第25話 ばっかじゃないのっ! 親友に決まってんでしょっ!!
「守羽健登君っ! 僕は神器なんかよりも君が欲しくなった!!」
な! なんだってええええええええええええ!!
その場に居た全員が、双子神までもが一緒に絶叫する。
「お、おおおおお、俺はそんな趣味はないぞっ! できれば普通でいたいっ! そうありたいっ!!」
尻を押さえながら叫ぶ健登、その格好やめなよ。
「な、なにを言っているのかまったくもってわかりません……もう、神様のことが信じられませんわたし」
弥命は両手で顔を覆いわなわなと震えながら呟く、とても巫女の台詞とは思えない。
「どういうことよっ! なんなのあいつっ! ホモなの? 女の子だけじゃなくてホモまで惹きよせるの健登はっ!?」
神様をホモと言い放つ芳乃、相変わらず怖いもの知らずである。
「ダメだっ! 健登は妾の旦那様なのだっ!! おまえには絶対にやらぬぞっ!!」
いや、それも違うからメドゥーサちゃん、また喧嘩になっちゃうよ?
「ハ、ハーデウス様それって……それってっ! ぐほぉっ……」
なぜか嬉しそうな表情で鼻血を噴き出しながら倒れるヒュプノス、こいつっ! まさか!?
「うほ、ヒュプノスは薄い本を集めるのが趣味」
あーあ、バラしちゃったよタナトスちゃん、絶対わざとだよね。
そんな言いたい放題、カオスな状態の全員を無視してハーデウスは続ける。
「僕は職業柄「死」というものに触れる機会が多くてね、色んな死の形をこれまでに数えきれないほど見てきた。死と言うものは誰もが畏怖し遠ざけたいと考えるもの、不死ではない人間ならば尚更だね。でもね、「死」とはそれ単体では存在しえないものなのだよ、わかるかい? 死の裏側には必ず「生」がありその逆もまた然り、生と死とは非なるものではなく対を成すもの、「生死」とは、それらで一つのものだと言えるとは思わないかい?」
言っていることがよくわからない、生だとか死だとかそんな意味なんて今まで考えたこともない、道徳の授業なんかで命はたった一つだから尊いものとか、なんかそういうことは習うが、「死」の意味について考えることなんてもっと歳を取ってからってもんだ、たかだか十六~七そこらの少年少女達にはまだ早すぎる命題だと健登は思った。
「守羽健登君……僕はきみを見ていて思ったんだ、きみは生に執着するでもなく死を甘受するわけでもない、そして自らの命と他人の命を天秤にかけることもない、きみという男は死に最も近く最も遠い存在であるがゆえに美しいっ!!」
両手を掲げ天を仰ぎ見る様に叫ぶハーデウス、同じ男である自分を美しいと評するのは正直神様であっても気持ち悪い、そう思う健登であったが更にハーデウスの言葉が追い打ちをかける。
「美しいものを側で愛でたいと思うのは当然だろう? つまりこれは愛っ!! そう呼ばずしてなんと呼ぶのかっ!!」
遂に愛の告白をし始めるハーデウス、健登は青ざめながら固まってしまう。
恐ろしい、男に付け狙わるなんて、しかもそれが神様だなんて。
弥命も芳乃もライバルが最強の神様でしかも男だなんて、神はなんという試練をお与えなのかと天を仰ぐ、ヒュプノスがなにかアイデアが浮かんだのかなにやら必死にメモを取っているので放っておこう、そしてメドゥーサは呆れた声で告げる。
「はぁぁぁ……もうよいハーデウス、あれが欲しいこれが欲しいと我儘ばかり、妾は疲れた。もう帰って眠りたい」
そう言うとその場にへたり込んでしまった。
それを見たタナトスが瓦礫の上からするするっと降りてくるとメドゥーサをおんぶする、タナトスの背中にしがみ付きながらメドゥーサは三人を見つめ静かに言った。
「健登、弥命、すまなかったな、おまえらには酷いことをしてしまった。この借りはいつか必ず返そう、これは神である妾の誓いだ」
「そんな、メドゥーサさんこそ……」
「気にすんなよもう済んだことだ、こうして皆無事なんだし、おまえは約束通り芳乃と姫宮は傷つけなかったんだ、いい神様だな」
白い歯をニカっと見せ満面の笑みでそう言う健登の言葉に、メドゥーサは少しはにかみながら微笑んだ。
「そして……芳乃……」
そう言うとタナトスの背中に顔を埋め消え入りそうな声で言う。
「妾は……妾は今でもおまえの友達か?」
その問いに芳乃は暫し沈黙すると、口元にフっと笑みを浮かべて大声で答える。
「ばっかじゃないのっ! 親友に決まってんでしょっ!!」
そう言って、芳乃はメドゥーサに右手の親指を立ててみせた。
タナトスの背中で「そうか……」とだけ呟くメドゥーサ、泣いているのだろか?顔を埋めているのでその表情まで窺うことはできなかった。
まったくもって子供のような神様だなと思いながらも、芳乃はその姿をとても愛おしく思えてしまった。
ハーデウスが「いずれまた」と言い残すと四神はその場を去って行った。
いずれまたとは、健登を貰いに来ると言うことだろうか?
一抹の不安を残し、今回の件はようやく終わりを告げるのであった。
「あーあ、結局なんだったんだろうな今回は、んっ!」
そう言いながら健登は両手を頭の後ろで組み伸びをする。
思い返してみればなにもあんな殺し合いを演じることなどなかったのはでないか?散々石の刃で身体を切り刻まれ巨大な重機に押し潰されて五回も石にされたのだ。
それもこれも二人を助けるためであり、芳乃に至ってはメドゥーサと結局は仲良さげな感じだ。
まったくもって無意味な戦いである、まったくもって無駄な怪我を負ったのだ。
「まったく、神器を手にしてから碌な目に合わねーや」
「面目ないです……」
ボヤく健登にあからさまにしゅんと落ち込む弥命。
「あ、いや、姫宮が悪いって言ってんじゃないぞ? そんなに落ち込むなよ、な? おいっ! 芳乃もなんとか言ってやってくれ」
これは失言だったと焦る健登、この男はこういうところでデリカシーがないのだ。
助けを求めるように振り向くのだが突然飛びかかるように芳乃が抱きついてくる。
「おっ! おいっ!?」
突然の出来事に驚いて動けない、こんなに目いっぱいに密着されて芳乃に抱きつかれたことなどなかったのでドキドキしてしまう。
弥命の前でもあるので恥ずかしくなり離そうと肩に手を掛けるが、芳乃の身体が小さく震えているのがわかった。
「よ、芳乃? どうした? どっか痛いのか?」
「……かった」
震える声で呟く芳乃。
「怖かった……死ぬほど怖かった!!」
「芳乃……ごめん、辛い目に合わせちまって、本当に悪かった」
「ちがうの、怖かったってのはそういう意味じゃないの……あんたが……健登があんなボロボロになりながら、血塗れになりながら戦っているのがすごく嫌だったの怖かったのっ! 死んじゃうんじゃないかと思ったら死ぬほど怖かったのよっ!」
今にも泣き出しそうな声で怒鳴る。
すべてが終わり今までずっと張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう、そんな芳乃を申し訳なさそうに黙って見つめる弥命と健登、なんて言葉をかければよいのかわからなかった、ただ「ごめん」と、そう言うしかなかった。
「でもね……」
健登の胸に顔を埋めると嬉しそうにそして恥ずかしそうに芳乃は言った。
「ありがと……助けに来てくれて」
「あったりまえだろ……」
優しく微笑むと健登は芳乃の頭をゆっくりと撫でた。
そんな姿を弥命は少し羨ましいなと思ってしまうのだが、今日だけは仕方ないかなとも思うのであった。
「よーし、そんじゃ今度こそこれで終わりだー、学校は休みになったからもう帰ろうぜえ、へとへとだあ」
「いいえ、まだ終わりじゃありませんっ!」
そう言う健登に弥命が告げる、まだなにかあるのか?健登が不思議そうな顔をすると、弥命は何やら真剣な顔をして続ける。
「守羽くんは、芳乃さんに言わなければいけないことがあります」
「俺が ?芳乃に?」
弥命が突然訳の分からないことを言い始めたので健登は芳乃の方を見るが、芳乃もなんなのかよくわからない様子。
しかし弥命はキっと健登を睨み付けると少し怒った様子で言った。
「あの時っ! 芳乃さんがわたしの教科書を見つけてくれた時、守羽くんはこう言いました。だっせえことしてんじゃねえっ!! って、でも、あれは芳乃さんじゃありませんでしたっ! 間違った相手を責めたんですっ! それを謝ってくださいっ!!」
なにを言い出すのかと思えば、弥命はそんなことを気にしていたのか。
わたしが健登に怒鳴られたことを気に病んで……そんなこといいのに……芳乃はちょっぴり嬉しくなってしまう。
「な、なんだよ、あれは……その、なんつーか……」
反論しようとするが健登は口籠ってしまう、実は前から悪かったなとは思いつつもついタイミングを逃してしまい、と言うかあんだけの啖呵を切ってしまったので謝るに謝れなかったのだが、こう面と向かって謝れと言われると益々謝りづらい。
「弥命、もういいわよそんなこと」
「ダメですっ! こういうことは時間が経てば経つほど言いづらくなるんです! だから、今ここでハッキリ! 謝ってください守羽くんっ!!」
これは素直に謝るしかないなと健登は諦める、こうなっては弥命は聞かないだろう、意外と頑固なのである。
そして芳乃は驚いていた。
弥命がこんなにも他人に対してこうしなさいと意固地になるなんて、これは健登だからそんな態度をとっているのだろうか?本当にびっくりしてしまった。
弥命に言われすごすごと芳乃の前に立つと、健登は気を付けの姿勢をして頭を下げた。
「悪かった芳乃! あれは俺の間違いだった! お前はださくない、むしろかっこいいっ!!」
「なによそれ? あんた本当に謝る気あるの?」
ここまできて往生際が悪い、最後にちょっと茶目っ気を入れてお茶を濁そうという魂胆の健登の謝罪に文句を言う芳乃。
「ああん? 謝ったんだからもういいだろ?だいたい今回助けてやったんだからチャラだろチャラっ!」
「はあ? それとこれとは関係ないでしょ、大体助けに来たのにあんた負けたじゃないっ! 最後に助けてあげたのはあたしでしょうがっ!!」
「おまえはそこに座ってただけじゃねえかっ! 俺なんかめっちゃ痛い目にあいながら戦ってたんだぞ!!」
「だからそれはありがとうって言ったじゃないのっ! いつまでも恩着せがましいわねっ!!」
結局喧嘩を始める二人に弥命はもうどうしようもないと呆れ果て天を仰ぐ。
まあでも、喧嘩する程仲がいいって言うし……やっぱりちょっと、羨ましいかな。
「もおおおおおおお、二人ともなんで喧嘩してるんですかっ! やめてくださいっ!! もういい加減帰りますよ」
あっ!
言われて三人一斉に固まる
「どうやって帰るんだよ……」




