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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第5話 よしのよしの。うん、いい名前だ

「よしのよしのだってよっ! 変な名前だなーっ!! なんで苗字と名前が一緒なんだよ」


 小学校のクラス替えをしたばかりの頃にイジワルな男子にからかわれた。

 大声で笑われながら自分の名前を連呼されるのは気分の悪いことこの上ない。

 自分でもおかしな名前だなとは思っていた。

 苗字と名前が同じ読みの人なんてこれまで聞いたこともない、そんなのパンダくらいだ、まああれは苗字と名前ではないが、それでも他人に言われると腹が立つ、両親はなぜこんな名前にしたのだろうか?苛められるとは思わなかったのだろうか。


「うるさいわねっ! あんたには別に迷惑かけてないでしょほっといてっ!!」

「めいわくなんだよー、苗字で呼ぼうと思っても名前で呼んじゃうだろー、あ~メイワクメイワクめいわくだ~♪」


 小学生特有の変なリズムとメロディを付けて、くねくねと踊りながら馬鹿にする男子。

 それを見てなにが可笑しいのか大笑いしながら一緒に踊り出す男子達、女子達は味方に付いてくれるが、何も言い返せず芳乃は悔しくて涙ぐんでしまった。


「うるせええええええええええええっ!! どこが変な名前なんだよっ!!」


 怒鳴り散らしたのは健登だった。


「な、なんだよ、かみはね。なに怒ってんだよ」

「芳乃って名前のなにが変なんだよっ!!」

「あぁ? なにムキになってんだよ、苗字と名前が一緒なんて変に決まってんだろっ! あっ! もしかして、おまえ葭埜のことが好きなんだろっ!!」


 でたっ! 女子を庇うと必ずでてくる発言、小学生の時にこれを言われるともうなにも言い返せない。

 今までひた隠しにしてきた、世界を揺るがす国家機密を白日の下に曝されるかのような、庇った者だけでなく庇われた者までも巻き込む恐ろしい一言だ、そんな最終兵器とも呼べるような台詞を言われてしまった。

 芳乃は恥ずかしくなり顔を真っ赤にして俯いてしまう、前に一度うっかり学校で健登のことを「たっくん」と呼んでしまった時の周りの反応たるや。

 しばらく男子達にからかわれ続けた、あの地獄のような日々を思い出すと辟易としてしまう。


〈すーきなんだ、すきなんだー、すーきなんだ、すきなんだー〉


 男子達の大合唱が始まると健登は鬼の形相で怒りだし、芳乃をからかった男子に殴りかかった。

 そこから取っ組み合いの大喧嘩、先生が駆け付ける頃には二人ともボロボロになり大泣きしていた。

 保健室で手当てをされたあとこっぴどく先生に叱られる、連絡ノートにいつもの倍以上の反省文を書かされて、ちゃんと親に見せるようにと言われた。

 先生からの一言を読むと、「葭埜さんのためにしたことは、とてもいいことだからはなまる、だけど暴力はよくないので今日は◎です。」と書いてあった。


 その日の帰り道


 芳乃は健登の後ろを1メートルほど離れて歩いた。

 家が隣なのだから一緒に帰ってもおかしくはないのだが、そんな所を誰かに見られたらまたからかわれてしまう。


「なんで付いてくるんだよ」

「一緒の方向でしょ」

「だったら離れて歩かなくてもいいだろ」


 そう言われ、芳乃は小さな声で言い返す。


「……でしょ」

「あ? なんだよ?」

「だって、あんたも迷惑でしょっ!! 変な名前のあたしなんかと変な噂されたらっ!!」


 芳乃は立ち止まると涙ぐみながら怒鳴る、悔しくて仕方なかった。

 あの時なにも言い返せなかったのもそうだが、その所為で健登が男子達にからかわれたのが本当に悔しくて仕方なかった。


「べつに変な名前じゃねーだろ、よしのよしの。うん、いい名前だ」

「じゃあ、どこがいい名前なのか言ってよ」

「えっと……」


 芳乃に突っ込まれ健登は口籠ってしまう。


「ほらっ、やっぱり」

「ちょっと待って、あれだ、うん、覚えやすい」

「はあ?」


 なにを言い出すかと思えば覚えやすいからいい名前とは、だったら山田太郎や鈴木一郎という名前は至高の名前になるのだろうか?


「なによそれ、あんた適当に言ってるでしょ」

「そんなことねーよぉ、誰かにすぐ名前を覚えてもらえるっていいことだろー、俺とか湊真なんて苗字も名前も読みづらくて、病院とかでいつもへんな風に呼ばれるんだぞ」


 それがいいことなのか悪いことなのかなんて考えたこともなかった。


「いいじゃねーかべつに、おまえはずっと昔から芳乃なんだから芳乃でいいんだよっ!!」

「ずっと昔って、まだそんなに生きてないでしょわたし達、ほんと適当ね、昔っからそうよねあんた」


 二人は顔を見合わせ同時に噴き出した……


 そんな夢を……




 芳乃はモゾモゾと起き出すと携帯の時計を見る、18時8分、帰ってきて40分ほどだが寝ていたようだ。

 昔の出来事を夢に見ることって本当にあるんだなと思いながら、ベッドから抜け出すと制服のままだったので部屋着に着替える。

 なんだか喉が渇いていたので台所へ行き冷蔵庫を開けると、麦茶と飲みかけのオレンジジュースがあったが、なぜか非常に炭酸の効いたジュースが飲みたい。


「めんどくさいけど駅前のコンビニに行くか」


 ついでに今日発売のファッション雑誌の立ち読みもしようと思い、芳乃は薄手のパーカーを羽織ると出かけた。


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