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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第19話 もしくは「ゆかたん❤」でもいいわよ

 それは今から遡ること約二時間前の事



「メドゥーサと一対一で決闘をしなさい」

「は?」


 間の抜けた声をあげる健登に紫はやれやれといった表情で説明する。


「わからなかったかしら? もう一度メドゥーサと戦って勝てば二人は無事に戻ってくるし、負ければ神器は奪われるってことよ」

「いやそれはわかりますけど、なんでそんなことになったんですかっ!」

「なんでって」


 紫は口元に指を当て困ったな~なんて顔をしているが、そんなかわいい仕草ですら健登はなんかこの人にはからかわれている、そんなような気がして無性に苛々してしまう。

 そんな健登の苛立ちを知ってか知らずか、紫は自分の頭をこつんと優しく叩き舌をだしながら。


「だって話の流れでそうなっちゃったんですもの、テヘペロ♪」


 なんて言うもんだから、健登はプルプルと震え額に血管を浮き上がらせなんとか切れそうになるのを我慢しながら言う。


「ま じ め に やってくれませんかね?」

「冗談よ冗談、じゃあ真面目な話をしようかしら」


 健登は小さい丸椅子を持ってきて紫の腰掛けるベッドの正面に座った。

 紫はと言うと先程までのにこやかな表情から一変、険しい顔つきになり健登の目を見つめる。

 まるで魔力を帯びているかのような深紫色の瞳に見つめられ健登は息を呑む。


「これからメドゥーサと一騎打ちをすることはもう変えられないわ、なんとか勝って連れ去られた二人を助けなさい」

「わかりました……って、簡単に言いますけど正直勝算は低いですよ」


 健登がこんなことを口にするのは珍しいことであった。

 どんな時にでも笑顔で前向きにってのが信条なわけではないが、男が人前で弱音を吐くなんてそんなカッコ悪いことはない、とかいう今時古臭い信念は持っている。

 そんな健登が紫の前でメドゥーサに勝つ自信がないなどと言うのは、余程あの石眼の能力に参ってしまったのであろう。

 目覚めてから紫と話している間も、あれやこれやと考えてみたがまるで突破口が開けない、そんな状態で再戦しろと言われても勝てる見込みなどまるでないのではないか、そう考えてしまうのも無理はなかった。

 それをわかってか紫は頷きながら答える。


「石眼か……そうね……あれをどう思う? 健登くん」

「正直参りました。防ぐとか避けるとかそういうレベルの技じゃないです。何発かはギリギリ躱しましたけど、あいつはなんて言うか、戦い慣れているって言うか、わざと避けられるようにしてる風にも感じました」

「なるほど、それはあながち間違えではないかもしれないわね」


 紫はベッドの縁に腰掛け足を組み換えながら言う。


 あ、むらさき……


 目の前でその仕草を見ていた健登からは下着が丸見えだった。

 そんな健登の視線に紫も気が付く。


「ちょっと、真面目な話をしている時にどこを見ているのかしら?」

「いや、これは不可抗力ですっ!」

「ま じ め に やってよねっ!」


 紫はそう言いながら足で健登の頭をぐりぐりと踏む、ありがとうございますっ!!さらに丸見えですっ!!

 健登も健全な優良健康男児なのでこれにはお礼を言わざるを得ない……え? 決して特殊な趣味ではないですよ?


「間違えじゃないってのは?」

「そのままよ。わざと避けられるようにしたの、つまり舐められているってことね。メドゥーサにとって石眼は必殺の一撃、彼女が持ちうる最強の武器よ、それを外すなんて脅威を感じる相手であれば絶対にありえないわ」


 紫の言う通りである、自分にとって危険な相手であれば最初の一撃で相手を必殺、仕留められなければ返り討ちに会う危険があるのだ。

 恐らくは数々の修羅場を潜り抜けてきたであろうメドゥーサが、そんな技を二度も三度も外すなんてことはありえないだろう。

 つまりそれは、健登に対してなんの脅威も感じていないと言うことの裏返しであるのだ。


「あれは神々や上位天使、上級悪魔なんかが使う魔眼と総称されるものの一つ」

「魔眼?」

「そう、その名の通り魔力を秘めた眼、使える者はそうはいないはっきり言って無敵の能力よ、なんてったって見るだけでその対象を石に変えたり、原子崩壊させたり、魂を抜き取ることだってできちゃうんだから、反則よ、チートよ」


 紫は呆れ顔で完全にお手上げと言った様子で淡々と説明する。

 聞いていた健登からすれば、そんな無茶苦茶な能力を持った相手と再戦して勝てと言うからには、なにかしらの策があるから言ったのではないのかよと思ってしまう。


「そんな、じゃあ結局また戦ったって勝てる見込みは……」

「ないわけじゃないわよ」

「え?」


 健登の驚いた表情を見て得意げに紫は答える。


「まあ確かにメドゥーサの石眼は完全無欠の必殺技ではあるけれど、それを使うメドゥーサ自体には付け入る隙があるってことよ」

「メドゥーサ自体に……そうか」

「あら? 気がついちゃったの? 本当にあなたって勘のいい時と悪い時の落差が激しいのね」

「ほっといてくださいっ! まあなんとなくですけど、つまりは俺を舐めている間は止めを刺してこないってことですよね?」

「そういうこと、であればやることは一つ、おそらくメドゥーサは戦闘が始まってしばらくの間は石眼を使ってこないわ、あなたの実力を測ると言うか最初は肩慣らし程度で遊んでくると思うの、その余裕が隙、その間に突っ込んで倒しちゃいなさい」


 倒しちゃいなさい、なんて簡単に言うが果たしてそんなに上手くいくもんだろうかと健登は怪訝な顔をしてしまう。


「倒せなかったら、若しくはメドゥーサがいきなり石眼を使ってきたらどうすんすか?」

「そうねぇ……まあそろそろ時間もなくなってきちゃうし、ちょっと移動しましょうか?」

「移動ってどこにですか?」

「うふふ、わ た し の 部 屋❤」


 なんで頬を紅く染めながら恥ずかしそうに言うの?


 健登は一抹の不安を感じるのであった。


 保健室から出ると健登は紫の後を付いて行く。

 それにしてもボロボロというか、めちゃくちゃになった保健室はそのままでよいのだろうか?あと今日はこのまま授業をやるのだろうか? 学校中の皆が眠っていたんだぞ、集団催眠状態なんてレベルじゃない大事件だ。


「あのーところで生徒会長?」

「もう、そんな他人行儀な呼び方しないで紫って呼んで、もしくは「ゆかたん❤」でもいいわよ」


 あーめんどくせえなこの人


「ところで常深先輩」


 言われるままに呼ぶのは癪なので健登は紫をそう呼んでみせる、その対応にちょっとムッとする紫だがとりあえず嫌味ったらしく返事はしてくれた。


「なあに? 守羽後輩」


 ぐぬぬ、本当にめんどくさいなこいつ


「……今日このあと学校はどうなるんでしょうか?」

「ああ、それなら今日は臨時休校にするようにって、校長には言っておいたから心配ないわよ」


 は? なんで公立高校の運営をその学校の一生徒会長でしかない人が指示できるのか、まったくもって意味不明だ、と言うかそれで言うことを聞く校長ってなんなの? まあこの人ならやってしまいそうな妙な説得力があるので、とりあえず今日は休みになったんだろうなと健登は思った。


「そっすか……で、これからどこに向かうんですか? わたしの部屋ってまさか先輩んちじゃないですよね?」

「まさか、今からうちに行っていたらメドゥーサとの約束に間に合わないわよ、それはまた日を改めて、ね❤」

「はぁ」

「今から行くのは生徒会長室よ、生徒会長である者の部屋なんだからわたしの部屋でしょ?」


 まあ確かにそうであるがあんたの物である前に学校の物なんだが……まあいいやもう、なんかこの人この学校ですっげえ権力あるんだろうなきっと、ああ怖い怖い。


 東棟校舎一階にある保険室からは階段を上がって三階に行けばすぐ生徒会室であった。

 しかしよくよく考えると生徒会長室なんてものは聞いたことがない、生徒会委員でないと知らないのであろうか?

 黙って紫の後に付いて行くと生徒会室のある三階ではなくもう一つ上に上がっていく、校舎の最上階一番奥の教室……のさらに奥。


 あれ?


 校舎の構造上今通り過ぎた教室が最後の教室でそこから先はなにもない、というか壁の筈なのになぜか廊下がまだ続いている。

 健登はもう一度端から教室の数を数え直すがやはり間違っていない。

 どういうことかと不思議に思うがこれもまた紫が何かしたのであろう、様々な事情に精通している紫のことだ、そういう魔法かなにかを使えたとしてもおかしくはない。


「先輩、これって魔法かなんかで教室を増やしているんですか?」

「なに言ってんの、ないものを増やせるわけないじゃない」

「いや、どう見ても教室の数が一個多いんですけど?」

「うふふ、健登くんあの話知ってる?学校の怪談なんかでよくある魔の十三階段ってやつ、あれと一緒よ♪」


 またわけのわからないことを言い出した。

 この人はこういう性格なのだろう、初めて会話を交わしてからものの数十分しか経っていないがなんとなく性格は掴めた。

 紫はこちらが何か質問してもその核心を突くような答えは絶対せず、煙に巻くような回答ばかりするのだ、からかわれているのか?何か試されているのか?なんにせよまともに取り合っても無意味だなと健登は思った。

 ただなんとなくだが信用できる人だとは思う、これはもう直感でしかないのでなにかそれを証明できるようなことがあるわけではないのだが、今はとりあえずその直感を信じるしかなかった。


「はあ、まあよくわかりませんけどそういうもんなんですね」


 深く考えてもしょうがないと思い適当に返事をしたのだが、紫はなにか恨めしそうな目で健登を睨む。


「健登くん、これは忠告よ。そうやって何も疑わずに物事を簡単に受け入れてしまうのはよくないわよ、人の言葉にはその人が意識していてもいなくても必ずなにかしらの裏があるの、それを疑う癖を普段から身に付けておかないと、命に関わる重大な場面で取り返しのつかないミスをすることになるんだからねっ! ふん」


 紫はぷんすかぷんと怒りながら健登を説教する、適当に返事をされたのが気に入らなかったのだろう。


「とにかく教室に入って」


 そう言うと魔の十三教室もとい、生徒会長室のドアを開けて健登を招き入れる。

 紫の後に続き教室に入るとそこはなんとも不思議な空間であった。


 なんというか完全に汚部屋、カーテンが閉め切ってあるのでなんだか空気も澱んでいる、そしてとにかく物が多い、それも良くわからない物が山積みにされているのだ。

 まず目の前には本の山、それも見たこともないような分厚い物から、これは何サイズの紙なのだろうか? 横幅が1メートルくらい縦幅はそれ以上ありそうな本が壁に立てかけてあったり、実験台なのだろうか、試験管やビーカーやアルコールランプなど理科の実験道具のようなものから、なんだか偉い研究室に置いておりそうな高価な機械やコンピューターとモニターが何台も繋いである、かと思えば奥にはなにやら怪しげな祭壇みたいなものに床には血で描いた魔法陣のようなものまで、新旧入り混じった化学実験室かと思えば怪しい宗教染みた物まで置いてあるのでとにもかくにも。


 こんなものは生徒会長室とは言わない。

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