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神器の巫女  作者: あぼのん
第一章 憧憬落暉とひとり姫
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第13話 絶対に負けませんっ!!

 教室には鼻を啜る音としゃくりあげる声が響いていた。


「いつまで泣いているんですか…………水谷さんっ!」


 もうとっくに弥命は泣き止みこれから健登を加えた作戦を練り直そうというのに、先程の二人のやりとりに感激した水谷がいつまでも泣き止まないのだ。


「ズズズっ、だっでぇ、ひべざまがぁ、ひめ、ヒック……わたくしめは姫様のことをなにもわかっていなかったのですね、幼い頃からずっと姫様のお傍でお仕えしていたのに、それにひきかえ守羽殿は、ズズっ、ほんとうに、ぅぅう、ほんどうにずばらじいお方ですぅぅぅううう」


 涙と鼻水でくしゃくしゃになっているので、弥命はハンカチを水谷に差し出すとチ~ンと鼻をかむ、なんとか場は落ち着いたので仕切り直し、健登を交えた作戦会議を始める。


「それでは話を戻します。私が結界の探知解除を行っている間、守羽くんには囮になってもらい、水谷さんは敵を迎撃してください、一人で逃げ回るだけよりは幾分はマシになるでしょう」

「応よっ、任せとけ」

「いえいえ姫様、幾分もなにも大分負担は減ると思います。今の守羽殿は侮れませんよ?ふっふっふ」

「随分と信頼しているんですね? 守羽くんのことを」


 白けた目で二人を見つめる弥命。

 知らない間に厚い信頼で結ばれているかのような二人の関係に、弥命はなんだか無性にイラついた。

 その様子を察し健登は慌てて話を逸らす。

 また不貞腐れモードになられてはたまったものではない、弥命は意外にめんどくさい子であった(笑)


「そ、そういや、生徒会長が怪しいって言ってた話なんだけど」

「はい、現状彼女の行動が一番疑わしいかと、なにか気になることでもあるのですか?」

「それはそうなんだけどさ、それとは別にどうも引っ掛かることがあって……」


 健登は昼からずっと引っ掛かっていた疑問、違和感を二人に説明し始める。

 それは本当に些細な出来事でありそれだけで決定付けられるような内容ではなかったのだが、弥命と水谷は黙って最後まで聞く、話が終わると弥命は暫く考え込み大きく頷き答えた。


「恐れ入りました。なるほど、そんなことがあったなんて……まったく気がつきませんでした。確かにそれは引っ掛かりますね、見事な推理だと思います」

「そうでしょう、そうでしょう! やはり守羽殿は流石ですっ!」

「なんで水谷さんが嬉しそうなんですか? まあそれはいいとして」


 水谷のおちゃらけにとりあっていては埒が明かないのでサラっと流す。

 寂しそうな目で見つめてくるが無視だ。


「だとすれば、探索するポイントもかなり絞れるので時間を短縮できるかもしれません」

「よしっ、決まりだな。で、肝心要の話、結界を解くことができたらどうなるんだ?」


 それは確かに重要なポイントであった。

 結界を解いたからと言って、敵が攻撃をやめてくれるとは限らない。

 それどころか形振り構わず襲ってきた場合に、他の生徒が巻き込まれる可能性も考えられる。

 であればちょっとくらい不利だからとは言え、ここで敵を倒してから結界を解く方が良いのではないかと健登は思った。


「そうですね、結界を解いたからと言って敵が退いてくれるとは限りません。しかし現状敵の張った結界内で交戦するのはかなり無謀なことだと思ってください、自分が有利にならないのにわざわざ結界を張る意味などないですからね」

「お、おぉう、そ、そりゃそうだな?」

「姫様、こう言うのもなんですが、守羽殿は、その……頭の回転の良い時と悪い時の差が非常に激しいので」

「知っています。クラスメイトですから」


 クソっ、返す言葉もねえっ!!


「先程も言いましたが、端的に言ってしまえば術者次第で結界はなんでもありなんです。もちろん無茶な設定にすればそれなりに難しい物にもなりますが、守羽くん、今朝のニュースは見ましたか?」

「いや、今朝は寝坊したからそれどころじゃなくて」

「そうですか、昨夜あれだけのことがあったのに、今朝のニュースではどこもあの崩落のことには触れていません」


 そう言われれば、クラスでもその話をしている者は誰もいなかった。

 というより、何もなかったという感じだ。

 山が崩れたのだ、普通だったらトップニュースになるような大事件なのに。


「昨夜の帰り道、どこを通ったか覚えていますか?」

「いや、ごめんあの時ちょっとボーっとしてて」

「姫様、守羽殿は頭があまりよろ……」


 水谷がまた茶々を入れてくるが弥命は無視しかぶせ気味に話す。


「あの崩れた坂道を通って帰っています。あれは実際に起こった事象であるのですが、起こっていない事象でもあると言えます」

「起こったけど、起こっていない?」

「そうです。あの山全体には白様が強力な結界を張っています。位相結界と言う物です。誰かがあそこで霊的な力を行使した場合にすぐに反応し展開します。力を行使した者とその周辺に居る者を全て強制的に別の次元に移動させる結界です」


 周りに居る者全てって、かなり強引だが弥命を守る為に敢えてそうしたのだろう。

 弥命まで一緒に飛ばしてしまっては意味ないじゃん、と思ったがそこは突っ込まないでおく。

 位相結界、水谷の言っていたあれだ、健登はあの説明を思い出す。


「結界内に居る者は結界の力でズレて重なり合った別次元に同時に存在していることになるのですが、次元同士は決して干渉しあうことはありませんので、我々が崖が崩れたと観測した事象であっても、元の次元では観測されていないので、結界が解けた時にはなにもなかったことになるのです。まあ我々からすれば元通りになった事象と観測したことにもなるのですが、要するに崩れた事象と崩れてはいない事象が同時にあると思ってください」


 懇々と説明する弥命だが、途中からもう健登は理解するのを諦めていた。


「ナニイッテンダカサッパリワカリマセン」

「つ、つまりですね、強い力を持っていればなんでもありなんです。そんな所で戦っても勝ち目はないでしょ?」


 まあ要するにそういうことだ、罠がバリバリに仕掛けてある相手の巣の中で真っ向から正々堂々と戦う馬鹿がどこにいるかという話。

 まずは巣を壊し外に出ることが先決だろう、その後のことは行き当たりばったりかと言うとそうでもない。


「それに奴が結界を張ったのは、恐らく結界外では力を上手く使えないからだと考えます。昨日も自ら手を出してこなかったのは様子を窺うのもあったかもしれませんが、戦闘はあまり望んでいない様にも見えました。学校であれば護衛のついていないわたしを確実に結界内に閉じ込められますし、事情が変わった今わたしと守羽くんを同時に捕えられるのはここしかありません、やるのは今しかないと考えたのでしょう」

「なるほどな、まあなんだ結界をぶっ壊して同じ土俵の上に引きずり出してからガチンコ勝負ってことだな、それで負けちまうんなら仕方ねえ」

「絶対に負けませんっ!!」


 弥命は今までのように追い詰められたような表情ではなく確固たる決意で言い放った。

 これまでの弥命のものとは違う気迫に健登は面喰らうも、少し自嘲気味に笑い答える。


「そうだな、わりぃ……絶対に勝とうぜっ!!」


 そうと決まった所で細かいすり合わせをし行動に移ろうとすると、突然教室のスピーカーが「キーン」と音を上げる。

 ほどなくしてスピーカーから流れ出す音楽、誰もが聞いたことのある馴染みある曲、ドヴォルザークの交響曲第九番「新世界から」の第二楽章、夕方下校時刻になるとよく流れる「遠き山に日は落ちて」というやつだ。

 日本人にとってはそこそこにお馴染みの曲だろう、この曲が流れ出すと子供たちにとっては一日の終わり、またねと手を振り友達と別れる少し寂しい時間を思い出す。

 なぜ突然そんな音楽が流れ始めたのか、当然放送部の生徒が流したわけではない。

 だとすればこんなことをするのは一人しかいない、アルレッキーノだ。


「生徒の皆さん、下校時刻となりました。速やかにお家へ帰りましょう。皆さんさようなら、また明日」


 スピーカーから聞こえてきたのはアルレッキーノの声であった。


「ふざけた真似をしてくれますね」


 弥命は苦虫を噛み潰したような表情で呟く。


「おや? まだ帰らない悪い子がいるようですね、それに、学校関係者以外の方までいるようです。しかしどこに姿を眩ましたのか、私の結界内だと言うのに探知できないので困ったものです」


 どうやら弥命の施していた術が功を奏し、アルレッキーノには位置を特定されていないようだ

 しかしそれも長くはもたないだろうと思っていると、スピーカーから聞こえる声は予想だにしないことを言い始めた。


「いい加減停滞気味ですので、ここで提案と言いますかゲームを始めませんか? あなた方は恐らく結界を解きたいのでしょう? どうぞご自由にお探しください、あの影達も引っ込めましょう」


 なにやらおかしなことを言い始めたアルレッキーノに三人は怪訝な表情を浮かべる。

 一体なにが狙いなのだろうか?更にアルレッキーノは続ける。


「今回このゲームにはある生徒をゲストとしてお招きしております。あなた方のよぉく知っている方です。この生徒は、こともあろうに姫巫女様に対して日々嫌がらせの数々を繰り返し、先生に咎められても反省するどころか、よくあることだとのたまうような性根の腐った生徒です。名前はたしか、土屋……葵さんと言いましたっけ?」


 三人に戦慄が走る。

 まさか人質を取ってくるとは、当然あり得ることではあったがそのことを失念してしまうとは、まったくもって危機感が甘いと言われても仕方がない。


「あの野郎っ! 人質をとるなんて許せねえ」


 怒りで部屋から飛び出しそうになる健登を制止する弥命。


「落ち着いて守羽くん、まだ相手の要求がわかりません! ここは冷静になって」


 弥命は心中複雑であった。

 よりによって人質に取られているのがあの土屋葵、弥命に嫌がらせをし苛めをしていた張本人

 弥命とて聖人君子ではない、笑ってその罪を許しましょうなどとそう簡単に割り切れるものではない。

 そんな相手を危険を冒してまで守る必要がるのか?そんな考えに囚われる。

 だが、弥命はゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせる、事ここに至ってはそういう問題ではない彼女もまた被害者なのだ。

 自分達の所為でこんな非現実に巻き込まれた被害者、そんな彼女を救うこともまた弥命の責務なのである。

 健登もまた事情を知っている為か、そしてそんなことで弥命が彼女を見捨てるわけがないことも解っているので、因果なものだとやるせない気持ちになる。


「ルールは単純、まずはあなた方のターン、私はゲストと一緒に西棟の屋上に居ますので、ゲストを救出するもよし、結界を探し出し解除するもよし、猶予は三十分です。三十分以内に見つけだし結界を解くことができればあなた方の勝ちです。できなかった場合には残念ですがゲームオーバー、ゲストには死んでもらいます。その後は私のターン、神器を頂きに参りましょう。それでは、ゲームスタート」


 選択の余地はない、開始の合図と同時に示し合わせたように動き出す三人。


「水谷さんっ、三十分!必ずもたせてくださいっ!!」

「はいっ、姫様!守羽殿っ!」

「ああ、わかってるっ、最短ルートで行くぜ!」


 時刻は午後四時半を回ろうとしていた……


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