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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第26話 エピローグ① なんじゃ? ここはわしの席じゃ、おまえは歩いて帰れ

 ヴーヴーという振動音と共にけたたましく鳴り響く目覚ましの音に、芳乃はモゾモゾとタオルケットの中から這い出すとスマホを手に取った。

 時刻は朝6時半、ちょっと早起きだけれど昨日はよく眠れたので目覚めはそれほど悪くはない、ベッドの上で欠伸をしながら両手を上にあげ伸びをする。


「よっし」


 声をだし気合いを入れカーテンを開けると陽の光がとても眩しかった。

 今日は暑くなりそうだ。


 朝食をとり終え制服に着替えると姿見の前に立ちどこかおかしい所はないか最終チェック、襟もリボンも曲がってはいない、寝癖も付いていないしメイクもばっちり、香水はあまりきつくはない自然なものにしよう、髪の色ちょっと抜けてきちゃったかな? 近いうちに美容院に行かないと、よしっ! 準備は万端。

 玄関の前まで行くと芳乃は外に聞き耳を立てる、いつもこれくらいの時間に湊真が喧しく出てくるはずなのだが、もたもたと靴を履いて時間稼ぎ。


「芳乃ー、もう出るのー?」


 突然の声に振り返ると姉の綾乃が歯ブラシを咥えながら立っていた。


「なにあんた? 今日はまた随分と気合いの入った感じね」

「そ、そうかな? べべべ、べつにいつも通りだけどっ!」


 明らかに動揺しているのがバレバレだ。

 そんな妹の態度に姉は「ふ~ん」と言いながら、なにやらニヤニヤして言う。


「たっくんに見せるんだ」

「違えわよっバカ綾乃っ! 行ってきますっ!!」


 姉の冷やかしに芳乃が真っ赤になりながら玄関から飛び出すと、隣からバカデカい声量で朝の挨拶をしてくる輩が、湊真だ。


「あーっ! しのっちおっはよーーーーっ!!」

「おはよう湊真、朝っぱらからあんま大声出すとご近所迷惑よ」

「大丈夫大丈夫! 向いのおばあちゃんはわたしの声を聞かないと一日が始まった気がしないって言ってたしっ! おにいいいいいっ! 今日もしのっち待ってるよっ! はやくーっ!」


 待ってない……わけでもないけど


 芳乃は自分の鼓動が高鳴るのを感じていた。

 なにを意識しているのか、別にあいつの為に早起きして髪型を整えたわけでもお化粧をがんばったわけでもないし、なんとなく今日はそんな気分だっただけ、そうっ! なんとなくだっ!!


「うぅるせえなぁ、だから先に行ってろって言ったろー」


 相も変わらずノロノロと面倒臭そうに玄関から出てくると芳乃の存在に気が付く健登。


「お、おはよう……」

「おう……今日も一緒かよ」

「わ、悪い? 別にあんたとじゃなくて湊真と一緒に行くのよ」


 つい、憎まれ口をきいてしまうのもお約束だ。


「わーい、しのっちがわたしのこと待っててくれたーっ! しのっち一緒に行こうっ! 手繋いで」

「それは嫌よ」


 昨日と同じように芳乃と湊真が並びお喋りをする後ろを健登が付いていく。

 健登は湊真と楽しそうに話し笑う芳乃の横顔を見て安堵した。



 とにかくあの後は大変であった。





 この工場跡には弥命と芳乃は眠っている間に連れて来られたわけだし、健登は紫の魔術で途中までワープさせて貰ったのだ。

 帰るにしてもどこへどう向かえばいいのかわからない、大体ここはどこなのだ? とりあえず東を目指せばいいのだろうか?誰も携帯は持っていないしそもそも電波も入らなそうである。

 動かず待つべきか?あまりにも帰りが遅ければ紫が心配して迎えに来てくれるかもしれない、しかしそんな確証もないしとりあえず山道は一本だし日が沈む前に動き出した方が良いと、道なりに降りて行けば麓の町にでも辿り着くだろうと三人で歩き出したわけだがこれが失敗であった。

 どこをどう間違えたのか途中から舗装された道は途切れて完全になくなる、草木を掻き分けて進むも最早方角すらわからなくなる、疲れただの喉が渇いただのぶーぶーと文句を垂れる芳乃と健登がまた喧嘩を始め最初はそれを宥めていた弥命であったが、終いには弥命もその喧嘩に加わり三人ギャーギャーと喚き散らしながら森の中を進む、そして日が傾き始める頃にようやく一本の舗装された道路へと出ることができた。

 人工のアスファルトに触れることによりなぜか安堵した三人はその場にへたり込んでしまうと、坂道の上から一台の車が降りてくる。

 その車のヘッドライトが三人を照らし数メートル前で止まると中から人影が飛び出してきた。


「ひいいいいいいいめええええさあああああまああああああああああああっ!!」


 叫びながら水谷は弥命に抱きつくと涙を流しながら頬ずりをする。


「ひめさまっ! ひめさまぁっ! よくぞご無事でええええっ! うあああああん、水谷は、水谷は心配で心配で、それはもう心配すぎて死にそうでしたああああああっ!」


 弥命はもう疲れ果てているので引っぺがす気にすらならない、健登はそれを苦笑いしながら見ている、芳乃はいつも学校の前で凛として行儀のよいメイドがこんなにも取り乱して弥命に抱き縋っていることに驚いていた。

 そう言えばこのメイドは昨日会ったメイドにそっくりではあるが髪型が違う、あとおっぱいはわたしとどっこいどっこい……それは置いといて、姉妹なのだろか?


 とにもかくにもこんな所で水谷と合流することができたのは本当に奇跡的であったと言えるだろう、弥命と芳乃は雪崩れ込むように車に乗り込むと安堵の溜息を漏らした。


「あああああああ、何時間ぶりの柔らかいソファーかしらっ、石ばっかりでもううんざりだったのよ、このまま埋もれて行きたいわあああっ!」

「きゃあああああ、いつも乗っている車がこんなにも快適で心地の良い乗り物だったとは知りませんでしたああああっ!」


 芳乃に加えて弥命までもおかしなテンションになり叫び声を上げている。

 後部座席でやいのやいのと騒いでいる女子達は放って置いて健登は前の座席に乗ろうと助手席側のドアを開けるとそこには先客がいた。


「なんじゃ? ここはわしの席じゃ、おまえは歩いて帰れ」


 またまたご冗談を……しかし白髪のおかっぱ頭の美少女がバタンっ! とドアを閉めると車は健登を置き去りにしてそのまま走り出すのであった。




「いつまで拗ねておるのじゃ小僧」


 車の前座席、口を尖らせ不貞腐れる健登の膝の上で意地悪な笑みを浮かべながら白が言う。

 芳乃はぽかーんとしてしまい、弥命と水谷は申し訳なさそうな顔をして項垂れている。

 水谷はちゃんと前見て運転しろよっ!


「それにしても傑作であったなっ! 泣きながら車を追いかけてくる小僧のあのなんとも情けない様よっ!!」

「うるせえええええええ! やっていいことと悪いことってのがあるんだよっ! あの瞬間の絶望感と恨みはぜってえに忘れねえからなっ!!」

「わしも忘れぬわw鼻水を垂らしながら必死に追いかけてくるおまえの顔をなっwww」


 ちっきしょおおお!! 草生やしやがってええええ!!


 あの状況下で山の中に一人置いてけぼりにされれば大の大人であっても泣いちゃうに決まっているだろう。

 それにしてもなぜ白までが付いてきているのか?滅多に山から降りることのない白がこうやって出向くからにはよほどの事だったのであろうか? そもそも水谷はどうやってここまで自分達を探しに来たのか? 弥命が不思議に思っていると耳元でひそひそと芳乃が話かけてくる。


「ねえ弥命、あの娘なんなの? なんか無性にゆうさちゃんに雰囲気が似てるような気がするんだけど、子供の癖に偉そうなところとか、健登とも随分と親しげな感じだし」

「あぁ、それは、まあメドゥーサさんと似たようなものなので見た目はあまり気にしないでください、あと守羽くんのことは遊んでるだけなのでそれもあまり気にしないでください、それから絶対に白様に聞こえるように子供って言わないでくださいね、とにかく今は白様のご機嫌を損ねるとめんどうなので詳しくはまた今度……」


 ひそひそと周りに聞こえない様に話しているつもりだが白の耳は地獄耳、と言うか妖怪なのでそんな声簡単に聞き取れてしまう。


「弥命、聞こえておるぞ、そんなにわしの事がめんどうであったのか」

「ひいっ! そ、そんなことは……申し訳ございません白様ぁ……」


 恐れ慄く弥命の姿を見て芳乃は、まーたえらいめんどくさいキャラが登場したわねと、もう今回の一件でなんでも受け入れ態勢はばっちりになっていた。


「まったく、あの(むらさき)の魔女から連絡があったから悪戯かと思いつつも不穏な気を感じたので言われた通り来てみれば、なにやらボロボロになった工場跡にどうやら神器を使ったような気配までするわ、いったいおまえらは何と戦っておったのじゃ」


 なるほどそういうことか、紫の魔女とはおそらく生徒会長「常深紫」のことであろう、しかし白は(ゆかり)のことを知っているような口ぶりでもあるしどういうことなのだろうか?まあそれは追い追い聞くとして、弥命はメドゥーサが神器を狙って学校に現れたところから、ハーデウスのくだりまでのあらましを白に話す。


「なるほどのう、蛇女に冥界の王とその従者までもが今回の件に関わっておったとわな、そんな感じでもなかったのだがまあよいか、まったくこれだから外国人は……」


 外国人って……いやまあ外国の神様だからそうなのかもしれないけれども。


「それしても白様がいらっしゃるなんて珍しいですね? そんなにわたしのことが心配だったのですか?」


 ニコニコとなにやらごきげんな様子で白に問いかける弥命、なんだかんだで自分のことを心配して駆けつけてくれたことが嬉しかったのだ。


「ふん、朱音が奥多摩くんだりまで行くと言うから、偶にはどらいぶがしたくなっただけじゃ馬鹿もん」

「おかげでわたくしは道中大変でしたぁ……」


 恥ずかしそうにそっぽを向いて答える白に、弥命は「ふふっ」と笑顔を抑えられなかった。

 水谷はおそらく本当に大変だったと思う……


 というわけで、水谷達がこの場に現れたのは偶然ではなかったらしく、それでもこうやって山を彷徨い出会えたことは運がよかったと言えるのかもしれない。

 こうして健登達は無事家に帰りつくことができたわけだが、帰ってからも健登と芳乃は散々であった。

 学校で集団ヒステリーのようなことがあり臨時休校になったというのにいつまで経っても帰らない息子と娘、携帯にもでないので学校に問い合わせても登校したらしいということまではわかるのだがその後のことはわからないと言うし、休みになったのでそのままどこかに遊びに行ったのかもと待つことにしてみたが夕方になっても連絡の一つもしてこないので、警察に相談してみるかと守羽家と葭埜家で会議を開いていたところ、ボロボロ泥だらけになった娘と、血塗れになった息子が帰ってきたのでそれはもう大騒ぎであった。

 小さい頃にもこんなことがあったのなんだのと、山に探検に出掛けていつまでも帰ってこないので、警察に届け出ようとしたところ外から湊真が大泣きする声が聞こえたので慌てて出てみると、靴を片方失くして裸足になった芳乃を健登がおんぶしながら帰ってきたという話を聞かされて延々と説教されたのだ。


 お説教が終わる頃には二人疲れ果てその日は泥の様に眠った。

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