第17話 おまえは誰の為に戦っているんだっ! 守羽健登おおおおおおっ!!
「あったりめえだあああああああああああっ!!」
叫ぶと一直線にメドゥーサ目がけて走り出す健登。
「ふん、相変わらずの猪突猛進っぷり、少しは言葉を交わす気もないのか」
呆れながらもそれを迎え討たんと構えるメドゥーサ。
風を身に纏い走りながら右手を前に突きだすと健登は大声で神器を呼んだ。
「来いっ!! アメノハバキリっ!!」
声に反応するかのように弥命の胸元が輝くと、そこから白銀の剣が飛び出し真っ直ぐに健登の元へと凄まじい速度で飛んでいく、ちょうど真後ろから飛んで来た為メドゥーサは慌てて身を躱した。
すでに風を身に纏っていた健登が剣を掴んだ刹那、黒の具足が全身を覆った。
「直接引き抜かずとも呼び寄せたか! 小僧っ!!」
メドゥーサは右手を翳し石の刃を無数に作り出しつつ、まずは巨大な石柱で攻撃を仕掛ける。
足元から突き出す石柱を躱しつつ健登はメドゥーサとの間を詰める、しかし健登が身を躱す方向を先読みそこへ石の刃の雨を自慢げに降らすメドゥーサ。
それを健登はこれまた自慢の目と勘で見極め躱しつつ剣で薙ぎ払う。
ここまでは学校中庭で繰り広げられていた戦いと大差はない。
しかしここは中庭とは違い四方をコンクリートで囲まれた屋内、さらにはコンクリートの柱まで等間隔で配置されそこら中に岩が転がっているのだ、どこからでも石で作り出した武器により攻撃が可能な環境である。
メドゥーサの指定してきた場所である、当然自分の戦い易い場所を選んでくるのはわかっていた。
そのハンデを押しても尚、それだけであれば健登には躱し続けるだけの余裕はあったのだが、ここから先が問題である。
石眼
これを使われては手も足もでない、であれば先手必勝、メドゥーサは石眼を必殺の技に位置付けている、そうおいそれと初っ端からバカバカと撃ってこないというのは紫のアドバイスであった。
言う通り、メドゥーサはまだ石眼を使う素振りは見せない、彼女なりの戦いの美学でもあるのか最初は相手の力量を試すがごとく石を操る攻撃だけに徹している。
であればこちらはわざわざそれに付き合う必要はない。
メドゥーサが必殺の石眼を使う前に真正面から全力で突っ込み一気に片を付ける、多少の攻撃を喰らったとしても肉を切らせて骨を断つ戦法だ
健登はある程度石の刃を砕いたと見てノーガードでメドゥーサ目がけて突っ込む、天上から突き出す石柱を身を捻り躱し、そのまま一気に上空へ上がると天上スレスレから急降下、迎え撃つ刃の群れの中にそのまま突っ込む。
数本は顔や腕、足を掠め、数本がその身に喰い込むが構うものか! 神器の力で傷はすぐに塞がる、身を躱しガードをすればその分遅れる。
健登は敢えて相手の攻撃を喰らいつつも痛みを堪え、そのままメドゥーサの間合いに突っ込む、捨て身の行動に面を喰らったのかメドゥーサの動きが一瞬固まるのを健登は見逃さなかった。
捉えたっ!
剣を振り下ろす瞬間、メドゥーサがにやりと笑ったような気がした。
そして右眼が一瞬光るのが見える、思ったよりも早かった! いや、読まれていた? 健登は間一髪攻撃の手を止めそのままメドゥーサの視界から逃れる為に回避、宙返りしメドゥーサの頭上を越え後方へ回り込む、まだだこのタイミングなら振り返る前に後ろから斬り込める。
だが、刃がメドゥーサに届くよりも先に健登の身体を左手側から凄まじい衝撃が襲った。
なんだ!?
なにか巨大な質量の塊が、まるで相撲力士のぶちかましのように……それはこの工場内にある重機であった。
メドゥーサは重機の下から石柱で突くように撃ち出し砲弾代わりに使ったのだ。
間合いの外、意識の埒外からの攻撃に健登は反応することができずにその攻撃をモロに喰らってしまう、重機と一緒に吹き飛びそのまま轟音を立て押し潰されるように壁へと激突した。
「健登っ!!」
「守羽くんっ!!」
同時に声をあげる芳乃と弥命。
まさかこんなにも凄絶極まる戦いになるなど想像もしなかった。
人間ベースの喧嘩のつもりでやっちゃいなさいと言ったものの、こんなことになるとは思ってもみなかったので芳乃は正直焦った。
「狼狽えるな小娘どもっ! ふふ……まだ決着はついておらぬわ」
笑うと、健登を押し潰した重機がメドゥーサ目がけて吹き飛んでくる。
しかしメドゥーサには届かず重機は石になり砕け散った。
「おまえにはよくよく感心させられる、小さき身でありながら存外にタフであるな」
「へっ、しぶとさだけならゴキブリ並みなんでね」
あまりカッコいい台詞ではないが、健登は剣を地面に突き立て瓦礫の中からなんとか立ち上がる
しかしその姿は見るからに満身創痍、左腕は骨折し大量の血を流し地面に滴り落ちる、面頬は砕け頭からも血を流している、吐血なんてするのは初めてだ、外見からはわからないが呼吸をする度に脇と胸が酷く痛む、肋骨が折れているのだろうか? 治癒力が向上しているとはいえ常人であれば命に関わる重傷であったに違いない、回復にはそれなりの時間が必要であることは容易に想像できた。
下手を打った、開始早々大ピンチである、ここで石眼を使われたらアウト! 躱せるほどの回復はしていなかった。
正直やべえ……もうちょっと慎重にやればよかった。
さすがにダメージが大きいのか健登はフラつき膝を突く、メドゥーサの攻撃はこちらの小賢しい作戦などお見通しと言わんばかりの一撃であった。
神を謀るには浅知恵すぎた、相手は一枚二枚どころではないくらいに上手であった。
健登とは圧倒的に経験値の差がありすぎる。
―― 神だからこそ敵を欺き姑息な手段を使い、ありとあらゆる策謀を張り巡らせて相手を翻弄するのだ ――
強えわけだぜ……メドゥーサの言葉を思い出しながら健登は認めるしかなかった。
「この馬鹿たれっ!! 突っ込むばっかで少しは頭使って戦えっ!! そんなんでどうやってわたしと弥命を助けるのよっ!! ばか健登っ!!」
弱気になる健登の耳に芳乃の叱責が聞こえてくる。
なんなんだあいつは、人が助けてやろうってのに馬鹿たれはねえだろ、だいたい誰の為にこんなボロボロになってると思ってやがるんだ誰の……くそったれ……あいつの……あいつらの為じゃねえか
そんな当たり前のことを負けそうになってから再確認するようじゃ勝てるわけがない。
もう一度仕切り直しだ、メドゥーサはこの間にも石眼で止めを刺そうとはしない、それはまだ健登を舐めている証拠でもあった。
神器の力は認めつつも健登の未熟さを侮っている、それは間違いなかった。
だったら、芳乃と弥命を救う為に……こんな痛みなんて何度だって……
「やっぱ……負けられねえよなぁ」
「なに言ってんだか聞こえないわよバカああああああああああっ!!」
呟く健登を怒鳴りつける芳乃、そうでもしなければとても耐え難かった。
芳乃は本当は見たくなかった、見ていられないもうやめて欲しかった、自分の為にあんなに傷ついてボロボロになる姿なんて見たくなかった。
それでも止められなかった。
だって……あいつが……健登が……わたしの大好きな健登が自分の為にあんなになりながらがんばっているんだ
「ちくしょう……かっこいいじゃないかバカ健登」
止められるわけがない、だったら見届けてやる! あいつが死ぬならわたしも一緒に死んでやるっ!! 泣きそうになるのを必死に堪えながら芳乃は顔を上げて健登の姿を見つめる。
どんな時だってずっと、ずっと健登の一番近くに居たのは自分なのだ、それはそれだけは絶対に譲れない、弥命にだってそれだけは負けたくない。だから思いっきり叫んだ。
「腹に力入れて叫べええええっ! おまえは誰の為に戦っているんだっ! 守羽健登おおおおおおっ!!」
死にそうなほどふらふらだってのに、あいつの声だけは妙に響きやがる。
健登はうんざりしながらも、力が身体の奥底から湧いてくるのを感じていた。
「雄ぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!! おまえらの為だろうがあほんだらああああっ!!」
雄叫びをあげ地面に踏ん張り立ち上がる、そして健登は空へと一気に舞い上がった。
持てる全力のスピードで縦横無尽に飛び回りフェイントを交えつつメドゥーサを翻弄する。
「馬鹿めっ! その気迫と気合いは見事であるが、結局やっていることは今までと変わらんではないか」
健登は剣を振り降ろし風の刃を繰り出す。
だが、それもメドゥーサは石眼で石に変える、何度やっても同じこと。
「もういい、おまえには失望した。今すぐ石にして砕いてやるっ!!」
だが健登はスピードを落とさない、その速度はどんどん増していく。
また風の刃を繰り出す、メドゥーサはそれを石へと変える、だがっ!
それは本当に勘であった。
メドゥーサは咄嗟に身体を仰け反らせると、疾風が吹き抜け後方の柱を破壊した。
「連撃かっ!」
健登はこれまでのメドゥーサとの戦いで石眼は連射できないと踏んでいた。
MP切れのようなことはなさそうにしても、間断なく連続して使うことはできないそういう技だろうと戦いの中で見極めたのだ。
だったら石眼を使わせた後の数秒の隙、ここを突くしかない。
「考えたな小僧っ! 妾の石眼が連射できないと見切ったかっ!!」
健登は風の刃を三発同時に繰り出す、三連撃ではない、三同撃だ。
だがそれは意味がなかった、石になった風が同時に三つ落ちた。
「阿呆か! いっぺんに出しては意味が無かろう」
「アホはおまえだバーカっ!」
健登が舌をだしてあっかんベーとやると、メドゥーサの後方で凄まじい衝撃音が鳴る。
まさかっ!
振り返ると頭上からコンクリートの柱が轟音を鳴らしながら崩れ落ちてきた。
「もう一発その後に繰り出していたのかっ!?」
メドゥーサの真上に巨大なコンクリートの塊が落下してくる、健登は弥命と芳乃の元へ飛ぶと二人を抱えて安全圏へ離脱する。
轟音と砂煙を立てながら巨大な柱が倒れると、支えられていた天井の一部分が崩落し大量のコンクリートと鉄筋がメドゥーサの上に降り注いだ。




