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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第24話 そんなのは命を弄んでいるだけじゃねえかああああああああっ!!

前回までのあらすじ


不和と対峙するは健登、弥命、佐ノ介。

そしてもう一人の敵、フェイスレスを追い詰める紅葉であったが戦闘中にフェイスレスはまたも女の子の顔を奪おうと標的を変える。

まるで行動が読めず翻弄される紅葉であったが、女の子とフェイスレスの間に割って入りなんとかフェイスレスの攻撃を防ぐのであるが、その時迎え撃とうと女の子突き出した刃が紅葉の背中に突き刺さってしまう。

飛んだミスを犯したと紅葉はそれでも女の子を守ろうと身を挺するのだが遂にはフェイスレスに追い詰めれられてしまう。死を覚悟したその時助けに入ったのは芳乃であった。

芳乃を追って来た源治や刑事達は化物に向かって発砲、数十発の弾丸をその身に浴びるもフェイスレスは絶命しなかった。

そして最後の力を振り絞り紅葉と芳乃に飛び掛かるフェイスレスに、間一髪止めを刺したのは芳乃が助けを求めていたクローディアであった。

 刑事達は溶けたフェイスレスの跡を見ながら皆一様に眉を顰める。

 一体あれはなんだったのか? 襲われている女性二人を救おうと無我夢中で引き鉄を引いたがあの異様な姿はとても人間には見えなかった。

 それに絶命した途端、ドロドロに溶けて消えてしまうとは……マル特案件、こんな物をとても世間には公表出来るものではないと誰もが納得してしまう。


 救急隊員が駆けつけ担架に乗せられると紅葉は芳乃を呼ぶ。


「芳乃さん……あの子は、あの女の子は無事ですか?」

「え? あの不和って奴とまだ一緒じゃないんですか?」


 その言葉に紅葉は焦った様子で語気を強める。


「そんなっ、わたくしと一緒にここまで落ちたはずです。どこかに隠れていたりはしませんかっ!?」


 言われて全員が辺りを探すが見当たらない。


「まさか……上に戻ったの?」


 芳乃は呟き不安げな表情で見上げると上空で炎の塊が爆発を起こした。

 突然の轟音と熱に全員がその場に身を伏せる。


「なんだあ!? 今のはぁっ!」


 源治が叫ぶと芳乃は駆け出していた。


「お嬢さんっ!?」

「皆さんはここにいてくださいっ!ワタシが追います。おそらく上では先程以上の化物と交戦していますっ!絶対に上に来てはダメです!絶対ですよっ!!」


 クローディアがそう言って走り出す背中を、源治と刑事達はその場に立ち尽くし見ていることしかできなかった。





 倶利伽羅の炎が不和の身体を包み込み爆散したかに見えた瞬間。佐ノ介、弥命、健登の三人は息を呑んだ。


「あ……ありえねぇ……」


 佐ノ介は自分の放った灼熱の炎を見つめながらそう零すしかなかった。


 空中で爆炎が渦を巻き一点に収束されていく、その真っ赤な炎が映し出す姿、灰色の骨格の様な鎧を身に纏い、髑髏のような顔へと変貌していく不和を見つめながら全員が呆然と立ち尽くす。

 これが不和の真の姿だと言うのか? 死神の様なその禍々しい姿を見つめ戦慄する。


 しかし、その姿に見とれる者の姿があった。


 エスカレーターを駆け上がり元居た場所まで戻ってきた時には、不和は炎に包まれ焼かれようとしていた。

 しかしその炎の中、まるで繭の中で蛹がドロドロに溶け、蝶々へと変態を遂げるかのように姿を変える不和を見て思う。


 わたしもあんな風に生まれ変わりたい


 女の子は灰色の死神の姿を美しいと思った。神々しいとさえ思えた。傷だらけの痣だらけの自分が醜い蟲であるとするなら、自分もあんな風に美しく生まれ変わりたいと思ったのだ。



 太刀に爆炎が巻きつくと、不和はそれを後方へと振り払う。

 後ろで大爆発を起こしその爆風で不和は元居た場所へ降り立つと剣を構えて言い放った。


「そろそろ遊びは終いだ。新しいおもちゃが間もなく出来上がる、もうおまえらの命は斬り落としてやろう」


 佐ノ介に向かって悠然と歩み寄る不和、右足を負傷している為に思うように動けない佐ノ介は迎え撃とうと呪符を取り出すのだがその間に健登が割って入る。


「早くあの技の準備をっ!こいつは俺がっ……」


 そこまで言って健登の身体から血が噴き出す。左肩から右脇腹へ抜ける斜めの切り傷、焔の鎧をあっさり切り裂き健登の胴を裂いたのだ。

 まるで見えなかった。最早剣筋を追う追わないのレベルではない。不和が剣を振るう様子などまるでなかった。ただゆっくりと歩み寄って来たただけなのに健登は血を流し倒れ、不和はその横を平然と歩いて行くのだ。


 ― 無幻の太刀 ―


 防ぐことも躱すこともできない一撃、それが不和の必殺剣であった。


「くそがああああああっ!!」


 佐ノ介は残った呪符を全てばら撒き術を放つ。

 不和をその場へ縛り付ける為の結界術式である。

 佐ノ介の放った術に縛られ動きを止める不和に向かって間髪入れずに弥命が斬りかかろうとするのだが、呪符がまるで翻る様に巻きあがると弥命に向かって飛んでいく。不和は術を喰らったにも関わらずそれを返し弥命へと浴びせたのだ。

 佐ノ介の放った術に縛られる弥命は動きを止め苦痛の表情を浮かべる。生半可な力では簡単に解かれてしまうため佐ノ介は強力な法力を籠めて放ったのだが、それは人の身に浴びせるには強力すぎる力であった。

 佐ノ介はすぐさま術を解くのだが法力によるダメージで弥命は吐血しその場に倒れ込む。


 ちきしょう……ちきしょうっ!俺の所為だ……全部俺の所為だっ!あいつを舐めてかかった俺の所為で人が沢山死んじまった。無関係の健登や弥命ちゃんまでもあんな目に合わせちまった……俺の……責任だ……


「ちっきしょおおおおおおっ!!」


 右足の傷口が開き血の飛び散るのも構わずに佐ノ介は叫ぶと走りだす。折り畳み式の錫杖を手にしてそれを伸ばすと法力を籠めて不和に振り下ろした。

 しかし不和の見えない剣に体中を切り刻まれ全身から血を噴きだすと、その場に膝を突き前のめりに倒れた。


 まったくもって無謀であった。

 こんな敵に挑んでいたなんて無謀を通り越して最早自殺願望でもあるのではないかと言うレベルである。

 不和が攻めず受けに回っていた時には、強敵ではあるが必ず突破口はあるはずだと思っていた。

 皆と協力し攻め続ければいずれはあの堅強な防御もこじ開けられると思っていた。しかしそれはまるで見当違いな考えであった。

 それは不和がずっとなにもせずに防御だけをしていたらの話、攻撃へと転じた今はまるで成す術なし、おそらく今の攻撃も故意と死なない様にしたのだ。下手をすれば一撃で急所を突かれ死んでいてもおかしくなかった。

 健登は苦痛に耐えながら床に手を突き立ち上がろうとする。普通であれば致命傷であろう一撃も神器の力ですぐに回復するはずなのだが、健登は切られた胸を押さえながらぜえぜえと呼吸を乱す。

 苦しい、斬られた傷がまるで熱せられた金属でも当てられているかのように熱く焼け付く痛み、それはレーバテインで斬られた時よりももっと肉体を侵食するようなそんな苦痛に感じられた。

 弥命も震える腕で身体を支えながら起き上がろうとする。

 苦痛に喘ぐ健登の姿を見ながら、あの瘴気はそれほどまで強力で凶悪なものなのかと唇を噛む。

神器の力で打ち消せない程の邪気なんてものがあるのか、それは己の心が弱いから、魂が弱いから、その所為で神器の本当の力を引き出せていないのではないかと思ってしまう。


「ごめんなさい……守羽くん、わたしがもっと強ければ……」


 その言葉に健登は激怒する。自分の弱さに激怒する。弥命にそんなことを言わせてしまう自分の弱さに情けなさに、そしてこのままではあの女の子だって救えはしない。


 力を……あいつに勝つ力が欲しい、たとえこの身を犠牲にしてでも……大切な人を守れる力が欲しい


 榊を身に纏えば不和の剣が見えるかもしれない、しかし人間の持つ五感とそれを越える第六感までもを極限まで集中させフルに使うそれは、肉体と精神力を極度に酷使する為に長時間は使えない。そして見えたところで不和の剣技に太刀打ちできる技能を健登は持ち合わせてはいない。それでは意味がない、状況に合わせた、自分の実力に合った能力でなければなんの意味もないのだ。


 そこで健登は気が付く、佐ノ介の言ったあの言葉をもう一度頭の中で繰り返す。


 ― おまえの身体を盾にしろ ―


 そうだ、俺にはそれしかできねえ、あいつの剣を受けるとか返すとかそんな器用なこと最初からできるわけなかったんだ。佐ノ介兄ちゃんの言う通りだ……


 これまでに数々の強敵に打ち勝ってきたからと自惚れていた。自分の実力を過信していた。忘れていた。自分は単なる高校生だと言うことを、弥命や水谷やクローディアや佐ノ介の様に幼い頃から日々鍛錬を重ねてきたわけでもない、悠紗の様な神様でもない普通の男の子であるのだ。

 だったらできることはただ一つだけしかない。その身を、この命を盾にしなければ勝てるわけがない。だとしても、たったの一撃で斬り殺されては意味がない、どんなに切り刻まれようとも決して膝を突くことのない折れることのない力を、そんな力を渇望する……


「不和ああああああああああああああああっ!!」


 健登は立ち上がると叫んだ。

 その声に振り返る不和の表情は感情を読み取れない。髑髏の様なその面から覗く、青白く輝く眼光が健登を射抜く。


「ほぉ……まだ立つか小僧、やはり最初に命を斬り落とさねばならぬのは貴様のようだな」


 そういいながら再びゆっくりと健登に向かって歩み出す。


「俺はおまえを許さない、絶対に許さないっ!自分の欲望のままに人を斬るおまえはっ!!あの女の子を傷つけていた大人達となにも変わりはしないっ!!」

「ほぉ……あの幼子の実情を知っているのか、くっくっく……かの様な生温い悪意と一緒にするなよ小僧……俺のそれは魂をも喰い殺す。」


 そう言うと全身、そして右手に提げる太刀から放たれる死神の瘴気。しかし健登はその邪気に気圧されることもなく、ゆっくりと前へと歩き出す。


「だったら俺がおまえをっ、その凶気をっ!消し去ってやるっ!」


 その時、健登の全身を包み込む暖かい空気、それはどこか懐かしい穏やかでいて力強い、まるで大地のような息吹を感じる。

 刹那の刻、灰色のまるで岩肌の様な巨大な甲冑を身に纏う健登。



 山禦(ざんぎょ)・鎧



 なにがあろうと、どんなことにも動じない、決して揺らぐことのないそれは厳格なる霊山のような具足。

 その姿を見て不和は言う。その声には多少の興奮と歓喜が入り混じっているようにも聞こえた。


「進化してみせたか……窮地に立たされた時に見せる生命の輝き、それは人だけに限らない、この世に存在する生きとし生けるものすべての命が生きようと足掻く力だっ!俺はそれを俺の全力で斬り伏せる時にこそ生きていると感じるのだっ!!」


「そんなのは命を弄んでいるだけじゃねえかああああああああっ!!」


 健登は力強く前へと踏み出した。ゆっくりとゆっくりと大きなその鎧をまるで引き摺る様に、ややもすれば鈍い、単なる鈍間な姿にしか見えないがそれはまるで巨大な山が動くかのような、そんな荘厳な姿にも見えた。


 健登の怒声で佐ノ介は目を開ける、どうやら気を失っていたようだが一体どれくらい経ったのか、痛む体をなんとか起き上がらせると姿の変わった健登と不和がゆっくりと歩み寄っていく姿が見える。


 あれは一体? あれも神器の力なのか? 


 なんにしても不和は今健登と戦うことに集中しているように見える、だったらこれが最後のチャンスだ。九字護身法最大奥義、完成させるなら今しかないとふらつく足で立ち上がり法力を練り上げようとするのだが、身体から力が抜け再び膝を突く。


「くそがぁ……力が入らねえ」


 そこへ弥命が這いより怪訝顔で問いかける。


「おじさん、何をするつもりですかっ?」

「弥命ちゃん……決まってるだろ、奥義を決めるなら今しかねえ、今があいつを殺るチャンスだ」

「やめてください、そんな身体でやったら死んでしまいますよっ!」


 その言葉に佐ノ介は歯を食いしばり拳を地面に叩きつけた。


「そのつもりだっ!今から法力を奥義を使えるまでに高めるのは無理だっ!だったら俺の命を燃やす。今回こんなことになっちまったのは全部俺の所為だっ!本来命を張るのは健登じゃなくて俺の役目、俺の命と引き換えてでもあいつをっ!!」


 佐ノ介が自分を責め嘆くように叫び弥命を見ると、悲しそうな目で見つめ返してくる。


「そんなこと言わないでください……守羽くんはきっと、そんな風に佐ノ介おじさんが死んでしまうことも許せないって言います。」


 そしてそっと目を伏せ、ゆっくり健登を見つめると言い放つ。

 それは強い思いの籠った。信じることを諦めない力強い声であった。


「信じてください、守羽くんなら必ず皆を救ってくれます。」


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