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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第22話 芳乃ぉ、妾はどうしたらいい? もう……わからないのだ

 芳乃の手にしている五枚の呪符、それが弥命の今使用できる最後の武器であった。

 これからやろうとしていることが神器を通し健登に伝わっていれば恐らくはメドゥーサの石眼を攻略できるであろうと、そうでなければもう手立てはなにも残ってはいない、あとは健登を信じるのみである。


 守羽くんっ、お願いっ!


 バカ健登、信じてやるから絶対に成功させなさいよっ!


 祈る二人、そして一瞬の静寂が過ぎるとメドゥーサが遂に動き出す。


「ではゆくぞ小僧っ! 次で終いにしてやるっ!!」


 叫ぶと辺りの瓦礫や重機が石になり砕け散る、この瞬間メドゥーサはほんの一瞬だが石眼を使えない、健登は身を隠していた瓦礫の陰から飛び出すとメドゥーサへ向かって一気に加速する。

 健登のスピードでも微妙なタイミングではある、連射できないとはいえ石眼を使えるようになるまでのインターバルは1秒か2秒そこらだ、さらには左目の金縛りもある。

 あとはもう賭けるしかない、身代わりが石になり解けるまでのタイムラグとメドゥーサに届くまでの距離を縮められることを……

 次の瞬間健登は金縛りに襲われる、どれだけ意識し気を付けていてもメドゥーサの魅了の魔眼に惹き寄せられるようにその眼を見てしまう、そしてそのまま石へと変わる健登の身体。

 全身が完全に石となり数秒後その石化は解けるが先程よりも石化している時間が長かった。

 これが紫の言っていた精度の低さである、完璧なものであればほぼラグのない状態で石化の魔法が身代わりへと移るはずであった。

 紫は後で文句を言っても知らないと言っていたのでもうそれはしょうがないだろう。


 今、どれくらい石化していた? もう目は復活したのか ?くそっ、届いてくれっ!!


 ―― 今ですっ! 守羽くんっ!! ――


 思うのと同時確かに聞こえた弥命の声、飛び出す直前にも聞こえたあの言葉。


 ―― 合図と同時にフラッシュバンに備えろ ――


 フラッシュバンとは警察などで使用する、敵を無力化させる為に爆音と閃光により相手の聴力と視力を奪い平衡感覚を失わせる特殊な手榴弾のことを言う、仕組みも用途もまったく一緒の物だがスタングレネードとも言う。

 健登は先のアルレッキーノとの戦いで水谷がこれを使用するのを間近で見ていたのと、対応方法を聞いていたので即座にそれを実行する。

 目を瞑り耳を塞ぐ、衝撃もくるのだろうか?とりあえず口は半開きにしておく、直後瞼の裏に一瞬光を感じた。


 今だっ!


 目を開け一気にメドゥーサ目がけて斬り付ける、この際どこでもいい当たれっ!! が、斬り付けた剣は固い何かの表面を砕くとそのまま弾かれた。


 メドゥーサの周りに石の壁がドーム状に形成されていたのだ。

 そして弾かれ体勢を崩す健登目がけて放たれる閃光、瞬く間に健登の身体は石へと変わる。


「残念だったな姫巫女、きさまの小賢しい策も妾にその切っ先を届かせるには今一歩足りなかったようだ」


 メドゥーサがそう言う間に健登は再び石化から解き放たれる。

 その瞬間メドゥーサはあらかじめ作り出しておいた石の刃を仕掛ける、さすがの健登もこれを躱すことはできず刃に両腕両足を貫かれた。

 苦痛の声をあげることもなく健登はその場に頽れる。


「くそ……くそおっ!」


 身動きも取れず、健登は地面の砂を握りしめただ悔しさを滲ませた。

 弥命は奥歯を噛みじっとメドゥーサを見つめる、万事休す恐らくこれで身代わりも尽きたであろう。


「それで終わりか万策尽きたな、もう良いであろう?負けを認め大人しくその剣を妾に寄こせ、芳乃はそれで解放してやる……だが、きさまと姫巫女には死を持って償わせよう」


 芳乃はメドゥーサのその言葉に耳を疑った。


「妾の身体をここまで傷つけたきさまと、神の決闘に横槍を入れこの戦いを汚した巫女は万死に値する」

「ゆうさちゃんっ! それはないわっ、あんまりよ! そんなのお互い様じゃないっ! もうやめてよっ、なんでそこまでするのよ、殺すとか殺されるとかどうしてそんなことを簡単にできるのよおっ!!」


 結局はもう情に訴えるしかなかった。

 メドゥーサに攻撃して倒し勝つという手立てはなくなったのだ。

 健登も弥命も降参する気は更々ない様子、二人死なば諸共とでも言わんばかりの表情で、玉砕覚悟で戦闘を継続しようとしている、そんな馬鹿なことはやめさせなければならない。

 芳乃のそんな訴えにメドゥーサは俯き目を伏せ静かに言う。


「黙れ……」

「黙らないわっ! ゆうさちゃんお願いっ! これからは毎日わたしがご飯を作ってあげるからっ! 葡萄ジュースも買ってあげる、今度一緒に遊びに行きましょう? ゆうさちゃんに似合いそうなかわいいお洋服を見てその後映画を見るの、プリクラも一緒に撮りましょう? それからカラオケにも行きたいわ、夜はうちで一緒にご飯を食べるの……家族にも紹介するわ……わたしの大切な友達だって……それから……」


 言いながらぽろぽろと涙を流し始める芳乃、こんな出会いでなければそんな楽しい思い出をたくさん作ることができたのではないだろうか? どうして自分の大切な人とゆうさは敵として出会ってしまったのだろうか?芳乃はその事がとても悲しくとても辛く、そしてそんな運命が許せなかった。

 メドゥーサは芳乃の言葉を聞きながら俯きなにやらブツブツと言っている、その表情は見えない。


「黙れ……黙れっ、黙れ黙れ黙れ黙れだまれえええええええええええええっ!!」


 突然狂ったように叫び顔を上げたメドゥーサの瞳から一筋の涙が零れた。


「だ……ま……れ……妾は、いったい妾はなにをしているのだ……」


 力なく項垂れるとそう呟く。

 メドゥーサはこれまで正気を失っていたのだろうか?そして今芳乃の言葉で我に返ったのだろうか?或いは・・・最早なにが正気でなにが狂っているのかわからなかった。

 いいや最初から狂っていたのかもしれない、芳乃の言うようにこんな戦いには何の意味もない、なぜ芳乃を悲しませてまでなぜ自分も傷ついてまで、あやつらの命を奪わなければならないのか、神器など最初から欲しくはなかったのだ、だったらなぜ……


「一人で目覚めたのだ……妾は、自分が何者でどこに居るのかもわらない……突然右も左もわからない場所に放り出され、空の青があんなにも重く狭苦しく見えたのは初めてであった……不安であった、恐ろしかった……寂しかったのだ」


 メドゥーサは涙を流し芳乃に語りかける、その表情は怒りに燃え憎しみに満ちた先程までの顔ではなく、一人の小さな女の子の顔であった。


「芳乃、妾はおまえが好きだ。あの時一人ぼっちであった妾に温もりをくれたおまえのことが大好きになったのだ」

「ゆうさちゃんっ!」


 一人ぼっちだった。それはきっと心がということであろう。

 ハーデウスもいた、ヒュプノスもタナトスもいた、けれども彼らはメドゥーサの気持ちに寄り添うことはなかった、それは神であるからだ、そんな必要があると考えもしなかった。

 メドゥーサは魔眼で操った下僕共に囲まれようとも、インターネットというおもちゃを与えられその世界にのめり込もうとも、決してその心が寂しさが満たされることはなかったのだ。

 そんな時に出会った芳乃と言う少女、腹を空かせた自分に食べ物を恵んでくれた。

 人が神に供物を捧げるのは当然である、その見返りにどうにも自信なく落ち込んでいる小娘の悩みを聞いてやろうと言うのに、あろうことかそれを芳乃は断ったのだ。

 神である自分の言うことを鼻で笑い馬鹿にし、これはもう冒涜としか言えなかった。

 だけれども芳乃は自分のことを友達だと言ったのだ、嬉しかった、ここにきてから与えられた物の中でどんなものよりも嬉しかったのだ。


「芳乃ぉ、妾はどうしたらいい? もう……わからないのだ」

「ゆうさちゃん……もうやめよう? やめて一緒におうちに帰りましょう」


 芳乃に言われメドゥーサは涙を拭いながら恥ずかしそうに「うん」と頷くと、青銅の腕は元に戻り頭髪もシルクの様な艶のある黒髪へと戻っていく。

 健登も弥命も胸を撫で下ろし安堵した、それにしてもまさか最後の最後芳乃が説得してしまうとは思いもしなかった。

 武力により相手を打ち負かし戦いに勝利するのではなく、心を交わすことによって相手と和解したのだ、これこそ葭埜芳乃という女性の優しさであり、素晴らしさであり、弥命の憧れるところであった。

 健登はと言うと助けにきたつもりが助けられていたわけで、しばらく芳乃には頭が上がらないだろうなと思いつつも、皆が無事で解決したことを喜ぼうと思った。


 とにもかくにもこれにて一件落着……したかに思えたが。



『ダメよメドゥーサまだ終わっていないわ、ハーデウス様は神器をお望みなの』


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