なんて言ってくるもんだから、健登と弥命は顔を見合わせて真っ赤になった。


「違うぞ、妾が健登のつまっもがふぅっ!!」


 悠紗の口を塞ぎ愛想笑いを返しそそくさとその場を離れるのであった。


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