第14話 あんな所に顔を埋めるなんて、大胆なんだから❤
完敗だ……守れなかった……助けられなかった。
自分の不甲斐なさを知った、弱さを思い知らされた。
情けない悔しい、なにもできなかった自分に怒りすら覚える、健登はそんな思いに歯を食い縛りながら目を覚ました。
なにやら後頭部の辺りがやわらかくて気持ちいい、それにとても甘くていい匂いがする、寝返りをうつと頭の上で甘い女の声が聞こえた。
「ぁん❤ 健登くん……それはさすがにダメよ」
その声に驚き健登は飛び起きると目の前に知らない女性が……いや、知っている
シルバーブロンドのツインテールを揺らし、透き通るような白い肌、見つめる妖艶な深紫色の瞳はどこまで続く深い闇のようで吸い込まれそうになる。
「生徒会長……なんで?」
目覚めたばかりで頭のハッキリしない健登は、状況が飲み込めずにいた。
落ち着いて自分の現状を頭の中で整理する、どうやらここは保健室のベッドの上らしいが、体勢から考えるに気を失っていた間生徒会長が膝枕をしてくれていたのだろう。
そして寝返りを打って……健登は自分の向いた方向に顔を真っ赤にする
「もう、あんな所に顔を埋めるなんて、大胆なんだから❤」
頬に手を当て恥ずかしそうに言いながら紫は健登を見つめた。
「どぅわあああああああっ!! せ、生徒会長、いや、あのこれは……不可抗力と言うかなんというか、俺寝ぼけてて、あの……すんませえええええええええんっ!!」
ベッドから飛び降り、ジャンピング土下座。
この生徒会長は先生からの信頼も厚く全校生徒達の憧れの的でもある、特に親衛隊なる組織までいてそいつらのガチっぷりがやばい。
四六時中、紫に悪い虫が付かない様にと監視の目を光らせ、紫の美しさに目を奪われていた生徒に、いやらしい目で見ていた、と言い掛かりを付けたり。
なにも知らずに勇気を出して生徒会長にファンレターを渡そうとした一年生を事前に捕え、その日の内に再起不能にしたことは有名な話だ……まあ、今ではそいつも立派な親衛隊見習いである。
そんな生徒会長に膝枕までしてもらい、その上あんな狼藉を働いてしまった。
健登は、もうこの学校にはいられないな……と思った。
「うふふ、べつにいいのに❤」
え? いいの? やったね! なにが?
「健登くん、身体の具合はどうかしら?」
「え? 具合? まあちょっと、ダルい感じがしますけどそれ以外特には……」
なんで俺の名前を知っているのだろうか? そんなに俺って有名なの? 悪い意味で。
そんなことよりもこの生徒会長は一体どこまで知っているのだろうか?
メドゥーサに敗れ気を失っていたところを助けられたのだろうが、その前の戦闘の時から見られていたのだろうか?
そう言えば弥命や芳乃はどうなったのか? なぜ自分だけがここにいるのか、健登はなにをどう聞けばいいのやら困っていると紫の方から切り出してくる。
「それにしても運がよかったわね、いくら神器を手にしていたとはいえメドゥーサの魔眼をその身に受けて無事だった者なんて、今まで一人もいないんだから」
健登は紫のその言葉に驚く。
神器のことを知っている、相手がメドゥーサだってことと、その能力さえも知っている口ぶりだ。
自分を助け介抱してくれたのだろうが、正直まだ信用できる相手かどうかもわからない。
健登は警戒しながら慎重に探りを入れる。
「どこまで知っているんですか?」
「いい質問ね、わたしが何を知っているのか聞き出すのと同時に敵か味方か見極めようっていう寸法、好きよあなたのそういう抜け目ないところ、ふふっ、答えは全部かしら」
悪戯な笑顔で答える紫、人の問いにいい質問と言いながら的を射ない紫の答えに健登は軽い不快感を覚える。
「悪い答えっすね、全部ってどこからどこまでのことっすか?」
「あら、怒っちゃった? ごめんなさい、ちょっと意地悪だったかしら」
あ、なんか俺この人苦手かも? 言いながら悪びれた様子もない紫に健登はそんな印象をもった。
そんな健登を気にも留めずに紫はゴソゴソと胸元に手を突っ込むと、何かを取り出しながら言う
「じゃーん、これはなんでしょう?」
そう言って健登に見せてきた物は野球ボールほどの大きさのある綺麗な宝石だった。
てーかどこに入ってたのそれ?
健登はその宝石に見覚えがあった。
それはあの時、アルレッキーノが最後に自爆しようと取り出した巨大な魔宝石、それにそっくりな宝石であった。
「それって、まさか……結界の?」
「せいかーい、察しがいいのね。そう、これはあなた達が三週間前に戦った相手が、この学園に広域位相結界を張る為の魔力源に使った宝石よ」
やはりそうか、それと同時に導き出される答えは、この生徒会長があの時に結界を解除したと言うことだ、一体なぜ……
「まさか……会長だったんですね、あの時結界を解除したのは、なんで今まで黙っていたんですか?」
「あの時は正体を隠したかったからよ、けれど今は状況が変わってしまったの、本当はもうちょっとわたしの正体は隠しておきたかったのだけれど、あのままだとあなたはメドゥーサに連れ去られて神器も奪われていたかもしれなかったし」
どういうことだろう? 紫が肝心なところはぼやかして話すので健登はパズルのピースがなかなか噛み合わないような、そんな歯痒い思いに苛々する。
「姫宮と芳乃はどうしたんですか?」
「メドゥーサが連れて行ったわ」
「なっ!? どうしてっ! 二人が連れ去られるのをむざむざ見逃したんですかっ!!」
健登は激昂し紫の肩に掴み掛かる、その瞬間まるで無重力になったようなそんな感覚を覚えると、天地が逆さまになり健登はベッドの上に仰向けになっていた。
紫は健登の上に馬乗りになると顔の横に両手を突き鼻先まで顔を近づけて言う、甘い吐息を感じ健登はドギマギしてしまう。
「あなたは一人でも敵わなかった神を同時に四人も相手にできる? わたしには無理、あなた一人助けられただけでも感謝して欲しいくらいよ」
紫の言う通りである、自分は負けた癖に助けてくれた紫を責めるってのはお門違いであり、なんともダサいことこの上ない。
なにも言い返せずにじっと見つめる紫の深紫色の眼を見ることができず健登は目を逸らした。
子供みたいな健登の反応に紫はクスっと笑うと、ゆっくりベッドの縁に腰掛け直す。
「でもまあ希望はちゃんと繋いだわよ」
「どういうことですか?」
「今から約1時間半後、あなたは弥命ちゃんと芳乃ちゃん、そして神器アメノハバキリを賭けてメドゥーサと一対一で決闘をしなさい」
「はあ?」
紫の突然の宣言に健登は訳が分からず間の抜けた声を出すしかなかった。




