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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第4話 おまえがなにを言っているのか妾にはさっぱりわからぬ

 芳乃は部屋に戻るとベッドに飛び込み枕に顔を埋めた。


「なんで……姫宮があいつんちからでてくるのよ……」


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 玄関先で思いもよらないクラスメイトと鉢合わせになり驚きはしたものの、弥命は先程湊真が言っていた「しのっち」が誰のことなのかここでピンときた。

 「葭埜芳乃(よしのよしの)」で「しのっち」、湊真がそう呼ぶと言うことは幼い頃からのお隣さん、つまりは幼馴染なのであろうと、弥命は不味い所を見られてしまったかなと思いつつも極力平静を装い笑顔で芳乃に話しかけた。


「よ、葭埜さんって守羽くんのお隣だったんですね知らなかったです」

「え、う、うんまあ、別に話すようなことでもないし、そんじゃあね」

「あ、はい。また明日」


 特に何も聞かずに家の中に入ってしまった芳乃に少し拍子抜けしてしまったが、あれやこれやと詮索されなくてよかったと思い弥命はその場を後にした……


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 寝返りを打ち天井を見上げると芳乃は深い溜息を吐く。


 やっぱりあいつら……


 ここ最近モヤモヤした気持ちがまったく晴れない、あの日以来ずっとだ。

 あの日、あいつがわたしに怒鳴りつけた日、それから碌に言葉も交わしていない気がする。

 いや、よくよく考えるとまともに会話を交わしたのはいつ以来であろうか、生まれた時からずっと隣に住んでいて、幼稚園も小学校も中学校もそして高校までも同じ学校、それどころかずーっと同じクラスという、今まで生きてきてあいつの顔を見なかった日なんて一日もないんじゃないかとさえ思えてくる。

 そんだけ一緒にいるもんだから、あいつのことで知らない事なんてないんじゃないかと思っていた時期さえあった。

 親に黙って家の軒下で子猫を飼っていたことも、小学校の裏庭に埋めたタイムカプセルをその日の夜に掘り起こしてしまったことを誰にも言っていないことも、探検に出掛けようと子供たちだけで山に登り、迷子になって大騒ぎになりこっぴどく叱られたこともあった。

 でもいつからか知らない事だらけになったような気がする、思春期にもなるとどちらからともなくお互いが一定の距離を置くようになった。

 男子は男子同士、女子は女子同士で一緒にいることが多くなり、もちろん姿を見かけた時には適当に挨拶くらいは交わすし、別に嫌いってわけではないので普通に会話くらいしてくれてもいい。


 してくれてもいいのに……


「もうっ! なんなのよっ!!」


 芳乃は枕を壁に投げつけると布団を頭から被る。


 ―― あんま素直じゃないといつか取られちゃうよ ――


 友人の言った言葉を思い出しながら、芳乃はいつの間にか眠ってしまっていた。






「なんとも巨大で天高くそびえ立つ建物なのか……」


 真っ黒な高級車から降りるとメドゥーサは感嘆の声を漏らす。

 超高層マンションを見上げながらメドゥーサは、天界にも届きそうな高さのこの建物に興奮の色を隠せないでいた。


「天をも貫くとはまさにこのことだな、人間は独力でこんな建造物まで作れるようになったのか……」

「日本は土地が狭いからね、居住区を上に伸ばすしかないんだよ」


 メドゥーサの後に続いてゆっくりと車を下りながらハーデウスが答えた。


「ほぉ、よくはわからないがこれが今のおまえの神殿というわけだな」


 メドゥーサはふむふむと感心しながらマンションのエントランスへと進む。

 赤い絨毯が敷き詰められ、ギリシャ建築風の彫刻のあしらわれた、どこかのホテルの様な内装にメドゥーサは目を輝かせた。


「ふむ、妾が住まうには少しばかり地味ではあるが、これだけの大きな神殿であればよしとしよう」

「いやいや、この建物全部が僕のものってわけではないよ、この建物の1スペースが僕の家」


 フロア案内図と部屋番号を指差しながらハーデウスが言うと、なにを馬鹿な事をと言わんばかりにメドゥーサは笑う。


「そんなわけがなかろう、神であるおまえにこれだけの建造物の一室しか献上しないわけがあるまい」


 言いながら自動ドアの前に立つとメドゥーサは後ろを振り向きなにやら不敵な笑みを浮かべる、そして後を付いてくるハーデウスと双子神に得意げに言い放った。


「知っておるぞ! これはジドウドアと言う物だ、このように前に立つと自然に扉が開き通り過ぎるとまた閉まると言う下僕いらずの優れものだ」


 食事をしたホテルで下僕達がやっていたのを見ていたのだろう、それを今度は自分で試せるのでウキウキしながらメドゥーサは歩みを進める。

 それをハーデウスはにこにこしながら見ているのだが、メドゥーサが自動ドアを通ろうとすると。


 バンっ!


 ドアは開かずにメドゥーサはそのままガラス戸に激突してしまった。

 大股を開き後転するように転がるメドゥーサ、慌てて双子神が駆け寄りメドゥーサに手を貸す。

 ドアに弾かれ尻もちをついてしまったメドゥーサは、打ったお尻を擦りながら喚きたてる。


「なんだっ! なぜ開かないっ? 妾を愚弄しているのかっ!!」

「ハハハ、気を付けて、前を見て歩かないとダメだよ。それは自動ドアではあるけれどここで指紋認証をしてこのキーを差し込まないと開かないんだよ、このマンションはセキュリティが厳しいからね」

「おまえがなにを言っているのか妾にはさっぱりわからぬ」


 頬を膨らまし不愉快そうな顔でハーデウスを睨み付けるメドゥーサであった。


 エレベーター内でもメドゥーサは大騒ぎであった。

 ハーデウスの部屋はマンションの39階なので、高速エレベーターで上がるのだがその際のフワッとするなんとも気持ちの悪いあの感覚に慣れないのか、メドゥーサは双子神のスカートにしがみ付き震えている、その姿はまるで姉に甘える妹のようである。


「なんなのだこの籠の乗り心地の悪さは、腹の下の辺りがムズムズする、耳もキーンと痛む、妾は非常に不快だぞ、先程乗った四輪の馬車のほうが快適であったわ」

「心配しなくてもいずれ慣れるよ」

「そうだとよいのだが……うぇぇ」


 なんやかんやとようやく部屋まで着くと、ハーデウスはメドゥーサを招き入れる。

 3LDKだが120平米はある専有面積は、都心から少し離れているとはいえど億は下らないであろう。

 その一室10畳ほどの部屋にメドゥーサを通すと、ハーデウスは言った。


「これからはここがきみの部屋だ、自由に使ってくれて構わないよ、なにか必要な物があればなんでも遠慮なく言ってくれたまえ」


 メドゥーサはしばらく黙って中を見廻す、部屋の中にはシングルベッドが一つと小さな机にPCが一台、収納はウォークインクローゼットらしい、これと言った装飾や調度品などもなく殺風景な部屋であった。

 メドゥーサはなにも言わずにゆっくりと部屋の中央へ行くと振り返り叫ぶ。


「ハーデウスっ! 妾はよしなに計らえと申したはずだっ!! なんだこの馬小屋よりも簡素で小さな部屋は!? おまえが膝を突き共に居て欲しいと求愛した女に対する仕打ちがこれかっ! 妾を愚弄しておるのかっ!!」

「いやいや、求愛したわけではないけど、一応これでも平均的な日本の住宅の専有面積に比べると相当に広い方なんだけどな、なによりここは景色がいい、ほら! スカイツリーも見えるんだよ」


 ブラインドを開けおどけて見せるハーデウス、確かに地上39階から見下ろす景色は壮大で、遠く望むスカイツリーと夜景は、普通の女性であればイチコロであろうこと請け合いの筈なのだが、いやこの考え方は昭和バブリーな価値観なのであろうか?まあそれは置いといて。

 とにかくメドゥーサの比較対象はというと、遥か神話の時代にでてくる雄大な大地に建造された果てしなく広い神殿や、穏やかな海底に眠る、空を見上げれば美しいオーシャンブルーの見える神殿など、ファンタジーな世界にでてくるような壮大なものばかりなので、現実の超高級マンションなんか召使いの部屋レベルになってしまうのであろう。


能子(のうこ)透子(とうこ)なんて二人で一つの部屋を使っているんだよ」

「誰だ、その珍妙な名の者らは?」

「この娘達だよ」


 ハーデウスは双子神を指差す。


「はんっ、そやつらはヒュプノスとタナトスであろう、いつからそんな名で呼ぶようになったのだ」

「ここではその名前で呼ぶ方がおかしいからね、ちなみにこちらでの僕の名前は羽出須磨夫(はですまお)


 酷い当て字である、金髪のヒュプノスは「日布能子(ひぶのうこ)」、銀髪のタナトスは「田名透子(たなとうこ)」となんとも大雑把で適当な名前にしたものだ。


「まったく、おまえはいったいなにがしたいのか」

「それはこれから追い追い説明するとして、まずはきみにここでの生活の基本を学んでおいて貰わないといけないね」


 そう言うとハーデウスはPCの前へ行き電源を入れる。

 その中には様々な国の歴史や文化がデータベース化されており、もちろん日本の歴史や文化も網羅されているファイルもある。

 そしてインターネットも繋がっている為、調べ物や買い物も自由にできるようにしてあった。

 ハーデウスは簡単にインターネットの使い方と、ネットショッピングでの支払いの仕方をメドゥーサに教えると、暫くはこれで勉強をするようにと言い置いた。


「後はわからないことがあればタナトスに聞いてくれるかな、僕はこれから大事な会議があるから失礼するよ」

「会議? 神々の定例会でもあるのか?」

「違うよ、こう見えて僕は投資家でね、今日は僕が筆頭株主をやっている世界的大企業の定例会が3つもあって忙しいことこの上ないんだよ、それじゃ行くよヒュプノス」


 ハーデウスは金髪のヒュプノスを引き連れて出て行ってしまった。

 残されたメドゥーサは銀髪のタナトスを見やると問い掛ける。


「おまえは、あやつの言っていることを理解しているのか?」


 その質問に両手の親指と人差し指で円を作り、タナトスはメドゥーサに見せて言う。


「マネ~ウォ~~ズ」


 二人は無言で見つめ合い、ただ時だけが過ぎて行くのであった。


 悠久の時を生きる神々ならではの無駄な時間の使い方(あそび)だねっ!


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