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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第2話 おまえも妾のように男達を侍らせたいのだな

 第二章 蛇姫神と迷い猫



 目覚めた時にはそこにいた。

街頭のショーウインドウに映る自分の姿を見つめながら、ずいぶんと華奢で小さなその体に驚いた。

 歳の頃は十前後だろうか?ヒラヒラとした真っ白な服装は、古代ギリシャのキトンを思わせるなと頭の中で呟く、まあ単なるワンピースなんだけど……

 正直こんな見てくれでは世の男どもを魅了できないではないかと落胆するも、よくよく見ると幼いながらも端正な顔立ちの美人であるし、なによりもこの美しいシルクのように艶やかで長い黒髪が気に入ったので、気長に成長を待つことにしようと思った。

 それにしてもなんだったのであろうか、それまでずっと深い深い眠りについていたと思うのだが、突然感じた強い力、それはまるで窓から差し込む暖かい朝陽のような。

 それに惹かれるように目を覚ましたわけだが、自分が今どこにいてなにをしているのかまるで見当もつかなかった。


「さて……どうしたものか」


 少女が呟くと、グ~っとお腹が鳴る。


「まずは、この空腹を満たしたいな」


 その少女はあたりを見回すと目的の“もの”を見つけたのかスタスタと歩き出す。

 その先には二十代前半の若いカップル、どこにでもいそうなかわいらしい女性、という言い方は褒め言葉なんだろうか?と彼氏の方はアイドルのような顔立ちのそこそこのイケメンであった。

 二人の前に行くと少女は彼氏の方を見上げる、それに気づいた彼氏が話しかけてきた。


「どうしたのきみ? 迷子?」

「え? なにーこの子? かわいいー」


 子供好きの振りをしてそんなわたしもかわいいでしょ?ってのが見え見えの、ブリっこ全開の彼女を一瞥すると、少女は彼氏の目をじっと見つめた。

 怪しげなその瞳から放たれる妖艶な力に魅了されるように、彼氏は少女の前に跪くと

思いもよらないことを言い出した。


「ああ、何とお美しい方なんだ、なんなりとお申し付けください女神様、私はもう貴女の虜です。私を下僕とお呼びください」


 そのまま公衆の面前で恥ずかしげもなく、大声で少女の美貌に賛辞の言葉を並べ立てる。

 そんな突然の彼氏の行動に、彼女は一瞬呆然とするも怒りだし問い詰める。


「はあっ!? なに下僕って? あんたそう言う趣味あんの? ロリコンっ!! きもいんだけどっ!!」


 デート中に目の前で別の女性を口説き始めるのならまだしも、まあそれはそれでありえないが、年端もいかない少女に傅き、下僕と呼んでくれなどと正気の沙汰とは思えない。

 彼女が怒るのも当然であるが、少女は嘲笑するかのごとく言い放つ。


「やれやれ、ほんとうに男を魅了する女というものがどういうものなのか、なにもわかっていないな小娘」


 これでは火に油だ、おまえの方がガキだろうがと思い彼女は更に怒りだす。


「ああっ!? ガキが調子に乗ってんじゃねーぞ!」


 その言葉に彼氏は立ち上がり彼女を睨み付けると信じられない言葉を口にする。


「やめてくれないか!彼女の前で豚のように喚き散らすのは、もういい加減ブスは帰ってくれたまえ」

「なっ! ぶ、ブタ? ブスっ!?」


 その一言が止めであった。

 「死ねイ○ポ野郎!」と叫び、中指を立てながら彼女はその場を去って行った。

 そんな彼女をよそに彼氏は少女の前に再び跪く


「さて、邪魔者はいなくなりましたので、この後はいかがなさいますか?」

「そうだな、妾は少々お腹が空いた。どこか落ち着けるところで食事をとりたいのだが」

「わかりました、すぐにお調べいたしますのでしばしお待ちをっ!!」


 そういうと元彼氏はスマホを取り出し飲食店の検索を始める。


「それにしても……なんとも喧しい場所だなここは」


 そう言いながら少女の見つめる先にはコンクリートのビルの群れがそびえ立ち、行き交う自動車の音と鳴り響くクラクション。

空の青をこれほどにも狭く感じるとは、少女は寂しげな表情を浮かべるとゆっくり歩きだした。





 高級ホテルの上階にあるレストランの一角、そこに異様なほど注目を集める一団があった。

 テーブルに座り食事をとる一人の少女を取り囲むその一団は、若い男ばかりであり皆一様にイケメンと呼ばれる部類の顔立ちをしていた。

 少女が口を開けると甲斐甲斐しくステーキを運び食べさせ、飲み物が欲しいと言えはグラスに葡萄酒グレープジュースを注ぐ。

 テーブルの上には食事以外にも、男たちが買ったのであろう少女へのプレゼントと思われる服や靴、アクセサリーなどが山の様に積まれていた。

 少女の一挙手一投足すべてを礼賛し褒め称える、皆少女に傅き奉仕することに至上の喜びを感じているようであった。

 そんな異様な光景を他の客達はドラマかなにかの撮影かと遠巻きに見ていたのだが、さすがにレストランの女性ホール長が見兼ねて注意しにやってきた。


「あの……お客様、大変申し訳ないのですが他のお客様のご迷惑にもなりますので、そういったことはなるべく控えて頂きたいのですが……」

「なんだおまえは? そういったこととはどういったことか?」

「その、団体様でいらっしゃるのであれば皆様の分のお席をご用意いたしますので」

「何を言うかと思えば、この者達は妾の下僕、席を用意する必要などない」


 高慢な少女の物言いに若干イラっとしながらもそこは接客のプロ、笑顔で返すが少女はさらに続ける。


「ははぁそうか、おまえも妾のように男達を侍らせたいのだな」


 なにを言っているんだこの糞ガキが、ちょっとばかし若くてかわいいからって調子に乗りやがってふざけんなよ。

 こちとら毎日毎日客共に餌を運んで行っては、酔ったおっさんにはセクハラ紛いのことをされるわ、ババアには嫌味を言われるわでストレス溜まりまくってんだ。

 男と遊ぶ暇もねえんだぞ、ていうかもう5年以上彼氏もいねえ。

 あ、なんか泣けてきた。

 そんな悪態を心の中で吐きながらもなんとか平静を保って見せるホール長。


「は、ハハハ、お客様ご冗談を……」

「しかし残念だがおまえには無理であろう、妾のように美しくはないからな、なにより男を魅了するには少々歳がいきすぎておる」

「なっ!?」

「まあ金と権力を積めば手に入らないこともないであろうが、それも無理そうであるな」


 そう言うと少女は、涼しい顔をしながら食事を再開した。

 ホール長はというと少女の辛辣な言葉に打ちひしがれてしまっている。


 と、そこに悠然と歩み寄る一人の男性。

 男性がホール長の耳元で何か囁くと、ホール長は目も虚ろに顔は上気し惚けたような表情になり、ふらふらとその場を離れて行ってしまった。

 その様子を黙って見ていた少女だが、男が少女に近づこうとすると下僕たちがその前に立ち塞がる

 それを、「よい」と下がらせると男性に問いかけた。


「ほぉ、なかなかに美しい顔をしているな、おまえも妾の下僕として奉仕したいのか?」


 そう言うと男の目をまじまじと見つめ覗き込む少女。

 しかし、その深く、なによりも黒く深い瞳で少女の目を見返すと、男はゆっくりと喋りかけてきた。


「相変わらずだねきみの面食いっぷりは、でもその瞳の力は僕には効かないよ」


 そう言われ少女は何かに気づいたのかハッっとすると、驚いたように目を見開きゆっくりと立ち上がると男に向かって言った。


「おまえ……まさか……なるほど、妾の魔眼が通じぬのも無理はないか」

「わかってもらえたようだね、まあでもそっちの眼、魅了〈チャーム〉の方だから効かなかったけど、もう一つの方だったらちょっとやばかったかもね」

「こっちは妾のとっておきだからの、そうおいそれと使いはせぬわ」


 右手の親指と人差し指を合わせ輪っかを作り、それを覗き込みながらそう言う少女は、まるで懐かしい友人にでも会ったかのように浮かれているようにも見えた。

 その言葉に男は不敵な笑みを浮かべ答える。


「それでこそ、気高きゴーゴン三姉妹が末妹、石眼の魔女〈メドゥーサ〉様だ」


 メドゥーサ、もういまさら説明するまでもないであろう。

 ギリシャ神話に登場するモンスターであり一説には女神であったとも言われている、その名で呼ばれた少女も男の名を呼ぶ。


「おまえこそこんなところで何をしている?冥界の王ハーデウスよ、双子神まで引き連れて、また聖戦でも始まろうと言うのか?」


 こちらも最早説明するまでもない、正真正銘の神であるその名を知らない者などいないだろう。

 そしてハーデウスの後ろには女の子が二人立っていた。

 黒のシックなスーツに身を包んでいるが、歳の頃は十七~八くらいの少女、双子神と呼ばれた二人はその通りそっくりな顔をしていたが、ところどころ違う部分もあった。

 メドゥーサから見て向かって左の少女は、右目の下に泣き黒子があり片側に三つ編みに結った銀髪は右肩に垂らしている、右に立つ少女は左目の下に泣き黒子、金髪の三つ編みを左へ垂らしている、ちょうど左右対称になるような特徴をもっていた。


「いやいや聖戦なんてまだまだ起こらないよ、先代達はまだ眠ったままさ、今日はたまたま近くで懐かしい気配を感じたものだからね、誰かと思って見に来てみたらきみがいたってわけさ」

「ふん、妾は先程目覚めたばかりでな、とりあえず空腹を満たしていたところだ」

「そうだったんだね、まあでも、現代の日本でこれはちょっと悪目立ちがすぎるかな」

「日本?」


 メドゥーサは自分の今いる国が日本だということはわかっていなかった。

というか日本という名前さえ初めて聞いたのだ、遥か神話の時代に首を刎ねられて死んだメドゥーサが、そんな東洋の島国の名前など知る由もないので当然と言えば当然である。


「そう、ここはきみが前にいたギリシャから見ると遥か東のちっぽけな島国、日出国だよ」

「ほぉ、よくは知らぬが、しかしなぜ今妾がそんな所で目覚めたのか」

「それは恐らく、この国で強い力をもつ神器がまた新しく解放されたことに関係しているのかもしれないね」

「神器?」

「そう、この国で最強の力を持つ一人とされる神が振るった神器……」

 

 そう言うと、ハーデウスはメドゥーサの前に跪き手を差し出す。


「麗しき女神様、僕と一緒に来てくれないかい?」


 その言葉にメドゥーサはしばし考え込むが、この男の方が色々と事情も詳しそうだし、情報を引き出す為に暫くは一緒に行動してもよいかと考えた。


「ふむ、よいだろう、よしなに取り計らえよ」


 そう言うと、メドゥーサはハーデウスの手を取りそして双子神とその場を立ち去った。


 去り際、メドゥーサが振り返り下僕たちに向かって左目でウィンクをすると、男達は正気に戻ったらしく皆なにがなにやらわからずに慌てふためいていた。

どうやらところどころ記憶があるのか、彼女の名前を叫び急いで電話をする者や、カードで買ってしまった高額商品を手に取り呆然とする者、その内にここの支払いをどうするかでやいのやいのと揉め始めるのであった。


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