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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第20話 すねいくうぃっちおぶごっで~すえぴそ~どわ~ん しゅわしゅわしゅわ~ 近日ろ~どしょ~

「そこらへんに適当に座って」


 紫はなにやらごそごそと本の山を漁りながら健登に言う。

 適当にと言われても足の踏み場もないんですけど……とりあえずトーテムポールのような顔の彫ってあるちょうどいい丸太のような物があったのでそれに健登は腰掛ける。


「ちょっと! その人、生前はとある部族のとても偉い酋長さんだったのよ、高名なシャーマンでもあったから祟られても知らないからね」


 えええええっ!? これ生首なの? 嘘っ? てーかそんなもんを適当に床に転がしてるあんたが祟られろよっ!


 健登は青ざめ恐る恐るその生首から降り手を合わせると、せめて景色の良さそうな窓際にでも置いてあげようかと思うが、紫にカーテンは開けるなと怒られたのでそっと部屋の隅っこに置いた。

 他になにか座れるような物はないかと探すと、実験台の所に理科室にある様な小さな木の椅子があったのでそれに腰掛ける。


「あの、先輩、ここでなにをするんですか?」


 健登の問いに紫は「ん~?」なんて生返事をしながら四つん這いになり、本の山の中から何かを取り出すとゆっくり立ち上がりスカートに付いた埃を掃いながら言う。


「あったあった、これを探してたのよ」


 そう言う紫の両手にはなにやら呪いのわら人形のようなものが計五体握られていた。

 そして不敵な笑みを浮かべながら健登に近づいてくると「ちょっとちょうだいね♪」と言いながらすれ違いざまに髪の毛を毟っていく。


「痛っ!なんなんすかいきなりっ!?」

「これから作るものに必要なのよ」

「作るもの?」

「そうよ、石眼対策用の身代わり人形を作るの、時間がないから五つが限界だけど本当なら一個作るのにまる一か月はかかるものを現代の科学技術を駆使すれば、ものの三十分足らずでいっぺんに作れちゃうのよ凄いでしょ」


 なにが凄いのかさっぱりわからないがまあ凄いのだろう、そう言いながら白衣を身に纏い眼鏡を掛け作業に没頭し始める紫、その格好をする意味はなに? そう思っていると突然紫が予想だにしない単語を口にする。


「健登くん、精液ちょうだい」

「は?」


 一瞬この人がなにを言っているのかわからなかったのだが、その単語の意味を理解すると健登は慌てふためき答える。


「はあああああああ!? 何言ってんですかあんたは急にっ!!」

「ん? なにって……あー、なんか変な意味にとっちゃった? もうっエッチね、でも今はダメよまた今度❤ それよりも身代わりを作る為にあなたの体液が必要なのよ、下着くらいなら見せてあげるから自分でだしなさい」

「いやいやいやいや、そんなの無理ですっ! 無理じゃないけど無理ですっ!!」


 健登は真っ赤になりながら全力で拒否する。

 これが非常事態でなければなんともおいしいシチュエーションであることは言うまでもないのだが、今はそんなことをやっている場合ではない。

 さすがにそれは無理だ、だせたとしてもあとでもの凄い落ち込みそうだからやだ。


「もー、じゃあ唾液でいいわよこの容器にちょうだい、そのかわり身代わりは三つまでそれも精度がだいぶ下がっちゃうから後で文句言っても知らないからね」


 なんだよ、唾でいいなら最初からそう言ってくれ、それならいくらでも出してやるわぺっぺっぺーーーーーーっ!!


 紫はちょっと残念そうな顔をしながら健登の出した唾液をスポイトで吸うと、先程健登の頭から毟り取った髪の毛を入れた試験管に垂らす。

 そして先程まで作っていたビーカーに入っているなにやら気味の悪い液体を、同じように試験管に入れくるくると回して混ぜる、おもむろに胸元から保健室で見せた魔法石を取り出し、台の上に置きハンマーで叩き割って欠片を入れると「ポンッ」と小さな音が鳴り煙が上がった。

 同じ様にもう二つ、計三つそれを作ると遠心分離機にそれを入れてボタンを押した。

 そんな一連の流れをボーっと眺めていた健登であったが、当然なにをやっているのかはわからない。


「それじゃあこれができるまで健登くんはこっち」


 そう言って紫は先程本の山の中から見つけてきた人形にお札を貼りつけて健登に見せる。


「健登くんにはこれから身代わりになってくれる人形と、血の盟約を交わしてもらう必要があるわ」

「血の盟約?」

「そう、もしもメドゥーサの石眼を健登くんが受けてしまった時に、この子達にそれを代わりに受けてもらうの、だからあなたの血を捧げて肉体に命が宿るようにしてあげて、そうすればこの子達は石になって砕けたあともちゃんと天国に逝けるようになるのよ」

「言っている意味がわからないです。」

「あなたは誰かの身代わりになるのに単なる“モノ”として扱われたい?」


 そう言う紫の目は真剣そのものであった。

 またお得意のなぞかけのような返しであったが、今回はなんとなく言いたいことがわかるような気がした。

 単なるモノとして扱われる……言われてみればそうだ、昔からよく人形には魂が宿るなんて言われる、一見気味の悪い話にも感じるが人や動物など生き物を模した形の物に、そう言った感情を抱くのは人としてとても合理的な考え方のように思える。


「わかりました。でも、それってなんだか悲しいっすね」

「うふふ、優しいのね。でも心配しないで、そうやって命が宿って天に召されるということはこの子達にとってはとても幸せなことなのよ、どうしても可哀相だと思うなら石眼を喰らわずに倒しなさいな」


 紫は優しい笑顔で健登にそう言う、なにやらとても機嫌がよさげな感じだ。

 話を終えると紫から手渡された小刀で右手の親指の先を少し切る、なんかの映画で血判状を作るときに血の拇印を押すシーンを見たことがある。

 その時の俳優は格好よく親指を切って涼しい顔で押していたが、実際にやってみるとやっぱり痛い、健登は情けない声を上げながら人形に貼られたお札に一つずつ親指から血を二~三摘垂らした。


「よろしく頼むぜ、たー坊、けーやん、とっつぁん」

「なにそれ?」

「愛着が湧くように名前を付けてみた。一人ずつ た け と の頭文字から取ってみました。」

「ふーん、馬鹿みたいね」


 ちっきしょう! マジで馬鹿にしたような目で見やがって


 紫に蔑むような目つきで見られて健登は心の中で悔しがる、そんな健登の気持ちを見透かすように紫はクスっと笑う。


「まあ悪いことではないわよ、さてこっちもそろそろいいかしら」


 時折「カチッ! カチ!」と小さな音を立てるくらいで、動いているのかどうかもよくわからなかった機械がどうやら止まったようだ。

 紫が遠心分離器にかけていた試験管を取り出すと、どうしてそうなるのかはわからないが試験管の中の液体は底の方が赤い血の様になり、上の部分は透明な液体に分けれて真っ赤な石のような物が浮かんでいた。

 それをピンセットで取り出すと人形の胸の辺り、ちょうど心臓の部分に埋め込む。


「はいこれでかんせーい♪」


 そう言うと紫は完成した身代わり人形をぽいぽいっとそこら辺に投げてしまった。


「ちょっ? なっ! なにしてんすかっ!?」

「ん? もうできあがったしここに置いといても邪魔じゃない、どうせ石眼喰らったら石になっちゃうんだから別にいいでしょ」


 おい待てこら、言ってることとやってることがあべこべじゃねーかっ! なんだこの女? サイコパスかなんかなの? 怖えええー、なんか怖ええええ!!

 健登はなんだか納得がいかないので、「たー坊」と「けーやん」と「とっつぁん」の三人を拾い上げ先程の偉い酋長の生首の横に並べてやった。

 そうこうしている内に時刻は既に十一時を回っていた。


「そろそろかしらね」


 床にある日時計を見ながら紫が言う、カーテンが閉まっているのになぜ影が差すのかはよくわからない。

 すると「コンコン」と教室のドアをノックする音が聞こえる。

 誰だろう?そもそもここは普通には存在しえない紫の部屋だ、普通の人が訪れるとは到底思えない、だとすればこの来訪者の正体は一人しかいないだろう。


「どうぞ」


 紫がノックにそう応えるとゆっくりとドアが開く、そこには女性が立っていた。

 真っ白な髪の毛に真っ赤に血走った眼の下には濃い隈、血の気のない蒼白で不健康そうな顔色をしている、長身で細身の身体には白い布きれを一枚羽織ったような格好をしていた。


「お邪魔いたします~、はじめまして~、わたしはメドゥーサ様の使いのメドゥシアナと申します~」


 女は丁寧にお辞儀をしながらゆっくりと名乗る、語尾をだらだら伸ばして喋るのでなんだか非常に鈍くさい感じがするのだが、スルスルスルっと蛇が移動するように健登の元に寄ってくると首筋にカプっと噛みついた。


「なっ! なんだおまえっ!?」

「おいちぃ」


 その突飛な行動に健登は驚き声を上げた直後、ゴチンっ! と本の角で紫がメドゥシアナの頭を殴る。


「そいつはメドゥーサの分身のメドゥシアナよ、どういうわけか男にしか噛みつかないのよ、ずっとそうしていると精気を吸い尽くされて死んじゃうから気を付けなさいよ」


 頭を殴られて「いたたたた~」と言うのもなんだかノロノロした感じに、紫は見ているだけで苛々しているようだ。


「あなた、決闘の場所を伝えに来たんでしょ! 早く場所を言いなさいっ!」

「そうでした~、まずはこちらをご覧ください~」


 メドゥシアナはそろそろと黒板の前に行き正座をしてじっと見つめると、両目から光が照射される。



「ぱんぱかぱ~ん ぱんぱんぱん ぱんぱかぱっか ぱかぱかぱ~ん♪ てれれ~てれれ~てれれ ててて ててて ててて て~♪」


 どっかで聞いたような盛大なファンファーレと共に、黒板に映し出される「21st CENTURY GODDESS」のロゴ。

 ちなみに音声は全部メドゥシアナが言っている。

 呆気に取られながら健登はそれを見ていたのだが、ふと紫を見るとどこから持ってきたのかバケツサイズのポップコーンを抱えコーラを片手に、ゆったりとしたリクライニングチェアーに座りながら万全の態勢だ。


 あんただけプレミアム席かよっ! いやそうじゃない! なんだこれ? こいつらふざけてんの?




 ナレーション

 遠い昔はるか銀河の彼方で……神々の時代が終わりを告げる少し前……一人の美しい女神がいた……

 台詞女1

「メドゥーサ……とても美しい娘、その美貌たるや美の神アプロディーテーも羨むほど」

 ナレーション

 嫉妬、憎悪、陰謀渦巻く地上への覇権争い、勝つのは神か!? 人か!?

 台詞女2(ア○ナ)

「私よりも美しい女神などこの世にあってはならないのじゃ! ぐはははははー」

 台詞男1

「メドゥーサっ! 貴女のその美しさは、いずれ世界をっ! すべてを壊してしまう!! 私は貴女をっ!!」

 台詞女3(メドゥーサ)

「妾はただ皆を等しく愛したいだけなのに……」

 ナレーション

 全妾が泣いた! 全妾NO1ヒット!日本よっ! これが妾だっ!!


「すねいくうぃっちおぶごっで~すえぴそ~どわ~ん しゅわしゅわしゅわ~ 近日ろ~どしょ~」


 スパーンっ!!


 動画が終わる直後メドゥシアナの後頭部を健登は思いっきり引っ叩いた。


「ロードショーじゃねえっ! なにがやりたいんだよおまえらはっ!!」

「いたたた~、え~? メドゥーサ様がこれを見せろって言うからぁ~」


 涙目で頭を擦りながらメドゥシアナは抗議する、横で紫が「なかなかおもしろそうね……」と呟いているのを健登は聞き逃さなかった。

 どうやってこんなムービーを撮ったのかはわからないが、なかなかのクオリティの高さに最後まで見入ってしまったことを健登は後悔する。

 そもそも決闘に関する内容が一つも入ってないじゃないかこの動画。


「それではメドゥーサ様と守羽様の決闘の場所をお伝えいたします~」


 あ、それは口頭で言うのね……馬鹿じゃないのこいつら


「場所は県境にある採石場跡地の工場内です~、地図をプリントアウトしてきましたのでこれで確認してください~、それとメドゥーサ様からの伝言です~、芳乃様と姫巫女様の命は保障するから安心しろとのこと~、ただし守羽様との決闘に関しましては手加減はできないのでお互い命を賭けた戦いになるであろうとのことです~」


 ご丁寧に地図まで用意してくれたのか、ていうかさっきの動画はマジなんなんだよ


「その場所に正午までにいらしてくださいね~、それでは~かぷっ」


 言いながらまた健登の首筋に噛みつくメドゥシアナに、それを引っ叩いて剥がす紫

 なんだかよくわからないがメドゥシアナは健登の精気をえらく気に入ったらしく、少量だが健登の精気を吸ったことにより目の充血も引き顔色も幾分かよくなっていた。


「生きていたらまた栄養補給させてくださいね~」

「いいから早く帰れっ!」


 紫は塩を撒いてメドゥシアナを追い返す、メドゥシアナは白い蛇の姿に化けるとスルスルっとドアの隙間から出て行った。

 とにかく時間と場所はこれでわかったわけだが……


「採石場跡地ね……まあいいわ、向こうが場所を指定してくる時点で有利な場所を選ぶことはわかっていたことだし、さて健登くん、これでもう後戻りは……ってどうしたの?」


 健登に発破をかけようとして紫はやめる、健登がメドゥシアナに渡された地図を見つめながら呆然としているからだ。


「先輩……」

「なに? なんか気になることでもあった?」

「ここ……めっちゃ遠くね?」


 そう言われ地図を見ると指定された場所は東京都奥多摩地方、山梨との県境にある採石場であった。


 メドゥーサの指定してきた時間は正午、今は十一時四十七分、絶対に間に合うわけがない。

 東京都と言ってはいるが奥多摩地方なんて、最早別の県と言っていいレベルの遠さであることは首都圏に住む人ならわかるだろう。

 どんだけ急いで行ったとしても電車を上手く乗り継いで二時間以上はかかる場所だ。

 さらにそこから行ったこともない山の奥まで行かなくてはならない、確実に間に合うわけがない。


「そうだ! 神器の力を使えば……って姫宮がいねえっ!」


 どうしたものかと悩んでいると、紫がまたなにやらごそごそと教室の奥から何かを引っ張り出してくる。


 それは……見るからに箒、そうあれだ魔女とかが持ってる空飛ぶ箒、まさにそれであった。


「まさか? それに乗って……」


 この人はそんな「魔○の○急便」みたいなことまでできるのか? いや、そもそもなんも疑いもせず身代わり人形なんてものを信じていたが、あれってほんとに効果あるんだろうか?


 よし、もしもこれで空飛んで連れて行ってくれたら信じることにしよう


 健登がそんなことを考えていると紫は鼻歌交じりにその箒で床を掃き始める、窓を閉め切っているので積もっていた埃が舞い上がりくしゃみをした。

 なにをやっているのか? それで空を飛ぶんじゃないの? 不思議に思っていると掃いた埃の下から魔法陣が出てくる。


「ちょっとそれ貸しなさい」


 そう言って健登の手から地図を取り上げると、印のしてある所にペンでなにやら書き始める、数秒でそれを書き終えると紫は健登に床の魔法陣の中心に立つように言った。


「健登くん、これからあなたをここに飛ばしてあげるわ、それでもジャストの位置に行くわけではないから着いた場所からは走りなさい、いいわね」

「え? 飛ばすって?」

「それじゃあ行くわよっ!」


 健登の言葉は聞かずに紫が呪文を唱え始めると魔法陣が赤く光り輝きだす。

 わけがわからず健登は混乱するが、この短い時間の間に紫のしてくれたことを考えるとここは信用して任せようと思った。

 紫は光に包まれる健登に向かって大声で叫ぶ。


「健登くんっ!」

「なんですかっ?」

「わたしは一緒に行ってあげられないけれどっ、わたしの学園の生徒の無事はここでしっかり祈っててあげるから! ちゃんと三人で帰ってきなさいよっ!!」


 その言葉に光に包まれながら健登はゆっくりと右手の親指を立てて返す。


「色々ありがとうございました紫先輩っ! 行ってきますっ!!」


 笑顔でそう言うと眩い閃光と共に健登の姿が消えた。

 残された紫は心配そうな顔を一瞬するも、ほんの少し嬉しそうに呟く。


「もう……去り際にそんな風に呼ぶなんて反則よ……バカ健登……」



 一人残された生徒会長室はいつもの静けさを取り戻していた。


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