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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第27話 エピローグ② 妾はゴーゴン三姉妹が三女、名は芽堂悠紗だ

 昨日のように駅に着くと湊真は手をぶんぶん振り回しながら逆のホームの階段を上がって行く、危ないから前見て歩けよ。

 そして健登と弥命はまた黙って、付かず離れず微妙な距離感で二人並んで歩く。

 昨日と違うのは気まずいというか、なぜだかとても気恥ずかしい感じがすることだ。

 意味が解らない、なんで芳乃と一緒に歩くだけなのにこんな気分にならにゃいかんのだ健登がなんとなしに横を見るとなにやら芳乃も俯きながら恥ずかしそうに歩いている。


 ちょっと待て


 これじゃあまるで俺ら付き合いたてホヤホヤのカップルみたいじゃないか!冷静になり周りを見てみるとなにやら出勤途中のサラリーマンの恨めしそうな眼や、若い二人のことを生暖かく見守るお兄さんお姉さんおじさんおばさん達だよぉ、って感じの眼。


 え? なにこれ? なに祝福されてる感じなのこれ? 無理無理無理無理無理、だって芳乃だよ? 物心つく前からずっと一緒に居て一緒に育ってきて、家族というか、兄弟みたいな? なんかそんな感じなのに、え? そういうのないから絶対……


 ない……か……ら


 健登は今日初めて、間近で芳乃の横顔をマジマジと見た。


 こいつ、こんなに女っぽかったっけ……そういや昨日の保健室でのこいつ……妙に色っぽかったというか


 今までずっと兄弟のような存在に思っていた芳乃に、健登は初めて異性を感じたような気がした。

そして不意に芳乃の胸の感触を思い出す。

 見た目よりも弾力があり柔らかかった、弥命のものに比べればその感触はやはり物足りなさも感じるが、芳乃は決して幼児体型と言うわけではない、ちょっとばかし平均値より平べったいというだけで、まあ一応でていることはでているし、引っ込むところは引っ込んでいるスレンダーで綺麗な体型なのだ。


 いかんいかんいかんっ! 意識し始めたらますますこっ恥ずかしくなってきたぞおおおおお! 落ち着けええ、落ち着けえええええ、そうだっ! こういう時には素数を数えるといいってなんかでやってた……素数ってなに?


 そんな混乱する健登に芳乃の方から話かけてくる


「ねえ健登……」

「え? あ、ああ、なに?」


 そのまま芳乃はなにか言いたげな様子だが黙ってしまう、先程までとは打って変わってなにやら真剣と言うか、不安げというか、なんだか複雑な表情だ。

 そうこうしている内に電車が到着し二人一緒に乗り込む、二人無言のまま並んで吊革に掴まり立つのだが、微妙な空気に耐え切れず健登が切り出した。


「なんだよ? なんか言いたいことあるなら言えよ」

「ん……そのね……昨日の事なんだけど」


 ああそのことか、そりゃそうですよね。

 帰りの道中はなぜだか異常に興奮状態でテンションの上がりまくった芳乃と弥命が、ずうううっと無駄なお喋りを続けていたかと思えば、いつの間にか二人寄り添い寝てしまっているし、家に戻ってからも親達に説教されてそのまま特になにも説明しないまま今に至るのだ、色々聞きたいことがあるのも当然であろう。


「ああ、まあそれは追い追い姫宮も交えてちゃんと説明する、お前も色々大変な目にあったんだから知る権利はあるし」

「そうじゃなくて……」


 芳乃は吊革に掴まったまま真っ赤になり俯いてモジモジしている。

 そうじゃないってじゃあなんなのよ?健登が不思議そうな顔をして芳乃を見ると。


「昨日の……あの……ほ……」

「ほ?」

「ほ、ほほほ保険室でのことはっ!! あれは一時の気の迷いというかっ、その、別にあれは本心じゃない……ってわけでもないんだけれど……とにかくっ!!」


 芳乃は顔を上げて健登を睨み付けると真っ赤なままで言う。


「あれはっ! ゆうさちゃんの所為で自分でもよくわからない状態のままやったことなんだから水に流しなさいっ! いいわねっ!!」


 芳乃の必死の形相に健登は、なんだとへらへらしながら応える。


「ああ、なんだそのことかよ、安心しろっ! 忘れた忘れたあんなこと」


 は?


 あ、あんなことおおおおおお!? 忘れたああああああっ!? なに? どういうこと? こいつにとってはあれがあんなこと程度のことなの? 胸まで触られたのよわたし? それも忘れたの? どういう脳みその構造してるのよこいつ馬鹿なの?


 芳乃は健登のあまりにもデリカシーのなさに、怒りを抑えるかのようにふるふると震えながら下を向く。

 その様子をみた健登が心配そうに芳乃の顔を覗き込むと。


「どうした芳乃? トイレでも我慢してるのか?」


 ぶちん!


 健登のその言葉に芳乃の何かが切れる音。


「さい……ってええええええええええっ!!」


 次の瞬間芳乃の張り手が健登の横っ面を貫いていた。


 駅に着いても激おこぷんぷん状態の芳乃の後を、健登はなぜ引っ叩かれたのかすらわからずすごすごと付いていく、とにかく今は何も言うまい“あの眼”をしている時の芳乃に逆らったらタダではすまない、ここは大人しくしていよう。

 あと、朝からごちそうさまでした。みたいな感じになっていた他の乗客の皆さん、お騒がせしてすみませんでした。


 校門の前まで来ると見慣れた車がある、弥命だ。

 ドアを開ける水谷が二人に気が付くと小さく会釈をしてくる、そして弥命が降りてくると芳乃は朝の挨拶をする。


「おはよう弥命」

「おはようございます芳乃さん、昨夜はよくお休みになられましたか?」

「うん、おかげさまで自分の部屋に入るなり気を失ったわ」


 なんだかすっかり仲良しの二人に健登は腕を組みうんうんと頷いている、そんな健登に気が付いたのか弥命が。


「あ、守羽くんもいたんですね、おはようございます」

「お、おう、おはよう」


 あれ? 弥命さん?なんだか扱いが……ちきしょう、女の友情の方を取ったのね!! 酷いわっ!!


 何かを察したのか水谷が健登の肩にポンと手を置いて可哀相な眼で見てくる、なんか言ってください。

 水谷に別れを告げ三人並び立って教室へと向かう、右から芳乃、健登、弥命の順だ。

 こういうのを両手に花と言うのだろうか?健登はなんだか得意げな気分になった。

 周りの男子達の殺気の籠った視線などには気づきもしなかったであろう、こうやって知らず知らずのうちに敵が増えて行くのだ、世の中って怖いね。


 教室に着いて自分の席に座ると坂や橋場いつものメンバーがやってきた。

 なんで弥命や芳乃と一緒に登校してきたんだ? と問い詰められてなにやら怖い感じです。

 思っている以上にあの二人が学年でも男子達に人気の高い女子であることを、健登は知らなかったのだ、馬鹿だね。

 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴る、ほぼ同時に教室のドアが開き担任の泉宮寺麻衣が入って来た。


「おらー席に着けー、昨日の今日だからな、体調の悪い者はすぐに誰かに言うか保健室に行くように、一応カウンセラーも常駐してるから相談したい者は遠慮なく行くんだぞー」


 昨日あった集団昏睡事件、とは言ってもなぜだか眠り込んでしまった生徒や職員は皆一様に、体調不良どころか目覚める前よりもすこぶる元気になったという感想を口を揃えて言うのだ。


 眠りは救い、全ての痛みや苦しみから解放してくれる。


 つまりはそういうこと、ヒュプノスは別に悪い神様ってわけではないからね。


「さてっ! 急ではあるがおまえらに紹介したい者がいる」


 麻衣のその言葉に教室がどよめき立つ。


「こんな時期に突然ではあるが転入生だ、入ってきなさい」


 いきなりのビッグニュースに教室中から歓声があがる、男子達は女子来い女子来い女子来い! かわいい女子来おおおおおおおおいっ!! と大合唱、それを在来女子達が男子死ね、キモい、馬鹿ばっかと罵倒する。

 麻衣に促され教室に入って来たのは、腰まで伸ばしたまるでシルクのように艶やかな長い黒髪が印象的で、ツンと澄ましたその横顔は幼く見えるが美しい少女。

 やったっ! 男子達大勝利、あれ? うちの制服にあんなサイズの子供服みたいなのってあったっけ? ていうか……小学生? なんで右目になにやらかっこいい眼帯みたいのしてるの?


 静まり返る教室、その転入生は黒板に自分の名前を書くと振り返り自己紹介をする。


「妾はゴーゴン三姉妹が三女、名は芽堂悠紗(めどうゆうさ)だ」


 んなアホなっ!?


 健登、弥命、芳乃の三人はというと一体なにがどうしてそうなっているのかまったく訳が分からず唖然としている、なぜメドゥーサが自分達の学校に、クラスに、高校生として転校してくるのか?意味がわからない、てーかそれは無理があるんじゃね? どういう手続きしたのよ神様すげえなっ!

 そんな三人の様子に気が付くとメドゥーサは悪戯な笑みを浮かべて言い放つ。


「そして……妾は健登の許嫁(フィアンセ)であるっ!! 旦那さま~❤」


 そう言いながら健登の元に駆け寄り抱きついた。


 はぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっ!!?????


 クラス中が大パニックであった。

 男子達は血涙を流しなにやら呪いの言葉を吐く者やら罵声を浴びせる者、「姫宮さんや葭埜さんと一緒に登校してきたかと思えばこんなロリ美少女まで」と阿鼻叫喚の渦であった。

 女子達はと言うと、きゃあああああああ!!と黄色い声を上げながら何やら楽しそうな様子の者から、ロリコンきもい犯罪者と蔑む者と様々であった。

 これにはさすがの麻衣も参ってしまう、「うるせえええ黙れえええええっ!」と言うものの最早暴動寸前のクラスを抑えられることなどできなかった。

 そんなクラスメイト達を他所にメドゥーサは健登から離れるとある人物を見つめて告げる。


「さて、そんな妾の席だが……おまえ、健登の隣は妾に譲れ」


 そう言う相手は、隣の席の田中さんであった。

 田中さんはメドゥーサの眼をじっと見つめると顔色一つ変えずに言い返す。


「お断りね、ミジンコにも劣る下等生物の隣の席なんかになんの未練もないけれど、どけと言われてはいどうぞと言うほどわたしのプライドは低くないのよ」


 その下等生物って誰の事でしょうか? もしかして俺? やだ、田中さんの蔑むような目が痛い


「ほお、よい度胸だな娘……」

「ちょおおおおおおっと待ちなさいゆうさちゃんっ!!」


 なにやら不穏な空気が漂い始めたので割って入る芳乃。


「なんだ芳乃、おまえからもこの娘に言ってやっておくれ」


 クラスの皆は芳乃もこの転入生と知り合いなのかとわけが分からない様子、さらにそこに弥命も割って入る


「そうですっ! メドゥ……ゅうささんっ!! 席替えは学期の初めに行うので今はまだできませんっ!!」


 いやいや、そういう問題じゃないから弥命さん、まじめなクラス委員だなっ!


 弥命までもが知っているのか、クラス中が唖然としていると教室の後ろのドアが大きな音を立てて開け放たれる、その音にクラスの全員が振り返ると中に入ってきたのは、この学校では知らない者などいないシルバーブロンドツインテールの女王様、生徒会長常深紫であった。

 紫はクラス中を見渡すと健登を見つめて言い放つ。


「そういうことよ健登くんっ! あとはよろしく頼むわね❤」

「はあ? なにがそういうことなんですかっ!?」


 ウインクと投げキスをして、それだけ言うと紫は出て行ってしまった。

 もうクラス中が健登を憎き敵と言わんばかりの眼で睨みつけている、男子のみならず女子生徒にも絶大な人気を誇る生徒会長の紫が、なぜこの馬鹿のことを親しげに「健登くん」などと呼ぶのか、今このクラス二年A組は健登を中心になにやらすさまじいヘイトスピーチのデモ集会のような様相を呈しているのだった。

 どけどかないと言い合いをするメドゥーサと田中さん、それをやめなさいと怒る芳乃にまあまあと宥める弥命、クラスメイト達に詰め寄られる健登、その様子を傍観する者や、ロリ美少女がクラスにやってきたことを喜ぶ者達、紫の姿を近くで見ることができて感涙している者達、終わらない乱痴気騒ぎ、終わらない宴。


 それを教室の片隅で黙って見つめる一人のアラサー女教師は、口元に薄ら笑いを浮かべるとゆらゆらと暗黒のオーラを放ちながら黒板の前に立つ。


「餓鬼ども……いい加減にしやがれええええええええええええええええっ!!」


 麻衣の怒声が校舎内に響き渡ると、またあのクラスかと学校中の誰もが思うのであった。




 今日もどうか一日何事もなく平和でありますように by校長







 神器の巫女 第二章 蛇姫神と迷い猫


                                              完

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