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神器の巫女  作者: あぼのん
第二章 蛇姫神と迷い猫
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第1話 プロローグ

 いつからだろうか、下の名前ではなく苗字で呼ばれるようになったのは。

 小学校の高学年になってから?それとも中学に上がってから?

 まあそんなことはもう覚えていない、あいつだって覚えてはいないだろう。


 ある日突然、苗字で呼ぶようになった。

 苗字で呼ばれるようになった。


 なぜかたまたま奇跡的に偶然が重なって、幼稚園の頃からずっと同じクラスだったというだけであって。


 ただそれだけのことで……


「おれ、おとなになったらよしのちゃんのおよめさんになる」

「ばかね、おとこのこはおよめさんにはなれないのよ」

「よしのちゃんのいじわるっ、ばかっ、もうぜっこうだっ!!」


 プロポーズをされた直後に振られるという、成田離婚も霞むほどの超スピード破局を迎えたのも遠い記憶である。

 

「よしの~」


 それは苗字


「よしの~っ!」


 そう、そっちが名前


葭埜芳乃(よしのよしの)っ!! 聞いてんのかっ!?」


 担任教師である泉宮寺麻衣(せんぐうじまい)の怒鳴り声で芳乃は我に返る、今は英語の授業中だ。


「は、はいっ? ……聞いてました」

「ほぉ、わたしには上の空に見えたのだがな、だったら今読んだ部分日本語に訳してみろ」


 なぜ教師というのは聞いていなかったのをわかっているのに、わざわざじゃあやってみろと言ってくるのだろうか、ほんとあれ意味わかんない。

 しかし、芳乃は何事もなかったかのようにスラスラとその部分を日本語に訳して答えて見せる、無意識下の意識というのだろうか、まあなんとなく耳に入ってはいた部分と先生の背後のクラスメイト達のフォローにより難を逃れた次第だ。

 もちろんこれが健登であったら、出題された箇所がわかっても翻訳はできなかったであろう。

 芳乃が非の打ちどころのない完璧な日本語訳をしたので、麻衣は怒るに怒れず授業を続ける。


「き、聞いていたならまあいいんだがな、うぇおっほん、そんじゃ次」


 言いながら、背後の生徒達を睨み付けるが皆素知らぬ顔だ。


 中間試験も終わり6月に入り二週間が過ぎていた。

 衣替えも始まり、生徒達は皆夏服になるのだが雨の日などはまだ少し肌寒かったりするので、半袖にするべきか長袖にするべきかなかなか服装には悩む季節、これからどんどん気温も上がって薄着になってくるのだが、女子のブラ紐が透けて見えたりするので男子達は夏が待ち遠しくて仕方がないぜっ!


 そんなこんなで二限の授業も終わり短い休み時間になると、隣の列に座る友人が話しかけてくる。


「芳乃ぉ、なにボーっとしてたの?」

「べつにー、ここんとこ夜型になっちゃってて寝不足なだけ」

「ふーん、そんなこと言ってぇ、実は気になっちゃってるんじゃないのぉ?」


 芳乃に話しかけてきた友人がニヤニヤしながら見つめる視線の先にいたのは、健登と弥命であった。

 会話の内容は聞こえてこないが なにやら二人楽しそうに話をしている。

芳乃が弥命の教科書を見つけ健登が怒ったあの日以来、妙に二人の距離が近づいたような感じがするのは気のせいではない。

 芳乃は友人の意味ありげな言葉にとぼけてみせるが、動揺しているのがバレバレの上ずった声で返す。


「な、なな、なにが? なんのことだか全然わかんないんだけどぉっ!!」

「まあべつにいいけどさ、あんま素直じゃないといつか取られちゃうよぉ」

「取られるとか、そもそもなんの話してんのか意味わかんないし」


 ここ最近の弥命の変わりようは誰もが知っている、明るくなり今まで異常なまでに他人と距離を置いていたのがある日を境に変わった。

 彼女を苛めていたクラスメイトと仲直りしたのもその頃だ、おそらく健登が関係しているのだろうが……


「まあ、そういうことにしておいてあげるか」


 やれやれといった感じで友人が肩を竦ませると、次の授業の開始を知らせる鐘がなる。



 ほんと……意味わかんない



 芳乃は心の中でそう呟くが、知らずその視線は健登の背中を追っていた。


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