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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第12話 妾の石眼をそんじょそこらの石化魔法と一緒にするなよ

 次々と休みなく生み出される石の刃を砕きながら、健登はメドゥーサとの間を詰めて行くのだがこれにはメドゥーサも驚いた。

 神の力の一端を振るっているとはいえ、たかだか人間の子供がこれほどまでの力を発揮できるとは思いもしなかった。


 あの部屋から出たのは間違いだったな……


 メドゥーサは戦略を誤ったかと考える、四方をコンクリートで覆われた保健室であればあらゆる角度から健登に攻撃を加えることができるが、こう開けた場所では地面や周りにある建造物等からしか石の刃や柱などを生み出せない。

 なにより見晴らしが良過ぎる上に距離を取れるので簡単に躱されてしまう、健登の眼と勘が異常に良いのも厄介であった。

 おまけに空まで飛ぶもんだから完全に不利である、石眼を使えば良いのだがある弱点の所為でその効果をなかなか発揮できないでいた。

 メドゥーサは攻撃の手を止めると健登に話しかける。


「いやはや大したものであるな小僧、正直見くびっておった。神を前にたかだか人間の小僧がここまで立ち回れるとは、褒めてやろう」

「時間稼ぎが見え見えだぜ、あの声の女が来るのを待ってるのか?そうはさせねえ」


 健登はメドゥーサが自分には敵わないと、時間稼ぎをして仲間の合流を待っているのだと考えた。


「これは本心だ、本当に感心しておる。それと同時に益々それが欲しくなった。今回はな、ある男からそれを欲しいので手を貸せと言われたのだ、最初は断ったのだよ? 面倒臭いからな」

「聞く理由はねえ、芳乃の身体を今すぐ戻せっ! でなきゃおまえをブッ飛ばしてでもやらせる」

「やれやれ、せっかちな小僧だな、芳乃のことなら心配いらない後で元に戻してやる、妾はあの娘のことが気に入っているのだ」

「信用できるかよ」


 話にならないなとメドゥーサは辟易する、短絡的でいて直情的メドゥーサが最も嫌悪するものの一つだ。

 男たるもの勇猛果敢でいて大胆であることは当然であるが、そこに思慮深さが加わらなければ単なる阿呆である。

 馬鹿は死んでも直らない、神々の時代から伝わる有難いお言葉だ(嘘)


 さて……そろそろか……


「ならば死ねいっ!小僧っ!」


 そう言うと、メドゥーサの右目が一瞬輝く。

 健登はその一瞬を見逃さずメドゥーサの視界から超スピードで離脱する。

 先程まで健登の居た場所から後方五メートルくらいまで地面が放射状に石化する。


 上手く躱したつもりだった。


 だが左手の手甲が石化し砕ける、なんとか中身は無事の様だが、いや皮一枚ってやつだな……健登は左手を何度か握っては開きを繰り返すと石がパラパラと剥がれ落ちた。

 これがメドゥーサの石眼、ゲームや漫画で知っていなかったらやばかった。

 それにしても速いなんてものではない、あれはやばい一瞬でも気を抜けばやられる。

 大体反則すぎる、自分の視界に入るものはなんでも石化できてしまうなんて、そんなものを避け続けろってほうが無理ってものだ。


「だったらっ! これでどうだっ!!」


 健登は剣を振り降ろし風の刃で斬りつける。

 だがメドゥーサの右目が一瞬輝くと、岩が割れるような甲高い音が響き二人の間に石の塊が落ちる。


「な……嘘だろ?」

「ふふふ、目に見えぬ物であれば石化できないとでも思ったのか小僧? 妾の石眼をそんじょそこらの石化魔法と一緒にするなよ、妾の石眼は概念さえも石へと変える」


 正に最強の能力、メドゥーサの瞳が輝けば全ての物が石へと変わるのだ、それは有機物無機物なんて問題ではなく、物の概念や人の思考までをも石化させる、最早意味不明の能力だ。

 だったら、スピードで翻弄して隙を突くしかない。

 健登は全速力で縦横無尽に動き回りメドゥーサが目で捉えられない隙を突こうとする、が、メドゥーサは自身の周りに石の板を生みだすと幾重にもそれを重ねて身を守る盾にする。

 構わず斬り付けるが表面の数枚を砕くとまた下から石が迫出してきて回復する。

 そして石の盾の間から光り一閃、ギリギリの所で視界から出るが襟廻の布が石化して割れる、健登は成す術なく校舎の陰に身を隠すしかなかった。


 成す術がない、ところがそうでもなかった。


 実を言うとメドゥーサの石眼には大きな欠点が二つある。

 まず一つは相手に焦点を合わせなければならない、そして目が光る瞬間ではなく光った後が実は重要なのだ。

 光った直後一秒間は相手に焦点を合わせ結像させる必要がある。

 目の仕組みをここでは詳しく書かないが、要するに相手の像を網膜に一秒間は焼き付けろと言うことだ。

 一秒間という短い時間であれば余裕であろうと思うかもしれないが、静止している物ならばともかく、今の健登の様に超スピードで動き回り尚且つ攻撃を仕掛けてくる相手を完全に目で追い続けるのはかなり難しい。

 カメラのシャッタースピードを一秒に設定してみればわかるだろう。

 プロボクサーの中には一秒間に十発ものパンチを繰り出せる者もいるという、ましてや超常の能力を使う者達との戦いで一秒間とは途方もなく長い時間と言えるだろう。

 とは言え初見でその弱点を見抜くのは中々に難しい、誰もが最初の閃光を警戒するからである、よくよく考えれば閃光で石化するのであればそれを認識した瞬間に固まっているのだが、戦いの最中それに気がつける余裕が意外にないものなのだ。

 今の健登の様に視界から逃れようと動き回るのも当然誰もが思いつく戦略だ。

だがいつまでも逃げ回っているばかりでは決着がつかない、必ず攻撃に転じる瞬間がある、その時の一瞬の隙をメドゥーサは狙っているのだ。

 首を刎ねられ絶命するまでは悠久の時を生きてきたメドゥーサ、戦いに於いてもその実力は百戦錬磨でありそれまで負けたことはなかった。

 言葉巧みに相手を誘導し自分の視覚内に誘い込む術にも長けている。

 とにかくどんな手を使ってでも一秒間見つめてしまえば石にできるのだから無敵であることには変わりないのだ。

 そしてもう一つの欠点というのは、単純明快、眼を開けて見ていなければならない。

 眼を開けて見てさえいれば暗闇の中であっても相手を石化させることは可能だ。

 これは前の部分と矛盾するかもしれないが、神々の見る物と人間の見る物の根本的な違いであるのでお察しいただきたい、これは概念や思考までをも石化できると言う所に通ずるものでもある。

 つまり結論を言うと、目を瞑らせるか物理的に潰してしまえば効果は発揮できないと言うことだ

まあそれができれば誰も苦労はしないだろう。


 要するに健登がメドゥーサに剣を届かす為には、眼の閃光の瞬間に回避ではなく突っ込んで斬り付けること、であれば健登の速さなら完全に石化する前にダメージを与えることが可能であろう。

 しかし当然それに気が付けるわけがない、現実は石眼を封じることができず尚且つ石の盾も突破できないので八方塞がりな状態である。

 どうしたものかと悩んでいるとメドゥーサの方から健登に提案があると言ってきた。


「どうだ小僧このままでは一向に埒が明かない、お前は妾に芳乃を治させたい、妾はその剣が欲しい、その二つを賭けて戦っている」


 なにを考えているのか、この少女は見た目とは裏腹に非常に狡猾である。

 話を聞いているとなんとなく、あの白と話しているような気分になってくるのも虫が好かない理由の一つだ。

 どうも全ての言葉に裏があり相手を欺こうとするような、そんな意地の悪い感じが似ているのだ。


「それならば一つ、決闘でもしてみないか?」

「決闘だと?」

「そうだ、このあいだ午後ローで西部劇と言うものを見た。そこでのワンシーン、こうコインを上に投げ落ちた瞬間に武器を抜くというやつ、あれを妾とお前でやってみるというのはどうだ?」


 なにを言い出すかと思えば西部劇だと? てーかこいつ午後ロー見てるの? 健登はメドゥーサがなにを考えているのか裏を読もうとするがまるで読めない。


「妾はこの石の盾を使わぬ、生身同士だ、おまえのスピードが勝り先に剣が届くか? それとも妾の石眼がおまえを捉えるのが早いか? 勝負してみないか?」


 馬鹿を言うんじゃない、そんなものは圧倒的にこっちの方が不利である。

 早い方が勝ちと言うが真正面に向かい合っての早撃ちなんてのは、お互いが同じ武器を使ってこそ成り立つもの、レーザー対弓矢でそんなことをする馬鹿がどこに居るというのだ。


「お断りだね、そんなもんお前の方が有利に決まってんじゃねえか」


 健登は校舎の陰に身を隠しながら言う。


「ほお、突っ込むだけしか能のない馬鹿だと思っていたが、あながちそうでもないようだな」

「余計なお世話だっ!」

「であれば仕方がない、気は進まぬが……ヒュプノスいい加減出てこい」


 メドゥーサにそう言われてどこからともなく姿を現すヒュプノス、その両腕に抱えられているのは弥命と芳乃であった。

 校舎の陰から覗き込んでいた健登はそれに気が付く。


「ふざけんなあああっ! 神様のくせに人質まで取りやがるのかよっ!」


 健登が怒声を上げながら校舎の陰から出てくると、メドゥーサは悪びれもせず嘲笑するかのように答えた。


「神だから人質を取らぬと? 馬鹿を言え、神であるからこそ敵を欺き姑息な手段を使い、ありとあらゆる策謀を張り巡らせて相手を翻弄するのであろう、特にお前のような短絡的な相手にはこういう手が一番有効だ」

「馬鹿にしやがって、そうやって他人を見下す、人間を見下す奴を神様だなんて俺は認めねえっ!!」


 その言葉になんの関心も示さずヒュプノスは二人の丁度真ん中の位置へと移動する。

 メドゥーサが石で作ったコインを投げて渡す、それをヒュプノスは右手で掴むと親指の上に乗せ告げた。


「おまえが認めようと認めまいと私達が神であることには変わりない、その神がたかが人間のおまえと同じ土俵の上で対等に勝負をしてやろうと言うのだ、行くぞ」


 言い終わるのと同時コインを高く上へと弾いた。


「ちきしょうっ! やってやらあっ!!」


 よくはわからないが速そうなので、某漫画で見た居合抜きの構えをする。

 神器の力により五感を研ぎ澄ませた健登には、コインの動きがまるでスローモーションのように感じた。

 ゆっくりと回転しながら舞い上がるコイン、頂点まで行くとそのまま重力に引かれ落ちてくる。

 ゆっくりと……くるくる回りながら……

 コインが目の前を通過すると健登は目で追うのをやめ、メドゥーサを一点に見据え集中する。

 コインの端が地面に触れる直前、健登はスタートを切った。

 それはメドゥーサに向かってではなくヒュプノスの傍ら、倒れ込むように眠っている弥命と芳乃の元へ。


「やはりなっ! そうくると思っていたぞ小僧っ!!」


 読まれていた。だがこちらの方が早い!


 そう思った瞬間、健登の全身に響く凄まじい悪寒と声。


『アーーーーーーーーーーーーーーーー』


 まるでオペラ歌手のように響き渡る声であるが、これはなんだ? 肉体的な苦しみを超越する、まるで魂そのものに刃を突き立てられるような苦しみに健登は胸を押さえもがく。


「ぐっ……ああああああああっ!!」


 次の瞬間、渇いた金属音の様な音を立てて健登の全身は石になった。


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