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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第27話 エピローグ表 優しいお母さんでよかったね……

 八月一日、今日は登校日である。

 たかだか一週間ちょっと顔を合わせなかっただけなのに、クラスメイト達とものすごく久しぶりに会ったような気分になるのはなぜなのだろうか、朝のホームルームが始まる前の教室は妙に気分の昂揚した生徒達がガヤガヤと騒ぎ立てていた。

 当然悠紗も大騒ぎ、毎日の様に近所の市民プールに通い詰めた為真っ黒に日焼けした腕や太腿を皆に見せて回り、おまえは小学生かと突っ込まれていた。


 あの後一通りの出来事を悠紗やクローディアにも説明したのだが、悠紗はただ一言「そうか、それは難儀なことであったな」とだけ言って深くは追及してこなかった。

 その後は何事もないように健登や弥命や芳乃にいつものように接してくれている。

 クローディアも同様にこの事にはあまり触れてはこないでいてくれた。

 すべてが決着し芳乃とクローディアが駆け付けた時には、不和とリンネはもう姿を消していた。

 横たわる女の子の亡骸を見ると芳乃はその場で泣き崩れ、それをずっとクローディアが介抱し続けた。

 あれから数日経ち、ずっと落ち込んでいた芳乃も元気を取り戻している。教室の後ろで良子やクローディアとお喋りをしながら笑顔を見せる。時折悲しそうな目をするのだが、いずれそれもなくなるだろう。

 弥命は肩の傷が広がらない様にと今も左腕を固定するギプスを付けたままなので萌夏をはじめクラスメイト達が心配して声を掛けている。それを「大したことないですよ」と言っているのだが、どうみても大したことあるだろうと突っ込みを入れたくなる。

 健登はと言うと同じように包帯ぐるぐる巻きで登校しているのに誰も心配してくれない、それどころかいつまで厨二病を患っているのだと坂や橋場達にからかわれ、まだ癒えていない腹の傷をパンチされるとその痛みに悶絶するのだが、大袈裟にしやがってと信じてもらえなかった。


「くっそぉ、あいつらふざけやがってぇ、誰が女子と一緒に海に連れて行ってやったと思ってやがんだ。覚えてろよ糞ったれめぇ」


 愚痴りながら自分の席に戻って来ると田中が冷たい視線を送ってくる。


 あ、汚い言葉使ってごめんね田中さん、てーか久しぶりなのに目が怖いよ


 健登は気まずい雰囲気を感じ席に着くのだが、田中さんがスっと手を伸ばし机の上に何かを置く。

 何かと思い見ると、そこには赤チンが置いてあった。今時、赤チンって……と思う健登であるがそれを手に取り田中を見やるとそっぽを向いていた。


「はは……ありがとう田中さん」


 笑顔でそう言うのだが返事はない、照れているのだろうか? なにやら小刻みに震えている様にも見えるのだが、あまりしつこくすると怒られそうなのでそっとしておこう。


 全校集会を終えて再び教室に戻ると先生のお話を聞く、なんでもこの夏休みの間に友人が二人も結婚するらしくマジで呪いをかけてやろうと思っているとものすごく病んだ目で言っているのが怖かった。


 午前中で学校が終わるとそのまま帰宅はせず健登、弥命、芳乃の三人はある場所へと向かっていた。

 それは警察署であったのだが、中に入るなり源治がバタバタと走り寄ってきた。


「おうおまえらぁ、こっちだこっちぃ」


 言われるがままに通されたのは普通の応接室であったので、取調室じゃなくてよかったと健登は胸を撫で下ろした。


 ようやく周辺が落ち着いてきたので、とは言ってもあれだけのことがあったのだ、向こう一か月はバタバタと忙しいではあろうが、なんとか面会する時間が取れるくらいにはなったので、源治は三人に話しがあると約束を取り付けていたのだ。


 婦人警官がお茶とお菓子を出してくれたので、すぐにそれに手を突けようとすると芳乃に手を叩かれて叱られる健登。


「みっともないわねほんとに」

「なんだよ、いいだろ別に出してくれたんだから」


 それを見て源治が笑いながら言う。


「はっはっは、夫婦みてえだなおまえら、いいから遠慮しないで食えよ」


 その言葉に芳乃は顔を真っ赤にしてモジモジとしているのだが、対照的に弥命は冷ややかな目で源治を睨み付けると静かに言い放つ。


「三嶋さん、夫婦ではないですよ? 幼馴染です。気を付けてくださいね」

「お、おぉう? すまねえ」


 え? なんでそこに喰いついてんの弥命さん? なんか目がすっげえ怖いんですけど


 健登はなんだか弥命の深い闇を見たような気がした。


 あの後の顛末を源治は健登達に説明した。今回の事件は異常者の通り魔的犯行であり、犯人はその場で射殺されたと言うことになった。

 その為の嘘のシナリオが一夜のうちに作り上げられマスコミに拡散されたらしいと言う事、そして今回の被害者は一般市民の重軽症者が二十五名、死者二名、警察官の殉職二名と言う公式発表がなされた。その中にはフェイスレスの犯行は含まれてはいない。おそらくその件は未解決のまま闇に葬られるであろうと、この世界では往々にしてそういう事があるのだ、まかり通るのだと聞かされた。

 死者が子供と女性であった為ここぞとばかりに警察の対応は適切であったか? という論調でバッシング報道するマスコミであったが、内容が内容である為に世間の目はこのマスコミの過熱報道っぷりには冷ややかな目線であるのが現状だ。

 少し躊躇しながらも源治が付け加える様に言う。


「あの子の葬儀なんだがなぁ……地方にいる遠い親戚筋の方があげてくれるってんでなぁ、そちらに任せることになった。信用できる人だから安心してくれ、長年刑事やってるとなぁそういう目利きだけはわかるようになるんだよ」

「あの母親達はどうするんですか?」


 芳乃はどうしても納得がいかなかった。たとえ女の子がまだ生きているとは言えど、いやあの女の子はもう亡くなったのだ。

 例え手を下したのが人斬り外道であったとしても、これまであの母親や大人達のやってきたことが罪に問われないなんて、そんなことが許されるなんてありえないと思った。


「それなんだがなぁ、まあおまえらの証言と虐待の痕跡なんかから立証するのはまあ可能ではあるんだが、立件するとなると正直難しいかもしれねえ」

「どうしてですかっ!?」

「母親が随分憔悴しきっちまってるんだよ。精神的にな。裁判にかけるよりも病院に入れねえとまずい状態らしい。」


 どういうことなのか? あんな酷いことをしておきながら、精神的に肉体的に追い詰めて女の子の心を殺しておきながら今さらそんなこと、だったらなぜそうなる前にもっと早くその気持ちを抱いてあげられなかったのか、悔しくて仕方がなかった。


 結局わだかまりが残る状態でこの一件はこれで収束を見た形となった。


 お辞儀をして部屋を出る時に健登は源治に呼び止められる。


「このことは芳乃の嬢ちゃんには黙っていてほしいんだが……」

「なんですか?」

「母親と一緒に居た男、奴がなぁ、消息不明なんだよ。俺達もなんとかあいつらをとっちめてやりてぇって思いで色々調べてたんだがなぁ。あの事件の次の日にはどっかに雲隠れしちまった。どういうことだと思う?」

「わかりませんよ……そんなの……」


 源治はマジマジと健登を見据えると神妙な面持ちで言う。


「ぼうず、因果応報って知ってるか?」

「え? まあ知ってますけど」

「必ずやその悪行は自分の身に帰ってくると、そんなようなことをおまえはあの夜言ったよなぁ」

「ちょっ、ちょっと!俺を疑ってんすかおじさんっ!?」


 さすがの健登もそれには憤慨、抗議してみせる。

 しかし源治は口元に笑みを浮かべると、フっと笑って見せた。


「冗談だよ。あそこで手を上げなかったおめえがそれをするわけがねえ」

「なんなんすかもうっ!」


 口を尖らせて文句を言う健登を宥めながら源治はボソっと呟いた。


 まあただ、そうだったとしても俺はおまえを……


「え? なんすか?」

「いや……なんでもねえよ」


 健登が部屋を後にすると、源治はシャツの胸ポケットから煙草を取り出し咥えるのだがライターが見つからないのであった。




 駅前までパトカーで送って貰ったのはいいが異常に目立つ、まるで犯罪者を見る様な目で通行人が見ている恥ずかしい。送ってくれた婦警さんにお礼を言いその場を後にした。


 ロータリーまで来ると水谷の姿が見えたので、そこまで弥命を見送るついでに紅葉の容体も聞いてみる。


「まったくもってピンピンしておりますよ。あれでも一応は水谷でありますからね。本当にご迷惑をおかけしてしまってお恥ずかしい限りです。全快したらもう一度鍛え直してやります。」


 困り顔でそう言う水谷であったが、紅葉が重体で病院に担ぎ込まれたと聞いた時にはそれはもう取り乱して、下着姿のまま神社を飛び出して行こうとしたのを巫女達が必死で止めたらしい。その話を思い出し芳乃がくすっと笑うと水谷は怪訝顔をするのであった。

 弥命の車を見送ると健登と芳乃は二人歩いて家まで帰る。もう夕暮れ時であった。

 とは言うものの夏の陽は長い、傾き始めてから日没まではだいぶ時間がある。二人は無言で歩きながらどちらからともなくふと公園に立ち寄っていた。


 噴水の前のベンチに座り子供たちが水遊びをしている姿を芳乃は見つめていた。


「なーにぼーっとしてんだよ」


 そう言って自販機でジュースを買ってきた健登がグレープジュースを差し出す。


「ん、ありがと」

「おごりじゃねえぞ」

「けっちくさいわねえ」


 芳乃は鞄から財布を取り出すと130円健登に渡した。

 なにを話すでもなくジュースを飲みながら二人並んでベンチに腰掛け眺めていた。

暫くすると子供達は手を振りあい皆帰って行くのだが、男の子が一人帰ろうとはせず遊び続けている。一人で噴水の水をバシャバシャと跳ね上げ、飽きると地面に枝でお絵描きを始めた。

 芳乃は立ち上がると不安そうな顔をして歩みだそうとするのだが、そこへ男の子の元へ駆けつけてくる母親の姿。なかなか戻ってこないので迎えにきたのだろう。

 もういい加減帰るよと男の子に言うのだが言うことを聞かない様子、手を引くのだがそれを振り払って遊び続けようとする。


「いい加減にしなさいっ!!」


 大きな声が響くと母親は手を振り上げて男の子を叩こうとするのだが……しばらく躊躇すると手をゆっくりと下し再び説教を始める。


「いい加減帰ってこないと、こわーいおじさんに連れてかれちゃっても知らないからねっ!」


 その言葉に男の子はビビったのか立ち上がると母親の腰にしがみつき手を引かれて家路につくのであった。


 その様子を見ていた芳乃がぽつりと言う。


「よかったね……」

「あぁ」


 優しく返事を返す健登。


「優しいお母さんでよかったね……」


 ぽろぽろと涙を流し始める芳乃、健登はゆっくり立ち上がると横に並び立ちぽんっと頭の上に手を乗せて優しく撫でてやるのであった。



 夏の夕陽が二人を照らす。影法師が長く長く伸びて行くとゆっくり陽は沈んでいった。


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