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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第18話 なんでそんなこと言うのよ、あの子はゆうさちゃんなのよ……

「げほっ、げほっげほぉおおうっ!! 大丈夫か姫宮? 芳乃っ!?」

「わたしは大丈夫です守羽くん、けほっけほっ!」

「ごほっごほっ、バカああっ、なんてことすんのよあんた! 死ぬかと思ったわよっ!!」

「うるせえっ! 馬鹿はねえだろ!! こっちも助ける為に死にもの狂いだったんだぞっ!」


 ぎゃーぎゃーと喚き合いながら健登は地上に降りると、弥命と芳乃を地面に降ろす。


「それで死んじゃったら意味ないでしょうがっ! なんであんたはこう昔っから向こう見ずなのよっ!!」

「あーはいはいすんませんでした。本当に可愛げがねーなおまえは、大丈夫か姫宮? ちっきしょう、その身体治せるのか?」

「まだわかりません、でも白様ならなんとかできるかと思います」

「そうだよな、あいつならきっとなんとかしてくれるよな」


 自分は無視して弥命の身体の心配だけをする健登に、芳乃は頬を膨らませてむくれる。


「なによバカ健登……あたしだって……」


 それにしても……三人は工場内の有様を見て呆然とする。

 凄まじい光景であった、目の前には瓦礫の山である。

 ちょっとした建築物崩壊が起きたのだ、今は使われていない工場だったとしてもニュース沙汰になるレベルの事故である。

 冷静に考えるとそんなものにメドゥーサは巻き込まれたのだ、芳乃は心配そうにその瓦礫の山を見つめた。


「ゆうさちゃん……無事よね? まさか、死んじゃってないよね?」

「おそらくは大丈夫だと思います。神様ですからね、ですがいくら神の力とは言え、これを喰らってさすがに無傷というわけにはいかないと思います。これ以上の戦闘継続は無理だと思いたいのですが……」


 答える弥命の予想通りであって欲しいと芳乃は願った。

 芳乃にしてみればメドゥーサの身も心配であるが、これ以上健登が傷つくのも見たくはなかった。

 そもそもあんな理由でこんな正気の沙汰とは思えない、殺し合いじみたことをする意味がないと思った。

 弥命も同様である、これ以上の戦闘にはなんの意味も見いだせない、芳乃とメドゥーサの関係を考えると健登と戦うことがとても不幸な事に思えてならなかった。

 健登だけにはまだ戦う理由があった。

 弥命と芳乃の身体を治してもらわなければならない、その交換条件として神器を差し出せと言うのなら戦わざるを得なかった。

 しかし、いくら神様とはいえ見た目は小さな女の子である、やはり傷つけるのは気分のいいものではない、まあ実際ボコボコにされたのは自分の方であるのだが。

 三者三様な思いであるが、とにかくこのまま降参して欲しいと願うばかりであった。


 しばらく見つめていたのだが、パラパラと瓦礫の上から小石が落ちてきた。


 次の瞬間!


 爆音と共に頂上が吹き飛ぶと、そこからゆっくり浮かんでくる人影。

 白いワンピースのスカートの裾を靡かせ、黄金の翼を輝かせながら浮かび上がるメドゥーサの姿はまるで天使の様であった。


「ゆうさちゃんっ! よかった無事で……!?」


 無事ではなかった。右肩に大きな裂傷、そこから脈打つ度に血が噴き出している、左腕は肘から先が潰れ原型をとどめていない、脇腹にも滲む血がワンピースを赤く染めている、額から流れる血が顎を伝い、ぽつり、ぽつりと滴り落ちていた。

 涼しい顔をしているのが不思議でならないほどの重傷であった。


「そんな……ゆうさちゃん? 酷い怪我よ? もうやめよ、早く病院に行かないと……」

「妾はゆうさではない……」

「ダメよっ!! これ以上は、わたしはあなたにも傷ついてほしくないの! 死んじゃったら嫌なのよっ!!」


 メドゥーサのあまりの痛ましい姿に芳乃は、なんということを言ってしまったのかと酷く狼狽し罪悪感に押しつぶされそうになる。

 こんな筈ではなかったと言っても言い訳にはならない、無責任にやってしまえと(けしか)けたのは自分だ。

 泣き叫ぶように懇願する芳乃であったが、メドゥーサはそんな芳乃を一瞥すると健登に怒りの目を向ける。


「許さんぞペルセウス……人間風情が神聖なる神の身体を、誰であろうと不可侵にして冒さざる妾の美しい肢体を傷つけるなど……絶対に許さぬぞっ!! その罪、万死を持って償えっ!!」


 メドゥーサは意識が混濁しているのか、健登のことをペルセウスと呼び怒りの形相で睨む、その目はエメラルドグリーンの輝きを放ち叫ぶのと同時肉体にも変化が……

 傷口が石化して血が止まると、潰れていた左腕と右腕は金属の様に固まり青い光を放つと元通りになる。

 そして、黒く美しい頭髪は先から根元までみるみると真っ白に変色すると、メドゥーサの代名詞とも呼べる姿へと変貌を遂げる。


 蛇の頭髪。


 毛先には恐ろしい蛇の頭がその咢を開け牙を剥き出しにした。


「妾をこの醜い姿にさせたな……今更後悔しても遅いぞ、この姿の妾を先程までの妾と一緒だと思うなよ小僧おっ!!」


 これが、石眼の魔女メドゥーサの真の姿であった。


「守羽くん! 先程とは比べ物にならない魔力と殺気を感じます!! これはマズいですっ!」

「くそっ! どうやらまだ終わりじゃないみてえだなっ!!」


 健登と弥命はもうメドゥーサを敵としか見做していない。

 また先程の様な死闘を繰り広げるつもりだ、それでも、あんな姿になっても芳乃にはメドゥーサの姿が……


「健登っ! お願い、ゆうさちゃんを……ゆうさちゃんも助けてあげてっ!!お願いよ健登、あんなの、あんなの可哀相だよっ!!」


 無茶を言う、なにをどう助けろと言うのだ。

 芳乃がそう言うのだから助けてやりたいのは山々だが、誰から、何から助ければいいのかわからない、今は我を忘れ怒り狂い襲い掛かってくるメドゥーサを迎え討つしかない。


「もうああなってしまっては無理です芳乃さん、戦うしかありません」

「だって、わたしが嗾けたのよっ! わたしの所為で二人は戦ってあんな……」

「おまえの所為じゃねえ芳乃! あいつは神器を狙ってきたんだ、遅かれ早かれこうなっていた」


 嫌よ……ダメよそんなの……


 絞り出すような震える声で俯きながら芳乃が言う。


「なんで……なんでそんなこと言うのよ、あの子はゆうさちゃんなのよ……子供のくせに偉そうで、生意気で、葡萄ジュースが大好きで、笑顔のかわいい……どうして……」


 美味しそうにからあげを頬張る愛くるしい姿が頭から離れなかった。


「健登っ!!」


 顔を上げ手を伸ばした瞬間、健登とメドゥーサは空中で剣と拳を交えていた。



 芳乃の手は健登には届かなかった……




 まさかこんな奥の手を隠していたとは……黄金の翼、そしてあれは青い、銅だろうか?青銅の腕、健登のこれまでのアドバンテージは飛行能力とスピードであったが、そのどちらも健登の物と遜色ないほどの能力をメドゥーサは隠し持っていた。

 健登と同様に空を飛び競り合う、二人は並行飛行しながら右へ左へ上へ下へと牽制し合う。

 同じ速さで飛ばれることは健登にとっては非常に危険な状態である、今までは速さで翻弄し己の姿を石眼に捉えられないようにできたが、最早それも意味を為さなくなっている、いつ石眼を撃ってきてもおかしくない状況だ。

 メドゥーサと健登は工場の天上を突き破り上昇しながらドッグファイトの様相を呈する、お互いが追い追われを繰り返し宙返りをする最中、メドゥーサはループの頂点に達する前にまるで失速したかのように横にするするっと滑り落ちて行くと斜めに旋回し始める、健登はトップスピードのまま宙返りを行ったのだが気が付けばメドゥーサに背後を取られていた。

 “捻り込み”戦闘機等が好きな人であればご存じであろう、メドゥーサの使った技はこれである

 現実のプロペラ機のような原理で飛行しているわけではないので同じではないのだが、メドゥーサの取った行動は紛れもなくそれと呼べる空中戦闘機動であったのだが、当然メドゥーサはそんな技を知る由もないのでこれはメドゥーサの戦闘センスに由来するものであると思われる。

 とにかく後ろを取られてしまった健登、振り切ろうにもなかなか振り切れないので一か八か急停止、180度きりもみしながら宙返りを行い背後を取り返す戦法に出る、これもまた空中戦闘機動におけるインメルマンターンやスプリットSなどと呼ばれる技にも似ている、もっともこれらは高速で飛行するジェット機などが進行方向とは逆方向に効率よく方向転換するための機動なので厳密には違うのだが、戦闘機は当然健登のように空中で急停止した状態から真上への上昇または真下への下降はできないのでこれを行うのだ。

 まあかっこうつけた言い方だが、どちらかと言うと健登がやったのは「とんぼ返り」と言ったほうが当てはまるかもしれない。

 見事ターンを決めメドゥーサの背後に回り込むとそこで一旦メドゥーサを追うのをやめる、距離を取り仕切りなおすつもりだったのだが、直後メドゥーサが正真正銘のインメルマンターン、180度宙返りしながら180度背面ロールを行い縦方向Uターンを決める。

 正面を向き合う状態になると、そこで健登は背筋に悪寒が走るのを感じた。

 赤く輝くメドゥーサの左目を健登は無意識に見てしまう、右目の閃光を警戒していただけに余計にだ。

 刹那、健登の身体は金縛りにでもあったかのように硬直し動けなくなる。


 まずいっ!


 思った時には遅かった。メドゥーサの右眼から放たれる閃光そして健登の身体は石へと変わった……かに思われたが石化した瞬間砕けるように石が健登の身体から剥がれ落ちる。

 健登は一瞬であるが確かに石化したのだが、それが解けるとメドゥーサには目もくれず急降下して工場内に戻り適当な瓦礫に身を隠す。


 やばかった! 今の金縛りはなんだ?


 メドゥーサはゆっくりと瓦礫の上に降り立つと、辺りを見廻し健登の姿を探しながら言う。


「今のはなんだっ!? ポイニークーンか? 確かに今、妾の石眼はおまえを捉え石に変えた。にも拘わらずどうもおまえの姿を、魂を捉えきったというにはぼんやりした印象であった……あれは……」


 メドゥーサの目には健登の姿は確かに映っていたのだが、その存在がどうも希薄というか、その場にはないような印象に受け取れた。


「そうか! 身代わりを立てたな? ポイニークーンの術か」


 ご名答……なんて勘のいい神様なんだくそったれ、てか、ぽい? にー? ってなに?


 健登は心の中で毒づくが声には出さない、今場所を気取られたら終わりだ。

 右目だけではなく今度は金縛りの術を使える左目、あのコンボはマズイあんな必殺コンボを使えるなんてマジで最強、いや最凶の技である。

 メドゥーサの左目は魅了〈チャーム〉と呼ばれるこちらも魔眼である、そもそも両目ともが魔力を秘めた瞳、魔眼などと言う時点でメドゥーサはとんでもない化物、いや神なのであるが、このチャームの魔眼が非常に厄介であった。

 男どもを誘惑魅了し下僕へと仕立て上げたり、例えば人の深層心理を刺激して思いを寄せる相手の姿を見た時にありのままを曝け出したりなど、人の心を操る能力だったりしたかと思えば、今やってみせたようにその眼を見た者を金縛りにすると言ったようなことまで可能である。

 作り出した石の刃などを操ったりしていたのもこの魔眼の力によるところも大きい、念動力のような力までも発揮できるのだ。

 つくづくこのメドゥーサと言う魔女の力は計り知れないものである。


 さて、なぜ健登が石化を免れたのかと言うと。

 それはポイニークーン、生徒会長常深紫が関与しているのは言うまでもないのだが…… 


 

 それはまた次回に続く

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