第24話 妾は健登の妻になると決めたのだ、大切にしてね旦那様❤
「そんな……健登っ! いやああっ!!」
「守羽くん……うそよ……アメノハバキリ助けてっ! 守羽くんを助けてえっ!」
石になった健登の姿に悲鳴をあげる芳乃。
弥命は神器に己の魂に健登を助けるように懇願するがアメノハバキリはピクリとも反応しない。
「どうして……わたしの命なのに……なんでなにも反応しないの……応えなさい……応えなさいよっ!! アメノハバキリっ!! 守羽くんを助けなさいっ、なにが神器よっ!! なにが姫巫女よおおおっ!!」
取り乱す二人とは対照的にメドゥーサの様子がなにやらおかしい、惚けたように頬を染め健登の姿をポーっと見つめたまま微動だにしない。
「……妾が……かわいい……?」
そう呟くとメドゥーサは真っ赤になり頭から煙を噴き出す。
男達から美しいとその美貌を褒め称えられ求愛されることなど何度もあったが、今まで「かわいい」などと言われたことなどあっただろうか?
そうかそうかそう言うことか、相分かった! つまりはそう言うことだな
「なるほどなるほど、妾に惚れてしまったので止めを刺せなかったのであるな!!」
なにがなるほどなのかよくわからないが、そのメドゥーサの言葉に芳乃と弥命が過剰に反応する。
「はあああっ!? ちょっとゆうさちゃんいきなり何言ってんのっ!?」
「どうしてそうなるんですかっ! 意味がわかりませんっ!!」
今はそんなことにいちいち突っ込んでいる場合ではない、ないのだが二人はそれどころではない。いや、石になっちゃったのにそれどころじゃないどころじゃないだろう。
しかし二人にとってはそっちの方が大事、健登の身よりも大事……あれ?
とにかくこともあろうに女神であるメドゥーサがわけのわからない勘違いを始めたのだ。
そもそも健登の好きな相手は……そんなのはわからないけど、とりあえずそれだけはない、ないのだが、なんだメドゥーサの奴、石になった健登の頬に両手を添えて何をするつもりだ、ゆっくりと顔を近づけて……ちょっと待て、近づけすぎでないかい? なんだその恥じらう乙女のような顔は? なんで目を瞑って頬を染めているんだ? まさかそれって……
「ゆうさちゃんっ! やめなさいっ、やめなさいごるあああああああっ!!」
「あわわわわわわっ! なにしてんですかあああああっ!!」
二人の絶叫が虚しく響く中、メドゥーサは健登の唇に自分の唇を重ねた。
あまりの衝撃的なシーンに放心状態になる芳乃と弥命。
いや待て……だがこれはノーカンではないだろうか? だって石だよ? そう、メドゥーサは石になっている健登にキスをしたんだからこれはキスの内には入らない、そこらの石像にするのと大差ないんじゃないの?
だいたい健登のふぁ、ふぁふぁふぁ、ファーストキスはわたしが、いや湊真が先だっけ?
まあそんな子供の頃の話はどうでもいいとにかくこれはノーk
「それはっ! キ、キキキ、キスの内には入りませんっ!!」
真っ赤になりながら叫んだのは弥命だった。完全に動揺し目が泳いでいる、独楽みたいにぐるんぐるん廻ってるよすげえ……
こんなにわかりやすい反応を見せられるとかえって自分は冷静になってしまう芳乃であったが、そんな二人を後目にストーン健登の首に腕を廻し濃厚な接吻を続けるメドゥーサ。
ちょっと、未成年の女子二人の前でエロすぎやしませんか?
そんな子供がする大人のちゅーを見せつけられて、恥ずかしがりながらも目が離せない二人。
「い……いい加減にはなれ……」
痺れを切らした芳乃が言いかけると健登の身体に変化が現れる。
メドゥーサが口づける口元から徐々に石化が解けて行き、健登の身体はみるみるうちに元に戻っていく、メドゥーサが口を開きながらゆっくりと唇を話すと唾液が糸を引く、もちろん生身の唇からである、そして健登はそのままゆっくりとメドゥーサの胸元に倒れ込むと気を失っているようだった。
メドゥーサは健登の頭を両腕で抱きしめ、弥命と芳乃の方を向くと意地悪な笑みを浮かべ言い放った。
「これでこの男は妾のものだ、決めたぞ、妾はこの男を夫として迎え妻となろうぞ」
その言葉に弥命は完全に昇天し口から魂が抜け出してしまっている、いやもうすでに胸から飛び出してんだけど。
「しっかりして弥命っ! くそおっ! あの女悪魔だわっ! いいえ、魔女よ魔女っ!! そんなの絶対認めないんだからあああああああっ!!」
なんか大事なことを忘れているような気がするが、芳乃の叫びが木霊しこの戦いは幕を閉じた、それとは別に今ここで新しく女の戦いの火蓋が切られたのであった。
瓦礫の山から下り、メドゥーサは健登を地面にそっと寝かせると芳乃と弥命の元へゆっくりと近づいてくる、それを恨めしそうに見つめながら芳乃が話しかける。
「早くわたし達も元に戻しなさいよ」
「わかっておるわ」
それにしても元に戻すということはつまり……あれだ。
芳乃と弥命もメドゥーサとキスをしなければならないと言うことか?つまりそれはそのあれだ……最高じゃね?
「ゆうさちゃん……そ、その……何と言いますか、まあその、戻し方がそれしかないというのであれば仕方ないのだけれど……そ、その……まあ、ゆうさちゃんかわいいし嫌ではないわ……いや違うっ!! やさしくしてね? だあああそれもちがああああうっ!」
恥ずかしそうにくねくねしていたかと思えば頭を抱えて悩みだす芳乃を白けた眼で見ながら、メドゥーサは右目から流れる血を手で拭い取るとそれを払って芳乃と弥命の石化している部分に振りかける。
すると血の付いた部分からみるみると石化が解けて芳乃と弥命は元の姿に戻った。
石の状態からようやく解放されて芳乃は足をパタパタと動かし無事なことを確認する、弥命はずっとお腹より上の部分しか動かせなかったので、「ん~」と言いながら伸びをして身体の凝りをほぐす。。
そして自由の身になったことを一頻り確認すると二人は同時に叫んだ。
「それで元に戻るのかよっ!!」「それで元に戻るんじゃないですかっ!!」
そう、石化を解くのにわざわざキスをする必要なんかない白雪姫じゃねーんだから、メドゥーサの体液ならなんでもいいのだ。
「ん? そうだぞ? 妾の体液であればなんでもよいからな、おまえらにはそれで十分であろう?でも健登は特別だ、旦那様と口づけを交わし唾液を絡めあいながら魔法を解くなんてそれはそれはロマンチックであろう❤」
頬に両手を当て嬉し恥ずかしそうに言うメドゥーサは、まるで新婚ホヤホヤの新妻が惚気ているようにも見えた。
なんという仕打ち、なんという屈辱、この娘は見た目がかわいい女の子だから騙されていたが、中身は最早どれくらい生きているのかもわからない性悪淫乱おばさんなのだ、見た目は子供中身はばばあ! ロリばばあ!!そんなことを思いながら芳乃はぶるぶると震え怒鳴る。
「ふっざけんじゃないわよっ!! だいたいあんた、わたしとあいつのこと応援してたんじゃないの? それを泥棒猫のように横からかっさらうなんてどういう了見なのよっ!!」
「えっ? ちょっと待ってください芳乃さん?応援ってなんですか? そういうことだったんですか今回のことって! これは守羽くんを誑かすための自作自演だったんですかああっ!!」
芳乃の言葉に横で聞いていた弥命が噛みつく、これまでのことは全部出来レースで芳乃とメドゥーサが結託し健登を芳乃に振り向かせる為の芝居だったのかと疑い始める。
文化祭の時にわたし協力するからがんばってアタックしなさいよ的なあれ、そんなことしていたら仕掛け人のメドゥーサが健登とくっ付いてしまった泥沼的なあれ。
「待ちなさい弥命! 何勘違いしてんの? そんなんであんな危ないことするわけないでしょっ、命がけすぎるわっ!! だいたいゆうさちゃんが勝手に言っているだけだしっ!!」
「勝手ではないぞ? 健登は妾をかわいいと言った。だから妾を斬ることはできぬと言ったのだ、これが妾に惚れていないとすればなんとするのだ?」
「なっ!? か……かわ、かわいいですって?」
な、なんてことだ!わたしにはそんなこと一度も言ってくれたことないのに
芳乃は健登がそんなことを女性に向かって言ったことに驚愕してしまう・
「わ、わたしはこないだ頭を撫でてもらいましたっ!」
「はあっ!? あんたなに突然張り合ってるのよっ!! てかなにそれ? いつよっ!!」
なぜか突然自慢げに言いだす弥命、とにかくここは一つでも多く何かを言った者の勝ちみたいな空気になり始めている。
芳乃はもう開いた口が塞がらなかった。
いつから健登はこんな天然ジゴロみたいになっていたのだ? 知らない内に健登の周りには、弥命に弥命のメイドにメドゥーサに色んな女性が集まってきている。
なんなのあいつ?なんか女の子を引き寄せるフェロモンでも出してんの?
健登を巡る女同士の攻防が勃発しかけた所で、その本人がようやく目を覚ました。
「んあ……うぅん……あれ? 俺生きてんのか?」
上体だけ起こすと不思議そうに自分の両手を見つめ身体を触り、五体無事であることを確かめると辺りを見回す。
健登は芳乃と弥命に気が付くと二人の身体が元に戻っていることにも気が付き、さらにその傍らにメドゥーサが立っていることにも気が付く。
どうやらメドゥーサは自分の願いを聞き入れて二人を元に戻して、さらに自分までも助けてくれたんだと思い健登は安堵した。
しかしそんな単純な話ではないということを健登は知らない。
とりあえず立ち上がろうとした瞬間。
「ようやくお目覚めなのね旦那さま~❤」
と言いながらメドゥーサが駆け寄ってきて抱きつく、わけがわからず呆気に取られているとメドゥーサは健登の胸の中で潤んだ瞳で見上げながら甘えた声をだす。
「妾は健登の妻になると決めたのだ、大切にしてね旦那様❤」
はあ? なにを言っているのだこのガキんちょは? 全くもって事態が飲み込めない。
なんでさっきまであんな戦いを繰り広げていた相手が、しかも自分のことを石に変えて殺そうとしてたのに、目覚めたらいきなり妻にしろとかわけがわからない。
本気で戦った相手を「強敵」と認めた的なあれか? んなわけないよね。
ちんぷんかんぷんな状況に健登は助けを求めるように芳乃と弥命の方を見やると、なぜだか二人は恨めしそうにこちらを睨みつけている。
「あ、あの……葭埜さん? 姫宮さん? これはどういうことでしょうか?」
「あ? 知らないわよ。よかったわねかわいいお嫁さんが見つかって、婚約おめでとう、結婚式には絶対に呼ばないでね」
「同感です。うちでは絶対に式を挙げないでください、他宗派の神様なんて敷居も跨がせませんから」
なんで二人が怒っているのかまったくわからない、そんな二人を後目にメドゥーサは嬉しそうに健登の膝の上で抱きついたままである。
え? なに? 怖い……気を失っている間にいったいなにがあったの? 誰か教えて
そうこうしていると頭上で突然男の声が響く。
「いやあ、お見事お見事~びっくりしたよ、まさかこんな結末になるなんてね」
声のする方向へ皆が振り向くと、瓦礫の上に立つ三つの影。
「ハーデウスか」
メドゥーサがその名を口にすると弥命だけが驚きの表情を見せる。
冥界の王でありオリュンポス十二神には名を連ねていないが(諸説ある)その神々等にも匹敵する、或いはゼウスやポセイドーンとさえ同等の力を持つと言われている神である。
そしてその後ろに並び立つ二人の少女、一人はメドゥーサが呼んでいた。眠りの神ヒュプノス、と言うことは同じ顔をしているもう一人は死の神タナトスであろう、今回の件の黒幕がそんなとてつもない神様だったとは思いもしなかった。
メドゥーサは健登の膝の上から降りると、瓦礫の上に立つハーデウスを見上げ言い放つ。
「もう妾は戦わぬぞ! 神器などもともとどうでもよかったのだ、アテナへの意趣返しも最早どうでもよい、妾は今の時代を楽しむことにした。いつまでも過去に囚われ、復讐心に身を窶すなど神のすることではないわ」
やはりメドゥーサは自分の意思で戦っていたのではなく、ハーデウスの口車に乗せられて戦わされていたのだ。
つまりそれは、今、非常に不味い展開になっているのではないか?
黒幕が登場ということであればここからはハーデウスと、ギリシャの神々の中でも最強の内の一人と謳われる神を相手に戦わなければならないのか? 神器は既に弥命の内に戻ってはいるが、もう一度それを引き抜き戦ったとして健登はメドゥーサとの戦いでかなり疲弊している、いやたとえそうでなかったとしても到底勝ち目なんてあるわけがない、弥命は悩む、この状況をどう切り抜ければよいのか考える。
だが、ハーデウスは思いもよらないことを言い出した。
「そうだねメドゥーサ、僕もこれ以上の戦いは望ましくないと思っているよ、まさかこんなにも凄惨な戦いになるとは思ってもみなかったからね。君と守羽君、そして人質となった二人にはとても申し訳ないことをしてしまったことをこの場で謝罪させてほしい」
まさか神が、冥界の王ハーデウスが、人間を相手に自らの非を認めそれを謝罪し手を引くと言い出したのだ。
後ろで金髪のヒュプノスが悔しさを滲ます。タナトスはつまらなそうな顔をしてお下げの先っちょをくるくると弄っている。
「僕の顔に免じて途中でヒュプノスが決闘に水を差したのも不問にしてはくれないかいメドゥーサ?」
「ふん、まあそれはよいわ、そもそも先に手出しをしたのは巫女のほうであるしな」
そう言われ弥命はバツの悪そうな顔をする。
「それにしてもあれだけ欲しがっていたものをいったいどういった心境の変化か」
メドゥーサの言いようでは、どうやらハーデウスは相当に神器を欲しがっていたにも関わらず突然それをやめてしまった様子である。
そもそもそんなに欲しいのであれば自分で出向けば良いものを、わざわざメドゥーサに戦わせてあまつさえその策略は失敗しているのだ、一体なにがやりたかったのか最早わからない。
「まあ確かに欲しいことは欲しかったんだけどね、別に神器なんて唯一無二の物ではないしもういいかなって」
神器が唯一無二のものではない?その言葉に弥命のみならず健登も少しムっとする。
しかしメドゥーサは納得したような表情で「確かにそうだな」と頷くとさらにハーデウスに聞く。
「ならばなぜ今更姿を現したのだ? まさか謝罪する為だけにと言うわけでもあるまい」
「まあ最初はそれだけのつもりだったんだけど、君たちの戦いを見ていて僕は一つの核心に辿り着いたんだ」
「はあ?」
メドゥーサは怪訝な顔をする、そんなメドゥーサは無視してハーデウスは健登を見つめると声高々に宣言した。
「守羽健登君っ! 僕は神器なんかよりも君が欲しくなった!!」
な! なんだってええええええええええええ1!




