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神器の巫女  作者: あぼのん
第一章 憧憬落暉とひとり姫
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第17話 あまりわたしを、わたし達を舐めないでくださいっ!!

 アルレッキーノはまったくもって不快な気分であった。

 楽しみにしていたゲームの完成を、クライマックスを見逃してしまったのだから当然だ。

 せっかくゲストまで招いて、長い期間をかけて用意してきたこの舞台、余興を台無しにされてしまったのだから。

 興が醒めてしまった。目の前に倒れているこの女を蹂躙し気でも晴らしてやろうかと考えるが、アルレッキーノは後方から聞こえてくる奇妙な音に気が付き振り返る。

 それはなにかが、まるで校舎の壁を蹴り上げているような音。


 壁を蹴り?


「まさかっ!?」


 声を上げた瞬間、フェンスを飛び越え目の前に現れたのは、姫宮弥命を左腕に抱え右手には白く輝く一振りの剣を手にした守羽健登であった。

 健登はそのまま屋上に降り立つと、弥命を抱きかかえたままアルレッキーノに向け剣を突きだし叫んだ。


「まだゲームは終わってねーぜっ! ここからが第二ラウンドだっ!!」



 アルレッキーノは仮面の下でほくそ笑んだ、腹の底から沸々と込み上げてくる笑いに堪えきれず噴き出す。

 楽しみにしていた舞台のラストも見れずに終わりを迎えてしまったと思っていたのに、まさかアンコール上演があるとは、まだまだ余興は終わっていなかったのだ。


「はーはっはっははあああはあー、なんとも、なんとも素晴らしい。本当に最高ですよあなたはぁ」

「てめえ、いつまでもその余裕ぶった態度でいられると思うなよ」

「くっくっく、くっくぅ、余裕?余裕なんてありませんよ、常に私はギリギリなんです。だからこそ楽しみたい、全力でこの生を! 肉体を楽しんでいるんですよっ!!」


 アルレッキーノの言葉の意味をなんとなくだが健登も弥命も理解できた。

 これは健登の話した違和感から弥命が筋立てて導いた結論だ。


 健登は小声で弥命に話しかける


「姫宮、結界は?」

「ごめんなさい……ダメでした」

「そうか……」


 弥命の言葉に健登は焦りも落胆もせずただそう答えた。

 結界の発生源を探し出すところまでよかったのだが、思い通りに解読が進まず、制限時間の三十分が経過しようとしていたので解除を諦めたのだ。

 しかし決して弥命の知識技術が低いわけではなく、並みの、いや、並み以上のものであったとしても弥命クラスの能力をもってすれば、時間さえかければ解けない結界などそうそうあるものではない

 しかし、今回アルレッキーノの仕掛けていた結界はそういう次元のものではなかった。

最早あれは未知の技術、これまでに弥命が学び培ってきた経験や知識をはるかに凌駕する、そんな未知の公式で紡ぎだされた術式と言ってよかった。

 そんなわけで、無理なものは無理とすぐに見切りをつけ健登達の援護にきたわけである。


「フフフ、残念ながら結界の解除には失敗したようですね? まあ、あなたにあれを解読することは無理でしょう。あれは最早、現代では失われた技術を使って作り出した術式ですから、ですので気に病むことはないですよ。さて、そうと決まればゲームの再開、次は私のターンです。ちょうど神器も解放され具現化しているようですし、それを頂きましょうかっ!!」


 そう宣言すると、アルレッキーノの後方に無数の魔法陣が展開し中から刃物がでてくる。これが健登の身体に突き刺さっていたのだ。

 アルレッキーノは別次元にこういった武器を無数に保管し結界内であれば自由に取り出すことができた。

 そして自らの魔力で紡ぎ出した自在に操れる糸を、魔法陣から出現した刃物に括り付け攻撃を仕掛けてくる。

 弥命は咄嗟に身構えるが数があまりにも多すぎる、健登や水谷の分まで捌ききるのは難しい。

 そう思っていると健登が突然走り出し弥命や水谷から距離を取った。

 アルレッキーノの狙いは当然神器なので、無数の刃物は健登を追い襲い掛かる。


「ダメっ! 守羽くんっ、避けて!!」


 言ってはみたもののこれを全て躱し捌ききるのはまず到底不可能である。

 しかし、健登はとても人間技とは思えない反射神経と身のこなしで襲い掛かる刃物を次々と躱し、剣で受けられる物は全て払い落とした。

 これが神器の力なのか、その人間離れした動きに弥命だけでなくアルレッキーノも驚愕する、そもそも弥命を抱えて4階建ての校舎の壁を駆け上がってきたのだ、それこそ人間技ではない。


「人の限界を超えた身体能力の強化……それに……治癒力の向上まで……」


 アルレッキーノは無意識に声に出していた。

 そう、健登の左肩と右太ももからは出血も止まり傷口はもう塞がりかけていた。

これも神器のもたらす力なのか、いずれにせよ剣の心得のないどころか、そもそもこんな戦い自体経験があるわけがない。

 そんな健登がこうも見事に立ち回って見せているのは紛れもなく神器のおかげと言える。


「それなら、これでどうですか?」


 今度は健登の周り360度、逃げ場もないくらいに無数に展開する魔法陣から一斉に刃物が飛び出す。

 健登は身をよじり、真横にきりもみするように回転しながら躱せるものはギリギリ躱し、幾つかは剣で叩き落とす。

 さすがに完全には躱し切れず左脹脛と右脇腹、そして左頬をわずかに掠める。

 しかし掠めた程度で致命傷には至らずすぐに傷口は塞がる、健登は二度目の攻撃も見事に凌いで見せた。


「何度やったって全部避けてやるぜ?」


 その言葉にアルレッキーノは無言のまま健登を睨み付ける、仮面の奥から覗く目は明らかに不快感を示した目だった。

 思い通りにいかないのが不満なのか、アルレッキーノは何度か拳を強く握りこみ鳴らした。

 そんなアルレッキーノに対して更に健登は挑発を続ける


「いつまでもお前の思い通りになると思うなよ、俺らだってお前のことを知ってるんだぜ」

「その通りです。さんざんわたし達の思考や行動を先読み、状況を操ってきたからといって、全て思い通りになっているとは思わないでください」


 健登の後に弥命も続く。


「なにが、仰りたいのですか?」

「あなた、ずっと仮面を付けて正体を隠しているつもりでしょうけれど、わたし達はもうあなたの正体に気づいています」

「ほぉ……」


 アルレッキーノは意にも介さない素振りを見せるが、先程まで見せていた余裕を今は感じられない。

 むしろ自分の思い描いていたシナリオからどんどん逸脱していくこの状況に、苛立っているように見えた。


「知っているがゆえの無意識っつーのかな? 下手に気を使った所為でとんだ墓穴を掘ってたんだよ。なあ? “填島先生”」


 健登は人の良さそうな歴史教師の名でアルレッキーノを呼んだ。

 そう呼ばれるがアルレッキーノはなにも答えない。


「その沈黙が答えと受け取るぜ」

「なぜ……そうだと?」


 アルレッキーノは肯定も否定もせずに問いかける。

 質問に答えたのは弥命。


「あなたは昼休みにわたしと土屋さんが揉めているところにすぐに駆けつけました。今日わたし達に仕掛ける為に、ちょうど中庭で結界の最終調整を行っていたのでしょう」

「そんなことで?」

「いいえ、それは結界の発生源を絞り込む為のヒントです。あなたはもっと分かり易い反応をしてくれていました。填島先生はなぜ、わたしが左肩を怪我していることを知っていたのですか?」


 それこそが健登の感じていた小さな違和感だった。

 弥命の肩に軽く手を置いた時に、確かに填島は「痛むのかい」と聞いたのだ、「痛かったか」ではなく「痛むのか」と言った、これはそこに何かしらの怪我を負いまだ痛いのかと聞いてきたということではないか、今与えた痛みではなく元々抱えている痛みを労わる言葉だ。

 わずかなニュアンスの違いだが、弥命が肩に深い傷を負っていることを知っている健登だからこそ感じた違和感と言える。


「気が付いたのは守羽くんですけど、あの時のわたしはやや冷静さを欠いていたので気が付けませんでした」

「たったそれだけのことで……やれやれ、少し人のいい先生を演じ過ぎましたかね」


 そう言うとアルレッキーノはおもむろに仮面を取り外す、その仮面の下から現れたのは紛れもなく歴史教師の填島の顔であった。

 自分の正体を看破され悔しげな表情を浮かべているかと思ったが意外にも冷静であり、それどころかどこか感情のない無表情な顔に思えた。


「それで? 私の正体がわかったからと言ってどうしたと言うのですか? あなた方は尚も私の張った結界内に閉じ込められて劣勢のまま、なにも状況は変わらないでしょう」

「言ったはずだぜ? なんでもてめえの思い通りになると思うなよって」

「その通りですっ! あまりわたしを、わたし達を舐めないでくださいっ!!」


 そう言うと弥命は持っていた刀を地面に突き立て短く気合いを入れるように声を発する。

 次の瞬間、屋上一面に描かれた巨大な魔法陣が展開し、円に沿って光の柱が天に向かって伸びた。

 それは弥命が連絡通路や尋問室に事前に仕掛けていたようなものとは比べ物にならないほど巨大で、屋上一帯を包み込むほどのものであった。

 これも弥命が前もって仕掛けていた術、学校敷地内がアルレッキーノのホームグラウンドというのであれば、校舎内はすべて弥命のホーム、言うなれば建物自体が弥命の仕掛けたトラップボックスと言っても過言ではない。

 アルレッキーノがいつ頃から填島の身体を乗っ取り、この学校に潜伏していたのかはわからないが半年にも満たないせいぜい数か月。弥命は入学してからずっと、この学校で3年間平穏に過ごすためにこういった術を延々と仕掛けてきていたのだ、いくつかの術は気付かれ解除されたものもあったが、そういったものはほぼ囮である。

 その甲斐あってか、連絡通路や今発動しているようなカウンタートラップ型の術までは看破されずに済んだのも幸運だった。


「二重三重に張り巡らせてこその策っ! 結界が解除できないのであれば上書きすればいい、現代の術はそういう強引なこともできるんですよ」


 簡単に言ってはいるが結界の中で結界を使うなどという、かなり無茶苦茶なことをやってのける弥命は大した実力の持ち主であった。

 弥命の張った結界が効いたのか填島が苦しげな表情を見せると、その体に重なりあうように一瞬別の身体がブレて見えた。

 弥命の予想した通りだった。

 恐らく填島の身体を借り憑依している本当の敵、それが一瞬見えた今の姿なのだろう。

 昨日奴がどうやって白の結界内に侵入したのか、これがその答えだ。

 白の結界は善悪問わず霊的な力に瞬時に反応するようになっている、本人が自覚していなくても、なにかしらの形でその力は漏れ出ているものだ。

 特にアルレッキーノの出すような邪悪な気であれば、抑えようとしてもそうそう抑えきれるものではない。

 だから、アルレッキーノは人の身体を隠れ蓑に使ったのだ。

 人間の中にも犯罪者のような悪意を持った者も当然いる、だがそれは霊的な力ではない。

 いちいちそんなものにまで反応するようにしてしまっては、あの山の中に入れるものなどいなくなってしまう、論より証拠あの獣人になった男がいい例だ。

 見かけどおり最悪の男であったが、人の姿の時には結界が反応することもなく山に立ち入ることができている。


 結界の力により上手く填島の身体に定着できなくなっているのか、フラフラとおぼつかない足取りでアルレッキーノは二人を見据える。


「不覚をとりました。まさかこんな方法があったとは、それにしてもこのような術式を上手く隠したものです。正直感服いたしましたよ姫巫女様」

「それはどうも」

「本当はこんなところで力を使いたくはないのですが、そうも言っていられないようですね……」


 そう言うとアルレッキーノは再び仮面を被り、右手を高く掲げ指を鳴らす。

 それに応えるかのように無数の影達が上空に集まりだし一つに固まっていく、そして数十メートルはあろうかという長く巨大な大蛇のようになり渦を巻きながら空を旋回すると、頭をもたげるように降りてくる。

 あの影達はここら辺りに漂っている浮遊霊などの低級霊たちである、それを結界内に引きこみアルレッキーノが操っているわけだが、当然そういった霊たちを使役するのにも魔力を消費する、あれだけの霊魂を使役するとなるとそうとう体力を消費するだろう。

 合体し大蛇のようになった影たちは、その体を弥命の張った結界壁に巻きつけるとぎりぎりと締め上げ始めた。


「随分と強引な手を使いますね……守羽くんっ、この結界はそう易々と破壊はされませんがいつまでも持つわけでもありません、一気に片を付けましょうっ」

「ああっ! 俺もいつまでもこんな所に居たくねえしなっ、いくぜ姫宮っ!!」

「はいっ! 守羽くんっ!!」


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