第13話 艦娘達が提督の帰りを待っているのだっ!!
メドゥーサは石になった健登の元へ歩み寄るとその後方を見つめ話しかける。
「見事なタイミングであったなタナトス」
「わたしの出番これで終わり? つまらない」
タナトスは頬をぷーっと膨らませ文句を言いいながらヒュプノスの元へと駆け寄る。
先程の声はタナトスの攻撃であった。
死を司る神であるタナトス、その声一つで魂を冥界へと誘うことができる力を持つ、それは強い魂を持っている者でなければあっという間に絶命するほどの一撃であるのだが、神器を手にしていなければ健登も危うかったであろう。
「それにしても見事なまでに掛かったものだな、ここまで単純な奴は初めてみたぞ」
メドゥーサが健登の身体に触れようとすると、一緒に石になっていたアメノハバキリが振動し金属音を鳴らす。
すると表面の石が崩れるように剥がれ、中から白い刀身が浮き出すと閃光を放ち消えた。
弥命の内に戻ったのだが眠りに落ちながら弥命は短く呻き声をあげ苦しそうにする、魂である神器が一時的に石化したのだ、相当のダメージであったのだろう。
さらに、健登の身体からも石が砕け剥がれ落ちるとそのまま地面へと倒れた。
どうやら健登は気を失っているようだ。
「なんということだ……まさか妾の魔眼の力を消し去るとわ……神器とはそれほどの物なのか」
これはメドゥーサの想像すら超える事象であったらしい、双子神らも同様でその出来事に驚きの色を隠せない。
「なんにせよ神器はまた巫女の内へ戻ってしまったようだ、またこの小僧に取り出させる必要があるな、それと……」
メドゥーサは眠っている芳乃を見つめると少し哀しそうな表情を浮かべ呟く。
「すまんな芳乃、おまえが想いを寄せる男は妾の敵であった。もう少し上手く立ち回りたかったのだがな、許せよ……」
「メドゥーサもういいでしょう? あまり特定の人間に情を移しすぎるのはよくないわよ」
「わかっておる」
ヒュプノスに窘められメドゥーサは、せめて芳乃の足を元に戻してからその場を去ろうと思うが辺りの妙な雰囲気に気が付く。
花吹雪? こんな季節に? 紫の花弁? その様な花この庭に咲いていたか?
気が付くと辺り一面に浮かび上がる花弁の海、何時の間にこんな……いや、そもそもこの中庭にはこんな花など咲いてはいなかった。
これは紛れもなく幻術、神である妾達を惑わそうとはなんたる愚か者か
しかし、そんなメドゥーサの考えも花弁の向こうから現れた人物を見てすぐに改められる。
「だめよぉあなた達、いくら神々とは言えこの学園はわたしの聖域、誰であろうとこの場を汚しここの生徒達を傷つけることは許されないの」
シルバーブロンドのツインテールを揺らし、深紫の瞳を持つ少女はそう言いながらゆっくりと三神に歩み寄ってくる。
肩にはまるで死神の持つ様な大きな鎌を担ぎながら、その姿を見てメドゥーサは驚き相手の名を呼んだ。
「まさか、ポイニークーンか?」
………………
「その名前で呼ばないでっ!!」
少し間を置き少女は恥ずかしそうにそう叫んだ。
「なぜだ? おまえの名であろう」
「現代の価値観だとその名前はすごく恥ずかしいのよ。今の私の名前は“常深紫”完全無欠のスーパーJK! 泣く子も黙って傅くこの学園の生徒会長様よっ!!」
右手でチョキを作り顔の前で横に構え、左手には大鎌を持ちながら叫ぶ紫。
「いや、そのポーズの方が恥ずかしいぞポイニークーン」
「メドゥーサ、誰だこいつ、有名人か?」
どうやらタナトスとそしてヒュプノスも、このメドゥーサがポイニークーンと呼んだ紫のことは知らないらしい。
「なんだおまえら、あいつのことを知らないのか?」
「しょうがないわよ、その子達はずっと冥界に引き籠っていたんでしょう? 知るわけがないわ、わたしあそこ嫌いだし近寄ったこともない」
その言葉に双子神はムっとするが、メドゥーサが「まあよせ」と紫に敵意を向ける二人を止める。
「あまり二人を刺激するな、話がややこしくなる」
「それもそうね」
「双子神よ、あやつのことは気にするな。あやつは妾達神々でさえ許されない時の理を超越した存在、正直何者なのかもわからない、だがあやつは現在過去未来、常にどの時代にも存在する、その時その場所によって姿や性別、果ては種族までも変わるが必ず存在するのだ」
双子神はメドゥーサのその話を正直鵜呑みにはできなかった。
そんな神をも超えるような存在がこの世にいるとは思えない、その名を口にするのも嫌だが、そうなるとウラノスやクロノスさえも超える存在ではないのか?
そう思うがメドゥーサが続ける。
「だから気にするな、どこにでもあるものと思え、空気と一緒無視無視」
「なんかその言い方無性にムカつくわね」
メドゥーサに言われ今度は紫がムッとする、その様子に双子神はにやりとした。
「まあいいわ、だけどその男は置いて行きなさい、あなた達がなにをしようが基本介入しないっていうのがわたしのスタンスなんだけど、でもその子だけは別、好きにさせるわけにはいかないのよ」
「そう言われて妾達が素直に聞くと思うか?」
紫の言葉にメドゥーサは反発する、当然である。
神である自分がそんな指示に従う理由がないからだ、もしそれで戦闘になるというのなら望むところ、面倒事はなるだけ避けたいと言うだけで、決して自分達の力が紫に劣ると言うわけではないのだから。
双子神も同様である、そもそも自分達が今回メドゥーサに付き従っているのはハーデウスにそう言われたからであって、いくらメドゥーサが警戒しているからとはいえ、誰だか知りもしない人間の娘に恐れを成したとあっては他の神々の良い笑い種である。
そんな三神の気配に気づいてか紫が続ける。
「勘違いしないでメドゥーサ、わたしはその子達から手を引けって言っているわけじゃないのよ」
「どういうことだ?」
「今は健登だけは連れて行くなと言っているの」
「ならば姫巫女はよいのか?」
「そういうことになるわね」
紫の狙いがわからずメドゥーサは逡巡する。
とにかくメドゥーサの知る紫、ポイニークーンという存在は、奇妙奇天烈な存在なのである。
ある時は美しい女の姿で、またある時は年老いた男、少年、獣や妖精の時もあった。
なにを考えなにがしたいのかもわからない、暫く見かけないので死んだのかなと思っていたらひょっこり現れたり、かと思えばヒッソリと一人死んでいたりする。
それでもまた何事もなかったように蘇り別の姿で現れるのだ、場合によっては死に行く最中に別のポイニークーンが現れたりするのでもう訳が分からない。
その内に本当のポイニークーンがどんな姿だったかもわからなくなってしまったのだが、そもそも初めに見たのが本当の姿なのかどうかすらわからない、一つだけ変わらないのはどんな姿であっても必ず闇よりも深い紫の瞳をしているのだ。
「なにが目的なのだおまえは」
「それは言えないわ、プライベートなことだもの、あなたのやりたいこともわかっているから、ここは一時休戦もう一度仕切りなおして再戦ってことにしない?」
「はあ? なぜそんな面倒なことを」
「だって、あなた達のやり方不意打ちみたいなものじゃない、次は正々堂々お互いしっかり準備をして一対一でやり合いなさいな、ね? あなたもそれでいいでしょハーデウス?」
紫の口にした名に三神は驚き振り返ると、そこにはいつの間にかハーデウスが腕組みをしながら立っておりなにやら難しい顔で悩みこんでいた。
「ハ、ハーデウス様いつの間にいらしてたのですか?」
「んー? 今しがただよヒュプノス、それにしても驚いたな、ポイニークーンまで出てくるなんて、これは僕のシナリオの想定を遥かに超えちゃってるね」
そう言いながらも、余裕の笑みで返すハーデウス。
メドゥーサはおもしろくない、そもそも最初はやる気など全然なかったのだ。
それを今まで宿と飯代を出してやっていたのは誰だと恩着せがましく言ってきて、おまけにネットまで止めると脅してきたのだ。
ネットができないなど死活問題である、水道とガスが止まっても電気とネットだけは死守するのが本物の廃人だ。
あとはついでにあれを手に入れればいつか、あの生意気なアテナとペルセウスに仕返しができると言うもんだから、それならば手を貸してやるかとわざわざ外出までしたと言うのに、もうすぐ手に入る所まできて振り出しに戻るなど面倒な事この上ない。
「妾は嫌だ! もう面倒臭い、それならばやめるぞ! 今日からあの艦娘の改二が実装されるのだ、艦娘達が提督の帰りを待っているのだっ!!」
「ハーデウス……あなたメドゥーサになにを教えたのよ」
「いや、このこが勝手にね……」
紫の呆れた視線を、同じく呆れ顔で受け流しながら答える。
暫く不貞腐れブーブー言っていたメドゥーサだか、芳乃の方をチラリと見やるとなにやら仕方ないなという顔になり言った。
「わかった……それで勝負を決しようぞ、だがそう長い時間は待たん、それと姫巫女と一緒にその娘も連れて行く」
「あら、随分と気に入っているのねその子のことを」
「ふん、暫く二人きりにしてやればわだかまりも解けるのではないかと思ってな」
なんの話だかその場にいた全員がわからず首を傾げるが、メドゥーサはフっと笑うと宣言した。
「時は今から約二時間後、ちょうど正午くらいだな、こちらの指定した場所まで来い! 場所は追って知らせる、おまえらもそれなりの準備をしてくると言うのであれば、こちらも当然それなりの準備はさせてもらう」
「いいけれど、あなた達の指定した場所ってのはずるくない?」
「こちらも譲歩したのだ、そちらもそれくらい譲歩しろ」
「しょうがないわね、いいわよそれで」
交渉成立。
メドゥーサをなんとか納得させ、改めて神器を掛けて二人の一騎打ちと相成った。




